第67話 依頼でデート1
いつも読んで頂きありがとうございます。
生徒会長の伊万里先輩と色々あった日は、部活動の方も特に何も無く下校した。
何故か上北が俺と伊万里先輩のやり取りを、事細かく知っていたことには驚いたが。
それから数日が経ち、とある依頼が俺達の部活へと舞い込んで来た。
「えっと、つまり俺と結衣菜でデートすればいいのか?」
「はい。お願い出来ますか?」
上北と一緒に部室へやってきた男子生徒から頼まれた依頼は、この男子生徒が考えたデートコースの確認だ。
周りに相談する人がいなくて、学校で一番有名なカップルである俺と結衣菜に確認してほしいそうだ。
「これが考えたデートコースっす。デートはその、初めてであまり自信はないので確認をお願いしたいっす」
そう言って一枚の紙を渡してきた。俺と結衣菜はその紙を確認してみる。
そこには待ち合わせから終わりまでのデートコースが書かれていた。
「結衣菜、どう?」
「うーん、このゲームセンターは、その、彼女さん平気なのかな?」
結衣菜は緊張しながらも答えてくれる。確かに初デートでゲームセンターって微妙なところだ。
「えっと、ゲームセンターはまずいんすかね?」
「その、彼女さんがゲームが好きならいいかもしれない、かな」
「そういう話は聞かないのか?」
「少しはやるってことぐらいしかわからないっすね」
少しか。それは微妙なとこだな。
「とりあえずお前達はこのデートコースを試してみればいいんじゃないか?」
俺達の様子を見ていた上北が言ってくる。
「それじゃあやってみるか?」
「う、うん」
こうして次の休みに俺達はデートすることになった。
☆ ☆ ☆
そして、次の休日。
「じゃあ、俺は先に行ってるな」
「うん。また後で」
デートは待ち合わせからになるので、敢えてバラバラに出発することにした俺達。
駅前の広場が待ち合わせなので、家から大体30分掛かるぐらいだ。
俺はのんびり歩いて、広場に到着する。
周りには俺と同じように待ち合わせなのか、男女問わず1人でスマホを弄る人が結構いる。
そして待ち合わせ相手が来た人からこの場からいなくなっていく。
「お、あの子可愛くね?」
「マジだな。1人っぽいし声掛けてみるか」
ふとそんな会話が聞こえてくる。
「ねぇねぇ君1人?」
「ひ、1人じゃ」
「よかったらお茶とかどう?」
女の人の声は少し怯えているように聞こえる。しかし、男の人は遠慮なく声を掛けている。
(っていうか今の声って)
俺の位置からは見えなかったが、確実に結衣菜の声だ。
俺は慌てて結衣菜の助けに向かう。
「はいはいちょっと失礼」
「んだよお前」
「俺達の方が先に声掛けてんだぞ」
何も知らない男2人は突然割って入ってきた俺にいちゃもんを付けてくる。
「いや、こいつは俺の彼女だし」
「りん君!」
結衣菜は少し泣きそうな顔をして俺の腕に抱き付いてくる。
「ちっ」
「彼氏持ちかよ」
男2人は結衣菜の行動を見て、つまらなそうに歩いていった。
「こ、怖かったよぉ」
「悪い、気付くの遅れて」
男が苦手な結衣菜にとって、さっきのはかなり怖かったらしい。
「っていうか結衣菜、そんな服持ってたっけ?」
そこで俺は結衣菜の服を見て聞いた。
「えっと、この前詩穗ちゃんと一緒に出掛けた時に買ってみたの。せっかくのデートなんだからって言われて」
結衣菜は白を基調とした肩出しシャツに少しフリルをあしらったスカートを着ていた。
「どう・・・かな?」
「可愛くてよく似合ってるよ」
「あ、ありがとう」
素直に感想を伝えると、結衣菜は頬を染めて下を向く。どうやら照れているようだ。なんだかこっちも恥ずかしくなってきた。
「そ、それより行くか」
「そ、そうだね」
2人して顔を赤くして、話を変えることにする。
「確か最初は映画館だったな」
「うん。私、映画館初めて」
「え?そうなの?」
高校生になってそれは珍しいんじゃないか?
俺達は映画館へと歩きながら話す。手はどちらから繋いだのか分からないけど、いつの間にか繋いでいた。
「ほら、私のお父さんが厳しかったから」
「ああ、そういうことか」
それはなんとなく想像出来た。あの娘の将来まで決めていた重信さんならありえそうだ。
「あ、でも家にプロジェクターがあったから、それで映画は見たことあるよ」
「そ、そうなんだ」
家にプロジェクターって・・・。そっちの方が珍しいような気がするけど。流石は金持ちってところか。
とりあえず最初の目的地である映画館へと向かっていった。
☆ ☆ ☆
「あ、あんな自然に手を繋げるもんなんすか?」
琳佳と結衣菜の姿を少し離れた場所から見守る影が複数あった。
「あいつらはあれで通常運転だ。ま、それだけお互いを思っているか、共に時を過ごしたいと思っているからだろうがな」
「それに結衣菜ちゃんはいつも琳佳君にべったりだもんね。それにしても結衣菜ちゃん、あの服可愛い。選んで正解だったよ」
上北はいつものように自信満々に。詩穗は結衣菜の服が似合っているのを見て喜んでいた。
「・・・ねぇ、やっぱり覗くのはやめた方がいいんじゃない?」
そこに1番まともな意見を言う人がいた。
「や、やっぱりそう」「「違うぞ(よ)!」」
頷こうとする依頼者の男子生徒の言葉を遮って、上北と詩穗が否定する。
「今回はただのデートではなく、依頼でのデートだ。周りから見た方が良し悪しが分かることがある」
「せっかくの結衣菜ちゃんの可愛い姿を見ないでどうするの」
力説する上北と詩穗。その姿に依頼者の男子生徒は少し気圧されている。
「お、移動始めたぞ」
「私達も行こ」
意見をした一から見たら、2人は自分の欲望に忠実なだけなような気がした。
一は諦めて皆の後に付いていくことにした。




