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第79話 合宿とメイド

 学校の方は無事に夏休みに入り、合宿の日がやってきた。


 そして朝食を食べた後、インターホンが鳴ったので、結衣菜と一瞬に玄関に出てみると、そこには長い黒髪を後ろでまとめたメイドさんが1人立っていた。


 年齢は二十歳過ぎぐらいだろうか。


「お嬢様、お早うございます。それとお嬢様の未来の旦那様もお早うございます」


「お、おはようございます」


 俺は状況が飲み込めずに挨拶だけを返した。って未来の旦那様って。


「おはようございます、美浜さん。って何を言ってるんですか!?みみみみ未来のだんにゃ様って!!」


 結衣菜の知り合いなのか、メイドさんのことを美浜さんと呼んでいた。


「違いましたか?奥様からそう伺っていたのですが」


「ち、違わない、です」


「そうですよね。改めてまして、音無様。わたくしは一ノ瀬家でメイドをやっております美浜と申します。以後お見知りおきを」


「こちらこそよろしくお願いします。でもなんでメイドである美浜さんがここに?」


 今日はこれから合宿なので、結衣菜と莉愛の3人で待ち合わせ場所に向かう予定だ。


「奥様よりのお願いで、新聞部である皆様を別荘まで送迎を頼まれまして。それから別荘で皆様のお世話をさせて頂くことになりました」


「えっ。いつの間にそんなことに」


 結衣菜も知らなかったようだ。


「お嬢様には秘密だと奥様も申しておりました」


「もぅ、お母さんは………」


 結衣菜はぶつぶつと何か文句を言っていた。


「でも助かります。交通費とか懐が少し痛かったので」


「そう仰ってくれると来た甲斐があります」


 美浜さんは上品に微笑みながら答えた。


「あ、他の皆にもこのこと伝えないと」


「それならご安心下さい。既に上北様にお伝えし、待ち合わせ場所を変更させて頂きました」


 おお、手回しが早い。流石はメイドさんだ。


 その後俺達は、荷物を美浜さんが乗ってきた8人乗りのワンボックスカーに入れ、自宅を出発した。


 何故か俺は1番後ろの真ん中に座らされ、両側に結衣菜と莉愛が座る形になってしまった。


 そして2人はすぐに俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。


 美浜さんはそれを微笑ましそうに見ると、すぐに車を発進させる。


(うーん、莉愛とのことも知っていたのか?)


 俺達の様子を見ても何も言わなかったので、そう考えた。


 そして、上北達との待ち合わせ場所で皆を拾って、目的地の別荘へと向かった。


 車は渋滞もなく順調に進み、昼休憩を高速道路のパーキングエリアで取ることになった。


「初めてこういう所に来たけど、いろんな食べ物があるんだね」


 そんな結衣菜の言葉に皆は驚いてしまった。流石はお嬢様ってことか。


 でも確かにここは比較的大きいパーキングエリアで、夏休みということもありお客さんもたくさんいる。


 昼時ということで、フードエリアで美浜さん含めた7人分の席が確保出来るか心配だったのだが。


「すみません。予約した一ノ瀬という者ですが」


 美浜さんが責任者らしき人を呼び出したと思ったら、そんなことを口にした。


「はい、お待ちしておりました。席はこちらになります」


 そう言うと、俺達を奥に設けられた関係者用みたいな席に案内した。


「上北、こういう所って予約なんかあるのか?」


「普通はない。流石は一ノ瀬家ということだろう」


「だよな。俺もこんな対応見たのも初めてだし」


 そして、俺達が席に座ると、1人立っていた美浜さんが言ってきた。


「皆様、ご注文が決まりましたら申し付け下さい。わたくしが手配しますので」


「人数いますから、運ぶのとか手伝いますよ」


 流石にこの人数分の料理を注文して運ぶのは厳しいと思い、俺はそう進言する。


「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫ですよ。手配しますので」


 しかし、美浜さんはそう言って断ってきた。


 手配という意味がよく解らなかったが、俺達は美浜さんに食べたいものを頼むことにする。


 美浜さんは並んでいる人達とは違う所から厨房に何かを言って、すぐに戻って来た。


 しばらくすると、厨房から直接俺達の席にスタッフさんが料理を運んで来てくれた。


 なるほど、手配ってそういう意味か。


 一ノ瀬家が凄いと認識しつつ、俺達はそれぞれの料理を味わうことにする。


 ただ問題があるとすれば、特別扱いされている俺達を、周りの客がじろじろと見てきて居づらかったことぐらいだ。


 特に結衣菜と莉愛、そしてメイド服姿の美浜さんが男性客の視線を集めていた。


「りん君、これ美味しいよ。はい、あーん」


「琳佳琳佳、これ美味しいから1つあげる。あーんして」


 両隣に座っている結衣菜と莉愛が人前だというのにこんなことをやってくる。


「いや、流石に人前じゃ」


「隙有り!」


「んぐっ」


 莉愛が俺の口に無理矢理料理を突っ込ませてきた。


「美味しいでしょ?」


「美味しいけど、危ないからやめろ」


「はーい」


 莉愛はニコニコして、自分で食べ初めた。


「うぅー…………」


「…………………」


 すると、結衣菜と美浜さんが俺に何かを視線で訴えかけてくる。


「……………結衣菜、貰うよ」


「うん!りん君、あーん」


 俺がそう言うと、結衣菜は嬉しそうにしてあーんをしてきた。


 美浜さんも満足そうにして、自分の食事に戻っていく。


「けっ、二股かよ」


 外野からそんな言葉が聞こえてくる。


 あーんをしてから、俺に殺意が籠った視線が突き刺さるようになったのは分かっていたが、言葉に出してきたか。


 俺はそんなものは無視してやり過ごそうとしたのだが。


「貴方、それは聞き捨てなりません。音無様は結衣菜お嬢様と婚約しておりますし、こちらの桜坂様は音無様の愛人ですので、まったく問題ありません」


「っ!?ごほっごほっ!」


 いきなりの言葉に俺はむせてしまう。


 その言葉を聞いた周りの人達はざわざわとし始める。


「何言ってるんですか!?」


「違いましたか?」


「俺は結衣菜とは結婚すると言いましたけど、莉愛を愛人にするとは言ってませんよ!」


「そうなのですか?そのわりには気を許しているように見えるのですが」


「それは幼馴染だからです。莉愛にはやめろとは言ってますけど、なかなか聞き入れてくれなくて」


「だってまだ好きなんだもん」


 莉愛は平然と俺に告白してくる。


「…………そうですか」


 それから美浜さんは何も言わなくなった。


 外野はまだうるさいので、早めに食事とトイレを済まして、この場所から移動することにした。

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