第31話 襲来
「・・・・・・・・・」
放課後、皆で試験勉強をした日の夜、俺は自室で一から渡された問題を解いていた。
別にやらなくても、俺が試験の時に苦労するだけだから問題は無いのだが、状況はそうはいかなくなっていた。
「りん君、ここ違ってるよ」
「マジか」
寝間着に着替えた結衣菜が、俺の向かい側で指摘をする。
何故結衣菜がここにいるかというと、俺に原因があったりする。
☆ ☆ ☆
時間は少し遡る。
皆と一緒に学校から帰り、途中で皆との道が別れ、近くに住んでいる結衣菜と2人になった。
そして、最後は俺1人になり、そのまま家に帰った。
親父はまだ帰ってきていなかったので、夕飯を作り始める。
その後、夕飯の作り途中に親父も帰って来た。
そして、出来上がったら一緒に夕飯を食べる。
こうして、いつも通りの日常を過ごしていた。
「琳佳、来週から試験だろ?ちゃんと勉強はやっているのか?」
「あ、ああ、取り敢えず今日も放課後皆で勉強してきたよ」
「ならいいが・・・。家でもちゃんとやるんだぞ」
「わかってるって」
これも中学の頃から通例のやり取りだ。
いつもならこれで会話は終わるはずだった。
「そういえば結衣菜ちゃんはこの辺りに住んでいるんだろ?」
「ああ」
「独り暮らしなんだって?」
「そうだな」
「それなら結衣菜ちゃんに勉強見てもらったらどうだ?」
「いや、流石にそれは結衣菜に悪いって」
結衣菜が来てしまったら、寝る前の楽しみであるマンガとかを読む時間がなくなってしまう。
最低でも試験が終わるまでは。
「そうか・・・」
親父はこの場では諦めたのか、会話が無くなる。
「琳佳、片付けは父さんがやっておくから、勉強をやってていいぞ」
「わかった。それじゃあそうさせてもらう」
試験前になると、親父は結構家事とかを率先してやってくれる。
俺もこれに少しは答えようと、自室で机に向かうのだが。
「・・・・・・・やっぱ面白いな」
恒例の如く、ついマンガに手を出してしまう俺。
その後も俺はマンガを読むことに没頭していると。
「てい!」
「いてっ」
突然後頭部を叩かれてしまう。
「何をすん・・・だ・・・・・」
親父かと思って振り返ると、結衣菜が変に迫力のある笑顔で後ろに立っていた。
「りん君?何を読んでいるのかな?」
「い、いや・・・その・・・世界の違いについての勉強・・・かな?」
俺の読んでいるマンガは異世界を旅する日本人のマンガなので、ある意味間違っていない。
いないけど・・・。
「没収です」
「・・・はい」
結衣菜は俺からマンガを取り上げる。
「ほら、勉強やるよ。私も一緒にやるから」
「え、い、いや、時間も遅いしいいって」
時刻は夜の9時になろうとしているところだ。
流石に今から勉強するとなると、もっと遅くなってしまう。
「大丈夫だよ。私は隣の部屋で寝るから」
「そうか。それなら問題・・・ってなんだと!?」
まさかの言葉に俺は驚いてしまう。
前回泊まりに来た時と違い、今日は親父がいるのだ。
何かあったら色々と大変だ。
「で、でも親父もいるし」
俺は親父を理由にやめさせようとするが。
「大丈夫だよ。りん君のお父様から頼まれてここにいるから」
「・・・・・・は?」
結衣菜の言葉を理解出来ずに固まってしまう。
「だから、りん君のお父様に電話で頼まれたの。試験が終わるまでの間、りん君の勉強を見てほしいって。りん君の家に泊まってもいいって」
「お、お、親父ぃぃ!!!」
俺はドアを開け、下の階にいる親父に叫んだ。
「なんだ?」
すると、親父が階段を上ってやってくる。
「結衣菜はどういうことだ!?」
「どうって・・・そりゃあお前の勉強を見てもらうのに最適だからだろ?」
「最適って・・・この家に泊まるのもいいのか!?」
「付き合ってるのなら問題はないだろ?まぁ、夜は出来る限り部屋には近付かないようにしてやるから」
「お父様ったら・・・きゃっ」
親父の少しセクハラな言葉に結衣菜はくねくねして照れ始める。
「いやいやいや!ってなんで付き合ってるの知ってんだ!?」
「結衣菜ちゃんから聞いた」
当然のように答える親父。
「言ったのか!?」
「ダメだった?」
結衣菜も何がいけないの?って顔で見上げてくる。
「だめってわけじゃないけど」
確かに秘密にすることは伝えてなかったから、強く否定ができない。
「結衣菜ちゃん。琳佳のこと頼んだよ」
「はい!お任せください」
「・・・もう好きにしてくれ」
これから暫くの間は俺に自由時間は来ないことを確信した瞬間だった。
ま、四六時中結衣菜といられるって考えて諦めるか。
「ほら、りん君。勉強始めるよ」
「琳佳、結衣菜ちゃん。勉強、頑張ってな」
「はい!ほら、りん君、返事は?」
「・・・・・・・・はい」
(やっぱり勉強だけの生活は嫌だ!!)
俺の勉強心の声虚しく、俺の勉強尽くしの生活の幕があがったのだった。
☆ ☆ ☆
「なぁ」
「なに?」
今はお互いに風呂に入った後なので、寝間着姿で勉強をしている。
「親父って結衣菜のところの電話番号ってなんで知ってたんだ?」
「なんかお母さんから聞いたみたい」
「え?結衣菜のお母さんから?」
確か結衣菜の父親の重信さんは結衣菜がここにいることを知らなかったみたいだったはずだけど。
「お母さんは私がりん君に会いに行くの賛成してくれてたから、りん君のお父様に伝えたんじゃないかな?」
「なるほどな」
思考が顔に出ていたのか、結衣菜が答えてくれる。
「ほら、りん君。また間違ってるよ」
「マジか」
そして、勉強は夜遅くまで続いた。
そして、いざ寝ようとベッドを見ると、結衣菜がちゃっかりと自分の枕を俺のベッドに置いており、一緒に寝る気が満々だった。
こんなので寝れるのかと聞いたところ。
「りん君の匂いの中なら永眠出来そう」
とのことだった。
いや、永眠って死んでるからな。
こうして結衣菜はこの日、俺と一緒に寝ることになった。
俺は別の意味で死にそうになることになる夜になりそうだ。
「ふふふ、試験終わるまでこうやって一緒に寝れるんだ」
「・・・・・・・・・」
俺、試験終わるまで持つのか?いろいろと。
そんな不安が沸き立つ夜であった。