第26話 戸惑い2
俺は屋上から教室に戻ると、隣の席に結衣菜が先に戻っていた。
「あ・・・」
結衣菜は俺に気が付くと、頬を赤く染めて、下を向いてしまう。
(・・・何かやったか?俺)
これから結衣菜に許嫁のことを聞こうと思っていたのに、朝の時と違う雰囲気に結衣菜はなっていた。
俺はすぐにでも聞いてみるつもりだったのだが、結衣菜の様子がおかしいので、結局声を掛けられずに、午後の授業が始まってしまうのだった。
(・・・・・結衣菜の奴、どうしたんだ?)
俺は授業中に何回か結衣菜の方を見たが、その度に視線がぶつかるのだ。
まぁ、普段もそれぐらいならある。が、いつもなら微笑して授業に戻っていくのに対し、今は顔を真っ赤にして俯いてしまうのだ。
(それなら放課後でいい。いつも一緒に帰るんだからその時にでも)
俺はそう決めると、授業に集中を始めた。
☆ ☆ ☆
(ど、どうしよう)
私は授業に集中出来ずにいた。
(・・・・・・・あ)
またりん君と目が合った。
その度に私は恥ずかしくなり、下を向いてしまう。
(なんで?この前のデートの時みたいに告白すればいいだけなのに。それだけなのになんでりん君の顔を見れなくなってるの?)
私は自分で自分がわからなくなってしまう。
デートの時は流れというか、雰囲気に流された感じで、告白をしちゃったけど、本当は告白するつもりはなかった。もしかして意識していなかったから言えたのかな?
でも、いざ告白をすると決めてからは、いつもみたいにりん君を見れなくなった。
(こ、こんなんじゃ話すことも出来ないんじゃ・・・)
さっきから鼓動が煩いぐらいに鳴っている。
授業を聞いていても、全く頭に入ってこない。
(・・・・・・顔もきっと赤くなっているよね)
自分の顔は見えないが、赤くなっているのはわかる。
(りん君)
私はまた知らない間にりん君の横顔を眺め始めてしまう。
(・・・・・・っ!?)
また目が合った。りん君も私のこと気にしているのかな?そうだとしたら嬉しいけど。
(・・・少しは落ち着かないと)
私は静かに深呼吸をする。それでも鼓動は鳴りやまない。
(・・・・・・私、こんな状態でりん君に告白出来るのかな?)
収まらない鼓動は授業中ずっと続くのだった。
☆ ☆ ☆.
「それじゃあ今日はここまで。このままホームルームに入るよ。まず来週なんだけど・・・」
久遠先生が連絡事項を言っていく。
俺はそれを適当に聞き流しながら、結衣菜の方を見てみる。
すると、また目が合い、顔を真っ赤にして俯いてしまう。
(これじゃあ話なんて出来なさそうだな)
「連絡は以上!皆、気を付けて帰ってね♪」
俺はどうやって結衣菜と話をしようと考えていると、久遠先生が締めの挨拶をして、教室から出て行った。
(それじゃあ結衣菜と一緒に帰るか。話はその時にでも)
俺はそう考え、結衣菜に声を掛けようとすると。
「詩穗ちゃん」
「え?な、なに?」
「行こ」
「え?え?ちょっ、ちょっと結衣菜ちゃん!?」
結衣菜は詩穗を連れ、カバンを持って、教室を慌ただしく出て行ってしまった。
「・・・・・・・・」
「もう振られたのか?」
「まだ話しすらしてねぇよ!」
俺はいきなり失礼なことを言った上北をどついた。
「それではなんで一ノ瀬は鶴野宮と帰ったんだ?」
「知らねぇよ」
それは俺が聞きたい。
とりあえず、結衣菜に俺の家で話が出来ないかメールでも送っておくか。
俺はメールを結衣菜に送り、上北と一と一緒に帰宅した。
☆ ☆ ☆
私は結衣菜ちゃんに手を引かれて、無理矢理に近い形で一緒に帰っていた。
「ど、どうしたの?結衣菜ちゃん」
「・・・・・・しいの」
「え?」
「りん君と話すのが恥ずかしいの」
「・・・・え?」
