表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/109

第24話 結衣菜の過去

 私は初めてりん君に会った時のことは、はっきりと覚えている。


 私は幼稚園や保育園には通っておらず、家で両親に教育をさせられていた。


 基本的にはお母さんが教えてくれていたが、お父さんが休みの日はお父さんが教えてくれた。


 お父さんは普段、私のことを可愛がってくれていたが、教育に関しては厳しかった。


 りん君と初めて会ったのは、そのお父さんから逃げ出した時だ。


 私はその時初めて1人で家の敷地を出た。そして、当然のことながら、家を抜け出した後、すぐに迷子になった。

 途中、泣きながら歩く小さな私に何人もの人達が声を掛けるが、お父さんが怖いイメージが有り、大人の男の人を避けるように逃げだしてしまった。


 そして、夕日が辺りをオレンジ色に照らす頃。

 私は公園の片隅に座り込んで、帰り道が分からなくて1人で泣いていた。


 後日分かったことだが、実はその場所は自宅から5分ぐらいにある小さな公園だった。


 私が公園で泣いていると。


「どうした?だいじょうぶか?」

「え?」


 1人の男の子が話しかけてきた。

 だけど私は、同い年の男の子と話したことがなかったから、この時警戒をしてしまったことを覚えている。


 男の子は「だいじょうぶ?」とか「けがしたの?」と私の心配をしてくれる。

 だけど、私はただ震えるだけで、何も答えることが出来なかった。


「おかあさん!おんなのこが」

「どうしたの?琳佳」


 そこに男の子の母親らしき女性がやってくる。


「あら?あなたは結衣菜ちゃんじゃない?隣の家の」

「え?」


 この人は私のことを知っていた。たぶん隣の家だから私のことを見たことがあったのかもしれない。

 当時の私はそこまで深く考えないで、ただなんで私の名前を知っているのか不思議に思っていた。


「もうすぐ日が沈むわ。家まで連れて行ってあげるから一緒に帰りましょう?」

「で、でも」

「ほら、いこうよ」


 男の子は突然私の手を取って、立たせてくれる。

 そして男の子はにこにこと私に笑いかけてくれた。

 不思議なことに男の子の手は暖かく、とても安心ができたのだ。


 多分、私は男の子に一目惚れをしてしまったんだと思う。

 だけど、当時はそんなことはわかっていなかった。


 そして、その男の子とその母親と一緒に私を家まで連れて行ってくれたのだ。


 家に帰ると、お母さんが玄関で待っていてくれた。

 もちろん心配もされたが、すごく怒られた。

 その後、お父さんも近所を探しに行っていたらしく、帰ってきた途端私を抱きしめてきた。相当心配をしていたのだろう。


 その後はその男の子、りん君とは会わなくなった。いや、私が家から外に出なくなったから会わなくなった。


 でも、その男の子のことは私の中で気になる存在になっていた。


 初めて会った同世代の男の子。私に初めて笑いかけてくれた男の子。


(たしか・・・りんかくんっていったっけ・・・・・。りんかくん・・・りんくん)


