第82話 海で
いつも読んで頂きありがとうございます。
「せっかく海に来たんだし、ひと泳ぎしてくるね!」
莉愛はそう言って、1人で海に入って行った。気が付くと、莉愛はかなり沖合いまで行ってしまっていた。
そして上北や一、詩穗は「少し休む」と言って、パラソルの下で休んでいる。
俺はというと、結衣菜と一緒に浮き輪でぷかぷかしながら、海を漂っていた。
「ねぇりん君、足届かないけど平気かな?」
浮き輪を装着した結衣菜は不安そうな顔をして、聞いてきた。
「俺はまだ足が付くから大丈夫だろ」
俺は結衣菜が入っている浮き輪を捕まえながら答える。
「そ、そうなんだ。絶対手を離さないでね」
結衣菜は泳げることは泳げるらしいが、そこまで得意ではないそうだ。
プールみたいに安全策が取られている場所ならば平気みたいだが、自然の川や海で泳ぐのは少し怖いらしい。
なので、浮き輪を用意して、慣れるために一緒にこうやって海でぷかぷかしているのだ。
「りん君もっとしっかり持って」
「おい」
結衣菜はそう言って、浮き輪を掴んでいる俺の右腕を浮き輪の中に突っ込ませてきた。
結果、俺の右腕は結衣菜の生の胸の谷間に挟まれる形になった。
「えっと、これはいいのか?」
俺は視線で問題となっているところを聞いてみる。
「離される方が嫌だもん。それに………りん君にならその、触れられたってそ平気だから」
「そ、そうか」
結衣菜は顔を赤くしながら言うが、俺は平常心を保つのに大変になってしまった。
なにせ波で揺れる度に、結衣菜の胸が俺の右腕でむにゅむにゅと形を変えているのだ。
その感触に興奮を覚えながら、しばらくの間その場で耐えていると。
「っ!!りん君前っ!!前っ!!!」
結衣菜がいきなりばたばたと暴れながら叫びだした。
その度に更に強い刺激される俺の右腕。
「お、おい。そんなに暴れるなって」
「だから前ぇぇぇぇっ!!」
「前がなんだって………うおぉぉぉぉぉ!?!?」
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
前を向いて目の前にあったのは、見上げる程に大きな水の壁。
その水の壁が今まさに俺達の方に倒れようとしていた。
そして俺達は何も抵抗することが出来ず、その水の壁に呑み込まれてしまう。
2人で揉みくちゃされながら、長く感じる数秒が経った。
気が付くと、周りの波の力が弱まるのを感じた。
俺は地面がある方向を手足を使って確認し、立ち上がる。
そこは膝上ぐらいの水嵩の場所だ。
どうやら浅瀬まで大波によって戻されてしまったようだ。
隣では浮き輪を付けたまま、女の子座りをしている結衣菜もいた。どうやら無事だったようだ。
いつの間にか右腕は解放されたようで、浮き輪から外れていた。
「けほっ、けほっ」
「結衣菜、大丈夫か?」
「う、うん、何とか………あれ?」
結衣菜は立ち上がろうとしているのだが、上手く立ち上がれないようだ。
「こ、腰が抜けちゃったみたい」
「おぶってやるから浮き輪を取れ」
「うん」
結衣菜が浮き輪を上から服を脱ぐようにして取ろうとする。
「っ!!」
がばっ!!
そして俺は、慌てて結衣菜に浮き輪を嵌め直した。
「きゃっ!!何するの?」
「結衣菜、水着が…その…………」
「へ?………~っ!?」
結衣菜は下を見下ろす。すると、首から上が一気に真っ赤に染まる。
「うぅ~……りん君、見た?」
「お、おう」
俺は怒られるのを覚悟で頷く。
「うぅ………それより水着、返して」
「は?」
「右手…………」
「っ!?わりぃ!!」
どうやら浮き輪から外れた時に、結衣菜の水着を取ってしまったようだ。
結衣菜の水着を着け直してから、俺達は1度休憩するために、皆がいる方へと向かった。
☆ ☆ ☆
休憩の後、皆で遊んでいると、次第にオレンジ色に海が染まっていった。
因みに、莉愛は遠泳をしていたしいのだが、皆が遊んでいるのを見て、休憩もせずに交ざってきた。
本当にどんな体力してんだか。
「皆様、バーベキューの準備が整いました」
美浜さんに呼ばれ付いていくと、バーベキューセットが準備されていた。
「こんなの準備してくれたんですね」
「はい。肉、魚介、野菜、全て用意出来る最上級のものを用意させて頂きました」
確かにバーベキューセットの隣のテーブルには、美味しそうなステーキや伊勢エビと思われるものが、色とりどりの野菜と共に並んでいる。
「でも高いんじゃ」
「お嬢様の御友人である皆様に楽しんで頂くために、ご用意させて頂いたものです。なので、そういったことは気にせずに楽しんで頂ければと思います」
「ではその話に乗ってやろうではないか」
「わ、わたし、伊勢エビ食べるの初めてだよぉ」
いつの間にか上北を筆頭に、色々と焼き始めていた。
詩穗なんかは人生初めて食べれる伊勢エビに感動して涙を流している。
「そうそう」
「っ!?」
いきなり耳元で美浜さんがこっそりと話し掛けてきた。
「音無様には特別にスッポンやウナギ等もご用意させて頂きましたが、いかがなさいますか?」
「どうして俺にだけ?」
「それはもちろん、今夜のために精を付けて頂くために決まってるじゃないですか」
「……………」
思った通りのことを言われ、なんて返したらいいのか分からなくなる。
「なんか美浜さん、りん君と仲良くなってない?」
そこに焼けた肉をお皿に持った結衣菜がジト目で睨んで来た。
「いえいえ。わたくしはただお嬢様の未来の旦那様になる音無様のことを知るべく、お話しをさせて頂いているだけでございます」
ニコニコとしながら美浜さんは平然と答える。
「ふーん、そうなんだ。はい、これりん君のね。あーん」
「あむ………旨いな」
「……………」
普通にあーんをされ、普通に食べてしまったが、美浜さんにものすごいニコニコした顔で見られている。
「何かあるんですか?」
あまりにもニコニコしているので、聞いてしまった。
「いえいえ。お二人がラブラブで今夜は楽しみだなぁ、と思っただけですので、お気になさらずに」
美浜さんは俺達に事をやって欲しいのかと、考えてしまう。
「音無様、どうします?必要となればすぐにご用意致しますが」
「結構です」
「?」
俺はすぐに否定をする。そのためだけに結衣菜と付き合っていると考えて欲しくないからな。
結衣菜はそんな俺と美浜さんのやり取りを不思議そうな顔で見ていた。