第16話 幼馴染と買い物へ
俺は家に到着するなりすぐに着替えて、結衣菜との待ち合わせ場所に向かった。
「・・・・・・・遅いな」
待ち合わせ場所からは結衣菜の暮らすアパートが見えるので、出てくればすぐに気が付く。
だが、10分程経っても結衣菜は出てくることはなかった。
「・・・迎えに行くか」
俺は結衣菜の暮らすアパートへと出向くことにした。部屋の場所はわからないけど、表札を見ればわかるだろう。
俺はそう考え、アパートを目指した。
アパートは2階建てで少し古い感じがする。それぞれ1階と2階に5部屋ずつあり、全部で10室あった。
俺は1階から表札を見てみることにする。
って、一番道路側の1階に一ノ瀬と書いてあった。念のため、他に一ノ瀬さんがいないか調べたが、ここだけなので、結衣菜の部屋で間違いはないだろう。
俺は少し緊張しながらインターホンを押そうとして、留まった。
「・・・・・・・電話してからにするか」
俺はこの前連絡先を交換したことを思い出し、スマホで結衣菜に電話を掛ける。
「もしもし!りん君!」
またワンコールも鳴らずに取ってきた。
「結衣菜、遅いけど何かあったのか?」
「う、ううん。何もないよ。もしかしてもう待ってる?」
俺の電話より先に部屋から結衣菜の声が聞こえてくるので、声が二重に聞こえてくる。向こうは気が付いていないのか、そのまま電話を続けていた。
「少しだけな。なんなら時間をもう少し空けてからにするか?」
「もう決まったから大丈夫。今から行くから「行くから」」
最後は結衣菜が玄関の扉を少し開けながら話したので、声が二重に完全に重なった。どうやら扉の隙間から待ち合わせ場所を見ようとしたようだ。
「・・・・・えっと」
「・・・・・・へ!?」
結衣菜は俺を見るなり固まってしまった。そりゃあ電話をしている相手がまさかこんなに近くにいるとは思わないだろう。
「りりりりん君!?」
「来ちゃ・・・まずかったみたいだな」
俺はそっと視線を逸らす。扉の隙間から見えたのは、結衣菜の可愛らしい薄水色の下着姿だったからだ。一瞬とは言え俺はその姿を見てしまい、瞼にその姿が焼き付いてしまった。
「そ、そんなことはないよ!」
「そういってもらうのは嬉しいけど・・・・自分の姿を見てからにしてくれ」
「え・・・・・~~~っ!?!?」
バタンッ!!!
大きな音を発てて玄関がしまった。結衣菜は恐らく着る服に迷っていたんだろう。じゃなきゃ、部屋の中で下着姿でうろつくはずがない。
「み、見た?」
扉越しに結衣菜の声が聞こえてくる。
「・・・・少しだけ」
「うぅ・・・」
少し重い沈黙が走った。
しばらくして、また玄関の扉が開いた。
「お見苦しい物をお見せしました」
結衣菜は白色の膝下まであるスカートに上は薄いピンクのブラウスという姿だった。普通に可愛い。そして、肩にトートバッグをぶら下げていた
なんだかお嬢様みたいだ。いや、結衣菜は一応お嬢様の部類に入るんだけど。父親が何かの社長やってるって聞いたことあるし。
「気にしないから大丈夫だよ」
「・・・少しは気にしてほしいな」
「何か言った?」
「な、何でもない。それより早く行こ!」
結衣菜は恥ずかしいからなのか、俺の手を取り、足早に歩きだした。
そこで俺はある物を結衣菜のスカートに発見する。
「結衣菜、そのスカート裏表逆じゃないか?ラベルが外側にあるぞ」
「・・・・・・・・着替えてきてもいい?」
「ああ、待ってるからゆっくり着替えてきていいぞ」
「・・・・ありがとう」
結衣菜は顔を真っ赤にして部屋の中に引き返して行った。
☆ ☆ ☆
「うぅ・・・今日はなんか恥ずかしいところばっかり見られてるよ」
「あははは・・・」
今俺達は近くのスーパーに買い物に来ていた。ここは以前、詩穗と会った場所でもある。
「りん君は今日何が食べたい?」
「安く売っているもので決めようと思ってたから特には」
「ん~、だったら唐揚げでも作ろっか。りん君好きでしょ?」
「好きだな」
「それじゃあ、唐揚げにしよっか」
結衣菜はそう言って鶏肉の売っているエリアに向かう。
「付け合わせにサラダを・・・」
結衣菜はぶつぶつ言いながら献立を考えているようだ。
「あれ?琳佳君と結衣菜ちゃん」
「お、詩穗、買い物か?」
「買い物以外でここには来ないと思うよ」
確かにスーパーに買い物以外では来ないか。
「詩穗ちゃんは何を作るの?」
「私の家は」
「ねーちゃん!このお菓子買って!」
そこに小学低学年ぐらいの男の子がお菓子を手にやって来た。
「あ、この前の」
「う、うん、私の一番下の弟で翔っていうの。翔、挨拶は?」
「こんばんわ」
「おう」「こんばんわ」
俺と結衣菜は詩穗の弟の翔に挨拶をする。
翔っていうのか、元気な感じで男の子って感じの子だ。この子は確か詩穗の家に荷物持ちを手伝った時に、詩穗のスカートを捲り上げた男の子だ。
「あ、にーちゃんはねーちゃんの彼氏の!」
「か、彼氏じゃありません!」
「え?でもこの前ウチに来てたよ」
「あれは荷物を持つのを手伝ってくれただけで」
「にーちゃん、今日はネコじゃなくイヌなんだよ」
「しょ、翔!!」
「犬?」
俺はいきなりのことで意味が分からなかった。詩穗は翔の口を塞いで顔を真っ赤にしている。
「りん君、あまり考えないであげた方がいいよ」
「ああ・・・うん。そうだな」
詩穗の真っ赤な顔を見て、何のことかわかってしまった。結衣菜の言葉もヒントの1つになってしまっている。
「それより2人で買い物って同棲でも始めたの?よかったね、結衣菜ちゃん」
「どどどど同棲!?」
「いや、普通に今日の飯を作ってくれるってだけだから」
「へぇ~、そうなんだ」
詩穗は少しにやにやしながら結衣菜の方を見た。
「な、何?」
「いや、嬉しそうだなぁって思って」
「それはその・・・嬉しいけど」
結衣菜はささっと俺の後ろに隠れる。
「ほんっとうに結衣菜ちゃんは可愛いね」
「うぅ・・・」
俺からすれば2人とも可愛いのだが・・・。それを口にすることはやめておいた。
「にーちゃん、2人はどうしたんだ?」
翔は結衣菜と詩穗の様子を見て、訳の分からない顔をしていた。
「まぁ、その内わかるようになると思うぞ」
「んん?そうなのか」
翔は最後まで訳の分からない顔をしていたが、ちゃっかりと持ってきたお菓子を買い物かごに入れているのであった。
☆ ☆ ☆
「それじゃあまた明日ね」
「おう、またな」
「またね」
俺達は買い物を終え、スーパーを出てから別れた。詩穗は翔と手を繋いで帰って行った。仲の良い姉弟のようだ。
「それじゃあ私達も行こ?」
「だな」
俺達も手を繋いで帰ることにした。いや、結衣菜が手を握ってきたと言った方が正しいか。
それにしても結衣菜の手料理か。すごく楽しみだ。
俺は親父の出張に感謝しながら家に帰るのだった。