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第2話 幼馴染との再会

 まさかの他校の制服を着た女子生徒がこのクラスの担任という驚きの事実。

 クラスの皆が驚いている間に女子生徒、いや、担任の先生、天音 久遠は黒板にチョークで『久遠』と書いていく。いや、なんで名前しか書かないんだ?


「私のことは久遠先生と呼んでね」

『・・・・・・・・・・・』


 天音 久遠、改め久遠先生はウィンクをして可愛く笑った。久遠先生は髪を頭の横で結ぶサイドアップの髪型の上、制服姿なので、ちょっとした学園のアイドルみたいに見える。


「何か質問はある?」

「久遠先生、年は幾つなんだ?」

「おい!」


 隣に座っていた上北が女性には聞いてはならない質問を投げかけた。

 俺はつい上北にツッコミを入れてしまう。


「あは♪いきなり面白い質問するね。見たまんまの年齢だよ」


 見たまんま・・・。どう見ても俺達と同じか歳を盛ったとしても2~3歳年上かなってぐらいにしか見えない。特に制服を着ていることでだが。


「20歳ぐらいですかー?」


 クラスの女子からそんな声が上がる。


「まぁ、そんなところかな?」


 久遠先生はニコっと笑ってそう誤魔化した。


「他に質問は?」

「では次はスリーサイズを」

「お前いい加減にしろ!」


 俺はまた失礼な質問をしようとする上北の頭を思いっきりはたいた。


「ふふ、このクラスは当たりかな?」

「あ、すみません。つい」

「あ、いいのよ。楽しそうだから」


(た、楽しければいいのか)


 俺は怒られるかと思っていたので、拍子抜けをしてしまった。


「えっとね~。スリーサイズは上から」

「答えなくていいですから!」

「ふふ、冗談よ」


 久遠先生はまたもやニコっと笑って誤魔化す。


「でもまぁ、着痩せはするタイプってことだけは教えてあげるね」


(まさかの情報提供来た!?)


 これを聞いて何人かの男子生徒は生唾を飲んだようだ。


「他に質問はあるかな?」


 久遠先生は皆の顔を確認するように見渡す。


「では、無い様なので・・・皆の自己紹介でもやってもらおうかな」

『え~~~~』


 皆は騒ぐが、誰一人嫌そうな顔はしていない。

 まぁ、これは通過儀礼のようなものなので不満はないのだろう。

 そして、窓際の前の方から簡単な自己紹介が始まる。


(まぁ・・・普通の感じが多いかな)


 俺はそう思って、だらーっとしながら自分のクラスメイトの自己紹介に耳を傾ける。


「はい!次の人!」


 久遠先生が盛り上げるような声で次の人に声を掛ける。次の生徒は窓際の一番後ろに座っている女子生徒だ。


 ・・・・はて?何処かで見たことがあるような。


一ノ瀬いちのせ 結衣菜ゆいなです。趣味は・・・・・特にありません」


(っ!?)


 俺はその名前を聞いてビクっとして驚いてしまう。


(一ノ瀬 結衣菜だって!?)


 俺は慌ててその女子生徒の顔を見る。セミロングの黒髪で大人しそうな雰囲気を持った美少女だ。

 無表情で自己紹介をしていたが間違いない。


(あの顔は・・・間違いない。結衣菜だ)


 俺がそう確信した時、周りから


「結構可愛いな」

「クールそうな美少女だな」

「彼氏とかいんのか?」


 男子生徒からそんな声が上がる。

 たが同時に周りから不審な声も聞こえる。


「あれが冷徹女の一ノ瀬さん?」

「あのお嬢様学校に行っていた子でしょ?」

「なんであんなのがこんな学校にいるのよ」


 何人かの女子生徒がぼそぼそと呟いていた。


(結衣菜が冷徹?んなわけあるか!)


 俺は内心、陰口を叩いた女子生徒に怒りを感じた。


 そう、一ノ瀬 結衣菜は俺の隣の家に住んでいた幼馴染だ。小学4年の時に引っ越してしまい、疎遠になった。

 だが、同姓同名であの頃の面影を持つ少女が同一人物であることは間違いなかった。

 当時、結衣菜は女子しかいない小学校に通っていたので、学校は別々だったが、家が隣同士ということでよく一緒に遊んでいたのだ。


 当時の結衣菜は俺にいつもくっ付いてきて、外を駆けまわったり、お互いの家で遊んだりしていた。そして、よく笑う女の子だった。

 少しでも嫌なことがあると、よく俺に抱き付いて泣いていたりしたので、ものすごく印象に残っている。


(あの甘えん坊でよく笑う結衣菜が冷徹なわけがない。絶対何かの間違いだ)


