第4話 買い物で
いつも読んで頂きありがとうございます。
本文を少し改稿しました。
「後は・・・」
俺はスーパーで夕飯の材料をかごに入れながら、献立を考えて歩き出す。
時刻はまだ昼過ぎだが、それなりにお客で賑わっていた。
「あれ?琳佳君?」
「ん?ああ・・・・誰だっけ?」
「ひどい!今日よろしくって握手交わしたじゃん!」
「冗談だよ。詩穗」
俺の近くに制服姿の詩穗が買い物かごを持って近付いてきた。
「詩穗も買い物?」
「うん。今日は私が当番だから」
「へぇー、詩穗の家は当番制なんだ」
「そうだよ。こう見えて私は5人兄妹の長女だからね」
5人兄妹って結構な人数だな。それだけいると料理も大変そうだ。
「琳佳君も今日当番なの?」
「いや、うちは基本的に俺が家事担当だから。兄妹もいないし」
「え?御両親は?」
「親父は仕事だし、母親は他界しちまってるからな」
「あ、ごめんなさい」
「いや、気にしないでいいよ。まぁ、親父も休みの時は色々とやってくれてるからな」
「ふーん、いいお父様なんだね」
一時は衝突もしたが、今思うと確かにいい父親なのかもしれない。父親が働いているからこそ、俺の今の生活があるわけだしな。
「そうだなってなんで手を繋いでくる」
「えへへ、なんかこういう風にしてると恋人に見られないかなって」
「兄妹に見られるんじゃね?」
「ひど!」
俺がそう言うと、詩穗は頬を膨らませて可愛く怒り出す。
詩穗は本当に小柄だ。身長も恐らく140cm前半だろう。170cm以上ある俺と手を繋いだら、兄妹に見られてもおかしくはない。
「もう!琳佳君って結構いじわるなの?」
「いじわるかどうかはわからんが、中学時代は上北の奴らと色々とやってたな」
「うわぁー、不良学生がここにいるー」
詩穗は棒読みで言ってくる。それでも手を放す気配はない。
「ってか、お前は恥ずかしくないのか?俺達ぐらいの年だと男女で手を繋ぐことって意識するもんだろ」
「え?うん、恥ずかしいとは思うけど、こっちの方が楽しそうだし」
「いい性格してんな」
「褒め言葉として受け取っておくね」
「ほんっとにいい性格してんな!」
「えへへ、ありがと」
詩穗は思ったよりも面白い奴っぽい。
「そういえば琳佳君って一ノ瀬さんと幼馴染なんだよね?」
「まぁな」
「平気なの?なんか冷徹女って噂されてたけど」
詩穗は心配そうな顔で聞いてくる。
(本当にいい奴なんだな)
俺は内心そう思った。
噂とはいえ、冷徹女とか言われている赤の他人の心配なんて、普通はしない。
「ああ、大丈夫だ。あいつにもし何かあったら俺が守るだけだしな」
「・・・・・・・・・・」
「ん?どうした?」
「え?ううん!なんでもないよ!ただ・・・」
「ただ?」
詩穗の頬が少し赤くなっているような気がする。
「琳佳君って一ノ瀬さんのナイトみたいだなぁって思ったっていうか」
「な、ナイト?」
「うん、だってそうでしょ?女の子を守る男の子ってそんな感じしない?」
「まぁ・・・確かに」
言われてみればそうだ!俺、何か恥ずかしいこと言ってしまったのか!
俺がそんなことを考えていると
「でも一ノ瀬さんがちょっと羨ましいかも」
と、詩穗が小声で呟いた。
「え?なんで?」
「だって・・・守ってくれる男の子がいるんだもん。女の子としてはちょっと憧れちゃうかなぁ・・・なんて」
「なら詩穗に何かあったら俺が守ってやるよ。こうして仲良くなったんだからな」
「・・・・・・へ?」
俺がそう言うと、詩穗は先程とは比べ物にならないくらい顔を真っ赤にする。
「いやいやいや!なに言ってりゅの!?」
呂律が回ってないぐらいテンパってるけど、どうしたんだ?
