第55話 体育祭 2
体育祭の競技は順調に進んでいった。
徒競走みたいに妥当なものから、俺と結衣菜がやったような面白い競技も何個かあった。
例えば玉入れ追いかけっこという競技は、玉入れの籠を敵が背負い、それを目掛けてお互いに入れ合うというものだ。
幼稚だなと思ったが、本気でやると以外と面白かい。
そして、次は結衣菜と一が出場する借り物競争だ。
『次は借り物競争、改め借り人競争です。出場選手の生徒は準備をお願いします』
・・・借り人競争?
「今借り人競争って言ってたよな?」
「言ったな」
俺は隣にいる上北に聞き間違いじゃないか聞いた。
「借り物競争じゃなかったか?」
「そうだな。恐らくこちらの方が面白いから変更したのだろう」
「そんなんで変更していいのか?」
この体育祭、よくこれでやっていけてるな。出場する生徒も戸惑いを見せている。
そして、始まった借り人競争。
出場生徒からは叫ぶようにお題の紙に書かれた人を探している。
「どなたかっ!メガネを掛けてる方っ!協力お願いします!」
「誰かー!身長180センチ以上の方ー!」
まぁ、この辺りならまだわかる。だけど
「だ、誰か、バストEカップ以上の人」
弱々しくそんな人を探している男子生徒もいる。女子ならまだいいが、男子がやっているからただのセクハラにしか見えない。
(俺、出場しなくてよかったわ)
あんなの絶対にやりたくない。
「やっほ!琳佳、上北」
「うおっ」
俺の後頭部に柔らかい何かが押し付けられると共に、莉愛の声が聞こえてきた。
「お、桜坂か」
「莉愛、抱き付くのやめろ」
「え~、いいじゃない。減るもんじゃないし」
「それ、普通男が言うセリフだろ」
莉愛はそうは言うが、周りのクラスメイトからは、特に男子からは殺意がこもった視線が向けられている。
莉愛はハーフで見た目は美人だ。顔もスタイルも中学生とは思えない程整っている。
「あら?一の番が来たみたいよ」
莉愛は俺の頭に胸を押し付けたまま、観戦を始めた。押し退けようにも、この体勢だと振りほどき難いから、我慢するしかないか。
一の方を見ると、俺達の方へと走ってきている。
「はぁ、はぁ、はぁ、り、莉愛ちゃん」
「何よ」
どうやら一は莉愛に用があるようだ。
「はぁ、はぁ、い、一緒に」
「え?借り人って莉愛なの?」
「う、うん」
一の持つ紙には外国人と書かれていた。
確かに莉愛は見た目は外国人だから、問題はなさそうだ。
「もう、わかったわよ。それじゃあ琳佳、行ってくるわね」
「ああ」
そう言って莉愛はやっと離れてくれた。
「ほら、一、早くいくわよ」
「まっ、待って」
運動がまったく駄目な一が莉愛に急かされている。
「もうっ!早くしてよ!こうなったら」
「わあっ!?」
あろうことか、莉愛は一の手をものすごい勢いで引き、走り出した。
「そういや莉愛ってかなり運動神経よかったよな」
中学生の女の子が高校生の男子生徒を引っ張る形で一気にトップへと躍り出る。
莉愛のお陰もあり、一はトップでゴールするのだった。
そして結衣菜の番が回ってくる。
結衣菜も運動神経は無い方だが、一よりはある。
結衣菜はスタートは出遅れたが、1枚の紙を取る。
「・・・指示通りの物を取ったな」
「ん?何か言ったか?」
「なんでもない。気にするな」
上北が何か言ったような気がしたが、気のせいだったか?
結衣菜は一と同様に俺達の方へと走ってきている。
「はぁ、はぁ、りん君!」
「今度は俺か」
俺は結衣菜に手を引かれるように立ち上がる。恐らく恋人とか好きな人とか書かれていたのか?
「上北、いってくる」
「ああ」
俺は結衣菜と手を繋ぎながら走り出す。
「りん君、私をお姫様抱っこして」
「ここでか?」
競技中で注目を浴びる中でそれは恥ずかしいのだが。
「いいから!そうじゃないとゴール出来ないの!」
「わかったよ」
俺は言われた通りに結衣菜をお姫様抱っこする。すると予想通り回りからいろいろな悲鳴のような声が聞こえてくる。
「あの新聞は本当だったのか」
「ちくしょう!今年の1年の中でも狙ってたのに!」
・・・そういえば、新聞に俺達のこと大々的に書かれてたな。
「ほらりん君!走って!」
「あいよ。それよりなんて書かれてたんだ?」
「そ、それはその・・・内緒」
結衣菜は頬を染めて視線を逸らした。
俺達はそのままゴールする。そして、結衣菜は指示の紙をゴールの人に渡す。
「えーとお題は『生涯共に過ごしたい人。お姫様抱っこしてもらおう』ですね。確認しました。お幸せに」
「っ~~~」
結衣菜は隠していた指示を言われ、首筋まで赤くしてしまった。かくいう俺も、ゴールして近くにいる人達から注目を浴びて恥ずかしい。
っていうか、高校生のお題にこんなの入れるなよ。
「ちょっと結衣菜!なんでそんなお題を引くのよ!莉愛も琳佳にお姫様抱っこされたい!」
「しょ、しょうがないじゃない。上北君に言われ・・・あっ」
「なるほど。あいつが原因か」
上北のさっきの呟きはこれのことだったのか。
上北の方を見てみると、親指を立ててグッとやっていた。




