第50話 2人目の居候
俺は結衣菜と莉愛の2人をそれぞれを両腕にぶら下げながら帰宅した。
玄関を結衣菜が持っていたカバンから鍵を誇らしげに出して開けると、莉愛はむすっとした顔をする。
あ、莉愛も暮らすんだったら莉愛にも合鍵渡さないと。莉愛は中学生だし、俺たちと時間も違うだろうしな。
「そういえば莉愛は何か家事出来るのか?」
俺は一旦着替えてからリビングのソファーに腰を下ろしながら聞いた。
「で、出来るわよ。たぶん」
「たぶんってなんだよ」
この言い方だとあまり期待は出来そうにないか。任せられるとすれば掃除ぐらいか?
結衣菜と莉愛も制服から私服、というか部屋着に着替えている。
結衣菜は楽そうなワンピースを、莉愛はタンクトップに短パンという格好だ。
「結衣菜、今日の夕飯は全部任せてもいいか?」
「うん。りん君はどうするの?」
「俺は莉愛の部屋をな。そういえば莉愛の荷物ってこのボストンバッグだけなのか?」
「そうよ。家出してきてるから、あまり荷物は持ってこなかったの」
そういやこいつは家出してきてるんだったな。
「でもりん君、部屋って余ってるの?」
「うーん、無くは無いんだけど・・・」
余っているのは完全な物置だ。少し手狭ではあるが、片付けられれば住めなくはない。でも、客である莉愛にその部屋を使わせていいものなのだろうか。それに、そこに置いてある物はどうするかが問題だ。
「りん君、もし難しいなら私の部屋で一緒でもいいよ」
俺が悩んでいると、助け船の一言が結衣菜から提案された。
「なんであんたなんかと同じ部屋で過ごさなきゃいけないのよ!」
そんな結衣菜の言葉に莉愛は反発する。
「莉愛さん。私達はりん君の家に厄介になるの。だからりん君が困っていて、私が我慢すれば解決するなら私は我慢する。幸い私の借りてる部屋にはもう1組布団もあるし、タンスだって使っていない場所がある。私だって莉愛さんのことは分からないし、りん君にやたら絡んでくるから嫌なことはある。でも、りん君の大切な友達だってことは理解してるつもり。りん君にとって大切な友達なら私は少しでも莉愛さんのことを理解したい」
「うぐ・・・・・・」
莉愛は結衣菜の言っていることの正当性に何も言えなくなってしまう。
それにしても結衣菜からこんな発言が出るなんて驚きだな。前なら嫉妬してこんな発言しなかっただろうし。まぁ、根っこの部分は優しい性格なのは知ってたけど。
「結衣菜はいいのか?」
「うん。・・・りん君と結婚出来るのはほぼ決定してるし」
結衣菜は迷うことなく頷いた。頷いた後、なんか小声で何か言ったような気がしたが・・・。
「わかったわよ!莉愛が我慢すればいいんでしょ!」
話し合いの結果、莉愛は結衣菜と同じ部屋に住むことになった。
☆ ☆ ☆
莉愛は結衣菜に連れられ、2階にある結衣菜の部屋に荷物を置きに行った。なので、俺は夕飯の下準備をすることにする。
すると、結衣菜はすぐに階段を下りてきた。
「もういいのか?」
「うん。タンスの空いてる場所と布団のしまってある場所を教えてきただもん」
確かに教えるのはそれぐらいしかないか。
「ねぇ!ちょっと結衣菜!!なんでこんなの持ってるのよ!!」
「え?・・・きゃあああぁぁぁ!!それはダメェェェ!!!」
何事かと思い2人の方を見てみると、莉愛が階段の下のところで何かを拡げて持っていた。って!あれ!!前に見たことのある結衣菜の!?
「人のパンツをりん君の前で拡げないでよ!!」
「琳佳!やっぱり結衣菜は琳佳を落とす気まんまんなのよ!」
結衣菜は莉愛から自分のパンツを取り戻し、顔を赤くして俺から見えないように隠している。そして、莉愛はそんな結衣菜を見て誇らしげに俺に言ってくるが。
「いや、俺はもう結衣菜に落とされてるからな。それにその下着は前に・・・ごほんごほん」
真っ赤な顔をした結衣菜に射殺されそうな視線を向けられ、俺は咳払いで誤魔化した。
「もう!!なんで琳佳はこんな女がいいのよ!!」
「そりゃあ好きだからに決まってるだろ」
「じゃあ莉愛はっ!?」
「好きだぞ。友達としてな」
前にも言ったことを繰り返し宣言する。たぶんこれは変わることない事実だしな。
「なんでよぉ・・・。莉愛は琳佳のことがこんなにも好きなのにぃ・・・」
莉愛は変わらない俺の答えを聞いて、俯いて泣き始めてしまう。
「・・・・・・」
俺も結衣菜もそんな莉愛を見て、どうしたらいいか分からなくなってしまう。
俺が変に優しい言葉を掛けても、莉愛にとっては残酷な言葉にしかならないだろうし。結衣菜が言っても、それは変わらない。
「・・・・・・・てやる」
「・・・なんて言ったんだ?」
ぼそっと何かを呟いた莉愛に聞き返す。
「見極めてやる!!結衣菜が琳佳に相応しいかどうかを見極めてやる!!!」
莉愛は立ち上がりながら結衣菜を指差し、そう宣言するのだった。