第40話 広報
午前中の授業が終わり、昼休みとなった。
俺と結衣菜は昼食の前に久遠先生のところへと、結衣菜との同棲のことを話に向かった。
「一ノ瀬さんとの同棲でしょ?もう知ってるよ」
「え?何でですか?」
「一ノ瀬さんと音無君の親御さんから連絡を貰ったの。だから気にしないでいいよ」
なるほど。親父とかから伝わっていたというわけか。
「後、私の方から学校の方には通達しておいたから、その辺りも大丈夫だから」
「わかりました。ありがとうございます」
「いえいえ。それより早く食堂行かないとお昼食べる時間無くなっちゃうよ」
「はい。それでは失礼します」
「失礼します」
久遠先生の部屋を後にすると、俺と結衣菜は並んで食堂に向かった。
途中すれ違う生徒から見られていた気がしたが、結衣菜と一緒にいるからだと思っていたのだが。
「ね、ねぇりん君」
「・・・なんだ」
俺と結衣菜は食堂で定食を買い、空いている椅子に座って普通に食べていた。
「見られてない?」
「・・・気のせいじゃない・・・よな?」
普通に食べているだけなのに、やたら周りから見られているのだ。いや、いつも見られていたことはあるが、普段の比ではないぐらい見られているのだ。
特に男子からの視線が痛すぎる。時折「死ね」とか聞こえてくるし。まぁ、女子の視線は興味本位のような感じなので、幾分ましだが。
「りん君、何かやった?」
「・・・いや、何も記憶にないけど。結衣菜は?」
「私もない・・・かな」
俺達は居心地が悪いまま食事を取り、食堂を後にする。
今日はやたら視線を集めるので、教室で残りの昼休みを過ごそうと考え、俺達は廊下を歩いていた。
すると、廊下の一画に人が集まっていた。
「・・・何かあったのかな?」
「ちょっと覗いていくか」
そこは掲示物の貼り出す場所だ。俺達も新聞部として貼り出す予定の場所でもある。
「・・・・・げ」
「どうし、んっ!?」
俺は掲示物を見て、何か喋ろうとした結衣菜の口を塞いだ。そして、その場から急いで離れようとする。
「おい、あれって」
「え?え?あの2人?」
「写真と一緒だぞ!」
「マジか!!」
そこにいた人達は俺達を見つけるとざわめき始めた。
「逃げるぞ」
「ね、ねぇ!何があったの!?」
俺は結衣菜の手を引いて走り始める。今は説明するより教室まで逃げた方がいい。幸い、追いかけてくることはなかったので助かった。
教室に戻ってきて、自分達の席につく。
「・・・俺達のことが大々的に知らされていたんだ」
「?・・・・私達のこと?」
「ああ」
「同棲とかのこと?」
「むしろそれが大々的に載ってた」
「~~~~っ」
あそこにいたら質問攻めにあっていたかもしれない。だから逃げた。
「っ!?」
ふと視線を感じて廊下の方を見てみると、他学年他クラスの生徒が俺達の方を見ていた。
「ふっ、まるで動物園のようだな」
「上北、あれはお前の仕業か?」
「いや、違う」
「お前じゃないのか」
俺はてっきり上北の仕業だと考えていたのだが。
「やろうとしたら先にやられたのだ」
「誰に」
「・・・・・・」
上北はある方向に視線を向ける。そこにいたのは。
「ごめんねぇ。思ってたより騒ぎになっちゃった。てへっ♪」
久遠先生が教壇のところで可愛く誤魔化していた。
「先生かよ!」
まさかの犯人に驚いてしまう。
「ま、まぁ、人の噂も75年って言うじゃない?」
「そんなに覚えられるのは嫌ですね」
「その前に75日の間違いだと言ったらどうなのだ?」
そういやそうだった。そんなに長かったら大抵の奴は下手したら死んでるかもだしな。
「まぁそういうことだから、再来週から始まる体育祭のことについて話そ♪ね?」
「・・・・・わかりました」
はぁ。まぁ、体育祭があるから早く忘れてくれることを祈ろう。
「はぅ・・・」
「どうしたんだ?結衣菜」
隣の席で変なため息をした結衣菜の方を見てみると、詩穗がスマホを結衣菜に見せていた。
「琳佳君も見る?掲示されたいた2人の記事なんだけど」
「・・・ああ」
ちらっとしか見ていないから、俺も見てみることにした。
『早くも結婚の兆しか!?我が学園で同棲カップル!!』
「・・・・・・・・・」
名前は隅の方に小さく書かれているだけだったが、写真は俺と結衣菜が堂々と腕を組んで歩いている姿が載っていた。いつ撮られたんだ?
「いつ撮られてもおかしくはない。俺もそのような写真は色々と使えると思い、普段から撮り貯めしている」
「いつそんなの撮ったんだよ!」
「琳佳君、いつも大抵は結衣菜ちゃんとくっついてるじゃん」
「そんなはずは・・・・」
俺はそう言いつつも考えてみる。あれ?詩穗からの指摘に何も言い返せない?
「だからいつこのような写真が撮られても不思議ではないのだ」
くっ、上北に反論したいのだが、まったくの正論なので何も言い返せない。
「それでそれで?2人は結婚するの?」
「「っ~!?」」
その言葉に俺と結衣菜はビクッと反応してしまう。結衣菜はもう顔が真っ赤だ。たぶん俺もそうだろうけど。
「そそそそそれはっ~~~」
「そ、それはまぁ、いつかはな」
「り、りん君・・・」
俺の言葉を聞いた結衣菜はぽーっとした表情で俺を見つめてきた。
「ふむ。ということは再来年、俺達が3年生となり、2人が18歳になったら結婚ということだな」
「学生結婚ってやつ!?きゃー!!」
詩穗がいつも以上にハイテンションだ。周りを見ると、女子も詩穗程ではないにしろ同じような状態になっていた。
なに?女子ってこういう話、好きなの?
逆に男子からは視線で殺すような目で俺を見てきている。
・・・・・・俺、真面な学校生活出来るのか?
「もう真面ではないだろう」
「くっ!っていうか人の思考にツッコミを入れるな!」
こんな話をしているうちに、昼休みは終わっていった。