第51話 姑?
「りん君、あれってどこだっけ?」
「そこの棚の下から2番目」
「あった。ありがと」
俺と結衣菜は2人で台所で夕飯を作っていた。
「結衣菜」
「はい、これだよね?」
「そうそう」
俺が手を出して結衣菜の名前を呼んだ時には、欲しいものが結衣菜から渡される。
お互いに主語がなくても、一緒に料理をしていれば、なんとなく必要な物はわかってくる。
これはお互いにどんな料理を作っているのか。相手が何をやっているのかが分かれば、ある程度は出来ることなのだが。
「うぬぬ・・・」
そんな息の合っているように見える俺達の様子を唸り声を出して見ている人物がいた。
「結衣菜、ここ置いとくぞ」
「うん。あ、お皿を」
「もう用意してあるぞ」
そんな莉愛の視線は気にせずに料理は続いた。
☆ ☆ ☆
「「「いただきます」」」
3人で席に着いて夕飯を食べ始める。
莉愛は目の前に広がる料理を見て、美味しそうと悔しいが混ざったような複雑な顔をしていた。
「うん、旨いな」
俺は食べたいのから手を付け始める。結衣菜も俺の感想を聞いて嬉しそうにしながら、料理に手を付けた。
「莉愛、遠慮しないで食べていいんだぞ?」
「ど、どうせ大したことないんでしょ」
莉愛は目の前の料理を箸で口に運んだ。
口に入れた途端に莉愛は目を見開き、驚きの表情をする。
「さ、流石琳佳が作った料理ね。凄く美味しいわ」
莉愛は結衣菜が作ったことを認めたくないのか、そんな感想を洩らす。
「俺はただ結衣菜のサポートをしただけで、ほとんど結衣菜が作ったんだぞ?」
「う・・・」
莉愛は認めたくないが、認めざるおえない。なぜなら、莉愛の目の前で結衣菜が料理のほとんどを手に掛けていたことを見ていたのだから。
「・・・お、美味しいわよ。結衣菜」
「うん、ありがと。いっぱい食べてね」
結衣菜は莉愛に料理を認めさせたので、少し嬉しそうな顔でお礼を言った。
☆ ☆ ☆
「風呂掃除ぐらいならやれるわ!」
莉愛は食事後、そんなことを言ってきた。まぁ、俺も最初から掃除をさせる気でいたので、掃除道具の場所だけ伝えてリビングに戻ってきた。
リビングの机には結衣菜が入れてくれたコーヒーが置かれていた。
「りん君、莉愛さん大丈夫かな?」
「ま、掃除なら早々失敗することなんて」
「きゃああああぁぁぁ!!!」
「「・・・・・・・・」」
なにやら風呂場の方から莉愛の悲鳴が聞こえてきた。
「・・・ちょっと見てくるわ」
「うん、お願いね」
俺は下ろそうとした腰を持ち上げ、風呂場に向かった。
「ちょ、ちょっと!私の言うこと聞きなさいよ!」
風呂場からはガタガタという物音と怒る莉愛の声が聞こえてきていた。
「ひゃん!ちょっ!や、やめ」
「・・・・・・・」
莉愛の変な声を聞いて、俺は風呂場の扉の前で入っていいのか悩んでしまう。
とりあえず、扉越しに声を掛けるか。
「莉愛、大丈夫か?」
「り、琳佳!?た、助け、助けて!!」
「入ってもいいのか?」
「いいわよ!だ、だからっひゃん!!」
なんか入るのを躊躇われるな。まぁ、許可が下りたから俺は風呂場の扉を開けた。
そしてそこにいたのは、シャワーホースが莉愛の腕や身体に巻き付いて、びしょびしょになった姿だった。ホースは莉愛のタンクトップの胸の谷間を通り、なぜか少し脱げている短パンの隙間、莉愛の太ももの間へとシャワーヘッドが刺さっていた。部屋着のタンクトップだからなのか、ブラはしておらずに、服が透けて大変なことになっていた。
「・・・莉愛、何をどうやったらそんな風になるんだ?」
俺は純粋に疑問に思った。
シャワーが暴れたとしても、ここまでは普通ならんだろ。
「シャ、シャワーが暴れたの!捕まえようとしたら莉愛が捕まっちゃったの!!いいから助けなさいよ!こいつ、さっきから莉愛の変なとこに当ててくるのよ!!」
腕が絡まってシャワーヘッドを短パンから抜けないのだろう。短パンからはお漏らしをしているように、水がどんどん出てきている。
「あのさ、シャワーの水を最初に止めればいいんじゃないのか?」
「うっ」
莉愛はそれに気が付かなかったことを恥じている。
俺はシャワーの水を止めて、出来るだけ見ないようにしながら、莉愛に絡まったホースを解いてやる。途中タンクトップの中をホースが通っているので、少し胸に触れてしまったが、莉愛は黙って我慢をしてくれていた。
「ほら、とりあえずタオルで拭いて着替えてこい。風邪引くぞ。風呂掃除は俺がやっとくから」
「う、うん、ごめん。それからありがと・・・」
莉愛はしょんぼりしながら、タオルを羽織って2階に戻って行った。
そして数秒後、戻る途中にリビングを通った莉愛を見た結衣菜の驚く声が聞こえてくるのだった。