第86話 バナナボート
バナナボートに乗ることになった俺達。
目の前にあるバナナボートは、6人が縦に並ぶ形のものだ。
なので、必然と並び順を決めることになった。
「俺は1番前に乗らせてもらおう。是非記録を録りたいからな」
そう言ってきたのは上北だ。片手にはいつの間にかビデオカメラが握られている。
「上北、バナナボートは前向きで乗るものだろ?後ろに乗った方が録りやすいんじゃないか?」
「それだと皆の表情が取れないだろう?それにこれぐらいの乗り物なら、後ろ向きで乗っても易々とは落ちん」
こいつ、後ろ向きで乗るつもりか。
「水飛沫も凄そうだけど大丈夫なのか?」
「安心しろ。このビデオカメラは防水仕様だ」
どうやら1番前は譲るつもりはないらしい。
その後、皆で話し合った結果、前から上北、一、詩穗、莉愛、俺、結衣菜の順番になった。
俺は前の方に乗ってみたかったのだが、結衣菜が後ろの方がいいと言うので、この形になった。
美浜さんから救命胴衣を受け取り装着し、早速乗り込む。
思っていた以上に安定はしているが、やはり浮いているだけのバナナボートは皆が動いたり、波で揺れる。
「それでは皆様、動きますよ」
美浜さんの言葉で、前のジェットスキーが動き出す。
そしてバナナボートも後を追うように動き始めた。
意外と大丈夫なもんだな、と思っていると、次第にスピードを上がってきた。
「結構速いな!」
「うん!」
俺の声に後ろに乗っている結衣菜が答えてくれる。
そして、スピードをあまり落とさないで、前を走るジェットスキーがくいっと曲がった。
ジェットスキーに繋がられているバナナボートも、追いかけるように曲がろうとする。
「バカなぁ!!」
前を向いていなかった上北は、突然のカーブによる遠心力で、そんな叫びと共に上北が落水していった。
落ちた上北を尻目に、俺達を乗せたバナナボート加速して離れていく。
「上北君、大丈夫なのかな?」
「あいつなら大丈夫だろ」
後ろを見てみると、浜辺の方から違うジェットスキーが上北の方へと向かっているのが見える。ジェットスキーに乗っている人は長いメイド服のスカートを靡かせていた。
「他にもメイドさんがいたんだな」
表に出てくるメイドさんは美浜さん1人だが、他にもメイドさんがいるようだ。
すると、結衣菜が後ろから抱き付くようにして、顔を近付けて来た。
「そうだよ。確か今回は10人ぐらいいると思うよ」
「そんなにいるのか!?」
どうやら声が聞こえづらいから、近付いて来ただけのようだ。背中には柔らかいのがあたっているが。
「うん。美浜さんが言うには、メイドたるもの、気配を消す術を持たなければならない。とか」
「なんか物騒だな」
それ、メイドというより忍者なのでは………。
話が終わり、結衣菜も体勢を戻すと、ジェットスキーのスピードが更に上がった。
美浜さんの方を見ると、一瞬視線が合い、ニコッと微笑み頷いた。
どうやら美浜さんが俺達が話している間、スピードを抑えてくれていたようだ。
じゃなきゃ運動神経がない結衣菜が、取っ手から手を離し、俺と会話なんてしたらすぐに落ちてしまうからだと思う。
美浜さんは俺達が慣れてきたことを感じたのか、次第にカーブをこまめに入れるようになってきた。
それでも運動神経のない一や結衣菜はなんとかバナナボートに食らい付いていたのだが。
「うわぁ!?」
スピードを出しての蛇行運転に切り替えたら、一が落水した。
「きゃっ」
そして一が落水したことにより、前方の盾がなくなったことで、水飛沫をもろに掛かった詩穗も落水してしまう。
残ったのは前から莉愛、俺、結衣菜の3人になってしまう。
「あっ」
そして蛇行のカーブが何回か続いたら、後ろから離れていくようなに結衣菜の声がした。
その時、バナナボートは波による妙な減速とカーブをし、水飛沫が大きく上がった。
「あ、あれ?」
気が付くと、結衣菜は何故か俺の目の前にいた。
そう。後ろにいて落ちたと思った結衣菜が、見つめ合うような形で俺の目の前にいるのだ。
「わわっ」
結衣菜は掴むところがないので、俺に強く抱き付いてくる。
救命胴衣を着ていても、太ももや胸の柔らかさは健在だ。
「結衣菜!それズルい!」
すると、後ろの状況に気が付いた莉愛が抗議の声を上げる。
「だったら莉愛だって!」
莉愛はバナナボートの揺れるタイミングを見計らって、トランポリンの要領でバナナボートの上で開脚しながら大ジャンプをする。
莉愛はその場でジャンプをしただけだが、バナナボートは進むので、莉愛は結衣菜と俺の頭上を飛び越えてしまった。
「よっと」
肩を掴まれたと思ったら、背中に莉愛が抱き付いてきたのだが。
「うおっ!?」「きゃあっ!?」
莉愛がバナナボートに着地した反動で、バナナボートは大きく跳ねるように揺れてしまい、俺達3人は団子状態のまま落水してしまった。
「ぷはぁっ」
俺達は救命胴衣を装着しているので、すぐに海に浮かぶ。
「りん君!!」
だが、結衣菜は急に落水してしまったので、怖くなったのか、俺に抱き付いてくる。
「何もしなくても浮かぶから落ち着け!!」
そう言っても、結衣菜は抱き付いてくることを止めない。
「結衣菜だけズルい!!莉愛も!!」
「バカ!!やめがぼぼぼ………」
莉愛も後ろから俺にのし掛かって来て、救命胴衣を着ていても沈んでしまう。
しかも、叫んでしまったので、海水をもろに飲んでしまった。
それから俺の上でぎゃあぎゃあ騒ぐ声が聞こえてくる。
「お嬢様、桜坂様、音無様が沈んだままですよ」
「「あ」」
「ぷはっ!!」
美浜さんの言葉で俺を沈めていたことに気が付いた2人は、すぐに解放してくれた。
お陰様で死なずにすんだ。空気がうめぇ。
「はぁ、はぁ、はぁ………」
「「ご、ごめんなさい」」
それから1度、浜に戻って休憩することに、なったのだった。