第11話 新たな部活
「行ってきまーす」
部活紹介フェスタの3日目の朝、俺は家の鍵を閉めて道路に出る。
「おはよう、りん君」
「ん?ああ、おはよう」
俺が出ると既に結衣菜が外で待っていた。
「入ってくればいいのに」
「ううん、毎朝お邪魔するのもどうかと思うし」
最初の時は挨拶もなく家の中に入っていた気がするが。
「それより大丈夫か?」
「何が?」
「昨日かなり疲れただろ?」
「うん、疲れたけどゆっくり休んだから大丈夫だよ」
「それならよかった」
「りん君は?」
「俺も大丈夫だ」
俺が結衣菜の隣に行くと、結衣菜は直ぐに俺の左手を取ってくる。
「えへへ」
「お前ももの好きだな」
「そんなことないもん。りん君だから・・・あっ!」
「どした?」
「あの・・・その・・・、私はりん君のこと友達として好きなだけだから」
「えっと・・・」
「いい!友達としてだからね!」
「ああ、うん・・・わかった」
昨日の事まだ引きずってんのか。ここは頷いておかないと結衣菜は平常心を保てなさそうだもんな。
「で、今日はどこか回るのか?」
「うーん・・・私は疲れたからもういいかも」
「だよな。俺も2日間で疲れたわ」
そんな話をしつつ、学校へ向かう俺達。そこへ
「おはよう!二人共!爽やかな朝だな!」
「おはよう。朝から煩い奴だな」
「・・・・おはよう」
「お?おお!!やっと挨拶を返してくれたあぁぁぁ!!」
確かに結衣菜は今まで上北に挨拶はしたことなかったな。そこまで嬉しいのか。
「うおぉぉぉぉおお!!!」
「・・・・行こうぜ」
「うん」
俺達は興奮して叫び続ける上北を放っておいて、先に行こうとする。
「って、ちょっと待てぇい!」
「なんだよ」
「早く登校しないと・・・時間」
本当だ。このままここでのんびりしていたら、時間もぎりぎりになりそうだ。
「時間ないから早く行こう」
「うん」
「は、話を!」
「教室で聞いてやるから行くぞ」
俺達は朝から煩い上北を入れて、時間があるうちに登校することにした。
☆ ☆ ☆
「あ、おはよー。珍しい組み合わせだね」
教室に入ると詩穗が声を掛けてきた。
「おはよう。こいつが煩かったからな。仕方なくだ」
「俺ってそんな邪魔だったか?」
「ああ、邪魔だな」
「邪魔です」
「邪魔じゃないと思っているの?」
最後に詩穗まで攻撃に加わってきた。朝から上北のテンションが一気に下がっていくのがわかる。
「・・・そ、そこまで言わなくても」
あ、かなり精神的なダメージを受けてるな。
「皆、おはよう」
「おはよう、一」
「・・・おはようございます」
お?結衣菜のやつ、一にも朝の挨拶をしたぞ。少しは馴れてきたか。
「それで、朝から上北はどうしてこうなってるんだい?」
一は教室の真ん中で膝をつく上北を見て聞いてきた。
「おはよ、一君。これはいつものやつだよ」
「なるほどね」
「それで納得するのかよぉぉぉ!」
詩穗の言葉に納得する一。上北の叫びが朝の教室に響き渡った。そして、また膝を付く。何かぶつぶつ言っているようだが、こちらには聞こえてこない。
そこでチャイムが鳴る。
「結衣菜、席に着こうぜ」
「うん」
「あ、待って、私も」
皆は上北を置いて、そそくさと自分の席に着いた。
「みんな!おはよう!」
そこに元気よく久遠先生が教室に入ってきた。
「えっと・・・。上北君は何をしてるのかな?」
いまだに膝をついている上北に、久遠先生は疑問を浮かべる。
「精神的ダメージでやられてるだけだから、放っておけば治るかと」
俺は上北の現状を教えてあげる。
「ああ、いつものやつね。ならホームルーム始めよっか」
「先生までこの仕打ち!!」
上北が周りからどう思われているかが良くわかる朝の教室だった。
☆ ☆ ☆
そして昼休み。
「あ、りん君」
「なに?」
俺はいつも通りに学食に行こうとすると、結衣菜が呼び止めてきた。
「今日お弁当作ってみたの。もちろんりん君の分も」
「え?俺の分も?」
「うん、学食より美味しいかは分からないけど」
「いや、結衣菜の手作り弁当なら食べたいぞ」
「ほ、ほんと!」
「ああ」
「じゃ、じゃあこれなんだけど」
「弁当箱大きくない?」
「うん、私の分も入ってるもん。あ、ご飯はおにぎりにしてあるから」
結衣菜は俺の机に自分の机をくっつけて、弁当の準備をする。
「ど、どうぞ」
「いただきます」
結衣菜は緊張した顔持ちで俺に蓋を開けた弁当を差し出してきた。
結衣菜の手作り弁当は彩りも豊かに作られている。
これは結構凝ってるな。
俺はアスパラのベーコン巻きを食べてみる。
「ん!美味い!」
「本当!よかった!」
結衣菜は嬉しそうに笑う。
「ほら、結衣菜も食べろって」
「うん♪」
こうして俺達の昼食が始まった。
「そうだ。今日の午後はどうするの?帰る?」
「あ~・・・どうすっかなぁ」
俺は弁当を食べ場がら今日の予定を聞いてみる。
俺達は昨日でかなり疲弊をしている。今日も部活や同好会は変わるのだろうが、正直に言って、あまり出たくない気分だ。
「迷っているのであれば、俺と一緒に同好会、もしくは部活を作らないか?」
上北が肩を組ながら言ってきた。いちいち暑苦しくて鬱陶しい奴だな。
「・・・・・・何をするつもりだ?」
「俺は昨日までこの学校の部活、及び同好会の視察を全てやり終えた。そこで見えてきたものがある」
「・・・ほう」
俺は一応聞いてやることにする。
