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第23話 デートの終わりと過去

沢山読んで頂き、ありがとうございます。

 俺は上北とはじめを残し、イルカショーのやっているイベントエリアに戻る。

 俺が戻った時には、既にイルカショーは終わっており、人がまばらになっていた。


「師匠と呼ばせてください!」


 そんな中、先程のスタッフのお姉さん(正確にはドルフィントレーナーというらしい)が結衣菜に詰め寄って頼み込んでいた。


「何があったんだ?」

「あ!りん君!助けて!」


 結衣菜は俺を見つけると、涙目になりながら俺の後ろに隠れてきた。


「結衣菜?」

「教えてって演技!」

「えっと・・・詩穗、何があったんだ?」


 結衣菜の説明では要領を得ないので、近くにいた事の成り行きを見守っていた詩穗に聞いてみる。


「なんていうか・・・結衣菜ちゃんの才能が開花したっていうか・・・・」

「なんだそれ?」


 詩穗の説明もいまいちわからない。

 そこで、俺はスタッフのお姉さんに直接聞いてみることにする。


「すみませんがその・・・何があったんですか?」

「そのお連れ様がイルカ達に教えていない演技を成功させたもので」

「・・・・・・結衣菜、どんなサインをしたんだ?」


 教えていない芸をやらせるなんて信じられずに、結衣菜に直接聞いてみることにする。

 すると、小声で話し始めた。


「わ、私はその・・・詩穗ちゃんにハンドサインを教えていただけで・・・」

「はい?」

「そしたらね、その・・・イルカさん達がいきなり芸を始めたの」


 わけがわからなかった。ハンドサインを詩穗に教えるのはいいとして、なんでそれでイルカ達が芸をするんだ?


「因みにどんな芸をしたんだ?」

「えっと・・・その・・・尾ひれで立ったイルカに別のイルカが水鉄砲で撃って倒れるやつ・・・・」

「それってテレビとかで見るペットが撃たれふりして倒れるやつ?」

「うん」


 イルカもそんな芸が出来るのか。

 というか、水鉄砲を撃つんだな。


「た、たぶんだけど、ハンドサインのタイミングやらが色々重なって出来たんじゃない・・・かな?」


 現場を見ていた詩穗も疑問形で説明を付け足した。


「でも、そんなことあるのか?」

「そんなことあるはずはありません!私は感じました!師匠とイルカ達の心が繋がっていることを!」


 何を言い出すんだ?このお姉さんは。


「私達はイルカに倒れ芸も水鉄砲も教えてないのです。それを瞬時にやってのける凄さ!あの観客の歓声を受けても堂々とした指示っぷり!」

「それは慌ててただけ・・・」


 結衣菜は顔を真っ赤にして呟く。


「それに」

「りん君、いこ!」

「お、おい、結衣菜!?」

「あ!置いてかないでよ!」


 熱く語り始めたお姉さんを置いて、俺は結衣菜に手を引かれ走り出した。後ろからは詩穗も付いてくる。


「あ、師匠!!待って下さい!せめてさっきのサインだけでも!!」


 お姉さんが後ろで何か叫んでいるが、それに見向きもせず、俺達は厄介なことにならない内に、その場から急いで退散するのだった。


 ☆     ☆     ☆



 俺達は順路を戻り、熱帯魚エリアに来ていた。


「ここまで来れば大丈夫だろう」

「ご、ごめんね。りん君」


 俺達は追いかけてこないことを確認して、一息ついていた。すると、詩穗が話しかけてくる。


「あの~・・・私はここで帰るね」

「いいのか?」

「うん、これ以上迷惑は掛けたくないから・・・ね?」


 まぁ、結衣菜とのデートだし、3人でするのもおかしいしか。それに結衣菜と2人にしてくれるのは確かにありがたくもある。


「じゃあ琳佳君、また学校でね」

「ああ」

「結衣菜ちゃんも・・・・・・・てね」

「~~っ!?!?」

「それじゃ」


 詩穗は結衣菜の耳元で何かを言ったようだが、俺にはぜんぜん聞こえなかった。

 結衣菜は何を言われたのか、顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。


「なぁ、何を言われたんだ?」

「・・・・・・・・」


 結衣菜は俺を熱っぽい眼差しで見上げるように見てきた。

 その仕草はちょっと反則過ぎるぐらい可愛い。


(まずい。このままでは色々とまずい気がする)


