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第34話 放課後は皆で

「思っていたより簡単だったな」

「だねぇ」


 そう言いながらガンシューティングゲームの筐体から出てきたのは上北とはじめだ。

 俺達はファミレスで昼食を取った後、そのまま駅前のゲームセンターに遊びに来ていた。


「ねぇりん君、あれって簡単なものなの?」

「いや、それなりに難しいはずだけど」


 まだゲームセンターの空気に慣れていない結衣菜は俺の腕に掴みながら、ガンシューティングゲームの筐体を見ながら聞いてきた。


 上北はノーダメージで、はじめは2回しかダメージを受けていない状態で、それなりに難易度が高いはずのガンシューティングゲームをあっさりとクリアしてしまったのだ。


「2人共これやったことあったのか?」

「「ぜんぜん」」


 2人は同じように首を横に振りながら答える。


 マジか。それでクリアしてしまうのか。


 そして、このゲームは最後にそれぞれの敵への命中率等を出してくれている。

 そこには上北が98%、はじめが90%と普段あまり見ない高い数字が書かれている。


「やはりスコアでは負けてしまうか」

「でも、命中率では負けてるからねぇ」


 スコアはヘッドショット(普通に倒すより点数が高くなる)で点数を稼いだはじめの方が高かった。


 っていうか、2人共、上手すぎだろ。


『おお!!!』


 突然大きな歓声が聞こえてきた。


「りん君、向こうって詩穗ちゃんがやっているゲームの方じゃない?」

「・・・・・だな」


 上北とはじめはまた違うゲームの方に行ってしまったので、結衣菜と2人で人だかりの方へと向かう。


「イエイッ!!」


 ダンスゲームでスカートをふわりと舞い上げながらポーズを決めているのは詩穗だ。


 ちょうど曲が終わったところのようだ。


 スコアを見てみると、その単曲でのランキングで2位の位置に今のスコアが入ったようだ。


「よし、もう1曲」


 そして2曲目がスタートする。


 そこにはいつものようにあわあわしている詩穗の姿はなかった。


 まるでダンサーのように足だけでなく手や身体を大きく動かして踊る詩穗の姿があった。


 制服なので、回転するとスカートが舞い上がり、際どい位置まで太ももが見える。


 その度に見物客の男性から歓声が上がっていた。


「詩穗ちゃん、見えちゃいそうだよ」


 結衣菜はそんな詩穗のことをハラハラとしながら見守っている。


 俺は俺で詩穗のダンスの上手さに驚いていた。


(なんでこいつらはこんなにゲームが上手いんだ?)


 俺もゲームは好きだが、ここまでやれる自信はない。


 そして、詩穗は最後の締めに2回転をしてビシッとポーズを決めた。


 その際、スカートから少し何か白いものが見えたような気がしたが、すぐに結衣菜が詩穗のスカートを押さえた。


「ゆ、結衣菜ちゃん?」


 詩穗は結衣菜の突然の行動に驚いていた。


「詩穗ちゃん、スカートなんだから危なかったよ」

「・・・え?」


 詩穗は周りを見渡した。そこには男性の目が多数あり、そのことに気が付いた詩穗は顔を赤くする。そして、自分達の存在に気が付かれ居づらくなったのか、見物客は散っていった。


「・・・見えてた?」

「ううん。大丈夫」

「な、なら良かった」


 詩穗は頬が赤いままスコアを見てみる。そこには本日の最高スコアのところに詩穗の名前が入っていた。


「マジか」

「あ、琳佳君も見てくれてたんだ。どうだった?」

「あ、ああ、白だったんだな」

「え?」


 思考が少しフリーズしていたせいで、違う回答をしてしまった。


「じゃなくて、普通に上手かったから驚いてた」

「えへへ~、このゲームね、弟と妹達が家で家庭用のでよく遊んでるんだ。そこで私も鍛えたの」

「な、なるほど」


 それでもゲームセンターの筐体だと感覚が違うはずなんだけどな。


「結衣菜ちゃんとかは何かゲームやらないの?」

「うーん、私が出来るゲームってあるのかな?」

「結衣菜、あれとかどうだ?」

「あれ?」


 俺は可愛らしいぬいぐるみが入った筐体を指差した。まぁ、クレーンゲームだ。


「あ、これならやったことある」


 結衣菜は欲しいぬいぐるみがないか、幾つかの筐体を見て回る。


「これ・・・やってみようかな」


 結衣菜は小銭を入れて、アームを動かしていく。


 結衣菜が選んだのはストラップにも出来る小さな動物のぬいぐるみが沢山積まれた筐体だ。


 結衣菜が動かしたアームは欲しいと思われるウサギのぬいぐるみに向かって下りていく。


「・・・・・・あ」


 少し持ち上がったところで、ぽろっと落ちてしまった。


(あれは下のぬいぐるみにチェーンの部分が引っ掛かってるな)


