第18話 幼馴染とお泊り会
いつも読んで頂きありがとうございます。
突然なことだが、結衣菜が俺の家に泊まる事が決定した。
結衣菜は俺に夕飯を作ると言い出した時から画策してたらしく、宿題道具とお泊りセットまで用意していたのだ。
まぁ、宿題は1人ではあまりやらないので、助かるのだが。
「りん君、宿題を始めようか」
「わかったよ」
俺達は宿題を始めるために、俺の部屋に移動する。床に折り畳み式の机を設置すれば部屋で宿題は出来る。
「へぇ~、ここがりん君の部屋か~」
結衣菜は友人も少ないみたいだし、男の部屋に入るのも初めてなのだろう。珍しいものを見るように周りをきょろきょろと見渡している。
「りん君、エッチな本はどこにあるの?」
「そんなの無いよ」
「ベッドの下?」
「だから無いって」
結衣菜はベッドの下を覗き込んで探し始めた。
だが、本当にエッチな本は持っていない。
いや、実際にはあるにはあるが、パソコンの中なので、機械が苦手な結衣菜には見つけることは出来ないだろう。
「ほら、宿題やるんだろ」
俺は宿題をするために簡易の折り畳み式の机を出す。
「無いんだ~」
「なんで残念そうなの?」
「りん君の性癖とかが分かると思って」
「そんなのどうでもいいから、宿題やるぞ」
「はーい」
こうして俺達は宿題を始めた。それからはシャーペンが走る音だけが部屋の中に響き渡る。
しかし、俺は3問目で分からなくなってしまう。
(どうやるんだっけなー)
俺は視線を動かし、結衣菜の宿題を覗いてみる。
(え?もうあんなに進んでんのか)
ぱっと見た感じ、結衣菜は既に10問目ぐらいに突入をしていた。その指は今も動き続けて次々と問題を解いていく。
「どうしたの?りん君」
「いや、ちょっとな」
俺の視線に気が付き、結衣菜が首を傾げながら聞いて来る。
「わからないところあるなら教えるよ」
「あー・・・ここなんだけど」
「どれどれ」
結衣菜は俺の方に身を乗り出して問題を見てきた。近くに来るとやたら良い香りがしてくる。それにやけに密着してくるような。
「どこが分からないの?」
「えっと・・・この公式を使っても上手く解けなくて」
「ああ、これはこっちの公式を使うんだよ。ほら、こうやって」
結衣菜は丁寧に俺に解き方を教えてくれる。向こうは気にしていないのか、胸が少し俺の腕に当たっている。
「な、なるほどな」
「公式の使い分けはここを参考にするといいかも」
結衣菜は教えてくれる他にも、教科書のページをめくってポイントと書かれている部分を指差し、解き方を教えてくれる。
「こんなの書いてあるんだな」
「りん君、授業中は何してたの?これ久遠先生が教えてくれてたよ」
「数学はどうも苦手でな。いつも魂が抜けてるんだ」
「それって寝てない?」
結衣菜は俺に呆れながらも、ちゃんと宿題を教えながら、自分の宿題も進めていく。結衣菜の宿題が終わるころに、やっと俺は半分を過ぎた辺りだった。
「りん君、それはこっちの公式」
「あ、そうか」
「もう、ちゃんと覚えてよ」
「覚えてるって言われてもな」
好きなこと以外はあまり覚えるのが得意じゃないしな。
「じゃあ、何を覚えてるの?」
「結衣菜の下着の色とか」
「それは覚えないでいいです!」
俺は結衣菜と他愛のないおしゃべりをしながら宿題を進めていった。
そして、結衣菜が宿題を終えてから約1時間後、俺も無事に宿題を終えることが出来た。
「ありがとな。これで久遠先生に怒られずに済む」
「りん君・・・怒られるつもりだったんだ」
結衣菜は俺の言葉を聞いて愕然としていた。
「って、もうこんな時間か」
時計を見ると、時刻は22時近くになっていた。
「結衣菜、先に風呂入っていいぞ。シャンプーとかは」
「あ、それなら私、自分の持ってきているから大丈夫」
「そうか。俺は客室の方に布団敷いておくから」
「うん、じゃあお風呂先に頂くね」
「場所わかる?」
「うん、大丈夫」
結衣菜はお風呂セットを持って、風呂に入りに行った。
「さてと、布団出しておくか」
俺は客室にお客様用の布団を出しに行くことにした。
☆ ☆ ☆
俺は布団を客室に出した後は自室で漫画を読んでいた。
「りん君、お風呂ありがとね」
「おう」
結衣菜はお風呂から上がったばっかりなのか、少し色っぽく見えた。
パジャマも上下お揃いの白生地にピンクの花が散りばめられている可愛らしい感じだ。
「じゃあ、俺も入ってこようかな」
「あ、りん君。客室ってどこかな」
「すまん、教えるの忘れてた」
俺の隣の部屋が空き室になっており、客室として使えるようになっているのだ。
「ここだよ」
「ありがとう。じゃあ、先にベッドで寝てると思うから、お休みなさい」
「うん、お休み」
結衣菜は布団の上に座って寝る準備を始めた。
俺は風呂に入る準備をして風呂に向かった。
ん?ベッドに?
