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第28話 関係

「さてと、しげちゃん」

「・・・はい」


 場所が変わって、校長室に来ている。


 校長室は奥に立派な机と椅子があり、その手前にソファーがテーブルを囲んで、3つ配置されている。

 久遠先生と重信さんは向かい合うように座り、俺と結衣菜は真ん中のソファーに一緒に座っていた。

 上北達は自習しているように言われて、教室に戻っている。


「一ノ瀬さん・・・っていうとややこしいか。今は結衣菜ちゃんって呼ばせてもらうけどいい?」


 久遠先生はそう言いながら、結衣菜に許可を貰うように顔を見る。

 結衣菜も了承の意味を込めて頷く。


「ん、ありがと。で、結衣菜ちゃんをこの御時世に政略結婚とかに使うとかありえないよ?そんなに経営厳しいの?」

「それは・・・まぁ、色々ありまして」


 久遠先生の言葉にたじたじになりながら重信さんは答えていく。

 って、この2人はどういう関係なんだ?知り合いみたいだけど。


「なぁ、結衣菜」

「ん?」

「この2人って知り合いなのか?」

「それは私も知りたいよ」


 俺は小声で結衣菜に聞くが、結衣菜も知らないようだった。


 その会話が聞こえたのか、久遠先生がこちらに話を振ってきた。


「私としげちゃんはね」

「しげちゃんはよせと言ってるだろうに」


 重信さんがぶつぶつと何か言っているが、よく聞こえない。


「なんていうのかな?ビジネスパートナー的な何かだと思ってくれればいいよ。主にしげちゃんの会社を大きくしたきっかけを作ってあげただけだけど」

「そ、そうなんですか」


 久遠先生はいったい何歳なのかわからなくなってくる。


「で、話は戻すけど、私がアプローチ掛けておいた企業との締結はやったの?」

「そ、その、あの下等な会社と締結するのは間違っていると考えてですね」

「ふーん、やってないんだね?」

「は、はい」

「だから、今こうなっていると」

「・・・・・・・・・」


 どうやら久遠先生の助言を無視した結果、重信さんの会社がやばくなっているらしい。


「あの会社は今ではしげちゃんの会社と同じぐらいの規模になってるよ?」

「それは・・・存じ上げております」

「結衣菜ちゃんを使って取引するところは確かに大きな会社だよ。でもあの会社は遠からず自滅する可能性があるよ」

「そ、そんなことは」

「あるの。後数年すればわかるよ。それよりしげちゃんの会社は・・・」


 久遠先生はノートパソコンを取り出し、何かを検索を始めた。


「・・・・・・なるほどね。悪いけど、しげちゃんの会社の機密文書も読ませてもらったけど」

「な、何をしてるのですか!」

「何って、ハッキングだけど」

「は、犯罪だぞ!!」


 さっき普通に調べただけのように見えたが、ハッキングをしてたのか。

 いや、やたらキーボードをカタカタと鳴らしているとは思っていたけど。


「悪いことには使わないからいいの。とにかく、この感じなら私が何とかしてあげるから、結衣菜ちゃんに自由を与えなさい」

「そ、それではあの会社との」

「それはやらせない。結衣菜ちゃんは私の学校の生徒なの。この学校は勉強より生徒の自由な発想を促す場所としているの。それを押し固めるなんて行為は無視出来ない」


(ん?私の学校ってなんだ?)


