第30話 試験勉強
放課後となり、俺達は部室へやってきた。
皆、机に勉強道具を出していく。
俺の隣には結衣菜と一が両脇に座っている。
俺の怠け癖を知っている一はすぐに俺の隣に座りやがった。
「何か分からないことあったら、私も特別に教えてあげるからね♪」
そして、何故か向かい側には久遠先生も座っている。
「あの、なんで先生が」
「なんでってここの顧問だし、音無君の成績が悪いの知っているからだけど」
「うぐ」
久遠先生に言われてはぐぅの音も出ない。
「久遠先生、りん君には私が教えますので」
「そこは大丈夫。基本的には見る専門に徹するし。でも、一応ね?」
「・・・・どういうことです?」
「あ~、わかります」
詩穗は久遠先生の隣の席で納得したように頷く。
確かに今のままでは、俺は集中するのは非常に困難なのは確かだ。
何故かと言うと、結衣菜が俺の肩にくっつく程の距離に座っているからだ。
この距離だと、甘い香りや柔らかさも伝わってきてしまい、勉強には集中出来なそうだ。
「その・・・結衣菜。くっつきたいのは俺も山々なんだが、今は勉強を」
「・・・・・・・」
「いや、その・・・」
結衣菜は至近距離で俺を見つめてくる。
「・・・・・ふふ、冗談だよ。よいしょっと、これでいい?」
「あ、ああ。ありがとう」
意外にも、結衣菜はすんなりと距離を取ってくれた。
俺が不思議そうな顔で見ていると。
「私だってりん君を困らせたくないもん。くっつきたくはあるけど、今は我慢する」
結衣菜がそう言ってきた。まぁ、これで試験勉強に集中が出来そうだ。
「りん君、まずは国語にする?それとも英語?りん君って何がやりたい?」
「一ノ瀬さん、まずは琳佳の今の実力を知らないと教えようがないよ」
右隣にいる一が言ってきた。ってこの流れは嫌な予感が。
「ほら琳佳。まずはこれをやって」
「げ」
「『げ』じゃないよ。一応試験範囲の中から作った問題だから試験勉強にもなるでしょ」
一の奴は自作した試験問題を出してきた。
問題数は少なくはあるが、内容は煮詰まれていそうだ。
「凄い・・・。これ一君が作ったの?」
「そうだよ」
「へぇ~、一君はこんなのも作れるんだ」
一の向かいに座る詩穗も感心して、一が作った問題を見る。
「あ、これは一ノ瀬さんのね」
「え、私のもあるの?」
「で、こっちは鶴野宮さんの」
「わ、私のまで・・・」
一の奴はカバンから結衣菜と詩穗の問題まで取り出した。
「流石だな、一」
上北は腕を組んで、一の様子を感心してみていると。
「はい」
「む、これは?」
「もちろん上北のだよ」
「俺はいらんぞ?音無と違って勉強は出来るからな」
確かに上北はこんな性格なのに勉強は全般的に出来る奴なのだ。
「うん。それは知ってるよ。だからこれは」
「こ、これは!?」
上北は一から貰った紙を見て叫んだ。
「どう?上北。出来そう?」
「ふ、ふふふ・・・いいだろう。やってやる!」
上北のやる気が一気に上昇した。何が書いてあったんだ?
こうして俺達は一を中心とした試験勉強会が始まった。
☆ ☆ ☆
「・・・・・・なぁ、結衣菜」
「なに?」
「これってどうやるんだ?」
「えっとね・・・これは」
「ねぇ、一君。これってこっちの式だよね?」
「それでも出来るけど、この場合はこっちの方が」
「あ、そっか」
「上北君、この理論はこっちの法則と関連するから、特殊理論と組み合わせて」
「む、そうか」
俺と結衣菜、詩穗と一、久遠先生と上北という構図で勉強は進んでいった。
ただ、上北と久遠先生の会話の内容が良く分からなかったりする。
なんか相対性理論とか難しい単語がちらちらと聞こえてくるのだが、試験勉強の範囲ではないのは確かだ。
そして、順調に何事もなく試験勉強は続いて行き。
「さて、今日はここまでね♪」
久遠先生が時計を見て、そう言った。
時計を見てみると、下校時刻に近くなっていた。
皆で片付けをして、部室を出る。
「皆、気を付けて帰ってね」
『ありがとうございました』
久遠先生はまだ仕事があるのだろう。
部室の前でお別れとなった。
「さて、俺達も帰るか」
「そうだね」
俺達5人は揃って校門を出る。
「そういえばこの5人で帰るのって始めてじゃない?」
詩穗が皆の前に出て、振り返りながら言ってきた。
「言われてみればそうだな」
誰かしらと帰ったことはあるが、5人揃っているのは確かに初めてだ。
「そういえば詩穗ちゃんは家の方大丈夫なの?こんな時間だけど」
そういえば詩穗は長女だから、家事とかしてるんだっけ。
「大丈夫だよ。試験中は勉強に励むように言われているから」
「そうだったんだね」
「・・・・・・・・」
それ、俺の親父も同じ事を言ってきたな。時間の関係上、飯だけは俺がやっているが。
「耳が痛いな。音無よ」
「・・・何がだよ」
上北が俺の肩に腕を回しながら言ってくる。
「お前も親父さんに同じ様なことをいつも言われてるだろ?それなのにお前は」
「こ、今回はちゃんと勉強するって」
「どうだかな」
中学の頃も親父は俺に勉強するようによく言ってきていた。
勉強もしてはいたが、隠れてゲームやマンガを読んでいたりもしたことがある。
上北にはそのことがばれてしまっているので、下手な誤魔化しはきかない。
「でもりん君。今回はってことは、前回はやってなかったんだね?」
「そ、それは・・・」
結衣菜が俺の目を真っ直ぐに見て聞いてくる。
俺が言い淀んでいると
「詰んだな」
「お前が余計なこと言うからだろ!」
上北が余計なこと言わなければ、ばれることはなかったのに。
「もう。りん君、ちゃんと試験勉強しなきゃダメだよ?」
「わ、わかってるって」
「あ、琳佳。これ渡すの忘れてた」
結衣菜と話していると、一がカバンからプリントを俺に渡してきた。
「なんだ?これ」
「琳佳用の試験対策問題だよ。さっきこれを作っていたんだ」
「マジで?」
「マジだよ。明日までにやっておいてね。琳佳は教えること多いから、1日1日を大事に使わないとね」
「・・・・・・・結衣菜」
「一ノ瀬さんも答えは教えないようにね。せいぜいヒントぐらいに留めておいて。じゃないと琳佳のためにならないから」
「うん。注意する」
「・・・・・・・・・」
俺が呆然としていると、肩にぽんっと手が置かれる。
「完全に逃げ道を塞がれたな」
上北のその言葉に、俺は撃沈するのだった。




