第13話 文芸部発足
「皆、部室は上の階と下の階はどっちがいい?」
教室から出たときに、久遠先生がくるっと振り返りながら聞いてきた。その時、他校の制服を着ている久遠先生の短めのスカートから一瞬太ももが露になる。というか、本当になんで他校の制服着ているのだろう。
「・・・りん君?」
「なにも見てないって」
「琳佳君、それ白状しているみたいなもんだよ」
「・・・・・・」
詩穗に言われてから気付く俺。言われてみればそうだ。結衣菜の言葉に反応し過ぎか?
「俺としては上の階であった方がありがたいな」
「え、そう?僕は下の階の方が行き来しやすいと思うんだけど」
上北と一はどちらがいいか、既に話し合いを始めていた。
「先生、空き教室があるのはどこの校舎なんですか?」
「一応この校舎だよ。ほら、部活棟の上の階はあんな感じだし」
確かに。部活棟の1階はともかく、2階は教室という概念がなかったからな。あれはただの会場みたいなもんだ。
因みに俺達の教室がある東校舎は4階建てで、1年B組は3階にある。
西と北にある校舎も造りは基本的に同じで、それぞれ2年生、3年生の校舎となっている。
いや、この言い方ではちょっと違うか。
この学校は3年間通して同じ校舎で過ごすらしい。なので、クラス替えはあれど、校舎は変更しない。つまり、同じ校舎で3年間過ごし、学年が変わると組の変更があった生徒だけ教室が変わるだけらしい。
「ってことは、下の階ってことは職員室とかがある階ってことですか?」
「そういうことになるね」
1階は職員室や教職員個人の部屋とがあり、2階と3階は俺達生徒のクラスと同好会とかに貸し出している部屋がある。
4階にも同好会に貸し出している教室はあるが、他にも音楽室や家庭科室といった特別教室がある。
「うーん、職員室の近くはちょっとやだなー」
「そうかい?僕は勉強とかでわからないことがあったらすぐに聞けに行けるからいいと思うけど」
詩穗の意見は俺も同意だ。なんか一の意見は部活とは関係ないように思える。
「りん君はどっちがいいの?」
「俺は上の階かな。見張らしも良さそうだし」
階段はめんどうだけど、職員室の近くよりはいい。少しでも煩くしていたら、すぐに怒られそうだしな。
「じゃあ、4階の方に行ってみようか」
俺達はこうして、部活紹介フェスタで賑わう廊下を進み、4階へと上がって行った。
久遠先生に案内されて4階に到着した俺達。久遠先生が用意した空き部屋は廊下の端にある物置として使っている部屋だった。
物置といっても大量の物が置かれているわけではなく、椅子や机が隅に固められて置かれているだけの、少し狭い教室のようなところだ。
「まぁ、ここはいらない椅子とか机を保管している場所なんだけどね。でも掃除とかはしてあるし、普通に部室として使っても平気な場所だから」
「俺達の活動に必要なのは、机と椅子があれば問題ない。ここのを使ってもいいのだろうか?」
「平気だよ。壊したりしなければね」
「それはありがたい。音無と一も手伝え」
「あいよ」
「了解」
上北は適当に机と椅子を出し始めた。それを俺と一も手伝い始める。
「とりあえずこれでいいか?」
俺らが用意したのは机と椅子を6個ずつを小学校とかの給食時みたいに3個ずつ向かい合わせにしただけだ。
まぁ、5人だから5個でもよかったが、バランスが悪いのでこの形になった。
「あ、先生の席も用意してくれたんだ」
「・・・もちろんだ」
そういってなぜか久遠先生は席の1つに着席をする。そして、明らかにバランスが悪いと言って用意した上北が、最初からその予定だったように言う。
(おい上北、ただの偶然だろ)
俺は心の中でツッコんでおいた。
「どう?ここでいい?」
「ああ、ここで構わない。あまり広すぎるのも落ち着かんしな」
「そっか。用意した甲斐があったよ」
久遠先生はご機嫌なのかさっきからずっとニコニコしたままだ。
「先生、少し質問良いだろうか?」
「うん、何でも聞いて」
「一応これは文芸部として登録はしてくれるのだろうか?」
「それは私が言えば何とかなるんじゃない。ああ、これに部活名と活動内容と部員の名前を書いてね」
久遠先生はどこからか用紙を出してきた。いや、カバンとかも持っていないのにどこから出したんだ?
「一、これの記入を頼む」
「了解っと」
一は上北から用紙を受け取り記入を始める。
「他に質問はある?」
「今やっているこの行事のことも新聞とやらを作らないといけないのか?」
あ、それは確かに気になる。行事ごとの新聞を出してほしいってことだから、今回の行事も入る可能性はあるもんな。
「ん~・・・どっちでもいいよ。まだ発足もしていないのに無理強いは出来ないからね」
「後は部費はどれぐらい出る?」
「それは実績にもよるけど・・・そうだなぁ・・・・・・。今はちょっと決められないかな」
ん?わからないじゃなくて、決められないってどういうことだ?
