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第25話 戸惑い

 ゴールデンウィークが終わり、俺は結衣菜と以前と変わらずに手を繋いで登校をしていた。


「・・・・・・・・・」

「・・ん君、ねぇ、りん君!」

「え?」

「どうしたの?風邪でも引いたの?」

「いや、大丈夫だ。ちょっと考え事をな」

「・・・そうなんだ」


 どうやら俺は、結衣菜とどう接したらいいのか迷っているようだ。結衣菜は変わらずに俺に接してはくれているように思える。

 それなのに、俺はまだ告白の返事も、過去のこともわからないままだ。


「そ、その、困っていることあったら、私が相談に乗ってあげるからね?」

「あ、ああ、その時は頼む」


 俺はそのまま考え事をしながら、学校までの道程を歩いて行った。

 この時の結衣菜との会話はほとんど覚えていなかった。


 そして、無事に教室まで到着をする。


「おはよ、結衣菜ちゃん」

「詩穗ちゃん、おはよう」

「琳佳君もおはよ」

「・・・・・・・・ああ」

「あれ?どうしたの?これ」

「えっと・・・」


 何か結衣菜と詩穗が話しているのは聞こえているのだが、俺は相変わらずに結衣菜の告白と過去のことで頭がごちゃごちゃしていた。


 とりあえず俺は慣れた感覚で席には付いたが、その日の授業はまったく頭に入って来なかった。


 そして更に時間が進んで昼休み。


「・・・無・・・おい!音無!!」

「いてっ」


 いきなり頭をどつかれ、俺は何事かと思い辺りを見渡す。


「お前今日はどうしたんだ?一ノ瀬の奴も心配していたぞ」

「あ、ああ、上北か。悪い、ちょっと考え事をな」

「それは一ノ瀬から聞いた」

「そうか・・・」


 まぁ、上北も心配はしてくれているのだろう。こいつも色々と問題は起こすが根はいいやつだからな。


「今日の昼は俺に付き合え」

「どうしたんだよ。急に」

「いいから来い」

「お、おい」


 俺は上北に無理矢理に購買でパンを買わされ、屋上へと進みだした。


(・・・そういえば、結衣菜の奴、俺が気が付いた時にはいなかったな)


 昼休みはいつも近くにいる結衣菜がいないことに違和感を覚えつつ、俺は屋上へと続く扉を潜った。



 ☆     ☆     ☆



 私は詩穗ちゃんと一緒に中庭でお昼を食べようと誘いを受けて、詩穗ちゃんと中庭にやってきていた。今はベンチに腰掛けて2人でお弁当を食べている。


(りん君・・・大丈夫かな)


 今日の私はりん君の心配ばかりをしている。


(・・・・・・・この前のが原因なのかな)


 聞こえていたかは定かではないが、私はりん君に告白をした。昔から好きだったりん君は、今も昔のまんまで、優しくしてくれている。


 ただ純粋に好き。だから私はあの時、自然に告白をしたんだと思う。今やれと言われても出来ないだろう。


「結衣菜ちゃん、これ読み終わったんだ」


 詩穗ちゃんはお昼の弁当を食べながら一冊の小説を取り出した。


「・・・あ」


 それは私がこの前渡した自分が書いた小説だった。


「この恋愛小説・・・、主人公の女の子って結衣菜ちゃん自身でしょ?」

「・・・・・・・・」

「そして、この女の子が好きな男の子は琳佳君」

「・・・・・・・うん」

「これって結衣菜ちゃんが憧れていた恋物語を本にしたって感じがしたんだ。違う?」


 詩穗ちゃんには驚かされた。確かに私達を見た後にそれを読めば、その結果に辿り着くかもしれない。けど


「詩穗ちゃんの言う通りだよ。私は小学校4年の頃、いきなり転校をさせられて、挨拶も出来ないまま・・・・りん君と・・・・・・」


 私は途中から涙声になってしまう。当時の悲しみを思い出して涙が溢れてきてしまった。


「ゆ、結衣菜ちゃん、ごめんね」

「ううん、ちょっと昔のことを思い出しただけだから」

「・・・・・・・だから・・・だからこの小説が出来たんだね」


 私が書いた恋愛小説での女の子と男の子は小学校で別れた後、男の子が自分を追いかけてきてくれて、中学校からは同じ学校、クラスで青春を謳歌していく物語だ。


 そしてこれは、私がりん君としたかった青春のお話でもある。


「これ読んでて私は感動もしたし、女の子にも共感が持てたの。とってもいいお話だと思った。でも」


 詩穗ちゃんは立ち上がり、私を軽く抱きしめてきた。


「それと同時に悲しくもなったんだ。結衣菜ちゃんのことを知っていたから」


 詩穗ちゃんには完全にこの小説が私の願望を形にした物だと気が付かれてしまったようだ。


「・・・詩穗ちゃん、私ね。この前のデートの時、ちょっとだけ勇気を振り絞ってりん君に告白したの。って言っても小声だったから聞こえていたかどうかは分からないけど」

「・・・私が言ったから?」


 あのデートの時、詩穗ちゃんは別れ際に「このまま勢いで告白しちゃいなよ」と言って来ていたのだ。


「ううん、私の意志で」

「・・・そっか」


 詩穗ちゃんは私の隣に再び腰を下ろす。


「・・・・・・りん君はあの言葉が聞こえていたから今迷っているのかな?幼馴染としての一線を超えちゃったことを言ったから」

「・・・・・・それは違うと思うよ。琳佳君も結衣菜ちゃんのこと好きだと思う。だってあそこまで傍にいて、楽しんでいるんだよ?それに結衣菜ちゃんのことは守るって言っていたしね」

