第43話 アスレチック
午前中は通常授業、午後は体育祭の練習という日々が始まってから5日目。週最後の平日、金曜日が訪れていた。
体育祭の主な練習は大縄跳びや結衣菜と共に二人三脚の練習。後は俺が出るリレー競技のバトンの受け渡しの練習等をこなしていた。
でも、今日は俺と上北はその練習から抜け出し、別の場所にやってきていた。
「なんでアスレチックに来たんだ?」
そう、俺達は少し離れた場所にある大きなアスレチックがある公園へとやって来ていた。
まだ平日の昼過ぎということもあり、人はまばらだ。
「俺達はあの練習もしなくてはならんからな」
「あの練習・・・あ」
なんのことだと思ったが、1つ心当たりがあった。
「ふっ、思い出したか」
「ああ、あまり思い出したくはなかったけどな」
ここのアスレチックは子供のアスレチック遊具もあるが、大人も遊べる大きな物もある。
それらはどこかあれを彷彿させる。
「ま、これとはかなり違いはあるだろうが、他に練習出来る物はないからな」
「そういえばお前は知ってるのか?」
「何をだ?」
「学校のSASU〇〇の内容だよ」
さっき『違いはあるだろうが』と言った。ということは内容を少しは知っているということだ。
「少しはな。テレビよりはかなり簡単になっているのは確かだから、そこは安心してほしい」
「そうなのか?」
あの学校のことだから、テレビのまんま再現するかと思っていたが。
「ああ、数年前にテレビと同じように作ったらしいのだが、ファーストステージすら誰もクリア出来なくて、それ以降のステージは造り損になったらしいからな」
「それは容易に想像がつくな」
テレビのは出てる人達は自信のある多くの人の応募の中から選ばれているはずだ。そんじゃそこらの学生に出来るはずがない。
「だから当時は師匠である猿飛先生が生徒の代理としてやったそうだ。ま、意図も簡単にクリアしたらしいがな」
「は?」
猿飛先生はこの前上北が師匠と呼んでいた忍者部の顧問の名前だ。
「公式の物ではなかったから正式な記録は残っていないが、全てにおいて新記録を塗り替えたらしい」
「・・・・・・なんでテレビの方には出ないんだ?」
「師匠いわく、忍者とは目立つものではないらしいからだそうだ。なんでも仕事に支障をきたすとか」
あの先生、先生以外の仕事でなにやってんだ?
「とりあえずは・・・そうだな。あの飛び石は1つ飛ばしでやれば、今回の物に近くはなる。後、あの遊具は外側を伝っていくようにすれば、少しは難しくはなるだろう」
上北は事前に調べていたのか、すらすらとアスレチックの遊具の違う使い方を説明していく。
「りんくーん!」
「上北、お待たせ」
そこに、荷物を持った結衣菜と一がやってきた。
「結衣菜、一、どうしたんだ?」
「上北君に呼ばれたんだよ」
「そうそう。手伝って欲しいって言われてね」
「あ、飲み物も持ってきたよ」
そう言いながら2人は荷物を近くのベンチに置いた。
「あれ、詩穗はいないのか?」
いつもの面子で考えると詩穗だけがこの場にいなかった。
「鶴野宮は学級委員長だからな。クラスメイトの練習の方をまとめてもらってる」
「なるほど」
それなら仕方がないか。でも、そう考えると結衣菜と一はここにいていいのか?この2人は運動はからきし駄目なはずだけど。
「音無、こいつらが出る競技を思い出してみろ」
「・・・・・・・・・あ」
確か結衣菜は例の大縄跳びと借り物競争。一は大縄跳びと何故かある○×ゲームだ。
確かにこの2人はあまり練習という練習をする必要はないか。
「それに2人だけで遊ぶなんてずるいもん」
「いや、俺達は一応練習しに来てるんだけど」
「でもぉ」
結衣菜は少し口を尖らせてぶつぶつと言ってくる。
「・・・穗ちゃんから貰った薄い本みたいになったらいやなんだもん」
「・・・・・・・」
なんだろう。何か小声で変な単語が聞こえたような気がしたのは気のせいだろうか?薄い本って同人誌とかのことだよな?確かうちの学校の部活に同人誌を作っている部活はあったはずだけど・・・。いや、まさか俺の、ましてや上北との同人誌なんて売れるはずがないから、あるはずないか。
「あれ?一ノ瀬さん、カバンから本落ちたよ」
「ん?・・・っ!?」
一が落ちた本を拾おうとしたら、結衣菜が目にも止まらない速さでその本を横から奪うように拾い上げ、カバンに入れた。
「・・・・・・一君、見ましたか?」
「い、いや、何も見てないよ。うん、見たくなかった・・・」
一は視線を泳がせながら答える。
そして、結衣菜の視線はそのまま俺の方に向く。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
お互い無言で見つめ合う。結衣菜の目は『見てないよね?』と無言で言ってきているのがわかる。
「さぁ音無よ!始めるとしようか!!」
「っ!?」
上北がわざとらしく俺の肩に腕を回して、言ってきた。それに結衣菜が過剰な反応を見せる。
「りん君!!」
「は、はい!!」
俺は上北を剥がしながら結衣菜の呼び掛けに返事をする。
「上北君といえど浮気はダメだからね!!」
「気色悪いこと言うな!!」
俺は心の中で詩穗になんてものを結衣菜に渡したんだと文句を言いつつ、結衣菜の誤解を解くのに数分の時間を要するにのだった。