猫(シャロン)は宮殿に!異界の王宮事情
シャロン(猫)は、宮殿でのんびりと?
王継承者の結婚問題が持ち上がっていた。その陰には、きな臭い陰謀が起ころうとしていた。
シャロンは宮殿の中を散歩しながら、結奈との出会いを思い返していた。
俺が21世紀の日本に飛ばされた時は、驚愕した町中が光と騒音で何時も目眩を起こしていた。兎に角この国は眠らないのだ。
夜の帳から漸く開ける頃又人の波が押し寄せてくる。
箱のような車には絶えず退かれそうになる。命がけの国なのだ。
この国の人は絶えず忙しく動き、飯を食べるのも早い。しかし一つだけ好い所もある。
飯には困らないのだ。縄張りの猫に聞くと何処其処のレストランが美味しいとか。コンビニの弁当の味は今一つだけど包装してあるので、安心して食べられる等。
猫の情報網は侮れないのだ。そんな時結奈に出会った。
彼女は、他の人間と違い、人との関係を無視して生きていた。
俺には、彼女が恐れている事が。何に恐怖を感じどうしたいのか?彼女にはこの世界で活きられない。彼女は消えてしまう。
俺の、世界に連れて行けばきっと彼女の能力が、生かされるに違いがないと俺は確信した。彼女となら俺も一緒に活きて行ける。
何故?結奈と二人だけの時だけ、俺は、人間としていられるのか?・・・・
結奈が居なくなった時は、焦って動揺したが、行き先が森の魔女の所だと聞いて安心した。結奈にとって、これからこの世界で生き抜く力をくれるのは、森の魔女しかいないと思ったのだ。
森の魔女も気付くだろう。結奈の能力を、そして正しく導いてくれるに違いないと思っている。
だから俺は此処で待つ事にした。長い間の事ではないだろう。
結奈との夜は、優雅で花の蜜の香りを抱いて眠る一時が、俺の中の人間としての欲望なのだ。猫の身だけど、それだけは誰にも渡したくない。俺は、いつの間にかこんなに結奈に執着するようになったのだ。
「やあ~!シャロン!散歩かい?お前もご主人様に見捨てられて、寂しいだろ?」
俺を抱き上げて、俺の顔を真面から目を見つめると、意外そうに呟く。
「シャロン!君さあ~誰かに似ているのだよね?それが喉の其処まで出掛かっているのだけど、誰だっけ?ううん~?・・・・・」
(俺の事など思い出さなくても良い!ヘンリーも、感は良かったがまさか息子も気が付いたのか?)
俺は爪を出して、その腕から逃れた。ここは退散したほうがいいから。今解ると面倒な事になるので、俺は姿を隠すことにして廊下を走った。
広い宮殿の中は隠れる場所は何処にでもある。
(そうだ!あの場所なら滅多に誰も来ないであろう。)
シャロンは宮殿の回廊を奥へ進むが、ドアは閉じられていた。仕方がないのでドアの見える場所で、誰かが開けるのを待つことにした。
夜更けになり辺りには、明かりが灯される。二人の男の姿が浮かび上がる
周りに人の気配が無いのを確認して、ドアを開けて中に入っていく。
シャロンはこの機会を逃す筈も無く、ドアの隙間に入り込む。男達の声がする。
「へブライ国の動向は如何ですか?」
「へブライ国王は何としても、あれを成功させてサウス国への侵略する道筋を立てねばならないだろう。」
「我がオース国は予てより計画していた。王女とエンドリア王子との婚姻の手はずを、急ぎ申し立てます。」
「これでこの大陸も皆全部へブライ国王の物で御座います。」
「しっ!声が大きいぞ。壁に耳ありだ。誰かに聞かれたらどうする。」
「こんな所へは誰も近づきませんよ。幽霊以外。」
「シャロンリップ王子の幽霊ぐらいでしょう?」
「そなたがシャロンリップ王子を亡き者にしたのか?」
