第65話 小さな悲劇
「なんで俺の部屋に集まることになってんだ?」
「んー、なんとなく?」
今俺の部屋には俺、結衣菜、莉愛、詩穗が集まっている。
結衣菜と莉愛はよく俺の部屋に来るので問題はないが、詩穗がいると変に照れ臭く感じてしまう。
「それより莉愛、なんでさっきから窓の外を見てるんだ?」
「んー……なんとなく、かな」
俺も窓の外を見てみるが、特に変わった様子はない。
「…………気のせいだったのかな」
「なにか言ったか?」
「ううん。なんでもない」
「ならいいけど」
莉愛は少し安心したような顔をしていた。
「詩穗ちゃん、飲み物は何がいい?お茶、紅茶、コーヒーあるけど」
「そ、それなら、紅茶お願いしようかな」
「わかった。ちょっと待っててね」
結衣菜はそう言って、1階の台所に向かっていった。なんだかもう結構家に馴染んでいる気がするな。
詩穗は少し緊張しているように見える。
「もしかして詩穗、緊張してたりする?」
「う、うん。男の子の家に来るのも初めてなのに、まさか男の子の部屋に来るなんて予想してなかったし」
詩穗はそう言いながらきょろきょろと部屋を見渡す。
「琳佳君、ちゃんと片付けしてるんだね」
「そりゃあな。ほら」
「ありがと」
適当にクッションを詩穗に渡す。詩穗はスカートに気を付けながら腰を下ろした。
俺と莉愛も適当に腰を下ろし、3人で他愛の話をしていると、すぐに結衣菜が飲み物を4人分持って戻ってきた。
そのタイミングで俺は立ち上がり、折り畳み式の机を出す。
「ありがと」
「こっちこそありがとな」
飲み物を持って来てくれた結衣菜に感謝の言葉を言う。本来なら家主が飲み物を用意するもんだしな。
「そういえば結衣菜ちゃんと莉愛ちゃんの2人に聞きたかったことがあるんだけど」
「なに?」
「ん?」
詩穗は改まって話を切り出してきた。
「その、私は弟達がいるから気になるだけかもしれないんだけど。異性の人と一緒に暮らしてて、問題とかあったりしないの?その………色々と。あ、でも結衣菜ちゃんは琳佳君と許嫁だからいいのかもしれないけど」
まぁ、言いたいことはわからなくはないな。
実際に家だとガードが緩くなって、下着ぐらいならチラッと見えていることはある。
「んー………洗濯物は私がやってるし、お風呂とかもまぁ………いつもは気を付けてるし問題はないかな」
「いつも?」
「あっ!違うの!い、一緒に入ろうとしたとかそういうのじゃなくてっ」
そういえば1回だけ結衣菜が風呂に乱入してきたときがあったな。あの時確か………っ。思い出すな!あれは刺激が強過ぎる!!
「琳佳君も顔赤くなってるけど………まさかっ!?」
「えっ!?琳佳と結衣菜、やっちゃったの!?」
「「まだやってない(よ)!!」」
とんだ誤解を受けそうになり、2人ですぐに否定する。
「そ、それで莉愛ちゃんの方は大丈夫なの?」
「莉愛は琳佳になら裸見られても大丈夫だよ。恥ずかしいけど。それにベッドに潜り込んだりもしたし」
「へ、へぇ~………」
おい莉愛。変なこというのやめろ。詩穗が変な目で俺を見てるだろ。
「…ちとトイレ行ってくる」
俺はその場に居づらくなり、一旦手洗いにいくことにした。決して逃げているわけではない。
そして部屋に戻ってくると、詩穗は四つん這いになってベッドの下を覗き混んでいた。スカートからは猫さんがちらちら見えている。だが、結衣菜が不審そうにこっちを見てきていたので、すぐに視線を外した。
「何やってんだ?」
「ぴゃいっ!?その、り、琳佳君はどこに隠してるのかなって」
視線を外しながら詩穗に何をやっているのか訪ねると、物凄く驚いたようで、変な声を出しながらビクッとした。
「結衣菜達と暮らしてるのに、そんな簡単な場所に隠すわけが………あ」
俺は言ってからヤバいと思ってしまった。今の言い方だと、隠していることがバレてしまう。
俺は恐る恐る結衣菜の方に視線を向ける。
「……………ふふふ」
目が笑っていない笑顔がそこにあった。
「りん君」
「は、はい」
「提出」
「いや、その、本当にそんな物は持ってないから」
「提出」
「本当に持ってないって」
実際に物は持ってはいない。ただ、パソコンの中にはある。
「ねぇねぇ結衣菜」
「なに?」
そこに莉愛が割り込むように結衣菜に話し掛けてきた。俺は助けてくれた莉愛に心の中で感謝を言う。
「ほら、これ」
「…………………」
そして、ふと莉愛の方に視線を向けると、パソコンが起動されており、モニターが肌色でいっぱいになっていた。
「って!!なんでパソコン起動してんだよ!!」
しかもよりによって、ファイルの奥底にある俺の秘蔵のグラビア写真開いてるし!!
「なんでって………学校終わった後、1人で暇だからパソコンで遊んでただけだけど。これはその時に見つけたの」
「でもロックしてあったろ!」
「うん。でもパスワードは予想通りのものだったし」
なんていうことだ。まさか莉愛にバレていたなんて………。
「はわわ、皆おっぱい大きい」
「…………………」
詩穗は顔を赤くしながらも、モニターの写真に釘付けになっている。
結衣菜は先程からずっと無言でモニターを見つめていた。
そして、結衣菜は無言で写真が入っていたフォルダを削除してしまった。
「おいっ!勝手に」
「勝手に、なに?」
「い、いえ、なんでもありません」
俺は落ち込むように見せるように落胆する。でも結衣菜、甘いぞ。そこで削除したところで、まだゴミ箱フォルダに残って………。
「結衣菜、消すんだったらデスクトップのゴミ箱も空にしないと消えないよ」
「おまっ!!なんてことを言うんだ!!」
「ゴミ箱……………」
まさかの莉愛の援護射撃。
結衣菜はすぐにゴミ箱フォルダを見つけて、中身を空にしてしまった。
(ああ~~~………俺の秘蔵画像が……………)
「琳佳君、その………ごめんね?」
打ちひしがれる俺に、詩穗は困り顔をして謝ってくるのだった。