私と魔女との出会い
結奈が、たどり着いたのは、魔女の住む家だった。
魔女は、結奈を受け入れたのは、自分の目的の為だった。
結奈の逃亡は、成功したが、このままでは野垂れ死になると思い、休まずひたすら歩いた。
遠くに小屋らしき物が建っているのが見えてきた。
屋根の煙突から煙が出ているので、誰か人が住んでいるようだ。
もうすぐ日が沈む、それまでにはあそこに着かなきゃ・・・・・小さく見えた小屋は、近くに成るに連れて中二階のある家だ。
家の周りには、ハーブが色々植えてあり、軒先には薬草も吊してある。(此処の人はお医者様の家?)私は興味深くそれを眺めていた。
「これは、珍しいわね。あんた何処から来たのさ?」
「こんにちは!私は、東の遠い所から来ました。この庭に植えてあるのは皆薬草ですか?」
「あんた?どうしてそう思うのだい?」
「間違いならごめんなさい。名前は違うかも知れないけど、センブリこれは腹痛に良く利き、雪の下は熱冷ましに。アロエ?これは何か解りません?視たことがないわ。」
「あんた、若いのに薬草に興味が在るのかい?」
「どうせ、もうすぐ暗くなる、家に泊まって行くかい?」
「ありがとう ございます!」
老婦人は、結奈を家に招き入れてくれた。
家の中は、直ぐに台所兼居間で、右がベッド。奥は収納庫に成っている。天井が半分張ってあり、そこは屋根裏部屋に成っている。梯子が掛かっている。
「あんたは、今晩は屋根裏で寝て貰うよ。毛布とシーツだよ。」
「私の名はマジョリッタだ。お前さんは?」
「失礼しました。私の名前は結奈です。二十歳になります。どうぞ宜しくお願いします。」
「まあ~客扱いはしないよ。此処では自給自足だ。自分で見つけて手に入れなきゃ生きて行かれないからね。」
「はい。何でも言って下さい。努力します。」
「まあ~今晩は私の食べ物を半分分けて上げるよ。それで我慢をしな。」
「はい。ありがとございます。ご馳走になります。」
結奈はキノコたっぷりのシチューに薪ストーブで焼いたパンに厚切りに切ったチーズを炙ってパンに乗せて食べた。食後はカモミールの茶だ。
結奈は、シャロンを置いて来た事を、謝りながら暖かい干し草の、ベッドの上で眠りに着いた。
カーマイン伯爵家では、エンドリア王子とロナルドとロベルト兄弟が、今現れた結奈のことで、話が盛り上がっていた。
「道理で、帰国するのが遅いわけだ。何時?あんな面白い者を見つけた。それを、俺たちに黙っている訳は何なのだ?」
「ロナルド兄!まさか彼女のことを好きになったのか?」
「おい!一目会ったその日からの、一目惚れなのか?」
「今まで、美女からの誘いも乗らない。沈着冷静なロナルドが!恋に落ちた!あの娘に!」
「二人とも、少し落ち着いてくれないか。まだ遭って二日だよ?好きになる?馬鹿げているよ。確かに興味はあるし、何故か放っておけないのだよ。
結奈は、僕の想像を遙かに越える事をやってくれる。
結奈を視ていると退屈する暇がないのだ。」
「ロナルド。やはりお前は恋に落ちたな。女に、全然興味を示さなかったお前だ、そのお前が保護している、庇護欲だ。」
侍従のスチュワートが入室して、爆弾宣言をした。
「結奈様が、お部屋においでになりません!お姿が消えました。」
「アンナ!どういう事だ。あの格好で居なくなったと?」
「いえ。バスロープは脱いで置いてありましたので、水色のワンピースが無くなっております。多分それをお召しになっておられるのだと思います」
「猫は、何処に居る?シャロンとか言っていたが?猫も居ないのか?」
「ニャ~!」
「お前も、置いて行かれたのか。」
「町へは、行かれた様子はないようです。庭師のハンスが、北の森へ行く道で拾ったと申しております。」
「ドレスに付いていたフリルです。」
ロナルドは思った。友達の猫まで置いて行こうとしているのは、何処なのか?しなくても良い苦労を、してもやろうとする事はなんなのだ。
