第97話 祝芽峰遊園プール その1
新聞部全員は久遠先生の車で、無事にプレオープン中の祝芽峰遊園プールへ到着した。
はっきり言って、駐車場だけでも何処の某テーマパークっていうほどの、プールの駐車場とは思えない広さを持っていた。
そして、遊園地みたいな入り口があり、そこで久遠先生の連れということで、顔パスで俺達は入場する。
入ってすぐ、水着や遊具、レストランや軽食店といった店が多く建ち並んだ大きな通りに出た。
そして、そこを通り抜けると、両サイドに男女別れた更衣室があった。
そこで一旦別れ、着替えた後、中で合流することになる。
更衣室も広すぎて、幾つロッカーがあるのか解らないぐらいあった。しかも、それが何階かあるらしい。
水着に着替えて中に入ると、既に何人ものお客さんがアトラクションではしゃぐ声が聞こえてきた。
やはり水着を着用でのアトラクションなので、至るところから水によるギミックがある。
「凄いな」
「聞いてはいたが、やはり実際に見ると、かなり力を入れているようだな」
「ねぇ、何か来たよ」
一の声に振り返ると、ペンギンのキグルミが俺達の方に歩いてきた。
「確かここのマスコットキャラのシュクペン君だったはずだ」
上北の説明にペンギンのキグルミ改めてシュクペン君は、身体全体を使い、ペコペコと頷いていた。
すると、シュクペン君は両手を俺達の方に伸ばしてきた。
「なんだ?」
「歓迎の挨拶のようのものじゃない?」
一の言葉にシュクペン君は頷く。
そして、俺達が近付くと、いきなり両手から水が噴射された。
「なっ!?」「うわっ!?」「ふっ」
俺と一は水がまともに顔に当たり、上北は然り気無く俺の後ろへ避難していた。
気が付くと、シュクペン君はてくてくと何処かへ歩いて行ってしまっていた。
「はははっ、してやられたな」
俺と一はプールにも入ってないのに、ずぶ濡れになってしまった。
「りんくーん」
そこに結衣菜が小走りでやってきた。
「走ると転ぶぞ」
「だいじょうわわっ」
「おっと」
結衣菜は俺の目の前で止まろうとして、俺に抱き付くように滑った。原因は、先ほどのシュクペン君の水だ。
「ほら、言ったろ」
「りん君、ありがと」
結衣菜の水着は以前の海への旅行の時と同じ桜色の水着だ。ただ違うのはパレオを着けてないことだ。なので、結衣菜の太ももが露になっていた。
「その、パレオはどうした?」
「ここってアトラクションがあるから、パレオみたいにヒラヒラしたものは巻き込む可能性があるから、禁止してるんだって。っていうかりん君、さっきから視線が下に行きすぎだよ」
「わりぃ」
結衣菜は少し恥ずかしそうに注意してきた。
ただ、以前の旅行みたいにプライベートビーチではないので、こんな可愛い結衣菜の水着姿を、見知らぬ男に見られるのが嫌だというのは、俺の心がせまいだけなのだろうか。
現に少し離れた所から男達が結衣菜を見ていた。
「…………」
「な、なに?」
俺はつい結衣菜を隠すように抱き締めてしまった。
「おい、こんなところで発情するなよ」
「しねぇよ。悪い、ちょっといろいろと耐えられなくなった」
「私は嬉しいからいいけど」
俺は結衣菜を解放し、謝っていると。
「はいはい。こんなところでイチャイチャしないの。私が寂しいでしょ」
「って!久遠先生!!何してるんですか?」
後ろから久遠先生が抱き付いてくる。やっぱり結衣菜より胸は大きいな。
「久遠先生!!」
結衣菜が目の前で抱き付かれたもんだから、引き離しにきた。
「ごめんごめん。つい、ね」
久遠先生はなんと黒のビキニ。背は結衣菜より少し高いぐらいなのに、胸は着痩せしていたからなのか、いつもより大きく見える。それにスタイルもかなり良い。