 前からでは分かりづらいが、ストラップ用のチェーンが下にある別のぬいぐるみに引っ掛かっているのだ。


「結衣菜、俺が指示するからもう1回やってみないか?」

「うん」

「今度は俺が出すよ」

「ありがと」


 指示しておいて失敗したら嫌だからな。


 そして、もう1回チャレンジする。


「・・・・ストップ」

「え?こんなにずれてていいの?」

「あ~、なるほど。そこ狙うんだね」


 横、縦とアームを指示を受けて動かした結衣菜は疑問に思っているようだ。詩穗は俺の意図を汲んだようだ。

 結衣菜が欲しがっているウサギのぬいぐるみには、アームが届くか怪しい場所なので、初心者の結衣菜には分からないのだろう。


「たぶん行けるはず」

「本当なの?」


 結衣菜が見守る中、アームは俺の狙った場所、ウサギのぬいぐるみの下にある別の猿のぬいぐるみのチェーンに引っ掛かった。

 アームはチェーンを引っ掛けたまま上に戻ろうとする。

 猿のぬいぐるみが抜けた途端に、上に積んであったウサギや犬、猫といった別のぬいぐるみも多数転がり落ちてきた。

 ついでに猿のぬいぐるみも普通に取れてしまった。


「ほら、結衣菜」

「こ、こんなにいいの?」


 取れたのは全部で7個だ。結衣菜は両手で持ちきれそうにないので、何個か持ってやる。


「詩穗ちゃん、いる?」

「え、いいの?」

「うん。こんなに取れるなんて思ってなかったから。あ、ウサギはダメだけど」

「わかってるよ。どれにしようかな」


 女子2人でぬいぐるみを選び始める。


「あ、りん君はこれね」

「・・・・・犬?」


 結衣菜から貰ったのは黒い犬のぬいぐるみだった。


「その子りん君に似てるよね」

「似てるのか?」


 自分では分からないがそうなのだろうか?


「ちゃんとスマホに付けてね」


 結衣菜が自分のスマホにウサギのぬいぐるみを付けたのを見せながら言ってくる。


「・・・いや、男の俺がこんなの付けるのは」

「いいから。貸して」

「おい」


 結衣菜は俺の話を聞かずに俺のスマホを奪い取った。


「・・・よし、はい」

「あ、ありがとう」


 俺のスマホがやたらファンシーになってしまった。


「似合ってるよ。琳佳君」

「・・・ありがとよ」


 やたらニコニコした詩穗が俺に言ってきた。からかわれているとしか思えない。


「結衣菜ちゃん、琳佳君とあれもやったら?」

「あれ?」


 詩穗が指差したのは○リクラだ。

 結衣菜はそれが何かを理解すると、顔をものすごく輝かせた。


「やろ!りん君!あれやろ!!」

「わかったから引っ張んな」


 結衣菜は俺の腕に抱き付くようにして、俺の腕を引っ張りだした。○リクラとか写真を取るやつは、恥ずかしいからあまりやりたくはないが、結衣菜のこの顔を見たら断れない。


「私は向こうに行くね」

「あ、おい」


 詩穗はそう言い残してささっとどこかへ行ってしまった。

 そして、俺は結衣菜に引っ張られながら○リクラの筐体に入る。


「ねぇねぇ、どれがいいかな」


 結衣菜は既にお金を入れてフレームを選ぶ画面までいっていた。

 それにどれがいいかなと言いつつも指はハートマークのフレームを指している。


「・・・・・・好きなのでいいぞ」

「うん!」


 結衣菜にそう言った結果、ハート一杯の中で結衣菜が俺の頬にくっつくぐらい近くまで抱き付いた恥ずかしい写真が出来た。


 俺は取れた○リクラの写真の半分を貰った。


うん、どこかに貼るのは恥ずかしいから、引き出しの中とかに入れて取っておくことにしよう。


 結衣菜はそれを宝物のように胸に抱き、帰る時もずっと幸せそうな顔をしていた。

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