「私を・・・守る?」

「うん、入学式の放課後のスーパーで偶然会った時に聞いたんだ」


 りん君が私を守る?確かにいつも助けてくれることがあるけど・・・。


「そんなことを言う男の子が結衣菜ちゃんのことを好きでないはずがないよ」

「でも・・・そうだとしたらりん君はあんなに悩んでいるのかな?」

「それは・・・私にもわからないかな」


 詩穗ちゃんが言う通りなら・・・、告白が聞こえていたのなら、なんでりん君は私に何も言わないんだろう。


「もう一回結衣菜ちゃんから聞こえるように告白してみたらどうかな?琳佳君はOKすると思うよ」

「もう一度告白を・・・」


 私はデートの日の夜に来たお父さんのメールが頭によぎる。


 私はりん君が好き。こうしてお父さんを騙してこの学校に来るぐらい好き。だから、お父さんに完全にばれる前にりん君の返事を聞きたい。聞こえていなかったのならもう一度告白してみるのもいいのかもしれない。


(・・・告白、頑張ってみよう・・・かな)


 私は心の中でそう決めて詩穗ちゃんとの昼休みを過ごした。



 ☆     ☆     ☆



「一ノ瀬はお嬢様なのだろう?」

「まぁな」


 俺は上北と男2人で屋上でパンをかじっていた。


「だからお前は一ノ瀬のことが好きでも告白が出来ない」

「・・・・・・・・」


 いきなり何を言いだすんだ?


「今のお前を見ていると、小学校の時のお前を思い出すよ」

「っ!?・・・何が言いたい」


 俺は何かのスイッチが入った。あの頃の記憶は殆どが結衣菜のことで占め尽くされている。いや、学校でのことなんて思い出したくもなかったのだ。


「お前は知らないかもしれないが、俺は違う組だった。だけどな、当時からお前を見ていたんだ」

「・・・・・・・・」

「あの頃のお前は周りの人間を敵だと思っていただろ?今のお前はあの頃よりはまだマシだが、周りを信じられずにいる顔だぞ」

「・・・・・・はぁ」


 上北には何かを見透かれている気がして気が気でない。


「・・・どこまで知っているんだ?」

「俺が入手している情報は一ノ瀬がある大手のIT系企業の社長令嬢だということ。それと、これは噂なのだが、一ノ瀬には許嫁がいるということだけだ」

「そこまで調べたのか」

「ゴールデンウィークは暇だったからな」


 上北はそんなことまで知っているのか。それなら話が早い。


「そうだ。俺は結衣菜の親父さんの重信さんから釘を差されたんだよ。我が娘に手を出すな的なやつをな」

「やはりそうか」

「って言っても俺が小4の時の結衣菜と別れる直前だったけどな」

「・・・・・今はどうなのだ?」

「・・・・・・・・」


 今?今も変わるはずがないだろ。あの重信さんは自分の意見をそう簡単に曲げる人ではない。じゃなきゃ、大手の社長なんて出来るはずない。


「一ノ瀬はそのことを知っているのか?」

「・・・・は?」

「だから、一ノ瀬は自分に許嫁がいることを知っているのかって聞いたんだ」

「そりゃあ知ってるんじゃないか?」

「本人に確認はしたのか?」

「いや・・・」

「なら今日にでも確認してみるんだな。一ノ瀬がお前に告白をしたのなら知らない可能性もある」

「・・・そうだな。って、なんで告白のことを知ってやがる!!」

「図星だったのか。いやぁ、鎌をかけて言ってみたのだが・・・、まさか本当だとはな」

「お、ま、え、と、い、う、や、つ、は!!!」

「ぐっ!?お、音無!!ギブッ!!ギブだ!!!」


 俺は上北にチョークスリーパーで締め上げる。流石にこれは少し許せなかった。

 そして、これ以上やると危ないというところで解放してやる。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・少しは元気が出たようだな」

「あ?」

「いや、お前の目が戻ったと思ってな」


 確かにさっきまでと比べて気分が幾分楽になっていた。こいつ、これを狙ってたのか?


「今日の部活は休みとするから、お前は一ノ瀬と話をしてこい。それでスッキリさせてくるんだな」

「ったく、わーったよ」


 俺はそう言って腰を上げて、校舎内に戻ろうとする。


「頑張れよ」

「・・・ああ」


 背中に上北の激励が届く。


 今日の放課後、結衣菜と話をしてみよう。許嫁の話が無くなっているのであれば、俺は結衣菜といても大丈夫になるんだからな。


 俺はそう決めて教室へと戻っていった。

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