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第32話 試験

 俺は朝、目が覚めると何か温かく柔らかいものを抱き締めていた。


「・・・・・・ん?」


 俺は抱き枕とかは使っていない。


「・・・りん君、寝顔可愛いなぁ」

「・・・・・・・結衣菜?」


 俺は結衣菜の声を聞いて、昨日の出来事を思い出した。


「あ、りん君。おはよ」

「ああ、おは・・・よう」


 目を開けると、今にもキスが出来そうな距離に結衣菜の顔があった。


「好きな人に抱き締められて目覚める朝は最高だね♪」

「抱き締める・・・」


 俺は結衣菜を両手で抱き締めていた。


「わ、わりぃ」


 俺は結衣菜を解放してやる。

 だが、逆に結衣菜は俺に抱き付いてくる。


「まだ時間あるし、いちゃいちゃしてよ?」


 結衣菜の見上げるような仕草でこう言われては拒否が出来ない。


 俺は朝の男の事情と戦いながら、起きる時間まで耐えるのだった。



 ☆     ☆     ☆



 朝食は結衣菜が作ってくれることになった。


「泊まらせてくれるんだから、これぐらいはね。それに将来はこうなるんだし・・・きゃ」

「そ、そうだな」


 親父も目の前にいるのに、その話はちょっと恥ずかしい。


「お前達が幸せそうでなによりだ」


 親父も当たり前のように受け入れている。

 というより、少し懐かしんでいるようにも見える。


「親父、どうしたんだ?」


 俺は気になり、直接聞いてみることにする。


「いや、台所に立つ結衣菜ちゃんを見ていたら少し母さんのことを思い出してな」


 俺から見たら、結衣菜が台所に立っているとしか思えない。

 しかし、母親が亡くなってから、女性が台所に立つことはなかった。


 そう考えると、俺も少し懐かしいような気がした。


「琳佳、しっかりと守ってやるんだぞ」

「ああ、わかってる」


 親父は真剣な眼差しで俺に言ってくる。

 俺もそれには力強く頷いた。


「はい、簡単なもので申し訳ないけど」


 そこに結衣菜が完成した朝食を並べ始める。


「俺も手伝うよ」

「ありがと」


 そんな俺達を微笑ましそうに親父は見続けていた。



 ☆     ☆     ☆



 そして、試験当日を迎えることになる。


 試験までの日々は結衣菜とはじめに付きっきりで勉強を教えてもらった。


 結衣菜は結局、今日までアパートに掃除以外は帰らず、ずっと俺の家に、正確には俺の部屋に入り浸っていた。


 まぁ、色々と大変だったが、なんとか切り抜けた。


 後は今日から始まる試験を乗り越えるだけだ。


 カリカリとシャーペンを走らせる音と、紙が捲れる音しか鳴らない教室の中、俺はなんとか順調に空欄を埋めていく。


(結衣菜とはじめ様々だな)


 特にはじめは俺が全部を覚えられないとわかると、テストの必ず出すであろう項目に絞って、徹底的に教えてきたのだ。

 それでも普段勉強しない俺には多かったが、付きっきりで見張ってくれた結衣菜のおかげで、しっかりと頭の中に入っている。


 終わってみれば、少し難しい問題は埋めることが出来なかったが、埋めた箇所は合っている自信がある。

 いつもは不安でいっぱいだったが、今回は合っているとわかるので、心境的にも楽だ。


 そして、試験初日が終わった。


「え、今日も俺の家に来るのか?」

「うん。まだ試験も終わってないし」


 結衣菜は当然のように言った。

 確かにまだ試験は後2日ある。まぁ、1人だと勉強はやらなそうだから、ありがたいといっちゃ、ありがたい。


 だが、そろそろ1人の時間も欲しい。結衣菜と一緒に居すぎて、いろいろと溜まってきてる。


「問題あるの?」

「・・・問題ない、です」


 結衣菜の言葉に頷くしかなかった。


「完全に尻に敷かれているな」

「だねぇ」


 そんな俺の様子を上北とはじめは笑いながら見ていた。



 ☆     ☆     ☆



 そして、試験も最終日を迎え、やっと勉強地獄から抜け出せる日がやってきた。


「これで中間試験は終わりだよ♪」


 最後の試験監督は久遠先生だったので、気の抜ける可愛らしい声で、試験の終わりを告げた。


 久遠先生は最後に回収忘れがないかどうかを、ぺらぺらと高速で答案用紙を捲って確認している。


「平均点74.6点かぁ~。皆頑張ったね♪」

『・・・・・・・・・』


 ものの数秒で他人が作ったテストの採点を終え、平均点まで叩き出した久遠先生にクラスの皆で唖然としていた。


「あ、因みに満点はにのまえ君1人だけだね」

『おおぉ』


 はじめは満点か。俺達に教えている時間が長いのに、よく自分の試験勉強が出来るもんだな。


「とりあえずこのままホームルーム始めちゃうよ♪」


 久遠先生は答案用紙を伏せて、皆を見渡した。


「えぇ、皆さんは1年生なので知らないかもしれませんが、2週間後になんと!!」


 久遠先生の言い回しに、皆は何を言うのか固唾を飲み込み、久遠先生に集中する。


「私の写真集が発売します!!」

『買いますっ!!』


 クラスの大半の男子生徒が即答した。

 俺は何も言っていないが、隣の結衣菜からは白い目で見られている。


 何も言ってないのは本当だぞ。


「っていうのは冗談で」

『えぇ~』


 返事をした奴らは本当にがっかりしていた。

 って、結衣菜がまた白い目で見てきている。

 本当に何も言ってないぞ?


「本当は『春の体育祭』が開催されます!!なので、これから体育祭の出場項目を皆でざっくりと決めたいと思います!!」


 ・・・・・・まだ帰れないのか。


 俺と同じことを思った奴は肩を落としていた。

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