何を考えている結奈。君はフリルの付いた華やかなドレスよりも、質素な服で一体この国で何をしようとしている。
僕は結奈が、これから遣ろうとしている事を見届けたかった。
自分の行動が、今迄の自分とは違うのも興味が合った。
僕は、二人が話しているように、結奈の事を好きになった?恋に落ちたのか?それも確かめたかった。
自分自身の気持ちが何処にあるのか?ロナルドは姿勢を正して殿下の前で膝をついた。
臣下の礼をして、自分の願いを話す。
「エンドリア殿下!私に、暫く休暇を戴きたくお願い申しあげます。」
「ロナルド兄!そんな勝手が許される訳ないでしょう!」
「だから、こうしてお願いをしている。」
「エンドリア!友として頼む。色恋で頼んでいるのではない。確かに結奈は魅力的な人だ。それは認める。
結奈が持っている知識が、この国の未来に必要だから外の国に、横取りされたくないのだよ。この時計を視てくれ。」
「これは、時計なのか?」
「そうだ、腕時計と言うらしい。
太陽の光で何時までも動くのだそうだ。
こんな精密な時計を作れる技術を、持つ国はまだ無い、大陸では出来ない、その知識を他国に持って行かれてもいいのですか?」
「この技術が、彼女にあるとは思いませんが、でもそれ以上の知識が彼女には或と!私はそれを確かめたいのです。」
「ロナルド!解った!王の耳にはまだ黙っていよう。お前の親父にも、よし!ロナルドは好きになった彼女を追って駆け落ちだ。
皆いいな!ロナルドは、恋人結奈のもとに行き、プロポーズを受け入れて貰うまでは、我が元に帰るには及ばず!」
作戦を授けるから連絡は、こまめに入れるようにと話をして。
エンドリア殿下とロベルトは王都に戻った。
猫のシャロンは、猫質として王都に連行された。
確か北の森には、森の魔女が住んでいる筈。昔からこの大陸には4人の魔女がいる。
グリーンマイン国は森を司る魔女マジョリッタ。
オース国には氷の魔女が居ると聞く。
へブライ国には火の魔女が。
南のサウス国は水の魔女が、元は、神の託宣を授かる巫女だったが、時代は神の事も四人のそれぞれの巫女の事も忘れ去られて、今は忌み嫌われる魔女として隠れ住んでいる。
人間は身勝手な生き物だ。
自分達の手に負えないときには、神だのみして、巫女だと奉り世の中が平安になれば、人と違うだけで忌み嫌うのだから。
カーマイン家には代々言い伝えられている、森の魔女とは不可侵条約が存在する。
お互いに犯しては成らない。
カーマイン家では男子が生まれると森の魔女の所に行き祝福を受ける。
そのお陰で領地は毎年豊作で、民が飢えるような飢饉はない。
恵みを与えられている。
森の魔女は悪い事はしないが、他の魔女もそうだとは限らない。
しかし、何も知らない彼女を、何時までも魔女の側に置いて、身に危険が起きるかも知れない。
夜の森は、危険だから明日の朝、迎えに行こう。
朝の光が差し、森の中では鳥達の鳴き声で眼が覚める。
久しぶりに気持ちの良い目覚めだ。
丸い小さな窓から外を眺める。
(アルプスの少女ハイジ観たい)何処までも続く森を眺めていた。
下から声がする。
「起きたのかい!働かざる者喰うに及ばず!早く支度をして手伝っておくれ。」
「おはよう!マジョリッタ!ごめんなさい!とても素晴らしい眺めに見取れていたの。」
「いくら素晴らしい眺めだろうが、腹を満腹にはしてくれないよ!」
「そうよね。なにしたらいい?」
「今から、果樹園にいって果物を取ってきておくれ。」
「ジャムを作るからね。」
「はい!この篭に入れればいいの?行ってきます!」
結奈は大きな篭を手に森へ足を向けた。森には色々な動物も暮らしている
マジョリッタがいうには、この森では、お互いの領域には、侵害しない暗黙の決まりがあるのだそうだ。
それを破るのはいつも人間なのだ。
動物達は無闇に殺さない。
自分が食べるだけの物を森から貰い又返す。
森の掟が何千年と繰り返し此処に住む物を守り守られている。
