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第15話 部活初日 2

 俺と上北、はじめは裸足になり、3方向から追い込むように位置に付く。


 もうすぐ5月とはいえ、川の水は冷たく、足の感覚が冷えて無くなってくる。


「音無、そっちに行ったぞ」

「わかってるよ」


 メダカは俺達から逃れようとあちこちへ泳いで逃げている。でも、少しずつではあるが、メダカの逃げる範囲は狭くなってきている。


 俺も出来るだけ脇を通さないように注意しながら慎重に追い込んでいく。


 そして


「今だ!」

「「えい!」」


 上北の合図で陸地の方で構えていた結衣菜と詩穗は網で掬いに掛かった。


「と、取れました!」

「琳佳君!バケツバケツ!」

「お、おう!」


 俺は先に水を入れておいたバケツを近くに持っていく。

 結衣菜と詩穗はそれぞれの網からメダカをバケツの中に入れていく。


「何匹取れた?」

「えっと・・・・・・9匹かな」


 結衣菜が今取れたメダカの数を教えてくれた。

 9匹か。そういえばどれぐらい必要なんだろう。


「上北、何匹ぐらい必要なんだ?」

「最低でも20は欲しいと言っていたな」

「じゃあ何回か繰り返して、このまま追い込み漁するか」


 その後も何回か追い込み漁方式で俺達はメダカを捕まえていった。

 5回ほど繰り返したところで、数が27匹になった。


「そろそろいいんじゃないか?」

「そうだな。これぐらい取れれば依頼達成だろう」


 よし。これでメダカ捕獲は終わりだ。後はこいつを持って学校に戻るだけだ。


「ねぇ、りん君」

「なんだ?」


 結衣菜の方を振り向くと、タオルを持って待っていてくれた。


「お、ありがとな」

「うん」


 俺は川から上がり岩に腰掛けて、結衣菜からタオルを受け取るため手を差し出す。


「・・・・・ん?」


 なかなかタオルを渡してくれないと思って結衣菜の方を見ると、いつの間にか結衣菜は俺の前にしゃがみこんでいた。


「拭くね」

「お、おう」


 結衣菜が俺の足をタオルで拭き始めた。

 うん、結衣菜の手が冷えた足を温めてくれる感じがして心地がいい。


「足上げて」


 いつの間にか俺の靴下も持っており、穿かせてくれる。

 そして、靴が履きやすいように近くに持ってきてくれた。


「なんていうか・・・ありがとな」


 俺がお礼を言うと結衣菜は笑顔を返してくれた。


「おーい!いちゃついてないで学校へ戻るぞー!」


 上北達も準備が終わったようで、俺の準備を待っていてくれたようだ。


「いちゃついてなんか!!・・・・・いたな」

「りん君、行こ?」

「だな」


 俺は自然と結衣菜の手を取り、歩き始めた。

 結衣菜は俺から手を繋いできたことに目を見開いて驚いていたが、すぐに笑顔になってくれた。


 そういや、俺から繋いだことはなかったな。


「もう、上北君。ああいうのはそっとしてあげるんものだよ」

「だが、あれではいつまでも帰れないだろう」

「だから、書置きを残すとか」

「俺は紙なんて持ってないぞ」

「あ、そっか。メダカを捕るのに紙とか必要ないもんね」


 俺と結衣菜の前を歩く詩穗と上北はなんだかんだで、良い話し相手のようだ。


「紙と筆記用具は僕が持ってるよ」

「どこから出した!?」「どこから出したの!?」


 いつの間にか、はじめが手にルーズリーフとペンを持っていた。


 いや、本当にどこから出したんだ?


