第91話 幸せな夜
side 結衣菜
「……………りん君、来るのなぁ」
美浜さんに『こういう時こそ男女の仲を進展させるべきです』と言われて、部屋で用意された勝負下着とネグリジェを着て待機していた。この格好はするために用意された衣装と言われてもいいぐらいにエロい。美浜さんに渡された時は、私も赤面してしまった。
(でもこのまま関係が進んでいいのかなぁ。私としては嬉しいことは嬉しいけど………)
私は迷っていた。
確かにりん君と関係が進んで、もっとイチャイチャ出来るのは嬉しい。
でも、それは他人から用意されたもので進んでいいものなのか。
私はそこで迷っていた。
りん君の家だと、莉愛ちゃんも一緒に住んでいて、気になって事に上手く事に運べない気がするのは確かだ。
(でもそれは、私が勇気を出せば解決することではあるんだよね。でもでも、りん君としてみたい私もいるのは確かだし………。だって好きなんだもん。仕方がないもん。……………エッチな女の子って思われるかな…………)
そんな風に悶々とベッドの上をゴロゴロしていたら、突然部屋のドアからガチャリと鍵が開く音がした。
そして、暗い廊下から待ち望んでいた愛しい人が入って来た。
☆ ☆ ☆
side 琳佳
(本当にいいのか?このまま関係が進んで)
俺は二階への階段を上がり、結衣菜の部屋の前で悩んでいた。
(いや、ここまで来たんだ。………よし)
俺は意を決して、美浜さんに貰った鍵でドアを開けた。妙にガチャリと大きな音がしたような気がした。
そっとドアを開けて中に入ると、ベッドの上に誰かが座っているシルエットが見えた。いや、結衣菜なんだけどさ。
(結衣菜、起きてたんだな)
向こうも俺が入って来たことには気が付いているらしく、もぞもぞと動く気配がする。
「こ、こんばんわ」
「あ、あぁ、こんばんわ」
緊張した声で結衣菜が挨拶してくる。っていうか、最初の一声が『こんばんわ』って。
「結衣菜はその、驚かないのか?いきなり俺が来て」
「う、うん。その、来るかもしれないって、思ってたから」
それって、俺が夜這いをする奴だって思われてたってことか?それはなんか悲しくなってくる。
「……………俺、そんな風に見られてたのか」
俺が落胆した声で呟くと、結衣菜は慌てて否定をしてくる。
「ち、違うの!その、美浜さんからりん君が来るかもって聞いてたの!」
「そ、そうだったのか」
その言葉で安心すると共に、俺は上北と美浜さんが結託していたんだと、今はっきりとわかった。
あいつがこんな遅い時間に俺の部屋に来るなんて、何か仕掛けに来ることぐらいしか…………来るか。
途中で有り得ると思ってしまったので、あいつのことを考えるのはここでやめた。
「「……………………」」
状況確認を終えた所で、2人でどうしたらいいのかわからず、見つめ合ったまま固まってしまう。
「………………その、りん君」
「な、なんだ?」
「……………一緒に、寝る?」
結衣菜は自分のベッドをぽんっと軽く叩いて聞いてくる。
その言葉にはどんな意味が込められているのか、俺には考えられなかったが、自然と足は結衣菜のいるベッドに向かう。
元々ダブルベッドなので、2人で寝ても広さ的には問題はない。
「…………それじゃあお邪魔し」
そこまで言って言葉が出なくなってしまった。
近付いて結衣菜の隣に来ると、結衣菜の格好に目が奪われてしまった。
結衣菜が着ることのあまりない黒のネグリジェ。
それだけならまだいいが、明らかに透けているのがわかる。
胸に視線が行き、そのまま下に視線を向けると、勝負下着と言わんばかりの際どいパンツが透けて見えていた。
結衣菜は見られていることに気が付いているのか、モジモジと恥ずかしそうにしている。
しかし、モジモジしているだけで、隠そうとはしていない。
「……………………」
「その、りん君、見られているだけだと、その、恥ずかしいんだけど」
結衣菜はそう言って、俺のシャツを掴んで引き寄せて来た。
そして、静かに目を瞑り、軽く顎を上げてきた。
俺はその合図に答えるように、結衣菜の可愛らしい唇に口付けをする。
息をするために少し離れて、至近距離で見つめ合った後、再び甘く蕩けるようなキスをする。
そして、俺達は自然と身体を重ねていった…………。
☆ ☆ ☆
「…………………」
ふと目を覚ますと、目の前に裸の結衣菜がいた。
そして昨晩、ナニをしたのか思い出して、一人で赤面する。
「………りん君」
目を覚ましたのかと思ったが、寝言のようだ。
結衣菜の綺麗な髪を軽く上げて、顔をよく見えるようにする。そして、結衣菜の頭を軽く撫でる。
すると、結衣菜は幸せそうにふにゃけた顔になった。
なんだか一晩過ごしたことで、より一層結衣菜のことが好きになってしまったみたいだ。
(結衣菜のためならなんだって出来る気がするな)
そう考えていると、恥ずかしさは収まってきて、代わりに結衣菜に対する愛しさが溢れてきた。そして、いつの間にか幸せな気持ちになっていた。
再び結衣菜の頭を撫でると、俺の手に頭をこすり付けて来た。
「………結衣菜、起きてるのか?」
「むにゃむにゃ………キスしてくれるまで起きませーん」
寝言のように寝言ではない言葉を言ってきた。
俺は自然と結衣菜にキスをする。
すると、幸せいっぱいな笑顔をした結衣菜が目の前にいた。
「りん君、おはよ」
「おはよう」
俺達はこうして幸せな朝を迎えるのだった。