 あの男の子の母親が名前を言っていたのを思い出し、心の中で男の子の名前を呼ぶようになった。


 それから時が経ち、私は女の子しかいないお嬢様小学校に入学した。

 私は両親としか接してこなかったからなのか、クラスでは友達を上手く作れなかった。両親にはそのことを内緒にして、学校では1人で過ごす日々を送っていた。

 そして、更に半年ほどが経った頃。


 私はあの男の子、りん君と再会することになる。


「あの・・・」

「・・・・・・・・・」


 だが、男の子は笑わなくなっていた。


 お母さんからは「お隣さんの男の子を笑わせてほしいの。結衣菜の笑顔を分けてあげて」と言われて、私はりん君の家にやってきていた。


 私が迷子になり、公園で泣いていた時にくれた笑顔はもう無く、ただ悲しそうな、寂しそうな目をしていたのだ。


 私は「次は私がりん君を笑顔にする番だ」と、子供ながらの決意をして、毎日りん君に会いにいくようになった。


 そして、りん君は次第に笑ってくれるようになった。


 私が野良犬に襲われそうになっている時も助けてくれた。

 その時のことは今でも鮮明に覚えている。

 りん君は目に涙を溜めて、震えながらも拾ってきた小さな枝を持って、私を守ろうとしてくれたのだ。

 運良く野良犬の撃退に成功したら、私達は抱き合って泣いたのも覚えている。


 私はこの時、本気でりん君を好きになったんだと思う。


 だから、小学校4年生までの間、ずっと一緒に過ごしていた。


 だけど、私はいきなり転校させられ、りん君にお別れの挨拶ですら出来ないまま、お別れをすることになってしまった。


 お父さんに会いたいと頼んだが、「これが結衣菜の道だ」と言って、りん君とは会わせてくれることはなかった。


 子供ながらの努力もしたが、たかが知れており、何もできなかった。


 私は転校した後も別の女子校に通い続けた。

 そして、中学になる頃には学校での初めての友達が何人か出来た。


 その友達が持っていた少女漫画を見せてもらって、私はあることを思い付いて、始めることになる。


 それが私小説だ。


 ノートにりん君とやりたいことをどんどん書き出して、現実で会えないのなら妄想の世界で会おうと考え、楽しむようになった。


 偶然それが中学校の国語の先生の目に止まり、何かの賞に応募し、通ってしまい書籍化してしまったという流れだ。


 その書籍化のお陰で私に個人的な資金が出るようになった。

 流石に中学生に全額を渡すことは無理だったらしいが、中学生にしては多くのお金が私に入るようになり、ある決意をする。


 それがりん君と同じ高校への受験だ。


 お父さんには絶対反対されるのは目に見えている。

 だから私は、りん君の家の電話番号を探し、りん君の父親からりん君の行く学校を突き止めた。

 それからすぐにお母さんにお願いをして、お父さんに内緒でりん君の行く高校に、祝賀峰高等学校に受験をすることにした。


 そして見事に合格をすることが出来たのだ。


 高校の入学式の日。

 数日前に引っ越しも終え、私は歩き慣れない道をおどおどしながら1人で歩いていた。

 周りには同じ高校に通う生徒が男女問わず、同じ方向に向かって歩いている。


 私は中学まで女子校だったので、初めての共学だ。


 元々友達作りも上手く出来ない程の人見知りで、異性に限ってはお父さんとりん君以外とは殆ど話したこともない。


 お父さんが怖いイメージもあったので、りん君以外の男の人は怖いというイメージが、私の中にあった。


 りん君がこの高校に入学することは、りん君のお父様に確認済みだ。


 後はどうやってりん君をこの多くの生徒の中から探すのか。


 とはいえ、男の人を避けながら探すのも難しい。


 収穫が無いまま入学式が終わり、クラス表をなんとか確認し、自分の教室に辿り着くことは出来た。


 その時、クラス表でりん君の名前を探せばよかったことに気が付き、絶望もした。


 だが、今さら戻る訳にもいかず、私は他校の制服を着た女子生徒から、適当に座っていいことを聞いて、窓際の1番後ろの目立たない位置に腰を下ろした。


 そして偶然にも、自己紹介の時にりん君と同じクラスであることがわかった。


 この時、私は人知れず、嬉し涙を流していた。


 その日の放課後、私はわいわいと友人と話しているりん君に、勇気を出して声を掛けた。



 ☆     ☆     ☆



(どうしよう!?告白しちゃった!!)


 私はりん君とのデートが終わった日、アパートにある自室に戻ると、着替えもせずに出しっぱなしにしてある布団に倒れ込んで、ごろごろして悶えていた。


「でも・・・」


 かなりの小声だったし、りん君に聞こえていたのかな?


「聞こえてたらどうしよぉ~!!」


 私はまた勢いよくごろごろし始める。


 今までやれることはやってきた。


 一緒にいられなかった時間だけ、恥ずかしいけど密着するようにして、共に同じ時間を過ごしてきた。


 一緒に登校した。

 クラスでは隣の席にした。

 一緒の部活に入った。

 一緒に宿題をした。

 りん君の家にも泊まった。

 今日はデートをした。

 聞こえていたか分からないが、告白もした。


 私は離れていた時間を取り戻すように、りん君と濃い時間を過ごしてきたつもりだ。


 いつかお父さんには学校のことは、ばれてしまうだろう。


 でも、それまではりん君と一緒に過ごしていたい。


 その時、メールを知らせる音がスマホから響く。


「りん君かな」


 私のスマホに来るメールはりん君か詩穗ちゃんのどちらかだ。


「・・・・・・・・え?」


 それはお父さんからのメール。開こうとしても指が震えて、開くことが出来なかった。


「・・・・・・・・・よし」


 私は深呼吸をして、メールを開いてみた。


 そこに書かれていた内容は「近いうちにお前のところに顔を出す」という内容だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