 俺が疑問に思っていると結衣菜が口を開いた。


「その、久遠先生って・・・もしかして校長先生?」

「一応ね。まぁ、一教師としてやっていきたいから、秘密にしてもらうと助かるかな」

「わ、わかりました」


 それでいいならいいけど、何か変な感じだ。


「しげちゃん」

「は、はい」

「私が会社の今後のために一肌脱いで上げるから、結衣菜ちゃんの許嫁は無くすこと。いい?」

「わ、わかり・・・ました」


 重信さんは最終的に久遠先生の威圧に負けて、頷くのだった。


「そうと決まれば2人は戻っても大丈夫だよ」

「わ、わかりました」

「その、ありがとうございました」


 俺と結衣菜は立ち上がりお礼を言って、校長室から出ようとする。


「音無君、屋上は誰もいないからね」

「・・・・・・・」


 俺は何も答えずに校長室を出た。



 ☆     ☆     ☆



「ねぇ、りん君。何で屋上に行くの?」

「まぁ、なんていうか久遠先生に全てお見通しだったというか」


 校長室を出る時に言われた言葉は遠回しに告白しろって言っているようなもんだ。

 俺が懸念していた許嫁の件も無くなったので、告白する障害は何も無くなった。


 そして、授業中で誰もいない屋上に到着わする。


「まぁ、わかってるとは思うけど、言わせてくれ」

「う、うん」


 何を言われるのか予想が付いているのか、結衣菜は頬を赤く染めている。


「俺は結衣菜が好きだ。俺と付き合ってほしい」

「っ!?」


 結衣菜は目をまんまるにに見開き、固まってしまう。


「俺は結衣菜がいたから、あの時俺の傍に結衣菜がいてくれたから、ここまで来れたんだと思う。もし、結衣菜がいなかったら、完全に孤独になっていたかもしれない」


 俺は学校でのいじめのことを思い出す。

 あの時は親のことも信じられなくなっていたことは、覚えている。

 結衣菜だけが、俺に共感し、共に過ごしてくれた。

 今考えてみると、それがどれだけの救いになっていたかがわかる。


「結衣菜さえ良ければ、これからも一緒に生きていきたい」

「・・・・うん・・・・・・・うん!」


 結衣菜は俺に抱き付きながら頷いてくれる。


「私も・・・私もりん君と一緒にいたい。生きていきたい」


 涙声になりながらも、結衣菜は答えてくれる。


 結衣菜が顔を上げて、目を閉じて顎を上げる。

 俺もそれに答えるように、結衣菜に近付いていく。


『・・・・・・・』


 俺は途中で強烈な視線を感じ、屋上の扉の方を見る。

 そこには何故か上北や詩穗、はじめの姿があった。

 皆は気まずそうな顔をして、こっちを見ている。

 いや、上北だけは手にデジカメを持っている。


「・・・・・・りん君?」


 結衣菜は目を閉じたままで、上北達に気がついていないのか、俺の名前を呼ぶ。


 流石に皆の前でキスをするのは恥ずかしい。

 何とかこの場を切り抜けられないかと、俺は思考を巡らさせる。


「こーら、君達は自習でしょ」

『あ』


 いつの間にか、上北達の後ろに久遠先生が立っていた。


「え?・・・み、みんな!?!?えとえと」


 久遠先生の声でようやく上北達の存在に気が付いた結衣菜。

 そして、自分がしようとしていたことを見られていたことに対して、慌て始める。


「~~~~~っ」


 最終的にいつものように俺の後ろに隠れて顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。


「ふふ、どうやら上手くいったみたいだね」


 俺達の様子を見て、久遠先生は納得している。


「えっと、久遠先生」

「なにかな?」

「重信さんは?」

「しげちゃんなら会社の方針を話したら慌ただしく帰っていったよ。もちろん結衣菜ちゃんのことは諦めてもらってね」

「そうですか」

「まぁ、泣きながらだったけど」


 何か最後に付け足したような気がしたが、よく聞こえなかった。


「ほら。まだ少し時間あるから、戻って授業やるから教室に戻るよ」


 久遠先生はその場の全員に指示を出す。

 上北達も久遠先生に続いて、屋上から出ていく。


「結衣菜、行くぞ」

「・・・・・・うん」


 まだ恥ずかしいのか、俺の背中の裾を握りしめながら頷く結衣菜。


「まぁ、その・・・これからよろしくな」

「こ、こちらこそ、よろしく・・・お願いします」


 俺達はそっと手を握り、教室に戻っていった。

 教室に入る際は手を離したが、クラスの皆には何となく悟られているような視線で、みられるのだった。


 こうして、俺と結衣菜は恋人同士になった。

 まぁ、いろいろあったが、これでまた楽しく過ごせる日常が戻ってくるのだった。

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