私はその言葉を信じられなかった。だって、いつも結衣菜ちゃんは琳佳君と手を繋いだり、話したりしていたのだ。もうセットで考えてもいいぐらいにずっと一緒にいた。
「でも結衣菜ちゃん、いつも手を繋いでいたよね?」
「・・・うん」
「腕に抱き付いたりもしてたよね?」
「・・・・・・・うん」
「それでも話すのが恥ずかしいの?」
「・・・・・・・・・・・・・・うん」
結衣菜ちゃんはどんどん顔を赤くして俯いていく。
(うーん・・・これは意識し過ぎてるのかな?これじゃあ話すことも難しそう・・・。それなら)
「結衣菜ちゃん、これから私に付き合ってくれない?」
それなら私が琳佳君と話せるようにセッティングをしよう。お節介かもしれないけど、結衣菜ちゃんが困っているのなら助けてあげないと。
私はそう考えて、行動に移すのだった。
☆ ☆ ☆
「ん?」
俺は家に到着する時に、スマホがバイブでメールの受信を知らせてきた。
結衣菜からの返信かと思い、メールを開く。
「・・・・・詩穗?」
まさかの意外な人物に俺は驚いた。
内容は「これから学校近くの池の公園に急いで来て」とのことだった。
池の公園とは、貯水池のある少し広い公園だ。場所は俺の家と学校の中間ぐらいに位置する。
(急いでって・・・とりあえずカバンを置いてから向かうか)
俺は家の中にカバンを置いて、小走りで池の公園に向かう。
池の公園の入り口付近には詩穗が待っていた。
「あ、琳佳君」
「どうした?何かあったのか?」
急いでと書いてあったから、何かあったのかと思っていたのだが、特に普通な感じがする。
「えっと、とりあえずこっちに来てもらえる?」
「あ、ああ」
俺は詩穗の後ろに付いていく。
時刻は夕方になるが、公園内はまだ子供達が走り回っている。
「ほら、ここ座って」
詩穗は近くのベンチに腰を掛けながら言ってくる。
「で、話って?」
「結衣菜ちゃんのこと」
「だよな」
詩穗は今日、結衣菜に手を引かれて一緒に帰っていった。
詩穗はまだ制服を着ているので、帰宅はしていないのだろう。
それなのに、一緒にいた結衣菜の姿はない。
(・・・・・・隠れているのか?)
お昼頃から結衣菜は様子はおかしかった。
俺を避けているようにも感じたので、何かあったのかもしれない。
俺は周りを見渡してみるが、隠れられそうな場所はあまりない。
あるとすれば背後の藪か、脇にある木ぐらいだ。
「琳佳君、どうしたの?」
「いや、なんでもない」
詩穗は俺の顔を横から覗き込むように聞いてきた。
俺がキョロキョロしていたのが気になったのだろう。
「それより結衣菜がどうした?」
「う、うん。琳佳君って結衣菜ちゃんのこと好きなんでしょ?」
☆ ☆ ☆
(・・・ここに隠れているように言われたけど)
私は詩穗ちゃんに藪の裏側に隠れているように言われた。
それでここに座って待っていると、誰かがやってくる足音が聞こえてきた。
「ほら、ここに座って」
すると、詩穗ちゃんの声が聞こえてきた。
(りん君を連れてきたのかな)
私は詩穗ちゃんから詳しい話は聞いていないが、それぐらいの予想がついた。
「で、話って?」
「結衣菜ちゃんのこと」
「だよな」
りん君の声が聞こえてくると、途端に顔が熱くなってきた。
この前までりん君のことを考えていても、ここまで顔が熱くなることはなかった。
今では少しでも考えると顔が熱くなってしまう。
(うぅ~、これじゃあお父さんが来るまでに告白なんて出来ないよぉ)
私はそう考えていると、詩穗ちゃんの口からとんでもない質問が出てきた。
「う、うん。琳佳君って結衣菜ちゃんのこと好きなんでしょ?」
(っ!?)
私はりん君の言葉を聞き逃さないように、顔を藪から少し出して、後ろ姿を見つめ出した。