「そうか。じゃあ、この文芸部はいつから正式に活動を出来るのだ?」
「ああ、それなら今からでも大丈夫だよ。さっき渡した登録用紙さえもらえれば」
「っと、こんなもんかな。上北、確認して」
「ああ」
そこでちょうど記入を終えた一が上北に用紙の確認をさせる。
「先生、これでいいのだろうか?」
「どれどれ・・・・・・。うん、大丈夫大丈夫。それじゃあ、私がこの文芸部の顧問をさせてもらうね。改めてよろしくね」
『よろしくお願いします』
俺達は先生にお礼を兼ねて挨拶をした。
「それと私はあまり関われないかと思うけど、何かあったらここに連絡して」
そう言いながら久遠先生は紙切れに連絡先を書いて渡してきた。
「それじゃあ、私はこれで失礼するね。ばいばーい」
そう言って久遠先生は部室となった部屋から出て行った。
「そうだ。これを機に皆の連絡先の交換をしないか?」
「いいんじゃない?」
「私はいいよ」
「わ、私も・・・あまり連絡してこなければ」
「といっても俺達は結衣菜と詩穗のを登録するだけだな」
「だな」「だね」
俺は既に上北と一の連絡先は知っている。中学からのダチだからな。
「え?りん君ってスマホとか持ってるの?」
「今時持っていない奴の方が珍しいと思うけど」
「そうなんだ。じゃあ連絡先の交換しよ」
結衣菜は真っ先に俺の連絡先を聞いてきた。というか今一瞬見えてしまったが、結衣菜の連絡先の数が父、母、自宅の3種類しかなかったように見えたんだが。
「・・・これでいつでもりん君と」
「おーい、一ノ瀬。俺達のも登録してくれよ」
上北の声が聞こえていないのか、俺の連絡先を見てずっとニヤニヤしている結衣菜であった。
☆ ☆ ☆
その日の夜
俺は風呂から上がり、自分のベッドの上で漫画を読んでいた。
すると、スマホからメールの受信のお知らせの音が鳴った。
「こんな時間にだれだよって結衣菜か」
メールの送り主は結衣菜だった。
メールを開き本文を確認したが、何も書かれてなかった。
「ん?なんだ、いたずらか?・・・・ああ、件名の方に書いたのか」
本文ではなく、件名の方に『電話しても大丈夫?』と書かれていた。
俺は特に問題ないので、今日教えてもらった番号に電話を掛ける。
「もしもし!りん君!」
繋がった途端に、結衣菜の声が聞こえてきた。ワンコールもなかったけど、どれだけの速さで電話を取ったんだよ。
「おう。お前、電話取るの速いな」
「だってりん君からの電話だもん。切れちゃったら嫌だし、すぐに取らないと」
「いや、別に数コールしてからでも大丈夫だから」
俺は苦笑いしながら言う。
「それで何か用か?」
「うーん、特に用という用はないけど。ただ、りん君の声を聞きたいなぁって」
「そ、そうか」
恋人でもないのにこの言い方は少し卑怯だ。
「そうだ。今さっきくれたメールだけど、件名の方に本文が書かれていたぞ」
「え、うそ!」
「うそじゃないって」
「・・・・・・・・・ほんとだ。ごめんね」
「いや、わかったから気にしないでいいよ。結衣菜ってあまりメールとかしないだろ」
確か電話帳に家族と自宅しかなかったしな。
「そ、そんなことのないよ」
結衣菜は少し慌てて否定をする。
「家族とメールするのか?」
「家族とはあまりしないかな」
「だからメールはあまり使う機会がないと」
「そうだね。って友達とかとするもん!」
「でもお前の電話帳って家族しかないだろ」
「な、なんで知って・・・まさかストーカー?」
「普通に今日登録する時に見えただけだって」
「そ、そうなんだ」
「だから、メールに慣れていないと思ってさ」
「・・・・・うん、メールはりん君に使ったのが5回目ぐらいだよ」
「少なすぎないか?」
それには俺も驚きだ。俺でも親父とメールでの連絡はする。遅くなるだの、夕飯は別だのとか。
「私の家は電話ばっかりだからね」
「なるほどな」
家によっていろいろあるよな。メールがめんどくさいとか。
それから俺は結衣菜と他愛のない話に花を咲かせた。
「あ、そろそろ寝ないと」
「だな。結構いい時間だし」
「それじゃ、りん君、おやすみ」
「おう、おやすみ」
そして、結衣菜との通話が切れる。
ん~・・・俺は漫画の続きを読んでから寝るとするか。