第104話 相手の目的は
「やはりお前達が狙われているのは間違いないようだな」
俺の家に盗聴器が取り付けられていたことで、上北は確信を得たようだ。
「でも俺達は狙われるようなことはないぞ。なぁ結衣菜」
「う、うん…………」
「何か心当たりあるのか?」
歯切れの悪かった結衣菜に問い詰めてみた。
「その………前に私が結婚させられそうになっていた相手って、確かIT系の社長だったの。私とは10歳ぐらいは離れていたし、もしかしてと思ったけど…………ファッション雑誌とは別だよね」
「いや」
結衣菜の言葉に上北はすぐに否定をした。
「そうではないかもしれないぞ。そのファッション雑誌はそのIT企業の下部組織が作っている可能性がある。詳しくは調べないと分からんがな」
「そういえば重信さんはどういう風に結衣菜とその社長の婚約を破棄したんだ?」
俺は今まで気にしていなかったことを聞いてみた。いや、気になってはいたが、結衣菜にとってあまり聞かれたくないことだと考え、考えないようにしていた。
「私も詳しくは知らない。でも、お父さんは特に問題なく破棄したって」
結衣菜はそう言うが、俺はあの重信さんの威圧感で屈服させたのではないか、と考えてしまう。
「うむ………その線で考えるなら、一ノ瀬を諦めていないか、一ノ瀬を横から奪い取って行った音無への嫌がらせか…………。恐らくこれで日常生活は盗聴されないから大丈夫だろうが、外出の際はいつでも見られていると考えていた方がいい。まだ相手の目的が分からない以上、油断は出来ない」
確かに上北の言うとおりかもしれない。相手の目的が分からない以上、俺達は油断しない方がいい。
「警察とかに連絡はした方がいいのかな?」
「警察に言えば盗聴の件は相手にしてくれると思うが、これだけでは相手を引っ張り出すことは出来ないと思うぞ。相手を捕まえるなら、尻尾を出すのを待たなければならん。逆に警察に知らせたら、相手は手を引くか、直接何かをしてくるかのどちらかだ。あまりお勧めはしない」
「今はこのままがいいってこと?」
「そうだな。今日盗聴器を封じられたから、何かアクションを起こす可能性もあるしな。だから音無、しっかり一ノ瀬を守ってやれよ」
「当たり前だ」
それから上北は、カーテンは出来るだけ開けないようにしろ等の注意を残して、帰って行った。
「りん君、莉愛ちゃんにも伝えた方がいいよね」
「そうだな。どちらかというと、あいつが節操ないのが原因みたいなところもあるしな」
莉愛は予想以上の周りの反応に多少の罪悪感を感じていたから、聞き入れてはくれるだろう。
☆ ☆ ☆
「くそ。学校と家の盗聴器がやられたか。プロを雇った記録もなければ報告もないはずなのに」
東雲 誠也は1人部屋の中で、パソコンを見ながら呟く。
東雲はSNSの方も確認するが、自分が持つ複数のアカウントは報告され投稿出来ないようにブロックされてしまっていた。
「これではあいつを陥れることが出来ない。この際直接行くしかないのか」
一ノ瀬家には結衣菜の写真を送り付けたが、何の行動にも移さない。
娘を溺愛している一ノ瀬 重信なら動くと踏んでいたのだが、検討が外れた。
「あいつさえいなければ、結衣菜は俺の物になってたというのに」
東雲は何か手はないかと、血走った目でパソコンと向き合いながら考えるのだった。
☆ ☆ ☆
上北が出ていった後の部室では、一と詩穗がある資料を読んでいた。
資料を読んでいる間は無言が続き、紙を捲る音だけが部室に響き渡っていた。
そして、ある程度読み進めて一が口を開いた。
「思っていた以上に深刻だったみたいだね」
「うん。これを解決しちゃった上北君も凄いけどね」
ネットというのは、一度拡がってしまったら全てを消すことは不可能に近い。
炎上なんてしてしまったら、それこそどうにも出来なくなってしまう。
だというのに、上北はその両方をやってのけていた。
流石にどうやったのか内容までは書かれていなかったが、凄いことだけはわかった。
「やっぱり煽るようなことを書く人がいるんだね」
2人が読んでいるのは、上北が何があったのかを記録した資料だ。
そこには火消しをしたSNSも書かれている。
「あのさ、私これを読んでて思ったんだけど、結衣菜ちゃんより琳佳君が叩かれている方が多くないかな?」
「うん。それは僕も思った。実際に琳佳が一ノ瀬さんと莉愛ちゃんの2人とくっついていることに対しての炎上だからだとは思っていたけど、それにしても琳佳を叩いている人が多いような気がする」
「まるで誰かが仕組んでいるみたいだね」
一は詩穗の言葉に1つの可能性が見えたような気がするのだった。
☆ ☆ ☆
莉愛が補習から帰って来てから、上北が外してくれた盗聴器について説明し、SNSであったことも説明した。
「まさか盗聴器が仕掛けられていたなんて」
莉愛はそのことに恐怖を感じたのか、身震いをした。
「琳佳と結衣菜は明日以降どうするの?外出とか危なくないの?」
「上北が言うには注意しとけって話だな。盗聴器を封じられてどんな行動を起こすか分からないし」
「それと上北君が言うには、相手の目的も分からないって言ってたよね」
本当にこればかりはどうしようも出来ないしな。
「それじゃあ莉愛も2人を守るわ。莉愛にも原因あるみたいだし」
「いや。お前も危ないことしないでいいから」
「大丈夫よ。ちゃんと武器は持つから」
「武器?」
「え、あ、ううん。何でもない」
莉愛は誤魔化すように、手をヒラヒラさせて否定した。
「…………何かお前隠してるのか?」
「う、ううん。何もないわ」
莉愛はそう言うと、すたすたと部屋の方へと行ってしまった。
☆ ☆ ☆
「上北が中学校まで渡しに来たなんて言えないわよね」
部屋に戻ってから、莉愛は鞄からあるものを取り出した。
「んー………あいつ、こんなものどうやって手に入れたのよ」
莉愛はそれを見てげんなりする。
「でもこれなら莉愛でも使えるし、あの2人を守れるわね」
莉愛はそれを同室の結衣菜に見つからないように、こそこそと隠すのだった。