結奈は甘い香りに導かれてたどり着いた場所を観てビックリした。
(此処はどうなっているの?)蜜柑。リンゴ。オレンジ。ネクタリン。マンゴ。
結奈が、まだ観た事も食べた事もない物まで、何種類在るのか解らない。
「マジョリッタは何のジャムを作るとは、言わなかったわね?」
「私?テストされている?」
結奈は、それぞれの果物の匂いを嗅ぎ、熟れ具合をみて思った、ジャムを作るのにはどれも早いように思えた。
周りを確かめると、膝下の所に、ブルーベルの実が赤紫に熟れている。一つ摘んで食べてみる(甘酸っぱい!)これなら最高に、美味しいブルーベルジャムが出来るわ。
結奈は篭一杯に摘んだ。
「ただいま!戻りました。」
家のドアを開くと、そこにはロナルドさんが居た。
「結奈!良かった。怪我はしていませんか?大丈夫ですか?」
「ロナルドさんこそ、どうして此処に!」
「結奈、突然居なくなるなんてひどいですよ。どれほど心配したか!」
「ごめんなさい。お礼もせずに突然居なくなれば非常識ですよね。謝ります。
どうもすいませんでした。」
「私のような、訳も分からない者を親切に泊めて戴いたのに、恩を仇で返すような事になりました。ごめんなさい。」
「結奈。怒るつもりはなかったのです。元気な結奈の顔を観たらね。」
「ロナルドさん!私は怒っていますよ。人が、お風呂に入っているうちに、自分の服を盗まれては、怒りますよね。」
「結奈。本当に申し訳ない。君には綺麗なドレスを着て欲しくてね。その姿を観て見たいと思うのは、僕の我が儘だったよね。」
「どうしてですか?ロナルドの側には、美しくて綺麗な淑女が、沢山おられるでしょう?山猿に綺麗なドレスを着せて、やっぱり猿回しだと笑うつもり何でしょう!」
「ははは・・・・結奈、君は本当に、予測を遙か上を行く人だよね!だから面白い!ほっとけないのだよ。僕は、本当に君に夢中に成りそうだ。」
「ロナルド!冗談は辞めて下さい!」
「それに、今の私は、マジョリッタさんにお世話になるつもりです。
私には、マジョリッタさんの薬草の知識が必要なの、此処で色々教えて貰い、その知識を、必要としている人に還元出来たら、私は、此処で生きていける気がするから、だからこのまま私を、マジョリッタさんの側にいさせて下さい。」
「ロナルド坊や!あんたの負けだ!結奈を此処に居させてあげな。悪いようにしないよ。結奈の知識も、どうやら私の眼鏡には適った訳だし。結奈は良い弟子になるよ。半年後又迎えに来たらいい。」
「マジョリッタ!私合格したの!嬉しいわ!弟子にしてくれてありがとうございます。師匠と、お呼びしてもいいですか!」
「現金な奴だ!わははは・・・さあお腹が空いただろう。テーブルに用意してあるからお食べ。」
マジョリッタはロナルドを連れて外に行ってしまう。
「ロナルド。どうせ殿下の差し金だろう?あの異世界の技術が欲しくなったのだろう?結奈には、技術の事は解らないだろうよ?無理矢理引き出しても仕方があるまい。しかし、これからあの娘が遣ろうとすることは、この国にとって非常に重要な事に成るだろう。」
「マジョリッタ。それは神の託宣ですか?」
「そんなもの知らぬ!今更人間どもが、神の託宣を信じると思っておるのかロナルド!我が信じるのは結奈の眼だ。」
「ロナルド。お前も、一度位結奈を信じて見てはどうだ。面白い事になるだろう!うふふ・・・・・」
「そうですね。其処は、意見が合いますね。」
「さてと、王都に戻り、殿下への言い訳でも考えますか。結奈の事は宜しくお願いします。何か必要な物があればご用意しますので、庭師に連絡下さい。」
「お前さんも一人前な口を言うようになったものだ。」
「僕も何時までもガキじゃありません!」
「わしを視ただけで、泣いていたお前がね~。お前の父も祖父も代々泣き虫だった。」
「では、私は、これで失礼します。半年後また迎えに来ます。」
ロナルドは魔女の森から・・・・王都へ目指して馬を駆けだした。