「私は、そんなに悪者じゃないですよ。唯、少しばかり焚きつけただけですよ。オース国の山脈には、見目麗しい氷の魔女がいるとね。一度視たら眼が離せなくなると。王子の冒険好きは有名でしたので、すぐに訪ねて行ったようですね。未だにお戻りではありませんので、大層氷の魔女殿に好かれたのでしょう。」
「貴男様もシャロンリップ王子よりも、ヘンリー王子の方が良かったのでは、色々遣りやすかったでしょう。貴男様の、息の架かったオース国の王女を、王妃に出来たわけですし。次のエンドリア王子がオース国の王女マリー様を王妃になされば、この国さえも自然と貴男様の懐に転がり込むでしょう。」
「しかし、安心は出来ないぞ。カーマイン宰相は、未だに手の内をみせん。息子のロナルドも王子と仲良くしているようだ。あの親子はひと癖もふた癖もあるから、お前も用心することだな。」
「心得ております。後のことは私にお任せください」
「では、先に失礼します。」
一人の男が部屋から出ていく。
部屋に飾ってある額縁の中の人物に向かい、男が呟く「父上貴男が悪いのです。私がこの国を売るような真似するのは、全部貴男が私の母にしたことなのですから。
お忘れではないですよね。私は貴男に捨てられた火の魔女の息子です。
認知もされず、母は人間と関係を持った為に、もう火の魔女としての能力もなく、失意の中逝きました。
私は、この国が欲しい訳じゃありません。唯、貴男に認められたかった。
でももう遅い才は投げられた。貴男に出来る事はありませんよ。
子孫が少しでも傷つかぬ様祈るといいでしょう」
シャロンは、誰も居なくなった部屋で、今聞いた事を考えていた。
思い当たる節がある。俺の側使いの侍従の一人が、氷の魔女の話をした。
彼の生まれはオース国の山脈近くの村の出身で、昔からの言い伝えを話してくれた、氷の魔女は絶世の美女で、視た物を虜にするそうだと。
確かに彼の言った事は間違いなかった。
俺は魔女に逢いに行ったのだから、虜にするのも間違いではない。
魔女は、自分が気に入った者は、氷づけて、彫刻として側で眺めるか、俺の様に愛玩動物にして側に置いておくのだ。
俺は、自分が猫にされた事も解らず魔女に愛玩されていた。その時は魂も抜かれていた。
ある時、氷に映った自分の姿を視て眼が覚めたのだ。後は魔女の眼を盗んで逃亡をした。
その時、魔女の攻撃から逃れる為に、ジャンプをし損ねて、谷底へ落ちて着いた場所が、結奈の住んでいた所だった。
父の肖像画の前で、父に向かい心の声で話した。
(あの男は本当に貴男の息子ですか?何故認知しなかったのですか?あの男の人は俺より上ですよね。まだ、母とは婚姻してない筈。貴男が、責任を取ればこんな悲劇を作らないで良かったのですよ。なんて罪深い人だ。)
この国の王族。一人の男の、、無責任な行動の発端が、これから起きる様々な事を想像すると、恐ろしいと思った。
人の思いほど優しく、そして残酷で残忍な事だと、我々は知らされるのだ。
グリーンマイン国王の執務室では、この国の主立った大臣達が、各椅子に座り王の話を待っている。
「皆の者に、集まって貰ったのは、エンドリア王子の結婚の件だ。皆も知る所の、オース国マリー王女との、婚儀を整えたいとオース国が使者を寄越した。」
「しかし、マリー王女は14才に成ったばかりと言う。少々若すぎるのではと思うが、そなた達の、意見も聞かねばならない。王子の婚儀は、国の利権にも関わる事。良く考えて欲しい。」
「まあ。確かに王子様の婚儀には、国の利権もありますが、何よりも、王子様のお気持ちも配慮せねばなりません。」
「しかし、若い嫁はいいですよね。女は若くて素直な可愛いこが何よりですよ。」
「侯爵、君の好みを聞いてはおらんぞ」
