第37話 彼女の部屋で
結衣菜と同棲することが決まった日、結衣菜は荷造りをするために、夕飯を食べた後、帰っていった。
俺も手伝おうかと進言したが、衣服類をまとめるだけらしいので、遠慮することにした。流石に下着とかをまとめるのに俺がいるわけにはいかないからな。
そして、俺は寝る前に風呂に入ってから部屋に戻ると、少し前に結衣菜から不在着信があったことに気が付く。
夜遅い時間だが、5分と経っていないので、俺はすぐにかけ直した。
『んー、りん君?』
「ああ。悪いな、風呂に入っててさ」
『んーん、こっちこそこんな時間にごめんね』
少し眠そうな結衣菜の声は電話越しに少しドキッとする。
『明日荷物運ぶの手伝ってほしいなって』
「・・・え?もう大丈夫なの?」
帰ってから荷造りするっていうから、来週くらいに引っ越してくるのかと思ったんだが。
『うん。荷物そこまで多くないし。お母さんに電話したらアパートの方は何とかしてくれるみたいだから』
「でもいいのか?そんなに急いで」
『うん。出来るだけりん君と一緒にいたいから』
まぁ、試験の時もずっといたけどな。
『昨日もそうだったけど、今もりん君が近くにいなくて寂しいし』
「・・・わかった。なら明日連絡くれ。そしたら手伝いに行くからさ」
『ありがと。それじゃあ、お休みなさい』
「ああ、お休み」
『・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・・」
お互いにお休みと言ったのに、どちらからも電話を切ることをしない。
「・・・・・・なぁ」
『な、なに?』
「切らないのか?」
『り、りん君こそ』
お互いに何故か電話を切れない状況に陥ってしまう。
「・・・・・・・」
『・・・・・・・』
そして、しばらく無言が続く。
『・・・・・・・りん君、最後に過ごすこの部屋でりん君と一緒に寝たい』
「・・・・・・はい?」
結衣菜からまさかの言葉が聞こえてきた。
『来てくれない?本当にただ寝るだけだけら』
まさかのお誘いに戸惑うが、ここまで来たらそれぐらいの願いは叶えてやりたい。
「・・・・・・わかった。今からすぐに行くよ」
『ほ、本当に?本当にいいの?』
結衣菜が信じられないような反応を示した。声だけでも嬉しさが伝わってくる。
「ああ、なんだかんだであまり部屋に上がったことなかったしな。最後ぐらいは」
『あ、ありがとう!着替えて待ってるね』
「ああ」
俺が返事をすると、電話は切れてしまった。一応明日の服とか簡単に用意して持っていくか。
「・・・・・ん?着替えて待ってる?」
その言葉に疑問を持ったが、俺はまだ起きていた親父に一言掛けて、結衣菜のアパートへと向かった。
☆ ☆ ☆
俺は結衣菜の部屋の前にたどり着き、インターホンを押した。
だが、結衣菜は出ることはない。
俺が疑問に思っていると、結衣菜からメッセージが届いた。
『玄関開いてるから入って鍵閉めて』
そう書かれていたので、俺は「お邪魔します」と静かに声を掛けてから、部屋に入る。
言われた通りに鍵を閉めて奥に行くと、暗い部屋の中に布団が盛り上がっているのを見つける。
「い、いらっしゃい」
「お、おう」
結衣菜は敷かれている布団の上で、掛け布団から顔を出して言ってくる。
深夜に結衣菜の部屋にいることに違和感を覚える俺。視界を他にやると荷造りされたダンボールが置かれている。
「そ、その、りん君。に、似合う・・かな?」
「っ~!?」
結衣菜は身体に掛かっていた布団を取る。
結衣菜は薄手の薄ピンク色のキャミソールを着ていた。スカートの裾も短く、太ももがほぼ見えていた。少し動いたらパンツが見えてしまいそうだ。
胸の方も上半分くらい見えており、谷間がもろ見えだ。
「ね、ねえ、何か言ってよ」
「に、似合ってるというか、その・・・過激過ぎないか?」
「う、うん。わ、私も凄く恥ずかしい」
ならなんでそんなのを着ているんだよ。
俺は内心そうツッコミつつ、視線を結衣菜から外そうとする。
「・・・・・・・」
しかし、視線は結衣菜に釘付けだ。どうしても外すことが出来ない。
「りん君、み、見すぎだよ」
結衣菜は身体を隠すように身体を捩った。すると、スカートの裾が捲り上がり、黒いレースの下着が露になる。
「~っ!?」
「っ!?み、見た?」
スカートが捲り上がっていることに気が付いた結衣菜はスカートを押さえながら、赤い顔で睨んできた。
「み、見てない・・・ことはない」
「そ、そう」
俺は正直に答える。結衣菜は怒ってはいないようだが、顔は相変わらず赤いままだ。
「ほ、ほら、りん君、こっちきて」
結衣菜は身体を掛け布団で隠しながら言ってきた。
え?そんな格好の結衣菜と一緒に寝るのか?
