第17話 幼馴染の手作り料理
「ただいま」
「お、お邪魔します」
俺は買い物を終えて、結衣菜と共に家に帰って来た。
「何緊張してんだ?前にうちに来たことあったろ」
「そ、そうなんだけど。ほら、今日は2人きりだから」
「そ、そうだな」
確かに以前来たときは、朝迎えに来てくれた時だから、親父がいたもんな。
「じゃ、じゃあ台所借りるね」
「あ、ああ、一応器具の場所とか教えておくな」
俺も一緒に台所に入り、冷蔵庫に入れておく物を入れてから、調理器具や調味料等の場所とかを教えてあげた。
「結構使いやすい位置にあるね」
結衣菜はそう言いながら、必要な調理器具を出していく。
「後、ご飯は朝のうちに予約で出来ていると思うから、これを使って」
「りん君準備がいいね」
まぁ、家事をしていれば、これぐらいはな。
「りん君は休んでていいよ。何かわからないことがあったら呼ぶから」
「そうか?何か手伝えることはないのか?」
流石に任せっきりというのも悪いので、手伝おうと進言するが。
「ううん、大丈夫。適当にテレビでも見てて」
「ならいいけど」
結衣菜は持ってきた可愛らしいエプロンを着けて、鳥モモ肉をまな板の上に出した。
献立は俺の好きな唐揚げにサラダと味噌汁を作るそうだ。
最初は味を染み込ませるのに少し時間が掛かる鳥肉の仕込みをするみたいだ。
「・・・・・・・・・」
俺は結衣菜がエプロン姿でうちの台所に立っているところを見て、なんかいいなと思ってしまっていた。
結衣菜のエプロン姿は普通に可愛いし。
「・・・・・・りん君、あまり見られると料理しづらいんだけど」
「す、すまん」
俺は大人しくリビングでテレビでも見ていることにする。
それからしばらくの間は、頭にぜんぜん入ってこないテレビを見つつ、結衣菜の方を気にしていた。
結衣菜は手際良く料理を進めていく。調理器具も俺が説明した時に必要な物は全て出していたので、問題も無さそうだ。
時折、俺の視線に気が付いて目が合う時があったが、照れ臭そうに笑って、すぐに料理に戻っていった。
そして、唐揚げを揚げる音がリビングまで響いてくる。
もう少しで完成しそうだ。俺はテーブルの上を片付け、布巾で机を拭いて準備をする。
「結衣菜、大丈夫そうか?」
「うん、大丈夫。あ、そうだ。りん君、取り皿とか出してもらってもいい?サラダも作ったから」
「了解、ドレッシングも出す?」
「ドレッシングは私が作ったから大丈夫。口に合えばいいけど」
おお、まさかドレッシングまで作るとは。かなり凝ってるな。
そして滞りなく夕食の準備が進んでいく。流石に座って待つだけでは申し訳ないので、配膳は手伝うことにした。
「美味しそうだな」
「それなら良かった。美味しく出来ていると思うから食べてみて」
「ああ、それじゃあ、いただきます」
結衣菜は俺の向かいではなく、隣に腰を下ろしている。
なので横から見つめられることになるので、少し食べづらい。
俺は早速メインである唐揚げから食べることにする。
噛むとジューシーな肉汁が出てくる。味付けも丁度いい濃さでご飯も進む。
「凄く美味しいな」
「ほんと!よかった~」
結衣菜は俺の評価を聞いてほっと息をついていた。
「ほら、結衣菜も食べなよ」
「うん、いただきます。・・・・・・うん、美味しい」
結衣菜は自分で作って満足な結果を出せたようだ。
「あ、りん君。あーん」
「・・・・え、それやるの?」
まさかの行動に俺は恥ずかしくて照れてしまう。
「うん、学校じゃ恥ずかしくて出来ないし」
「それは今も変わらないと思うけど」
結衣菜の顔も赤くなっているので、俺と同じ心境のようだ。確かにここなら誰かに見られることはないか。それなら
「ほら、早く食べて」
「そ、それじゃあ」
俺は結衣菜から唐揚げを口に運んでもらう。
うん、思っていたよりこれは恥ずかしいな。味も美味しいはずなのによくわからない。
「間接キスだね」
「っ!?ごほっ!けほっ!!」
「だ、大丈夫!?」
結衣菜の言葉に俺は噴き出しそうになってしまう。
「はい、水」
「ん・・・・。ありがとう」
俺は水を飲み一息ついてからお礼を言う。
「って、結衣菜も変な時に変なこと言うなよ」
「ごめんなさい。つい嬉しくて」
「そ、そうか」
照れながら笑うのははっきり言って反則級の可愛さだ。俺もつい許してしまう。
こうして結衣菜との夕食は至福の時間となり、ゆっくりと続いて行った。
☆ ☆ ☆
「ご馳走さま」
「お粗末様でした」
結衣菜の作ってくれた夕食は本当に美味しかった。
「洗い物は俺がやるよ」
「え、でも」
「結衣菜はご飯作ってくれたから休んでていいよ」
「それなら、お言葉に甘えようかな」
食器を下げるのは2人でやり、俺は洗い物を始めた。
「手慣れているね」
「まぁ、普段からやってるからな」
「なんか主夫みたいだよ」
「ある意味主夫ではあるのかもな」
家事は一通りやっているので俺は主夫に入ると思う。
「結衣菜は休んでてもいいよ。テレビとか見ててもいいし」
「ううん、私はテレビよりりん君見てる方が楽しいから大丈夫」
「俺を見てて楽しいのか?」
「うん」
そう言って結衣菜は俺の洗い物をしている姿を終わるまで見ているのであった。
「結衣菜、時間は大丈夫なのか?」
「一人暮らしだから門限はないから大丈夫だよ」
「それもそうか。でも遅くなりそうなら送っていくから」
時間はまだ20時過ぎぐらいだけど、女の子1人で帰らせるのはあまりよろしくない。俺は送ること前提で話を進める。
「うーん、りん君」
「なんだ」
「今日はお父様帰って来ないんだよね?」
「明後日まで出張だからな」
「そうだよね」
そして少しの間、沈黙が舞い降りる。
「あのさ、りん君は宿題やった?今日の数学の授業で出てたよね」
「・・・そんなのあったか?」
「あったよ!」
えーと・・・数学数学・・・。ああ!久遠先生がここは少し覚えづらいから復習用にって出した宿題があったな。
「あれは・・・明日学校でやる予定だ」
「宿題って家でやる物だよ?」
「そうなんだけどさ。家には誘惑が多くてな」
例えば漫画とかゲームとか。家事をやったらそれなりにいい時間になってしまうので、宿題をやる暇はあまりない。いや、やりたくないだけなんだが。
「じゃあこれから私と一緒にやらない?一応荷物は持ってきてあるんだ」
結衣菜はそう言ってトートバッグから宿題を出してきた。
「でもそれやると結構遅い時間になるけどいいのか?」
「うん、お泊りセットも持ってきてあるから大丈夫だよ」
「そうか。それなら・・・って問題大有りだ!!」
なんでお泊りすることになってるんだよ!俺達は高校生で男女だからそういうのはよくないと思う!
「え?ダメ?」
「ほ、ほら、俺達はもう高校生だし、昔みたいには」
「どうしてもダメ?」
結衣菜は上目遣いで目をうるうるさせて頼み込んできた。
「・・・・・・寝るのが別室でいいなら」
「やった!ありがと」
結衣菜の上目遣いでのお願い攻撃に俺は勝てる気がしなかった。
こうしてなぜか結衣菜は俺の家に泊まることになった。まぁ、明日は学校あるし変なことにはならないだろう。