「皆楽しそうだね」

「そうだな」

「りん君は楽しかった?」

「まぁ・・・久々に川に来たから新鮮ではあったな」

「ふふ、私もそうだよ。ほら、私のお父さんってこういうの厳しかったから」

「ああ~、確かに結衣菜の親父さんは教育に煩かったな」


 今思うと、そんな父親が、結衣菜にこんなふざけた学校に通わせてくれて、しかも一人暮らしをさせてくれるなんて意外だな。


「まぁね。でも今はりん君といれて私は幸せだよ」

「俺といるだけで幸せって」

「だってそうなんだもん♪」

「・・・・・・・・・」


 その時の結衣菜の顔は良い笑顔だったが、俺はその言葉を聞いて、少し複雑な気持ちになるのだった。



 ☆     ☆     ☆



 俺達は学校に戻ると、直接メダカ愛そうの会とやらにメダカを届けに行った。


「失礼する。ここの会長はおられるか?」


 上北が代表して、部室内にいる生徒に話しかけた。


「おお!君は昼休みの!」

「貴方が要求したメダカを取ってきたぞ」

「本当かい!」


 会長らしき人は俺達が持っていたバケツを受け取り中身を見た。


「おお!ありがとう!これでしばらくの間は大丈夫そうだ」


(ん?しばらくの間大丈夫?)


 メダカはちゃんと飼育すればそれなりに生きてくれるはずだ。大丈夫は大丈夫なんだろうけど、日本語がおかしく聞こえたのは気のせいか?


「ではさっそく・・・」


 会長はメダカを数匹掬い取り、別の水槽に入れた。

 メダカは水槽の中を優雅に泳ぎ出して、ヤゴの餌食となり捕食されていった。


 ・・・・・・・・・・・


「って、何やってるんですか!!」

「め、メダカが・・・・」


 俺は叫んだ。一応先輩だから敬語だが。そりゃそうだろ。メダカ愛そうの会のためにメダカを取ってきたのに、ヤゴに食べさせたんだから。

 結衣菜なんてメダカが捕食される現場を見て、少し顔を青くしている。


「いやぁね。昆虫を愛でる会の会長さんがここはヤゴのエサがたくさんあるから、ここで是非飼ってほしいといわれてね。僕達はメダカを増やして、ヤゴに受け渡すという自然の摂理を生み出そうと思って」

「もういいです」


 俺は説明を聞く気もうせてしまった。


「で、では一応依頼達成で構わないか?」

「ああ、もちろんだ。報酬は・・・これでいいかい?」


 上北も少し引き気味だったが、いつもの調子で話しかけると、会長さんは2枚の紙きれを渡してきた。何かのチケットのようだが。


「有効期限はま6月末までだから、猶予はまだある。人数分無くて申し訳ないが」

「いや、ありがたく貰っておこう」

「じゃあ、何かあったらまた頼むかもしれないから、その時はよろしく」


 こうして俺達の初めての依頼は達成することが出来たのだった。



 ☆     ☆     ☆



 依頼が達成した後は解散になった。

 俺は特に用事はないのでこのまま帰宅することにする。隣には当然の様に結衣菜が手を繋いで歩いている。


「今日は楽しかったね」

「ああ。まさかメダカ愛する会会長がメダカを餌にするとはな」

「あははは・・・・」

「ん?」


 結衣菜は苦笑いをした。

 その時、俺のスマホにメールが届く。


「何かあったの?」

「親父が今日から3日間急遽出張になったらしい」

「へぇ、それじゃあ今日からりん君は3日間は1人なんだ」

「だな。今日は木曜だから土曜の夜に帰ってくるってことか」


 まぁ、1年に数回こういうことはあるので、特に問題はない。ただ、いつも以上に家の戸締まりを注意するだけだ。

 帰ったら机の上とかに生活費は置かれているだろうから、それで買い物にでも行くか。


「大変だね」

「そこまで大変ではないけどな」


 俺は普段から家事はしているので、そこまで負担にはならない。


「あのさ、りん君」

「どうした?」


 いきなり結衣菜は頬を赤くして俺の前に立った。


「今日は私がりん君のご飯作ってもいい?その・・・お邪魔じゃなければだけど」

「だ、大丈夫だけど」


 いきなりだったんで、少し噛みそうになってしまった。


「でも買い物に行かないと冷蔵庫の中にあまりないぞ。帰ったら買い物に行く予定だったし」

「それなら、私も一緒に行くね。着替えたらここの別れ道に集合ってことで」

「おう、わかった。それじゃあまた後で」

「うん、また」


 俺達は一緒に買い物を行く約束をして、1度お互いの家に着替えに向かっていった。


 まさか結衣菜の手料理が食べれるなんてな。早く着替えてこないと。


 俺は楽しみにしながら、自宅の玄関から家に入った。

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