「あれぇ?音無君はどこを見てるのかな?」
「どこだっていいでしょ」
そっぽを向きながら答えると、結衣菜が俺を取られないようにと、いつものように腕に抱き付いてきた。
「そういえば詩穗は?」
見渡すと、いつの間にか詩穗は一の隣に立っていた。
「さっきからいるのに気付いてくれないだけだもん。私の水着姿なんて、そんなもんだもん。せっかく新しくしてきたのに」
何故か、いじけモードなっていた。
詩穗の水着は海の時とは違い、水色のビキニタイプの水着だ。心なしか胸も大きくなっているような気がする。
「なぁ詩穗、そのむ」
「りん君」
『その胸はどうした?』と聞こうとするところを結衣菜に止められた。
「あれは仕方なくなの。聞かないであげて」
俺は結衣菜の言葉に頷き、見なかったことにした。
そして俺達は何があるのか見るために園内地図がある場所に向かう。
「本当に広いな」
ここは屋外だけでなく、屋内にもプールとアトラクションがあるらしく、某ネズミの王国よりも広い敷地となっていた。
そのため、園内にはバスではなく、川をぐるりと回るように作り、そこを船で移動出来るようになっていた。
何故バスではなく船にしたのか聞いたところ。
「バスだと子供が走り回ったりしたら危ないでしょ?それに水ならここにいっぱい使っているから、再利用する過程で川を流してるの」
とのことだった。
とりあえず最初はアトラクションを皆で回ろうということになった。
だって水着を着てアトラクションを乗る機会なんてあまりないからな。
最初に乗るのはゴンドラに乗ってアマゾン川をイメージした場所を回るというもの。
なのに腰には安全バーが取り付けられている。
「久遠先生、ただ回るだけなのになんで安全バーが?」
「だってアマゾン川だよ。危ないじゃない」
後ろの席から久遠先生の説明があったが、あまり理解が出来ない。
この乗り物は横2人縦5人の合計10人乗れるようになっている。
俺の隣には結衣菜、後ろに詩穗と先生、最後に一と上北と乗っている。
他のお客さんはいないので、俺達だけだ。
そして出発のアナウンスと共に、ゴンドラはゆっくりと動き出した。
風景はテレビで見たようなアマゾン川そっくりに作られている。
時よりワニのロボットみたいのが、ゴンドラに水しぶきを掛けてくるギミックまであった。
しばらくゆらゆらとゴンドラに乗っていると、滝のような音が聞こえてきた。
「なぁ、アマゾン川って滝なんてあったっけ?」
「えっと、支流とかにはあったと思うよ。ほら、よくアマゾン川のツアーにイグアスの滝も入るし」
「一ノ瀬さんの言うとおりよ。アマゾン川ツアーといえばイグアスの滝。ここではその2つを繋げてみたの」
嬉々と久遠先生は言うが、つまりこの先は………。
「りん君!まえ!!まえっ!!」
結衣菜の悲鳴に近い声を聞き前を見ると、無情にも進む先に川はなかった。
「ほら、有名な遊園地にも似たようなのあるでしょ?」
久遠先生のそんな問いかけを聞きながら、俺達を乗せたゴンドラは滝の水と一緒に落ちていった。
それなりの高さから落ちた後、盛大な水しぶきで俺達はびしょ濡れになっていた。
後ろを見てみると、僅かにレールのようなものが見えた。
最初は浮かんでいただけと思っていたが、ちゃんとレールとゴンドラは繋がっていたんだな。にしても本当にゴンドラに揺られている感じがするのが不思議だ。
そんなことを考えていると、ゴンドラは無事にゴールへと到着した。
某ネズミの遊園地と比べると、濡れてもいいようになっているので、こっちの方が水しぶきが凄いので、正直言って楽しかった。
他の皆も同じ意見で、満足していた。
そして、俺達は次のアトラクションへと向かった。