 俺がそんな思考をしていると目の前に座っていたはじめが自己紹介が終わったところだった。


「面白い名前だね!はい、次の人!」


 久遠先生が俺の方を指差して言ってきた。


「えっと・・・音無 琳佳と言います。趣味は」

「俺と騒ぐことだろ?」

「んなわけねぇだろ!!」


 つい隣から聞こえた上北のふざけたセリフにツッコんでしまった。そして、周りからは笑い声が聞こえてくる。


「りん君?・・・・・・・・同じクラスになれたんだ」


 目を見開いてこちらを見て、嬉しそうに笑った結衣菜に、上北と騒いでいた俺はそのことに気が付くことはなかった。



 ☆     ☆     ☆



「はい、皆自己紹介ご苦労様!名前とかはなるべく早く覚えてあげてね。それじゃあ、今日は初日ってことで少し連絡したら解散だからもうちょっとだけ頑張ってね」

『はーい!』


 久遠先生はそう言って連絡事項を述べていく。クラスの皆も馴染みやすい担任で元気に返事をしている。


「ったく、お前のせいで笑われたじゃねぇか」

「これでお前のことを覚えた連中は多くなっただろ?」

「それはそうだろうけどよ」

「ならいいではないか」

「笑い者として覚えられたくはなかったわ!」


 俺は上北に小声で不満をぶつけていると、またもや上北の言動につい怒鳴ってしまう。


「はいはい、そこ!BLは今やらないで先生の話を聞いてね」

「BLじゃねぇ!!」


 久遠先生はとんでもないことを言ってきたので、つい強く否定をしてしまった。


「うんうん、元気があって結構。じゃ、連絡の続きね」


 怒鳴ったことに細かく言う先生でなかったのは救いだが、おかげさまでクラスの女子が変な期待の目で見てくる。


「俺はいつでも構わんぞ?」

「俺は嫌だわ!!」

「はい、そこ!BLは」

「もういいよ!!」


 またもや先生に対して大声を上げてしまう。それでまたもや周りから笑いが起こった。


 今日は何か俺、叫んでばっかりだな。もう疲れたわ。


 そんなこんなでホームルームも終わり、下校時間になる。


「ねぇねぇ、えっと・・・上北君と音無君って本当にBLなの?」

「んなわけないだろ」

「悲しいことにな」

「悲しくないわ!」

「あはは、あなた達面白いね」


 近くに座っていた知らないクラスの女子からすぐに先程のBLのことについて聞かれてしまった。

 ぱっと見て、ショートカットの栗色の髪をした全体的に小柄な女の子だった。なんだか小動物みたいな子だ。


「そうだよね。BLだったら面白そうだと思ったけど、ほんとだったら気持ち悪いもんね」

「・・・なら聞くなよ」


 俺は疲れてきて、げんなりとして答えた。


「ま、これから同じクラスなんだし、よろしくね。さっきも自己紹介したけど、私は鶴野宮つるのみや 詩穗しほ。普通に詩穗って呼んで」

「わかった、詩穗な。俺はって名前は知られてるか。こっちも名前で呼んでもらって構わないから」

「うん、わかった。えっと、琳佳君、よろしくね」

「あ、ああ、よろしく」


 詩穗は手を差し出してきたので、俺は戸惑いながら握手をする。小さくて可愛らしい手だな。


「俺のことも名前で呼んでもらってかま」

「上北君もよろしくね」

「・・・・だから名前で」

「よろしくね。()()()

「・・・・・・・・・ああ、よろしく」


 何故か詩穗は上北のことは名前で呼ぶのを拒否していた。まさかこいつと深く関わらない方がいいと感づいたか?そうだとしたら詩穗は凄い奴なのかもしれない。


「・・・・ねぇ」

「・・・え?」


 ざわ!!


 結衣菜が俺に話しかけてきた。それだけなのに、クラスに残っていた人達はざわついた。


「りん君・・・だよね?」

「うん、そうだけど・・・、ってやっぱり結衣菜なんだ」

「うん、久しぶり」

「ああ、久しぶり」


 俺達は再会の握手を交わす。


「知り合いだったのか?」

「ん?ああ、幼馴染だ」

「初耳だな」

「言ったことないからな。それに結衣菜とは小学4年の時に引っ越してから連絡もしていなかったし」

「・・・寂しかった」

「えっと・・・ごめん」


 いきなり寂しいと言われても、どこに引っ越したのかわからなかったので、連絡のしようがなかったのだ。

 いや、一度だけ連絡先を調べようとしたが、わからなくて諦めてしまったんだ。


「これからは一緒だね」

「そ、そうだな」


 結衣菜はにっこりと俺に向けて笑った。その笑顔はとびきり可愛くて、俺はたじろいでしまう。


「可愛すぎる」

「ってかなんであんな親しげなんだ」


 と、俺達の会話を聞き取れていなかったクラスの男子が嫉妬している一方で


「え!?一ノ瀬さんが笑った!?」

「どこが冷徹なのよ」


 クラスの女子も結衣菜の評価を改めたようだ。


「じゃあ・・・一緒に帰ろ?」

「あ、ああ、そうだな」

「ん」

『っ!?』


 結衣菜は堂々と俺の手を握ってきた。その瞬間、周りから悲鳴やら奇声やらが飛び交ってくる。


「では俺も一緒に帰るとするか」

「貴方はいらないよ」


 上北が一緒に帰ると言った途端、結衣菜の顔から笑顔が消えた。


「だが俺も一緒に音無と」

「いらないの」

「そこをなんとか」

「消えてくれない?今すぐ」

「・・・・・・わかった」


 上北は結衣菜に怖気着いたのか、一人でとぼとぼと教室から出て行ってしまった。


「上北の方は僕が何とかしておくよ」

「あ、ああ、一、頼んだぞ」

「了解」


 一は上北の後を追いかけて教室をそそくさと出て行った。


「ほら、早く帰ろ?」

「・・・わかった」


 結衣菜は二人がいなくなると、さっきの可愛い笑顔を俺に向けてくる。


「琳佳君、またね」

「あ、ああ、またな」

「一ノ瀬さんも」

「ん、また」


 結衣菜は無表情とまではいかないが、微笑を浮かべながら詩穗にはちゃんと挨拶をした。


(結衣菜に何があったんだ?なんで俺にだけは昔のように話してくれるんだ?)


 今の結衣菜の笑顔を見ていると、そのことを聞くに聞けない俺なのだった。

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