第9話 部活紹介フェスタ 2
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俺は結衣菜と詩穗と共にバ部から逃げるように校舎の中へと入った。
「適当に校舎に入ったけど、この校舎って部活棟だよな?」
「うん、そうだと思うよ」
結衣菜は相変わらず俺の手を握ったままだ。理由を聞いたところ、人見知りでも俺と手を繋いでいると、人混みとかでも気持ち的に楽になるらしい。
そう言われると無暗に手を放せとはいえない。
「ねぇ・・・りん君、あれ」
「あれって・・・お化け屋敷?」
結衣菜が指差した方向にはオドロオドロしい教室の入口があった。
「あ、これかな?お化け屋敷研究会」
「そんなものがあるのか」
(お化け屋敷を研究って何を研究するんだ?怖さとか驚かし方か?)
「ねぇ、行ってみない?」
「わ、私はいい・・・かな」
「俺はどっちでもいいけど」
詩穗は結構乗り気なようだが、結衣菜は腰が引けていた。それはそのはずだ。
「あれ、結衣菜ちゃんってお化け屋敷苦手?」
「う、うん。人も苦手なのに脅かしてくるなんて・・・・無理」
「結衣菜は昔からお化け屋敷苦手だったもんな」
俺は昔、どっかのお化け屋敷に無理やり結衣菜を連れて行って泣かした記憶がある。当時はかなり反省したもんだ。
「じゃあさ、琳佳君。一緒に入らない?」
「は?」
「いや、結衣菜ちゃんダメそうだから一緒に入ろうと思って」
「いやいや、結衣菜が1人になっちゃうだろ」
俺は慌てて否定をする。せっかく一緒に行動しているのにそれはかわいそうだ。
「いいよ、りん君。詩穗ちゃんと行ってきても」
「いいのか?」
「うん、ここで待ってるから」
「あ~・・・わかった。なら少し待っててくれ」
「うん、だから」
「なっ!?」
結衣菜は手を離すと正面かた俺に抱き付いてきた。それも結構な力だ。
「うん。これで大丈夫」
「えっと・・・」
「りん君エネルギー充電完了。だから、切れる前に帰って来てね」
「・・・・やっぱし私邪魔だった?」
結衣菜の健気さに詩穗は少し心を痛めていた。
「じゃあ、いってくるな」
俺は結衣菜にそう言い残して、詩穗と共にお化け屋敷研究会に入ることになった。
教室の中は本物のようなお化け屋敷の様になっており、薄暗くおどろおどろしい音楽まで流れていた。
「へぇ~・・・結構凝ってるんだね」
「そうだなって何で腕に抱き付いてるんだ?」
「駄目なの?」
「駄目じゃないが・・・その・・・」
「ん?なになに?胸が当たってるとか?」
「え?いや、あばら骨が当たってるなとは思うけど」
「失礼な!!私だって胸はあるよ!!」
そう言って詩穗は俺の腕に自らの胸を押し付けてくる。
「あるのはわかったから押し付けんな。それにさっきのは冗談だし」
「じょっ!?~~~っ!!!」
詩穗は俺をぽこぽこと叩き始めた。流石にからかい過ぎたか。
「あらあら、仲の良いカップルですねぇ~」
「「え?」」
「ようこそ~、お化け屋敷研究会へ~」
「「ぎゃ、ぎゃあぁぁぁ!!!」」
すぐ後ろに真っ白な肌に赤い血糊だらけの白い着物姿の女性が立っていたので、俺と詩穗は悲鳴を上げてしまった。
「驚かしてしまってすみません~。ただ、驚かすのは私達の使命みたいなものなので、大目に見てくれると助かります~」
「は、はい、わかりました」
口調もお化けを意識している生徒なのか、少し怖い感じだ。それに驚かすのが使命ってなんだ?そんな考えもあるのか。
「リ、琳佳君、ごめんね」
「気にすんな。俺もビビったんだし」
俺の肩越しに詩穗が謝ってくる。
詩穗はさっき驚かされてしまった時に腰を抜かしてしまっていた。このお化け屋敷研究会の教室には椅子も無いので、俺が背負っているのだ。
「こちらこそ~、驚かしてすみませんね~」
「ひぃ!あ、あまり顔近付けないでください!」
「あらあら~、嫌われてしまいました~」
いや、その顔で近寄ってほしくはないと思うぞ。普通に怖いし。
「では~、そちらが出口なので~。興味があったら是非入部を~」
俺はお化け先輩に見送られ、詩穗を背負ったまま出口に向かおうとする。
「きゃあぁぁぁぁ!!!」
「結衣菜!?」「結衣菜ちゃん!?」
その時、廊下の方から結衣菜の悲鳴が聞こえてきた。
結衣菜の悲鳴を聞いて、お化け屋敷研究会から俺は詩穗を背負いつつ、急いで廊下に出た。
