第44話 アスレチックへ 2
結衣菜の誤解を解いた後は、上北と一緒にアスレチックの遊具を出来る限りのスピードで走破していった。
ここの木造建築のアスレチックは子供の頃に遊んだ時より増築されており、俺が知らない物もあった。
確かに小さい子供には難しい物もあり、大きさ的にも大人向けというのは本当らしい。
だから予想の他楽しめた。
途中にあった綱を使った遊具の時には、結衣菜と一が揺らしてくるというちょっとした障害要素もあった。
だけど、俺も上北も運動は出来る方だし、中学の時は校舎の壁も登り降りしていたのだ。これぐらいの遊具は意図も簡単にクリアしていく。
「音無、流石だな」
「お前もな」
お互いに誉め合うも、俺としてはこれが練習になっているか半信半疑になる。通常通りの使い方をしないことで難易度は上げているが、元々アスレチックは安全設計がされているので、どうしても簡単になってしまうところが出てきてしまう。
「ふむ、実際にやってみると少し簡単過ぎるか・・・」
上北も同じ事を考えたのか、そんな呟きを漏らした。
「・・・・・・・」
上北は視線を周りに巡らして、近くのベンチの両端にそれぞれ座る結衣菜と一を見た。運動が出来ない2人は俺達が簡単にクリアするのを見て、少し驚いた顔をしている。
「音無、次はハンデを付けてやってみないか?」
「ハンデ?重りでも付けてみるのか?」
難しくするにはアスレチックを改造出来ない以上、俺達がハンデを背負うしかない。
「ああ」
「でも重りなんてどこにあるんだ?」
「そこにいるだろう。背負えるものが丁度2人分」
上北の指差した先には結衣菜と一がいて、2人の間には持ってきてくれた飲み物が幾つか置いてある。
「ああ、なるほど。飲み物を重りにするのか」
「何を言ってるんだ。その程度の重りではハンデにならないだろう?それに俺は2人分と言っただろ」
「・・・・・・冗談だよな?」
上北が言っている重りというのは、結衣菜と一のことだろう。
2人の体重は知らないが、流石に人間1人を背負っては走ることも難しいぞ。それでアスレチックを駆けるなんて無理すぎる。
俺はそんなことを考えながら結衣菜の方を見ていると、視線がぶつかった。結衣菜は何を思ったのか、飲み物を片手に俺の方へとやってきた。
「どうかしたの?りん君」
「あ、いや・・・」
俺は結衣菜から飲み物を受け取り、なんて言ったらいいのか迷ってしまう。
「予想より簡単だったから重りを付けてやってみないか、と相談していたところだ」
横から上北が説明をしてきた。
「ふーん、いいんじゃないの?あ、でも重りって何を・・・」
「それは一ノ瀬と一にやってもらおうと考えている。そこでだ。一ノ瀬の体重は」
「何かな?上北君」
結衣菜の雰囲気が一変した。俺に向けられていないというのに、近くにいる俺にも寒気が伝わってくる。
「・・・・・・すまない。失言だった」
上北はすぐに謝り、密かに冷や汗を拭う。
「そうなると、私はりん君に背負われればいいの?」
「いや、結衣菜。流石に危なくないか?」
「でも、りん君が守ってくれるでしょ?」
「ま、まぁ、出来る限りはな」
「それなら私はやってもいいよ」
結衣菜は笑顔でそう言ってくれる。でも、本当に大丈夫なのだろうか?
「音無、試しにやってみて、危険だと感じたら止めればいいのではないか?」
「・・・・・・わかったよ。やってみるよ。結衣菜」
「うん」
俺は飲み物を置いて、結衣菜に背を向ける。
「よいしょっと」
結衣菜がそんな掛け声と共に俺の背中へと乗ってきた。そして、両手両足で俺にしがみつく。すると、当たり前のように結衣菜の胸が俺の背中に押し付けられる訳で・・・。
「結衣菜、そこまできつく抱き付かなくても」
「でもりん君。両手両足使えた方がいいよね?」
「あ~・・・そうなるのか」
確かにそれは言えている。まぁ、でもバランス取るためにも普通に歩いたり走る時は結衣菜の太ももを支えればいいか。
「りん君、このまま試しに走ってみてよ」
「あ、ああ、わかった。しっかり掴まってろ」
「うん」
俺は試しに結衣菜を背負ってまま走ってみることにした。
結果、予想よりは走れるのだが、予想以上に結衣菜の胸が強弱を付けて背中に押し付けられるようになってしまった。
結衣菜は楽しそうにしてきるのだが、俺の精神はすぐに限界を迎えてしまった。
「・・・・・・すまん。結衣菜、俺には無理だ」
俺は結衣菜に降りてもらい、色々と落ち着かせるためにベンチで休むことにした。
「りん君、大丈夫?」
「肉体的には大丈夫だ」
「?」
結衣菜は首を傾げていたが、後ろでは上北がにやにやしながらこっちを見ていた。
(あの野郎、こうなることわかってやがったな)
休憩した後はまたアスレチックの遊具を使って、上北とタイムを競い合って遊びながら練習を続けた。
途中、結衣菜と一もチャレンジしてみたが、すぐに根を上げていた。




