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第22話 イルカショー

 俺と結衣菜はイルカショーを見に来ていただけのはずだった。

 それなのに、最後の最後でショーのお手伝いに選ばれてしまい、少し緊張しながら、スタッフのお姉さんの方へ向かった。


「ここは滑りやすいので注意してくださいね」

「は、はい」


 俺と結衣菜はスタッフのお姉さんに引き連られてプール脇に立った。結衣菜も隣でガチガチに緊張しているのが分かる。


「まずは簡単なハンドサインを教えますね」


 俺達はスタッフのお姉さんからイルカに指示を出すハンドサインを幾つか教えてもらった。ハンドサインはそこまで難しくないのですぐに覚えられそうだ。


「それではイルカを呼んでみましょうか」


 俺と結衣菜は教えてもらったハンドサインをすると、俺達の前にイルカがやってきた。


「そのまま掌を下に向けてください」


 お姉さんの言う通りにすると、イルカが水面に立つように上がってきて、俺と結衣菜の掌にタッチしてきた。その途端、会場から拍手が沸き起こる。


「わぁ・・・」


 結衣菜は自分がしたことに感動しているのか、目をうるうるとさせている。


「りん君りん君!イルカがタッチしてきたよ!」

「やっぱり頭がいいんだな」


 俺もイルカに触れるのは初めてなので、ちょっと感動していた。


(ん?なんだあれ?)


 そこで、俺は奇妙な人を発見した。

 その奇妙な人はイルカが泳ぐプールの端の方に立っていた。観客席ではない方なので、スタッフかもしれないが、全身黒い服装をしており、顔も帽子とマスクで隠している。明らかに怪しい。

 それに手にはカメラを持っている。


(スタッフか?写真でも撮ってくれてるのか?・・・いや)


 最初はスタッフかと考えたが、ここまで至ることを考えると、別の可能性が出てくる。


(なんであっさりと俺達を指名したんだ?)


 さっきは呼ばれたことに驚いていたから気にしなかったが、普通ああいう時は挙手を取るはずだ。俺達が呼ばれる前に観客を呼んだ時は小さい子供達が元気よく手を上げていたのを覚えている。それなのに今回はそれをやらなかった。


(・・・・・・上北か)


 最初にこのチケットを結衣菜に渡したのは上北だ。これは仕組まれている可能性がある。


「ねぇねぇりん君、見て見て」


 結衣菜はイルカとキャッチボールをして遊んでいた。

 観客の方も何もしない俺より、結衣菜の方に注目をして拍手を送っていた。


「あの、すみません」

「どうかしました?」

「あの方は何をしているのですか?」


 俺は奇妙な人を見ながらスタッフのお姉さんに聞いた。


「え?えっと・・・あれは」

「スタッフの1人だよ」


 答えたのは俺が聞いたスタッフとは別の人だった。ここの従業員の格好をした帽子を深く被っている小柄な女性だった。


「・・・・・・詩穗だろ」

「ななな何を?いえ、何を言ってるんどすか?」

「動揺し過ぎだ。それにどすか?ってなんだ。それにその服も大きさ合ってないだろ」

「あ、あははは・・・・・・」


 詩穗はあまりこういうことに向いていないのかもな。

 詩穗は小っちゃいからわかりやすいし、なにより服の裾とかを折り曲げて着ているなんて普通しないだろうしな。まぁ、子供に変装したら分からないかもしれないが。


「ってことはあれは上北で決定か。結衣菜」

「なに?」


 結衣菜はイルカとキャッチボールをしながら返事をしている。結構気に入ったようだ。


「そのボールを貸してくれ」

「う、うん」


 結衣菜はしょんぼりしながら、ボールを貸してくれる。そこまでしょんぼりしなくても。


 その時はまだ、カメラを構えている奇妙な人は俺らのやり取りに気が付いていないのか、カメラを構えてこちらを見ている。


「お姉さん、イルカの尾ひれでボールを打つことって出来ますか?」

「え、ええ。サインをこうすれば」

「方向は?」

「それは手を振る向きに合わせてくれます」

「なるほど・・・・・・テン!頼むぞ!」


 俺はボールをイルカのテンの遥か頭上に高く放り投げる。観客の皆もボールの行方を視線で追う。


「いけ!」


 俺はハンドサインをプールの端の方にいる奇妙な人に向けてやってみる。

 すると、イルカが大ジャンプをして宙返りをしながら、尾で宙にあるボールを叩きつけた。

 ボールはかなりの勢いで、奇妙な人の顔面に直撃をする。

 その際に帽子とマスクが外れ、上北の顔が現れた。


『おおおおぉぉぉ!!!』


 上北の顔にボールがヒットした途端、観客から歓声が上がった。


「痛そう」

「あははは!!」

「・・・大丈夫なのかしら?」


 顔面にボールが直撃したのを見た観客から色々な感想が聞こえてくる。


「~~~~っ!!痛いではないか!!」


 バレて自棄になっているのか、上北はその場でこちらに向かって叫んできた。


「か、上北君?」

「やっぱりそうだったか」

「ばれちゃったか」

「って詩穗ちゃんも!?」


 俺の隣で帽子を取り、顔を露にすると、結衣菜がかなり驚いていた。


 いや、さっき俺、詩穗って名前声に出したよな?


