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第38話 引っ越し

「ふぅ、あっついな」

「だねぇ」


 俺と結衣菜は汗を掻きながら、それぞれダンボールを抱えて、俺の家へと向かって歩いていた。


 結衣菜はホットパンツにショルダーネックと夏っぽい格好をしている。短めのホットパンツから生える白い太ももが眩しく見える。


 試験があったのは5月末、もう今日から6月入ったのだ。梅雨の前に少し早い夏の陽気を感じる。

 っていうか、春の体育祭って6月中旬の梅雨の時期にやるのか。蒸し暑そうだ。


 引っ越しの荷物は多少重くても、結衣菜のアパートから俺の家まではそこまで距離がないので、何とか運べる距離ではあった。


 タンスとかは俺の家にあった物を使うし、他の家具も一通りは揃っている。

 だから引っ越しといっても、小物や洋服関係しか必要な物がないのだ。

 それと、アパートの解約の方は結衣菜の母親がやってくれるそうだ。何でも大家さんと知り合いだとかなんとか。


「っしょっと。これで最後か?」

「うん。小物もこれで終わりだよ」


 俺の家に到着して、荷物を下ろす。大きなダンボール2つに小さなダンボール3つ。これが今回の結衣菜の荷物全部だ。

 元々住んでいた期間も短いし、洋服も実家から持ってきた物がほとんどということなので、少なかったのだ。


 なので、後はこの荷物を結衣菜の部屋にする元客室に持っていけばいいだけだ。


「荷物はこれで全部なのかい。結衣菜ちゃん」

「はい。これで全部です。お義父様」

「・・・・・・・・」


 それと結衣菜は将来の自分の義理の父親になる俺の親父を結婚もしていないのに、お義父様と呼ぶようになった。前と言葉の読みは変わらないが、意味合いはかなり変わってくる。親父もそれに気が付いた時は嬉しそうだったし。


「琳佳、こっちも上司と連絡取れたから、明日からいってくることになった」

「わかった。それじゃあ親父も荷造りか」

「そうだな。だからこの後も結衣菜ちゃんの方は手伝ってやってくれ」

「元からそのつもりだよ」

「ふふ、ありがと、りん君」


 結衣菜の部屋は2階にある俺の部屋の隣だ。

 俺と結衣菜はダンボールを持ってその部屋に向かう。


「タンスはこれ使っていいから」

「うん。ありがとう。そのダンボールは後で自分でしまうからそこに置いてもらっていい?」

「あいよ」


 俺が持っていた大きめのダンボール箱はタンスの近くに置いた。結衣菜の持っていた小さいダンボール箱は机の上に置いた。


 よし、あと大きいダンボールを1つを持ってくるか。


 今回2箱あった大きめのダンボール箱。その片方は洋服しか詰まっていないからまだいいのだ。しかしもう1箱の方は、本が入っているのかやたら重かったのだ。


「りん君、本当にありがとね。それ重いでしょ?」

「重いけど運べない程じゃないから大丈夫だ」


 本当はアパートから俺の家まで運ぶのも相当辛かった。

 だけど、玄関から2階まで上がれば終わりなので、何とかなりそうだ。


「これ、本、入ってるよな」

「うん。教科書とか小説とか色々入ってるよ」


 俺がダンボール箱を運びながら質問すると、小さなダンボール箱を抱えた結衣菜が後ろから付いてきて答えてくれる。


「っていうか、結衣菜、これ、持てるのか?」

「ううん。重すぎて持てなかった」

「だ、よな」

「うん。最初からりん君に運んで貰おうって考えてたし」

「・・・・・・」


 まぁ、頼ってくれるのはありがたいが、これ、もう少し分けた方がいいような気がする。


「結衣菜、ドア、開けてくれ」

「うん」


 階段を上ったところで結衣菜が先行してドアを開けてくれる。

 結衣菜がドアを押さえてくれているので、俺は部屋の中に入った。


「うおっ!?」


 だが、入ったところで、重みに耐えられなくなったダンボール箱の底が抜けてしまった。


 俺は落ちてきた本に躓いて、前に倒れてしまう。


「りん君大丈夫?っ~!?」

「あ、ああってなんだこれ?」


 起き上がろうとした時に何かを手触りの良い白い布切れを握っていたのだ。

 そして、俺の周りに色とりどりの布切れが落ちていた。

 握っていた布切れを広げてみると、三角形をしており・・・って、パンツっ!?

 ってことはそこに落ちているかなり小さい黒い布もパンツなのか?結衣菜があんなのを着るのか?


 そして、頭の上に乗っていた布を取ってみると、それはブラジャーという男には無縁のもので・・・。


「っ~!!見ないで!!」


 顔を赤くした結衣菜は急いで下着を掻き集める。


「りん君のも!!」

「俺の下着もか!?」

「違うよ!?手に持ってるやつ!!」

「だ、だよな」


 結衣菜の言葉に一瞬驚いてしまった。

 俺は結衣菜にパンツとブラジャーを返してやる。


「結衣菜、お前こんなのも着るんだな」


 俺は気になっていた黒いパンツを手に取る。広げて見ると、布面積が最低限しかないデザインをしており、更にレースで作られている。


「そ、それっダメっ!!」


 そこに結衣菜が俺に向かって突っ込んで取り上げようとしてきた。


「お、おい、危ないって!返すから!」

「か~え~し~て~」


 結衣菜は俺に馬乗りとなり、手を伸ばしてくる。


「お前達、少しうるさいぞ・・・・・・すまん。お取り込み中だったか」

「「っ!?」」


 俺達は親父の声にビクッと反応する。いつの間にか開きっぱなしのドアから親父がこちらを見ていたのだ。


 結衣菜の下着を手にした寝転がる俺と、その上に馬乗りになる結衣菜。端から見たらどう映るか。


「ち、違うんだ!親父!!」

「いや、お前達もいい年だ。何も見なかったことにしよう」

「りん君!返して!」


 立ち去ろうとしている親父を止めようとする俺を、結衣菜が下着を取り返そうとして前から抱き付くようにして止める。


「親父!!」

「りん君!!」

「琳佳、程々にな」


 親父はそのまま立ち去ってしまった。俺はすぐに結衣菜に下着を返したが、結衣菜は忘れるようにと俺に詰めよってきた。

 そして、親父に見られたかもしれないと恥ずかしがり、その場で膝を抱えて沈んでしまう。

 もう何がなんやらで混乱しているようだ。


 俺は結衣菜に一言掛けてから、親父に誤解を解きにいった。

 まぁ、親父の方はある程度最初からわかっていたようなので、すぐに片付いた。


 その報告をしようと結衣菜の方へ戻り、部屋のドアを開ける。


「・・・あ」

「り、りん君っ!?」


 結衣菜は先程集めた下着類をタンスの中にしまっている最中だった。

 結衣菜の手には畳み途中のブラジャーが握られていた。結衣菜は手にしたそれを後ろに隠した。


「わ、わりぃ!!」

「う、ううん。だ、大丈夫だから」


 親父のところに行っている間に少しは落ち着いたようだ。


「服をしまっちゃうから、その・・・」

「あ、ああ、わかった。何かあったら呼んでくれ。隣の部屋にいるから」

「う、うん」


 俺もマンガでも読んで平常心取り戻さないとな。


 取り敢えずこれで引っ越しは完了だ。

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