「この学校は部活より同好会の方が遥かに多い。これを詳しく調べてみると、同好会の連中は完全に趣味で発足しているところが多い」
まぁ、昨日の部活棟2階の○ミケみたいな現状をみれば納得できる。
「で、そいつがどうかしたのか?」
「その同好会は基本的に会員が3人~4人がほとんどなんだが、その所属している生徒も基本掛け持ちらしい。まぁ、中には顧問がいないだけで、部活より人数が多い同好会もある」
「ちょっと待て。掛け持ちっていくつまでできるんだ?」
「2つまでだ。それ以上になると収集が付かなくなるからな」
確かにな。無制限だと、もっと変な同好会とかが出来てしまうしな。
「で、お前の作る部活はどんなのなんだ?」
はっきり言ってしまえば、これだけ解れば判断がつく。
「せっかく面白い学校に入ったんだ。いろいろな経験をしたいだろう?」
「・・・・・・・・まさか」
俺はなんとなく予想外ついた。
さっきの話だと、どこの同好会も人手不足。そして、いろいろなものを体験するとなれば、これぐらいしか思い付かない。
「ヘルパーみたいのを派遣する部活とか考えているのか?」
「そのとーり!!だが問題もある」
「問題しかないような気がするけどな」
そんなの部活と呼んでいいのか?そもそもお手伝いする部活みたいなものだろ。
「まぁいいから聞け。部活をやるには顧問が必要だ。まぁ、こっちは宛てがあるから問題はない。問題があるのは実績だ」
「実績って、大会で優勝したとかいうやつか?」
「そうだ。ここの学校は同好会ですら僅かな実績がある。俺がやりたいのはいろいろな部活、同好会の経験だ。それだけでは実績はついてこない」
へぇ・・・同好会でも実績はあるのか。ってか、こんなに同好会の数は多くても実績を取れるものなのか。
「で、実績はどうすんだ?その話だと取れないみたいだけど」
「そこは俺や音無、後は一で何か取ろうかと考えている」
「やっぱ、俺も含まれるのか」
「呼んだかい?」
近くで弁当を食べていた一が名前を呼ばれたのに気が付き、俺達の話に入ってきた。
「一、お前は俺が部活を作ると言ったらどうする?」
「上北が関わると面白そうだから入るよ」
「よし!部員1人確保!お前は何か部活での実績を考えろ」
「いきなりだねぇ」
うん、俺もそう思う。
「音無、お前は当然入るよな?」
「え、当然だよ」
「うんうん」
「入るはずないじゃん」
「そうかそうか、入って・・・くれねぇえのかよ!」
「だって、お前といると疲れるし」
そんなもの中学だけでいいわ。今は結衣菜もいることだし、結衣菜との時間を優先したいんだよ。
「・・・・・・私が入ってもいい?」
「え、結衣菜?」
まさかの結衣菜が入りたいという、驚きの事実に俺の思考はフリーズしてしまう。
「一ノ瀬か。音無は入らないと言っているが、いいのか?」
「あの・・・りん君は私の一部だから・・・・その、私が入れば、りん君も入ったことと一緒・・・・」
「いやいや!なに言ってるの!」
結衣菜は俺以外の男と話しているからなのか、徐々に語尾が弱くなっていく。
っていうか、いつから俺は結衣菜の付属品になった!?
「りん君は嫌なの?」
「え、いや・・・その」
「私、人見知り治したいの。だから、いろんな人と関わりを持てそうな部活ならやってみたい」
「・・・・・・・・」
結衣菜は俺の両手を握り締めて、上目遣いで見つめてくる。
(結衣菜にそんな考えがあったなんて)
人見知りを治したい。確かに上北が作ろうとしている部活は、いろんな人と嫌でも接触することになる。
結衣菜は人見知りの上、軽度とはいえ男性恐怖症でもある。最初は苦戦するのは目に見えている。それなのに入りたいという結衣菜。そういうことなら俺の考えは決まっている。
「わかったよ。俺も手伝う」
「ありがと」
結衣菜は俺の両手を自分の胸に持っていき、嬉しそうに笑った。いや、手が胸に当たってるんだけど。
「おーい、いつまで2人の世界作ってるんだ?」
「ご、ごめん!」「ごめんなさい!」
俺と結衣菜はすぐに離れ、現実世界に戻される。
「それじゃあ、音無もやってくれるな?」
「不本意だけどな」
「お前も実績になりそうなの考えとけよ」
「わかってるよ」
付き合うからにはやってやる。それが結衣菜の助けになるのであればな。
「私も入っていい?」
「ああ、構わん」
「やったね!よろしく」
詩穗もあっさりと入部が決まってしまう。
「それで実績のことなんだけど、私小説とかでもいいの?」
「ああ、コンテストとかに投稿するだけで実績になるみたいだからな。なんだ?鶴野宮、お前は小説でも書いているのか?」
「ううん、私じゃなく」
詩穗はそう言いながら結衣菜を見た。
「・・・し、詩穗ちゃん、ま、まさか・・・」
『ん?』
結衣菜はいきなり挙動不審になる。 結衣菜と詩穗以外の人間は訳が分からずに首を捻る。
「結衣菜ちゃん、一応プロの小説家でしょ?今日の朝、噂聞いちゃった」
「あぅ・・・」
詩穗の言葉に結衣菜は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
え?その反応ってことはマジなの?
俺は、いや、俺達はまさかの事実に驚くのだった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
今回はほんの少し長めになってしまい、申し訳ありません。