☆ ☆ ☆
「ふぅ・・・いい湯だった」
俺はいつもより短めの風呂となった。というのも、結衣菜がさっきまでここで裸になっていたことを考えると、落ち着かなくなったからだ。
「・・・・・あれ?」
俺は自室の部屋を開けると電気が付いていた。
「消したと思っていたけど・・・って、なんでここに布団が敷かれてるんだよ!」
この布団は隣の客室に俺が結衣菜のために準備した布団だ。だが、布団はもぬけの殻だった。
「・・・・・・・・・・いた」
俺のベッドの上で布団を抱きしめるようにして眠る結衣菜を発見する。
「なんでそこで寝てるんだよ」
「すー・・・すー・・・」
俺が声を掛けるが、本当に寝ているのか、結衣菜からは返事が返ってこなかった。帰ってきたのは規則正しい寝息だけだ。
(仕方ない。俺が布団で寝れば問題はないか)
俺は結衣菜にちゃんと掛け布団を掛けてやり、照明を消した。
無防備なのは信頼してくれているからだろうけど、変な気持ちになる前に寝るのが1番だ。
「おやすみ、結衣菜」
俺は自分の部屋なのに、布団で寝るという違和感を感じながら眠りに就くのだった。
☆ ☆ ☆
この日、俺は少し懐かしい夢を見た。
その夢は俺がまだ小学校低学年の頃の内容だ。
夢の中の俺は、幼い結衣菜を野良犬から助けようとしているところだった。
当時の俺は野良犬に対して恐怖を感じていたのは覚えている。
でも、いつも孤独だった俺の側にいてくれる結衣菜を守るために木の枝を手に持って、勇気を出し、大きな声を上げて威嚇をしていた。
野良犬はそんな幼い俺に牙を向いて襲ってくる。
俺は恐怖を感じ、目を閉じて木の枝を振り回した。
それが偶然にも野良犬の鼻を強打したみたいで、キャインという声を上げ、野良犬は逃げ去っていった。
その後、結衣菜は俺にしがみついてわんわんと泣き続けた。因みに俺も恐怖心からか、結衣菜を抱き締めて泣いていた。
(・・・そうだ。結衣菜はこの時から本格的に俺に甘えるようになったんだ)
いつもはある事情から俺が一方的に結衣菜に甘えていた。いや、この頃の自分は甘えているとは考えていなかったが、今となって考えてみると、結衣菜に甘えていたのだ。
そして、この事件が俺達はお互いに必要だと認識するきっかけの1つになったんだ。
そんな懐かしい思い出と別れを告げ、俺は夢から覚めていくのだった。
☆ ☆ ☆
「りん君、起きて。朝ごはん出来たよ」
「・・・ん?」
俺は目覚ましではなく、結衣菜の声で目を覚ました。
「あれ・・・・結衣菜?なんでいるんだ?」
俺は寝惚けてそんなことを聞いた。
「なんでって、昨日泊まったからだよ」
「あ~・・・そうだったな」
少しずつ意識が覚醒していく。
結衣菜は目を覚ました俺の頭上に立っており、制服にエプロンという姿で立っていた。
「・・・・・見えてるぞ」
「っ!?は、早く着替えてきてね!」
結衣菜はスカートを抑えて下のリビングの方へと下りていった。
「起きるか」
俺は着替えて、朝の支度をしてからリビングに行くと、朝食がすでに出来ていた。白いご飯に焼き魚に味噌汁に漬物と日本らしい朝食だ。
「ありがとな。結衣菜」
「ううん、私もごめんね。昨日りん君のベッドで寝ちゃったみたいで」
「いや、別に大丈夫だよ。それより、いつの間に制服なんかに着替えたんだ?制服持ってきてなかっただろ?」
「うん、朝早く起きて、一度帰ってから、学校の準備をしてここに帰ってきたの。あ、これりん君の家の鍵。勝手に借りてごめんなさい」
「そうだったんだな」
結衣菜はそう言って鍵を渡してくれた。
「それより早く食べよ」
「そうだな」
朝、自分で料理をしないで料理は出て来るのはいいものだな。
俺はそんなことを考えながら、結衣菜が作ってくれた朝食を食べた。
そして、食べ終わったら戸締りをして、結衣菜と共に学校に登校するのだった。
今日は金曜日、学校紹介フェスタとやらの最終日なのだが、自分が部活に入ったため、あまり関係はない。
恐らく、今日も上北が何かしら依頼を持ってくるのだろう。
今日も賑やかな1日になりそうだな。