第14話 部活初日
「今日は早速依頼を持ってきたぞ!」
部活紹介フェスタの4日目。
時刻は放課後となり、昨日発足したばかりの、名前だけの文芸部の初の活動日だ。
俺達部員は全員、昨日与えられた東校舎4階の端にある文芸部の部室でミーティングをするために集まっていた。
「なぁ、一。この問題なんだけど」
「ああ、これはね、こっちの式を」
俺は数学でわからないところがあったので、一に教わっていた。
「詩穗ちゃん、こ、これ」
「あ、それってこの前言っていた結衣菜ちゃんの小説?」
「う、うん」
「帰ったら読んでみるね。ありがとう」
「り、りん君には内緒で」
「ん?それは構わないけど」
結衣菜と詩穗と2人で何か話しているようだが、俺には聞き取れなかった。
「すまないが誰か俺の話を聞いてくれないか?」
冒頭から上北が何か言っているが、誰も聞いていない。
皆それぞれ好きなことをやっていた。
「話を聞けぇー!!!」
ついに上北が叫んだ。
「上北、煩いぞ」
「上北君、騒ぐのなら外に行ってください」
「なぁ・・・俺が悪いのか?」
俺と結衣菜に言われて、愕然とする上北。
「それで任務ってなんなんだい?」
「おお、一は聞いてくれていたんだな」
「ううん、聞いていないよ。上北が今朝言っていたことを思い出しただけ」
「・・・・・・・・・」
上北は静かにその場に膝をついた。
ちょっと弄りすぎたか?
「上北、任務って依頼ってことか?」
「あ、ああ。この学校の同好会は常に人手不足だから、適当な先輩に声をかけたら手伝ってほしいと言われてな」
俺が声をかけたことで、少し元気が戻ったようだ。
「で、その先輩は何をやっている同好会なんだ?」
「メダカを愛そうの会だそうだ」
「手伝うことはあるのか?それ」
俺はメダカにさして興味はない。それに手伝うといっても何をするのか想像出来ない。
「それって水槽の掃除とかかな?」
「それもあるらしい」
詩穗の質問に上北はすぐに答える。
俺でもそれぐらいなら出来そうだ。道具さえあればだけど。
「それもってことは他にもあるってことだよね?」
「・・・ああ」
なんで今の質問には少し躊躇ったんだ?
「何をするの?」
「・・・・・・・捕獲だ」
「捕獲って、捕まえるってこと?」
上北は黙って頷いた。
「上北」
「なんだ」
「なんで捕獲をするんだ?メダカ愛そうの会なら、メダカはもういるんだろ?」
「そいつなんだが、どうやら少し前に水槽の水を抜いている際に、メダカを全て下水に流してしまったみたいでな」
「・・・・・・は?」
「なんでも、メダカの水槽にヤゴが入ったみたいだ」
「ヤゴってとんぼの幼虫のか?」
「ああ」
確かにヤゴはメダカとかの小魚等を食べるって聞いたことある。それで慌てて水槽から出そうとして失敗してしまったというところか。
「あの・・・そのメダカの水槽って外にあったんですか?」
「いや、部活棟の1階にある部室だ」
「ヤゴはあの・・・何処から入ったんです?」
少しぎこちなく結衣菜が上北に質問する。
確かに外にあるならともかく、室内にあれば、とんぼが入る事もないし、ヤゴが水槽の中に入ることなんて無さそうだが。
「それは同好会の会長が水槽にヤゴを入れたからだそうだ」
「なんでだよ!」
「どうやらヤゴがメダカを食することを知らなかったようだ。そもそも、その先輩はヤゴを見たこともなかったらしくてな。新種の虫かと勘違いをして、学校にあるオーガニック同好会の水場から拾ってきたそうだ。ヤゴを入れた後は我が子が無惨に食されていく様子を見ていることしか出来なかったと嘆いていた」
「酷すぎるな」
「更にヤゴを慌てて出そうとして、見つからなかったから、水槽の水を変えるついでにヤゴを出そうとして」
「ミスって下水の方へ流れていったというわけか」
「そのようだ」
この会長はただのバカだということが分かった。
「それでメダカはどうするの?買いに行くの?」
「いや、川に捕獲しにいく」
「この辺りの川にいるのか?」
メダカって結構綺麗な川にしかいないって聞いたことあるが。
「ああ、この学校の裏から出て歩いていけば川があるだろう?その周辺いるらしい」
「あ、そこなら私わかるかも」
「ナイスだ、鶴野宮。案内は任せていいか?」
「うん、大丈夫だよ」
こうして俺達は学校の裏手の方にある川に、メダカを捕まえに行くことになった。
☆ ☆ ☆
「結構綺麗な川なんだな」
「そういえば、ここの川って1度汚染が酷くなって、地域一帯で綺麗にしたみたい」
「へぇ、そうなんだ」
「うん、私が引っ越しする時に不動産の人に聞いたよ。りん君、この町に住んでいるのに知らなかったの?」
「あ~、俺は中学の時は上北の奴らと騒いだり、後はゲームとかばっかりだったからな」
「勉強は?」
「・・・・・・・」
「勉強は?」
「・・・あまりしていませんでした」
中学の時は遊びまくってたからな。最低限の勉強しかしていない。
「テスト勉強はしてたの?」
「最低限はな」
「じゃあ、今度からは私と一緒にテスト勉強しようね?」
「俺は別に」
「しようね?」
「・・・・・保健体育も?」
「~っ!?そ、そんなのはしないよ!」
「冗談だって」
「もう!りん君のいじわる!」
やっぱり結衣菜は俺と話すときは昔のまんまだな。今も顔を真っ赤にしてポカポカと叩いて来ている。
「あいつらは何をしてるんだ?」
「いいじゃない。結衣菜ちゃんも可愛いし」
「だね。それで鶴野宮さん、どのあたりなの?」
「えっとね~」
俺達の前には詩穗を先頭に上北と一が話している。
「りん君、テスト勉強は絶対やるからね」
「わかったよ」
流石にこれ以上からかうと機嫌を損ないそうなので、これぐらいにしておくことにする。
「音無、この辺りだそうだ」
「おう」
どうやら目的の場所に到着したようだ。
ここまでは綺麗に整備された道だったのだが、川の周辺はどこの田舎だというぐらい、緑が多くなっていた。
その緑の木々の中に小川が流れていた。どうやらこれを辿っていくと大きな川に合流するらしい。
「ほら、これメダカでしょ?」
「そうだな。では、これを捕獲するとしよう」
詩穗が指差した場所には確かにメダカが泳いでいた。
この小川は幅が1~2m程で深いところでも50cmぐらいだ。
メダカは俺達が近付くと、距離を取るように逃げていく。
「これは追い込み漁をするしかないか。女子2人は陸地の方で網を持って待機してくれ。俺達は水の方から岸の方へと追い込むぞ」
「わかった」
「わかりました」
「「了解」」
上北の作戦を取るべく、俺達はそれぞれの位置に付く。そして、メダカ捕獲作戦が始まった。