第21話 幼馴染との初デート 2
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俺と結衣菜はドクターフィッシュと戯れて満喫した後は、期間限定とやらのクラゲエリアに来ていた。
薄暗い中、色とりどりの照明で照らされたこの世界はとても幻想的だ。
結衣菜もそんな世界で漂うクラゲに見とれていた。
それに、手を繋いでいただけのはずが、いつの間にか結衣菜は俺の腕に自分の腕を絡ませていた。
まぁ、嬉しいんだが、やはりこれは照れてしまう。
「綺麗だね」
「あ、ああ、ただのクラゲなのにな」
「もう・・・りん君はもう少しロマンチストになってほしいかな」
「なった方がいいのか?」
俺は自分がロマンチストになるなんて想像が出来ない。
「・・・・・・・やっぱり今のりん君の方がいいかも」
結衣菜も少し間を置き、何を思ったのかすぐに訂正してきた。まぁ、なってほしいと言われても困るだけだからいいのだが。
その後も結衣菜と腕を組んだまま、順番にクラゲの水槽を見ていく。
「あ、ほら、見てみろよ。あいつら足が絡まってるぞ」
「本当だ。この後どうするんだろうね」
え~と・・・カミクラゲっていうのか。細い糸のような足が無数あるクラゲなのだが、3匹ほどその細長い足が絡まって漂っている。
「あ、切れた」
「マジか」
結衣菜がぼそっと呟いた。
俺もすぐに見てみると、1匹だけ足が千切れて離れていくところだった。大丈夫なのか?
「ねぇ、ここの説明」
「えっと・・・足が絡まった時に自ら足を切り離し、再生する時もある・・・か。トカゲの尻尾みたいなものなのか」
「クラゲってそんなふうになってるんだね」
クラゲもトカゲみたいな能力があるなんて知らなかったな。
『11時30分より、海のイベントステージにて、イルカショーを開催致します。繰り返します・・・』
その時、館内放送が響いた。どうやらイルカショーの案内放送みたいだ。
「りん君、イルカショーだって」
「海のイベントステージって言ってたな」
俺は入り口で貰っておいたパンフレットの地図を見て、時間と場所の確認をする。
「今の時間からだと・・・熱帯魚エリアを飛ばせば間に合うぞ」
「それじゃあ、イルカショーが終わったら熱帯魚エリアに戻ろうよ」
「そうするか」
「うん♪」
今日の結衣菜は本当に楽しそうだ。そう言う俺も今の状況を楽しんでいる。
結衣菜と付き合ったら、こんな毎日が待っているのだろうか。
(でも今は楽しくても、結衣菜は・・・)
「りん君、どうしたの?」
「いや、何でもない」
「それなら早く行こ?」
「そうだな」
(今はあのことを考えないでいい。今が楽しいんだから)
俺は思考を切り替えて、結衣菜と共にイルカショーを開催するイベントステージへと向かうのだった。
☆ ☆ ☆
イベントステージはゴールデンウィークということもあり、親子連れやカップル等で賑わっていた。
そんな中、俺達はなんとか端の方の席に座ることができた。
「りん君、あの子達はなんでレインコートを着ているのかな?」
結衣菜は前席の方に座る小さな子供たちを見ながら聞いてきた。結衣菜が指を差した方を見ると、子供達が透明のレインコートを着ている。中にはカップルや他のお客さんも何人か着ている人もいる。
「ああ、あれは水が来る場所なんだよ」
「え?プールの水があそこまで上がって来るの?」
「違う違う。イルカがジャンプした時に水が掛かる場所ってこと」
「あ、そういうことなんだ」
あそこまでプールの水が上がってきたらレインコートじゃ防げないだろ。
結衣菜はなんだかんだで、良いとこのお嬢様でもある。昔からこういった一般的に知っていそうなことを知らないこともあるのだ。
「なんだ?結衣菜も前の方に行きたいのか?」
「ちょっと興味はあるけど濡れるのは嫌だからいいかな」
そう言う顔は少し残念そうに見えるのは気のせいだろうか?