「何故オース国は性急に婚姻をする必要が?後2年もたてば王女も益々美しさに磨きが掛かるでしょうに。嫌に急がせる訳を知りたい者ですな。」
「何か、オース国に急ぐ理由があるのでしょうか?」
「それは、そうでしょう。エンドリア王子は美丈夫何処の姫も、嫁ぎたいと思うのは五万といるでしょう?」
「現に、サウス国のヱレイン王女は16才。もう立派な淑女に成られたと噂を聞きますが。私としては、お年の事を考慮しても、サウスの姫が王子には、似合いのお相手だと思います。」
「それに、どうもヘブライ国の動向にも気になります。」
「宰相!その話は何処からの噂なのです?」
「はい。ダンガリー伯爵。唯の噂だけなら私も心配してはいませんが。噂だと一笑する訳も出来ない理由があります。今は密偵が確認しております」
「宰相の思い過ごしだろう。へブライ国王は、我が国にも親交の厚い人物だ。我が国を裏切るような事はしないよ。」
「ダンガリー伯爵の言う事は、最も!そのようだ。クレスター余り人を疑ってばかりでは、何もできぬぞ。」
「はい!陛下。出過ぎた事を申し訳ありません。以後気をつけます。」
「宰相殿も国を思っての事。尚更、王子とマリー王女の婚儀は早くして、この国を盤石にして差し上げれば宰相殿も救われましょう。」
「今日の会議は此処までといたそう。」
「後のことは、王子の意見も聞いてから、進めるように頼む」
王と大臣達の会議は終わり、宰相は自室にロナルドを呼びつけた。
「父上!いえ。宰相殿お呼びでしょうか?」
「まあ、座れ。何か飲むか?」
「宰相殿にそう言われると、油断できませんが。何かありましたか?」
「殿下の事だが、殿下には密かに思う女性はいるのか?」
「つまり、エンドリア王子には恋人がいるのか?と言う話ですか?」
「まあ。早い話はそうだ。それでどうなのだ?」
「解りません。今は居なくても、明日は、突然恋に落ちる可能性もあり得る事でしょう。当の本人に確かめられたら如何ですか?」
「父上!私には今、好きな女性が居るのですが!連れてきても宜しいですか?」
「誰が、お前の事を聞いておる。私は、王子の事を心配しているのだよ。」
「ロナルド。お前も耳にしておるだろう。ダンガリー伯爵が、オース国のマリー王女との婚姻を進めているのを。
今の王妃様も、元はオース国より嫁いできたお方。今度又この婚儀が決まれば、より深く政治はオース国に傾くに違いない。私は憂慮しているのだ。」
「しかし、王子様が、マリー王女の方をお好きなれば、私は横やりを入れはしない。」
「さあ~どうでしょう?お二人とも、余りお会いしたことは無いのでしょう。だったら好きも嫌いも、本人でも解りませんよ。」
「どうです。舞踏会でも開いて、お二人の姫を王子に、逢わせて差し上げたら宜しいでしょう。」
「其処で、王子に、どちらかを決めて貰えば済む話ではないですか。」
「ロナルド。いい提案だ。早速陛下に、この事を進言してお許しを貰おう」
父宰相は自室の執務室から、陛下の元へ向かった。
(しかし、エンドリアも大変だよな。好きでもない女と、結婚前提に逢うのか。政治的価値があるかないか。一つの国を守る事は、愛し逢うものと、結ばれる事は、万に一つも無いか!)
ロナルドは、愛し合う者同士が結婚出来なければ、結婚なんかしなくてもいいと思っている。結奈の姿を思い浮かべる。黒い長い髪を馬の尻尾の様に頭上の方で結び、眼は黒曜石のようにキラキラさせて表情豊かでころころ変わる。ピンク色をした唇からは俺の想像を超える発言が飛び出して、俺を惑わせる。
とんでも無く可愛い小悪魔だ。それでも俺は結奈なら振り回されたいと思う。
(俺も相当に、やばい状態だよな。)