「いや、だってそうだろ?友達は大事にしないといけないからな」
「・・・・・・そ、そうだよね!友達だからだよね!」
「ん?それ以外に何があるんだ?」
「・・・・・・・はぁ、まさか琳佳君がこんなに天然な女殺しだったなんて」
「然り気無くひどいこと言うのな」
その後も俺達はわいわいと話しながら買い物をした。
そしてその帰り道。
「ごめんね。手伝ってもらっちゃって」
「いいっていいって。流石にこの荷物を女子1人でっていうのは、俺が見てられないって」
流石の5人兄妹の家。食料もかなりの量になっている。買い置きやお菓子も含まれているみたいなので、スーパーの大きな袋が5袋もある。俺でも結構疲れるぞ。
「いつも1人でこんなに買い物するのか?」
「ううん、いつもは中学生の弟に手伝ってもらうんだけど、今日は友達と遊びにいくって」
「なるほどな」
確かにほとんどの学校では入学式や初日のところが多い。それだと早く学校が終わるため、遊びに行くのにも納得出来る。
「あ、もうすぐそこが私の家だからこの辺りでいいよ」
「最後まで手伝うぞ?」
「ん~・・・まぁ、玄関までならいいかな。わかった。じゃあもう少し手伝って貰ってもいい?」
「了解」
俺は詩穗の後ろに続いて歩いていく。すると、ある住宅街にある一軒家に辿り着いた。
「私、男の子を家まで連れてきたの初めてかも」
「それは光栄だな」
「もう・・・、ちょっと待ってね、今開けるから」
詩穗がそう言うと同時に玄関が突然開いた。
「お帰りなさい!ねぇちゃん!」
「へ?」
「は?」
玄関が開くと同時に小学校低学年くらいの男の子が迎えに出てきてくれた。恐らくは詩穗の下の方の弟だろう。それは別にいい。問題なのが
「・・・・・・・見た?」
「・・・・・・現在進行形で猫さんが俺を見てるぞ」
「い、いやぁあああ!!!」
詩穗の弟はイタズラで詩穗のスカートを捲り上げたのだ。買い物袋を両手に持っていた詩穗はスカートを直すことが叶わなかった。その結果、俺は詩穗のお尻にある可愛い猫がプリントされたパンツを堂々と見ることになってしまった。
って、高校生になっても猫さんパンツなんて穿いてるのか。
もちろん俺はその後、詩穗に謝りまくった。詩穗は弟が悪いからと言って許してくれたが、顔は真っ赤なままだった。
(俺、今日パンツ遭遇率高くね!?明日どんな顔で詩穗に会えばいいんだ?)
そんなことを考えつつ、俺は自分の荷物を持って帰宅するのだった。
☆ ☆ ☆
「帰ったぞ」
「お帰り」
夕飯の準備をしていると、親父が帰って来た。
「お、今日も旨そうだな」
「あんがと。あ、そうだ。親父」
「なんだ?」
「今日、学校で結衣菜に会ったんだけど」
「驚いたか?」
「驚いたよ!なんで連絡あったこと教えてくれなかったのさ!」
俺は料理を中断し、親父に問い詰める。
「だってその方が面白いだろ。現に俺はお前が驚いてくれて面白いし。お前だって同じ境遇ならやるだろ?」
「今、本当に俺は親父の息子だと確信したよ」
たぶん、いや、絶対俺も同じ立場なら同じ事をした自信があった。
「どうだ?美人になっていたか?」
「あ、ああ。普通に可愛いかったよ」
「よかったな。結衣菜ちゃんは昔からお前のことを好いていたからな。いい嫁さんになりそうじゃないか」
「まだそんなんじゃないって」
そう言われると恥ずかしくなってしまう。
「ま、お前を追いかけてきたんだ。大事にしてやれよ」
「当然だ」
それだけには俺は自信があった。結衣菜は俺の中でも特別な存在なのだから。
「親父、早く着替えてこいよ」
「あいよ」
俺は夕飯の仕上げに移るのだった。
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