「お返しだ!!」

「っと」


 上北がボールを拾い、俺に向かって投げ返してきた。俺はそれを正面でキャッチする。


「テン、もう1回頼むぞ!」

「ま、待て!イルカのそれはまずいだろ!!」


 俺は上北の制止を聞かずに、先程と同じ様にボールを放り投げた。


「ひ、人の話を」


 イルカのテンも俺のサインに従い、尾ひれでボールをありえない角度とスピードで上北に向かって叩きつけた。


「ぐはぁっ!!」

「おお!テン、いいぞ!」


 上北は仰向けに倒れてぴくぴくしている。


「り、りん君、やりすぎじゃないかな?」

「あれぐらいなら大丈夫だ。それに・・・」

「っ!?」


 俺は会場を見渡すと、もう1人の容疑者を発見する。


はじめ、何を持ってるんだ?」

「い、いや、これは・・・その」


 はじめは大きなくす玉の様なものを持っていた。


「詩穗、あれは何だ?」

「あ、あれは・・・その・・・結衣菜ちゃんと琳佳君を」

「ああ、もういい。大体わかったから」


 これ以上言われるといろいろと厄介になりそうなので止めた。


「りん君、なんだったの?」

「いや、上北達が俺達を驚かせようとして仕組んだことだったみたいだ」

「そうなんだ。ありがとね。詩穗ちゃん」

「ど、どういたしまして」


 俺は何が起こっているか分からない顔で呆然とする会場の人達を見渡す。まぁ、殆どの観客は上北の生存しているかどうかを気にしているようだが。


(さて、これをどうするか)


 このまま退場するのもあれだしな・・・。


「詩穗、結衣菜と一緒に適当にやっててくれ」

「へ?」

「結衣菜も頼む。俺は少しあいつらと話をしたら戻るから」


 俺はそう言ってはじめとまだぴくぴくしている上北を見る。


「う、うん、わかった」

「え、え!?ねぇ!琳佳君!!私ハンドサインとか知らないんだけど!!」

「じゃ、頼むわ」

「ねぇ!聞いてる!」

「詩穗ちゃん、教えてあげるから」


 俺は詩穗が何か言っていることを気にせずに上北を引きずりながら、はじめと一緒にその場を後にした。まぁ、スタッフさんもいるし大丈夫だろう。



 ☆     ☆     ☆



「で、くす玉には何が入ってるんだ?」


 俺ははじめと意識が戻らない上北を連れて裏方の人気の無い場所にやってきていた。


「その・・・琳佳と一ノ瀬さんをくっつけようと」

「だよな」


 くす玉の中からは『俺と付き合ってください』という文字が書かれた幕が出てきた。こいつらは俺と結衣菜をくっつけようとしたのだろう。詩穗の言葉でほぼわかってはいたが。


「でも琳佳は一ノ瀬さんのこと好きだよね?」

「ああ、好きだな」


 俺は即答する。これは昔から変わらないこと。一時的に離れたとはいえ、また出会ってからその気持ちはより強くなった。


「じゃあ、二人は付き合ったらどうかな?一ノ瀬さんも琳佳のこと好きに見えるけど」

「だろうな」


 それも承知の上で、俺は友達以上恋人未満の道を選んでいる。


「ま、俺から告白すると結衣菜の負担になるかもしれないからな。まだ様子見だ」

「どういうこと?」

「ま、あいつの家の事情ってやつだよ。だからあまり深く突っ込まないでいてくれると助かる」

「・・・・・・・わかった。琳佳がそう言うのならこれ以上は突っ込まないでおくよ」

「ありがとな」


 俺ははじめならわかってくれると思い話したが、どうやらわかってくれたらしい。


「じゃあ俺は戻るよ」

「あ、うん。デートの邪魔してごめんね」


 俺は上北をはじめに託して戻っていった。


「・・・・・・・」


 上北は話途中で目を覚ましていたが、最後まで話に加わろうとはしなかった。

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