「いやいや。そんな格好でいられたら俺の理性がやばいんだけど」
「り、りん君なら・・・その・・・大丈夫だから」
何が大丈夫かわからないが、結衣菜は本当にその格好のまま寝るらしい。
「・・・・・・・・・」
「・・・ね、ねぇ、早くこっちに来てよ」
「っ!?」
結衣菜は待ちきれなくなったのか、布団から出て、再度その姿を俺の前に晒す。
肝心な部分が隠れているとはいえ、かなり刺激的な格好で、俺は慌てて視線を逸らした。
だが、結衣菜はそんな格好なのに、おもむろに俺の腕に抱き付くようにして引っ張ってきた。柔らかい胸が直に当たり、俺は身動きが更に取れなくなる。
そして、されるがまま敷き布団の上に連れられて来られた。
「ほ、ほら」
「あ、ああ」
俺は視線を合わせないようにして、その場に座り込み、そのまま結衣菜と一緒に横になる。
1人用の敷き布団なので、結構くっつかないと、身体が布団から出てしまう。それは掛け布団も同じなので、自然と俺と結衣菜はくっつくことになる。
「せ、せまいね」
「そ、そうだ・・・なっ!?」
結衣菜は寝ながら俺の腕にまた抱き付いてきた。
さっきまでの肩と腕がピッタリとくっついている状態でも耐えるのがやっとだったのに、俺の理性は結衣菜の行動ですっ飛びそうになる。
(っていうか、こ、これ、ぶ、ブラしてないよな!?)
腕を包む柔らかい感触の中に少し硬い部分の感触も伝わってくる。すなわちそういうことなのだろう。
「ん・・・これなら安心して寝れそう」
耳元で囁くように結衣菜が言って、早くも静かに寝息をたて始める。
「・・・・・・え、マジでこのまま寝んの?」
この日、俺が寝付けたのは明け方前だった。
え?腕はもちろん結衣菜に抱き付かれたままだったぞ。
☆ ☆ ☆
翌朝、身体が重く感じて俺は目を覚ました。
ふと眠い眼を擦りながら、俺は視線を下にやると、結衣菜が俺の胸板の上に顔を置き、抱き付くようにして眠っていた。
掛け布団は横にずれ落ちており、結衣菜が俺の掛け布団の代わりをしているような状態だ。
「・・・・・・結衣菜、寝相悪いのか?」
明け方寝る前には腕に抱き付いているだけだったのに、何故こうなったかはわからない。
「・・・・・・朝から刺激が強すぎる」
結衣菜の格好は相変わらずのネグリジェのまま。胸は俺のお腹辺りに押し付けてられて、こぼれそうになっている。
男の朝の整理現象も結衣菜の下腹部に押し付けられて、このまま結衣菜の目が覚めると、いろいろとまずい。
「仕方がない。結衣菜、動かすぞ」
寝ている結衣菜に一言掛けて、ゆっくりと結衣菜を横にずらそうとする。
「ん~・・・」
「起きたか?」
横にずらしたところで、結衣菜が声を洩らした。
「・・・・・・りん君だぁ」
眠そうな目を開けて俺だと認識すると、結衣菜は幸せそうな顔をする。
「おう、おはよう」
「ん~・・・おはよーのチュー」
「んっ!?」
結衣菜は寝ぼけながら突然俺に抱き付いてキスをしてきた。俺はいきなりのことで思考が停止し、唇に意識が集中してしまう。ってまずい!また結衣菜に再びマウントを取られた!?
「んー・・・ん?」
俺がしどろもどろになっていると、目の前の結衣菜の目がぱっちりと開いて、目が合った。
結衣菜は少しだけ顔を離して、次第に赤く茹で上がるタコのような顔になる。
「なっ!?なっ!?なぁっ!?」
「ゆ、結衣菜!落ち着け!」
俺は結衣菜の肩に手をやって、顔の距離を離そうとする。
すると、キャミソールの肩紐が落ちて、結衣菜の胸が俺の目の前に・・・。
「~~っ!?!?」
「わ、わりぃ!!」
結衣菜は慌てて胸を隠して俺を睨んでくる。そして、腕を大きく振り上げる。
「りん君の・・・エッチーーー!!!」
マウントを取られたままの俺は避けることが出来ずに、結衣菜からバチンという大きな音のビンタを貰うのだった。