 俺は結衣菜があのことを知っているかは分からないが、俺からは結衣菜に告白が出来ない事情がある。いや、してもいいかもしれないが・・・。


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」


 場所は熱帯魚エリアの巨大水槽前で、良い雰囲気は出ている。しかも、偶然にも人もまばらだ。


「ゆ、結衣菜」

「・・・な、なに?」

「その・・・・・」

「~~~っん!」


 俺はあのことを聞くか迷っていると、結衣菜が勢い良く抱き付いて来た。


「・・・・りん君、好きだよ」


 結衣菜は俺の耳元で聞こえるかどうか微妙な声量で告白をしてきた。


「・・・りん君、行こっか」

「あ、ああ」


 俺は答えるかどうか迷いながら、結衣菜に腕を組まれて、そのまま引っ張られるように熱帯魚エリアを後にするのだった。


 その後は水族館を出て、2人でぶらぶらと散歩している内に、夕方になりお開きになった。


 結衣菜の告白に答えないまま。


 因みに水族館の出口には例のドルフィントレーナーのお姉さんが待ち受けていたとかないとか。


 ・・・・・・早く忘れてくれればいいけど。



 ☆     ☆     ☆



 俺と結衣菜の出会いは幼稚園だそうだが、俺はその頃の記憶が曖昧であまり覚えていない。まぁ、隣家ということで、会っただけらしいけど。


 それに幼稚園が結衣菜とは違うことあり、殆ど会っていなかったそうだ。


 俺の記憶で覚えているのは小学校低学年ぐらいからだろうか。


 俺はあの頃、小学校でいじめを受けていた。


 理由はよく覚えていない。恐らく周りと違うことを選んだことが最初だと思う。それから徐々にエスカレートしてい、気が付いたら独りぼっちになっていた。机に落書きをされ、靴を隠されたりすることが多くなった。


 そして、元々いた友達にも無視されるようになっていった。


 それが原因で俺は心を閉ざしてしまった。

 そして、次第に登校拒否もするようになった。


 そんな俺を両親は色々と手を尽くし、頑張って治そうとしてくれていたらしいが、結果は芳しくなかったそうだ。


 逆に無理やり学校に行かそうとする両親に対しても、俺は心を開かなくなっていった。


 そんな中、隣の家に住む結衣菜だけには俺は心を閉ざしていなかった。


 俺が親に対して疑心暗鬼になり始めた頃。

 突然、結衣菜は俺の家にやってくるようになったのだ。

 俺は最初、自分が学校で置かれている事情を知らない結衣菜とは、ぽつぽつだが話すことが出来た。

 そして、次第に結衣菜とは普通に話せるようになっていき、毎日のように遊ぶようになった。


 結衣菜は当時、別のお嬢様の小学校に通っていた。だから、遊び始めはいつも夕方近くからだった。


 それでも結衣菜は帰宅すると、毎日のように俺に会いに来てくれていた。


 今考えると、結衣菜は俺の両親に言われて来ていた気がしなくもない。当時の俺が唯一心を開いた相手だったから。


 当時の俺にとっては結衣菜と過ごす時間だけが全てだったのだ。


 当時の結衣菜は俺が一方的に依存に近い形で一緒にいたため、俺との時間を楽しんでいたかはわからない。


 だが、野良犬事件があった後は、次第に結衣菜の方からも俺に甘えてくるようになった。


 時間が経つに連れ、俺はなんとか学校に通えるようになった。

 しかし、やはり遊ぶ相手は結衣菜だけだった。


 だから学校では出来るだけ1人でいるようにして、学校が終わるとすぐに家に帰っていた。


 普通に学校に通えるようになった後も、結衣菜は俺の傍にずっといてくれた。


 そして、小学4年になった頃。


 俺は結衣菜の父親である一ノ瀬 重信しげのぶさんに呼び出された。


「琳佳君、いつも娘と仲良くしてくれてありがとうな」


 重信さんは少し怖い顔をしているが、結衣菜のことを本当に可愛がっているのが、当時の俺でもわかるぐらい溺愛していた。


「だがな、結衣菜には許嫁がいるんだ。わかるかな?将来を約束した、結婚する相手がいるんだ」


 重信さんは笑って話していたが、かなりの圧力を子供の俺に向かって放っていたため、当時の俺はその言葉の意味が解らなくても、ただ頷くことしか出来なかった。


「結衣菜をそろそろ君から離そうと思う。結衣菜には結衣菜の道があるからな」

「っ!?」


 重信さんは大手のIT関連の社長をしているらしく、いいところの息子と結衣菜を結婚させると、昔から計算に入れていたらしい。

 そのことを説明してくれたが、当時の俺はあまり理解出来ずに、結衣菜と離れるという言葉に絶望していた。


 近所の子供を助ける意味で、俺と結衣菜を遊ばせていたらしいが、俺が普通に学校に通えるようになった頃を見計らい、このことを告げてきたのだ。


「今まで結衣菜と遊んでくれてありがとうな。話はそれだけだ」


 次の日、結衣菜とはお別れの挨拶も無く、突然会えなくなってしまった。


 俺は結衣菜にお礼も言っていない。別れの挨拶も出来ていない。だから俺は両親にお願いして結衣菜を探してもらったが、何一つわかることはなかった。


 ただ、俺をここまで立ち直らせてくれた結衣菜のために、前を向き続けることだけは変えない。


 俺はこの時そう決めた。


 前を向く姿勢が影響したのか、その後は仲の良い友人にも恵まれ、中学では上北やはじめといったバカが出来る友人にも巡り合えた。


 そして今、俺は結衣菜との水族館デートを終えて、自分のベッドに身体を投げ出して、結衣菜の告白について考えていた。


(結衣菜は許嫁のことを知らないのか?知らないから俺に告白をした?)


 その日からゴールデンウィークの残りの休日は、そのことをずっと考え続けるのだった。

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