『それでは皆さん!お待たせしました!只今よりイルカショーを開催いたします!』
水族館のスタッフのウェットスーツを着たお姉さんが元気な声で、ショーのプール脇に出てきた。
『それでは、早速今日頑張ってくれるイルカさんの紹介しまーす!まずは男の子のテン君でーす!』
スタッフのお姉さんがそう言うといきなりプールの中央から1頭のイルカが大ジャンプで登場した。
「凄い凄い!」
「結構高くジャンプするんだな」
イルカのテン君はダイナミックな登場で観客の皆から拍手をもらっていた。
『ではもう1頭、女の子のマリちゃんでーす!』
今度はプールの観客近くのプールの端を速い速度で泳いでアピールをして登場した。
イルカのマリちゃんは前方の子供達の近くを通ることで、注目を浴びていた。
『今日はこのテン君とマリちゃんで芸をしてもらおうと思います!』
『ここからは僕もお手伝いをしようと思います。テン君とマリちゃんが芸に成功した時は大きな拍手をお願いします』
お姉さんがそう言うと、スタッフのお兄さんもお手伝いで出てきた。
『それでは最初はキャッチボールをしてもらおうと思います!』
お姉さんがそう言うと、2頭のイルカは2人のスタッフの指示に従って、位置に付いた。
こうして、イルカショーが始まった。
☆ ☆ ☆
「では協力をしてくれるのだな?」
「ええ、構いませんよ。ターゲットはあのカップルですね」
ある舞台裏では上北とスタッフの人が密談をしていた。
「上北君、何をするつもりなのかな?」
「スタッフを巻き込んでいる時点で普通ではないことは確かだね」
詩穗と一は上北がスタッフと何かを話している状況を見守っていた。
「結衣菜ちゃんと琳佳君、驚くかな?」
「驚くとは思うけど・・・」
一はこういった騒ぎは嫌いではない。だけど、今回のことはなんだか少し不安だった。それが何かが分からずにもやもやしているのだ。
「一、鶴野宮、俺達はこれの準備だ」
「はーい」
「了解」
一はもやもやしながら、上北の手伝いをするのだった。
☆ ☆ ☆
『では、最後にテン君とマリちゃんのお友達も呼んで、大ジャンプを連続でしてもらおうと思います!』
その言葉の後にイルカが4頭程プールに入ってきて、合計6頭になった。
「大ジャンプの連続ってどんなのだろうね」
「まぁ、前の席はびしょ濡れになりそうだけどな」
今回のショーで何回かジャンプの芸をしているのだが、その都度子供達はきゃあきゃあ言いながら水を被っていた。
そして、イルカ6頭による連続大ジャンプが始まった。
左右から同時に綺麗なアーチを描いて交差する姿は魅力的だ。
イルカショーを見る度に思うことなのだが、よく空中でぶつからずに交差なんて出来るよな。
そして、大ジャンプの芸が終わり、イルカショーも終わりかと思ったその時。
『皆さん、今日はありがとうございました。今から特別にお客さんにもう一度お手伝いをして頂きたいと思います!』
「まだあるみたいだね」
「そうだな」
今日のイルカショーの中で、お客さんがイルカに指示を出す芸があったのだが、最後にもう一度それをやろうってことか?
『では、そちらのカップルさんにお手伝いして頂こうと思います』
なんだ?あのスタッフさん、こっちに手を向けて言ってる気がするが。
「ねぇ、りん君。もしかしてカップルさんって私達の事じゃない?」
「え?でも俺達の他にだってカップルは・・・」
俺は周りを見渡してみる。
だが、この辺りに俺達以外のカップルに見そうな男女はいなかった。
「お、俺達ですか?」
『はい!そうですよ』
「・・・・・・・・」
俺はまさかの事態に唖然としてしまう。結衣菜も俺の隣で固まってしまっていた。