「り、りん君!!」
「うおっと!」
お化け屋敷研究会の教室から出るとすぐに、前から結衣菜が泣きながら抱き付いて来る。
「なぁ!君!我々のアイドル研究会に所属してくれないか!」
「ああ!君なら絶対上に行けるはずだ!」
「い・・・いやぁ・・・」
結衣菜は人見知りの上に男が苦手だ。こんな熱意をもった複数の男に近付かれたら恐怖するのは当たり前か。
「おい、嫌がっている子も無理やり連れて行くのか?」
「お前には関係ないだろ!」
「そうだ!お前こそそんな可愛いアイドル級の女の子に抱き付かれてやがる!」
どうやらこの先輩達はアイドル研究会というやつらしいが、結衣菜に手を出そうとしたのはもうわかった。
「こいつの人生はこいつが決める。あんたら先輩が決めていいもんじゃねぇだろ」
「そ、それは・・・」
「だ、だが我々アイドルの卵を」
「アイドルの卵?あんたらはそうやって今まで勧誘してきたのか?それで本当にアイドルに出来たのか?」
「「っ!?」」
俺の言葉に明らかにたじろぐ2人の先輩。
「アイドルっていってもしょせんは学校内の話だろ?そんなんで無理やり勧誘はよくないんじゃないのか?」
「「・・・・・・・・」」
完全に先程までの勢いがなくなった先輩達。
「ほら、行くぞ」
「う、うん」
俺は結衣菜の手を握り、開いた方の手で詩穗を支えてその場を後にした。とりあえず少し落ち着ける場所にいくとするか。
☆ ☆ ☆
「ここで一休みするか」
「りん君、ありがと」
「私もその・・・ありがとね」
俺は中庭にやってきていた。
ここではイベントをやっていないので少し静かになっている。程よくベンチもあったので、結衣菜と詩穗をそこに座らせた。
「それにしても琳佳君って結構寒いセリフも言うのね」
「ほっとけ!結衣菜の泣き顔みたらああなっちまったんだから」
確かに結構恥ずかしいことを言ってしまった気がするな。
「で、でも、私はカッコいいと思うよ」
「お、おう、ありがとな」
結衣菜はまだ少し目が赤くなっているが、もう泣き止んでいる。まぁ、結衣菜がそう思ってくれたなら、言った価値はあるってもんだ。
「詩穗はもう平気なのか?」
「あ、そういえば詩穗ちゃんも何かあったの?背負われていたけど」
「え、えっとね・・・」
詩穗は結衣菜に腰が抜けたことが恥ずかしいのか、言うのを躊躇していた。
「こいつお化け屋敷で驚いて腰を抜かしたんだよ」
「へぇ~、そうだったんだ」
「なにばらしてんのよ!!」
俺は隠そうとしているのを知りつつ、暴露をしてやる。さっき俺をからかった仕返しだ。
「それぐらいならいいんじゃない?私なんて泣いちゃったもん」
「でもそれは結衣菜ちゃんは男が苦手だからじゃ」
「詩穗ちゃんはお化け苦手なの?」
「苦手ではないけど・・・」
「まぁ、あの登場は驚くわな」
「りん君も驚いたの?」
「ああ、驚いたぞ。まぁ、腰は抜かさなかったけどな」
「もう!それを言わないでよ!!」
詩穗はまた俺に向かって怒鳴ってくる。
「でもりん君がいて良かったね」
「へ?」
「だって助けてくれる人がいたんだもん」
「それを言ったら結衣菜ちゃんだって」
「うん、そうだね。だから、今日は2人揃ってりん君に助けられた日だね」
結衣菜は笑顔でそんなことを言ってきた。流石に俺も2人を同じ日に助けるとは思っても無かったけど。
「で、でも結衣菜ちゃんはいいの?琳佳君のこと好きなんでしょ?」
「な、何で知ってるの!?」
「はい?」
結衣菜はもの凄く驚いていた。え?何?お前は今まで隠せて来ていたとでも思っていたのか?
「あ、いや、その・・・」
結衣菜は何か口実を考えようとしているのか、顔が百面相のようにコロコロと変わる。
「「っぷ」」
「あ!なんで2人で笑うの!」
「だってなぁ」
「ねぇー」
俺と詩穗はお互いに確認しあい笑いだしてしまう。だってそうだろう。本人は隠してきたつもりなのに、傍から見たらバレバレで、しかも本人はいまだに隠そうと試行錯誤して百面相をしているのだから。
「もう!今日はりん君も詩穗ちゃんもイジワルだ!」
「「あはははは」」
本当に結衣菜は可愛い奴だと、俺は再度認識するのだった。
結局、この日は3人でお喋りをしている内に下校時間になってしまうのだった。
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