第56話 体育祭 3
俺達のクラスは学年ではトップ。全学年でも上位の方に入っていた。
次は大縄跳びは担任の先生も加えた全学年クラス全員参加だ。これはかなり練習を重ねたので、高得点が狙える競技だ。
それに、中には年寄りや運動が苦手な先生もいる。だからここで全学年でもトップに立つ予定だったらしいのだが。
「っち、向こうも対策していたか」
珍しく上北が舌打ちを打つ。
終わってみれば、点数的にはトップと差は縮まっていなかった。
「仕方ない。本来は捨ててた障害物競争で勝ってもらうしかない」
上北がそう言うが、それはうちのクラスでは難しいはずだ。なぜなら
「でもどうやるんだ?それは捨てるから運動神経が悪い奴らを固めてるんだろ?」
そう。そこには結衣菜や一を含んだ運動神経が悪い人が集中していたりする。
「順番を変えたり・・・後は替え玉だな」
「替え玉?」
「ああ」
上北がそう言うと、どこかへ足早に歩いていってしまった。
☆ ☆ ☆
そして、障害物競争の時間が回ってきた。
「なんで一がここにいるんだ?」
「一応僕は怪我をしたことになったみたいでさ」
俺の隣には何故か一が座っていた。
「怪我にさせて無理矢理選手交代か」
「みたいだね。まぁ、代わりの選手も喜んでいたしいいんじゃない」
「そういえば代わりの奴って誰なんだ?」
「見てればわかるよ」
一はくすりと笑い、グラウンドに目を向けた。俺もグラウンドに目を向けると、障害物競争が始まるところだ。
これは男女合同の1クラス5人のリレー形式の競技となっている。公平にするために、最低でも女子は2人入れることになっていた。
障害物の内容は麻袋、網潜り、ハードル、跳び箱、平均台の順番だ。
なぜか昔から奇数は男子、偶数は女子と走らせるようになっているらしく、男子3人女子2人が出場することが多い。
だが実際に順番は決まってはいないので、女子のグループにあえて男子を当てて差を付ける等の戦法もある。だがこれをやると、他のグループの時に男子の中に女子1人となってしまうため、リスクもあった。
今も第1走者に男子が並んでいる。なのに俺達のクラスは結衣菜が立っていた。
「いきなり曲げてきたな」
「だねぇ」
男が苦手な結衣菜にとってはかなりきついだろう。現に今も少し泣きそうな顔をしている。あ、助けを求めるような目でこっちを見てきてた。
(そんな目で見られても、今は助けられないぞ)
そうこうしている内に、障害物競争が始まった。
案の定、結衣菜は最初出遅れてしまう。しかし最初の障害物、麻袋(麻袋の中に入り、ジャンプして進む奴)で他のクラスの速度が遅くなった。
理由は単純だ。
結衣菜はあえて胸を揺らすように跳ねているのだ。男子はそれに目を奪われ、速度が落ちたのだ。
「・・・・・・あいつめ」
そんなことを指示する奴は1人しかいない。
「音無よ、どうだ?作戦は成功だろう?」
「人の彼女に何を命令してんだ!」
「なに、女の武器を使っていけと指示しただけだ」
その後も結衣菜は網潜りでも少し胸元を緩めたり、ハードルでも胸を揺らし、跳び箱も可愛らしく跳んだりと、女の武器を大いに使っていった。
そして平均台をクリアする頃には2番目になっていた。
そしてそのまま第2走者の男子にバトンタッチをした。
よく見ると、うちのクラスは男子が2人、女子が3人となっている。しかも他のクラスが男子なら女子を、女子なら男子を当てていた。
男子も運動神経が悪い奴だが、他クラスの女子とはいい勝負をしている。
第3走者の女子も女の武器を使い、出来る限り順位を落とさないようにしていた。
第4走者が終わるときには、うちのクラスは3位。アンカーは他のクラスはかなり運動が出来る男子を当ててきている。
そしてうちのクラスは金髪をした女子で・・・。
「ってなんで莉愛が出場してんだよ!」
「僕の代わりみたいだよ」
「あいつなら余裕で男子にも勝てるだろ」
上北の言葉は正しいことは正しい。あいつはバカだけど運動神経だけは凄いからな。
「それにしても周りはよく納得したな」
「なぁに。怪我をした男子の代わりに年下の女子を入れていいかと訪ねたところ、他のクラスも頷いてくれたからな」
確かに言葉だけだと戦力ダウンにしか聞こえないから、頷いてしまうのもわかる。
だけと実際は。
「な、なんだあの女!」
「速すぎるだろ!」
莉愛の麻袋で跳ぶ距離は男子の倍近く跳び、網潜りも男子を追い抜いていく。
ハードルも陸上選手みたいに跳んで、跳び箱も余裕でクリア。平均台に限っては地面を走るように通り過ぎてしまう。
最終的には圧倒的な1位でゴールをした。
「琳佳ぁー!!ぶいっ!!」
莉愛は大声で俺の名前を呼び、Vサインを送ってきた。
俺は再び嫉妬の視線を集める羽目になってしまった。
そして更に・・・。
「うえぇーん!りんくぅーん!」
「よしよし」
「あっ!ちょっと結衣菜!ずるいわよ!」
戻ってきた結衣菜は恥ずかしかったと俺に泣き付き、それを見た莉愛が対抗するように反対側から俺に抱き付く。
クラスメイトからはもちろん、他の男子から射殺されるような視線を感じ続けるのだった。