早速1人……?
意識が戻ると、俺は何処とも知れぬ林の中に1人で倒れていた。
どうやら異世界に来たっぽい。
起き上がって自分の様子を確認する。怪我はしていないようだ。服装は自分の部屋にいた当時のもので、つまりはジャージである。靴は、いつも自分が使っていたスニーカーをいつの間にか身に付けていた。あの老人の気遣いだろうか。
これからどうするかな……。
老人は他AV勇者達と協力してこの世界に存在する邪神モザイクを討伐しろと言った。つまり、この世界のどこかに俺と同じようなAV勇者がいるはず。
邪神を討伐するためにも、何とかその人達と早く合流すべきだな。手がかりは全くないが、とにかく人の集まっている場所に行ってみるのがよいだろう。
とりあえず周りをうろうろしてみる。10分程すると、幸運なことに、林を抜け出し、道らしきものを発見した。しかし、現代日本で見た整備されているものではなく、地面がむき出しになっている。
そして、そのでこぼこした道の先に、灰色の壁らしき物体が遠目に見える。建造物があるということは人がいてもおかしくない。
よし、まずはあの壁に行くか。
◇◆◇
灰色の壁まで残り約15mの所まで来た。しかし、壁のすぐ近くには剣らしき武器を腰につりさげ、鎧を身に付けた人間が2人立っている。これでは中に入ることができない。ここは関所みたいなところに違いないな。
見つからないように、近くの木に隠れる。
転移する前に読んでいた漫画や小説では、大概この場面では身分証名証の提示が求められたり、税金が徴収されていた。悲しいことに、今の俺は住所不定で職業はAV勇者、そして一文無しである。これを馬鹿正直に話したら確実に不審者扱いされ、取り調べを受けるだろう。だが、この状況を打破できるであろう力を俺は持っている。
「時よ止まれ」
使い方が分からないので、適当にそれっぽいことをいってみる。
その瞬間、今まで聞こえていた風の音や木の葉同士が擦れる音など、ありとあらゆる音が全て消えた。
これが『時間停止系AV』の能力か!
味わったことのない感覚に高揚する。兵士らしき2人も石にでもなったかの様にピクリとも動かない。
恐る恐る彼らに接近する。本当に時が止まっているのか。目の前を歩き回ったり、強面兵士のほっぺたを引っぱっても全く反応がない。
このまま実験していてもいいが男を弄ぶ趣味は俺にはない。さっさと中に入るか。
「っ!? 何だお前は! いつ目の前に!?」
「あ、あれっ!?」
やばい。石になっていたはず兵士がこちらを睨み付けている。まさか時間制限があったのか。あのじじいめ、ちゃんと説明しとけよ! 悪徳セールスマンでももう少し親切だぞ!
「動くな! お前は我々と一緒に詰所に来てもらう!」
「すみませんすみませんすみません! 悪気はなかったんです! 大人しくするんで痛いのはやめてください!」
剣を突きつけられ、両手を上げて降参のポーズをとる。フィクションでしか見たことのない輝きのせいでうっかり漏らしてしまいそうだ。
こうして、俺は鈍く光る鉄色のブレスレットを手首にはめられ、めでたく壁の中に入ることに成功した。
◇◆◇
「ここで大人しくしていろ」
連れてこられたのは牢屋だった。窓はなく、面積が小さいのも相まってかなり閉塞的な感覚を覚える。あまり掃除が行き届いていないのか、埃っぽい。当然だがはめられた手錠はそのままである。
俺をここに連れてきた兵士が牢屋からでていく。
がちゃりと鍵が閉まる音がして、あたりは静かになった。
突っ立っているのも疲れるので、床に座る。ジャージが汚れるのは仕方がない。
くそぅ、時間停止の力は兵士に使う前にしっかり検証するべきだったな。まぁ後の祭りか……。
ここからどうやって脱出しよう。鍵がかかっているわ手錠もかかっているわで、時間を止めたところで問題が解決するわけではない。
あれ、はやくも詰んでね? 『時間停止系AV』の勇者の冒険は、半日足らずで終了してしまうのだろうか。
「こちらです」
考え事をしていると2人の兵士がやってきた。1人はさっき俺を牢屋にぶちこんだ兵士。もう1人は初めてみる顔だ。
端正な顔つきで髪は豊かな金髪、眼の色は澄んだ青。彫りも深く、ヨーロッパにいそうなイケメンで、身長は180cmくらい。装備も今までの兵士と比べて上等に見える。地位の高い人物なのだろう。
「ご苦労だったね。では君は通常任務に戻ってくれ」
「はっ!」
平兵士はきれいな敬礼をして、来た道をもどっていった。
イケメン兵士が鍵を開けて牢屋の中に入ってくる。あぁ、俺の運命や如何に。
イケメンフェイスと俺のアベレージフェイスが向かい合う。
「初めまして。僕の名前はハイドン·カミラ。単刀直入に言うが、僕は『盗撮系AV』の勇者だ」
……何いってんだこいつ。