結奈とヘブライ国の仲間たち
結奈が、この小屋にきてから1週間が過ぎていた。
今は、ケンダースの息子で、12歳のマイクと仲良くなり、マイクのズボンとシャツを貰い、髪は、ポニーテールにして、火薬の調合に苦戦を強いられている。
結奈は、もっと勉強をしておけばよかったと後悔している。
誰も最初は、寄り付きもせず、口を聴いてはくれなかったが、最初に、火傷の手当てをした若者が声をかけてくれた。
「結奈、この腕見てよ!きれいに治ったよ、ありがとう。俺は、ダンカット・マルソーだ。ダンと呼んでくれ。」
「ダン!良かった。火傷したときは、綺麗な水で患部を充分に冷やしてね。それから薬を塗るといいから、みんなにもダンから、教えてあげてね。」
「それは、結奈の仕事だよ。俺は自分の仕事をするさ。この間は失敗したが、今度は成功する気がする。ここに女神が来てくれたからかな」
私は、ダンがなにを言っているのか、解らなかった。でも、話しかけて呉れたことは、嬉しかった。
私は、今までの自分が、他の人たちに対していた態度は、無視されていたのではなく、無視していたのでは。
自分は今まで随分クラスメートに、酷いことしていたのだと後悔した。
もう、やり直す事は出来ない。
この世界では、後悔した分を、今度はやり直す事ができるのだから、自分は精一杯やろう。
ダンと一緒に火薬の調合を、取り組んだ。それから3日目に、私たちは、火薬の威力を試すまでになった。
小さく盛った土に置いて、火薬に火を付けた。私達は、離れた場所で見守った。
大きな爆発音と共に、予定より大きな穴が空いていた。
穴の周りには、驚愕した皆の顔があった。マイクが私の傍まできて喜んで抱き付いてきた。
「結奈、やったね!俺達、とうとう完成したのだね。」
「そうね、でも一つでは、大きな山は、崩れないわ。沢山同じものを作らなければいけないわ。これからが、忙しくなるわよ。」
「結奈!俺も頑張るよ。この国を、緑で一杯にしたいからさ。」
マイクはそう言って、笑顔で駆けていく。私は、複雑な気持ちだった。
この火薬が、人を殺すため、よその国へ侵略に使われるとしたら、マイクは笑顔でいられるだろうか?武器として、使わせてはならない。
私は、ケンダースに相談しようと思った。彼なら、きっと私の思いを解ってくれるはずだ。私は、何故だかそんな気がした。
私は、山を切り開き、田畑にする為に開墾した。夜は、リーダーを集めて、自分がわかるだけの知識を、皆にも分かるように説明をして、計画を立てた。これが、私たちの計画表なのだ。
1、ヘブライ国からグリーンマイン国への共通のトンネルを作る。
2、温室を10基作る。(3基は水耕栽培)
3、川の側に水車小屋を建てる。
4、火山地帯なので、湯がでる場所を探索する。
5、コルーマン宰相に人員の派遣を依頼する。
等を、決めて至急に取り掛かった。早くしないと収穫ができなくなる。
私は、焦っていた。
トンネル工事は、ケンダースに任せて、私は、田畑を見て回る事にした。
田畑には、老若男女畑に出て、土を耕している。
私にも、解らない力に導かれて、田畑が一望出来る場所に立ち、目を閉じて浮かべる。
田畑から、急速に伸びる茎や葉、その先には実がなりどんどん大きくなる。
不思議な光景だ!結奈は、自分の中に、マジョリッタがいるのがわかった。
私は、一人ではない、マジョリッタが、私の背中を押してくれているのが、嬉しかった。
自分は、また前進できる。
夏のヘブライ国大地は、緑に覆われて、牛・羊・山羊達がのんびりと放牧されている。
側では、草を刈り冬に迎える準備をしている。
この国の夏は、短く秋の訪れが早いのだ。私も、忙しく働いていた。
コルーマン宰相に呼び出されて、宰相のもとを訪ねた。
「結奈!誰にも言わず消えてしまうなんて、ひどいではないか!心配してたのだぞ!」
「ロナルドさん!どうして?ここに?」
「話は、後でな。結奈!何だか逞しくなったな。見るところは、元気そうだな」
「ロナルドさん!いい時に来てくれてありがとう。グリーンマイン国から、食糧を援助してほしいの。」
「結奈!簡単に言いますけど、国に戻って協議しなければ、公庫からは出すことは出来ない。この国の現状は、理解してるつもりだ。俺の一存では、決められないのだ。」
「わかっているの、この場で決断をするのは、無理な事は承知しているわ、でもね、国に暮らしている民だって、この大陸にとっては大事な人でしょう。お願いだから、個々の国としてでなく、この大陸に住むもの全体を、思ってほしいのよ。」
「結奈の気持ちは、分かったよ。俺も努力してみる。君はまだこの国に居るのか」
「はい、まだ解決しなければ成らないことが、あるからここにいます。」
ロナルドは、結奈の意思が固いと思い、それ以上は、何も言わなかった。
宰相の部屋から戻って来てから、ロナルドから、驚愕する話を聞く事になった。
シャロンがいなくなったと。私は、自分の身体の一部が無くなった様な気がした。
(シャロン、私に何も言わずに、何処に行ったの?)
もしかしたら、氷の魔女の所へ決着を付けに、行ったのではないかと思った。
(シャロン、どうか生きていてね。一緒にいようと約束したはずでしょう。私は、必ず貴方を見つけ出すから。少しだけ、待っていてね。)
私は、シャロンへの気持ちを、胸の奥に閉じ込めた。自分の仕事場に戻る事にした。
マイクが、慌てて私の腕を引っ張り、硫黄の匂いがする場所に、連れてきた。
「結奈!これ見てよ!これお湯が出てるよね!」
「マイク!お湯だわ!良く見つけれたわね!すごいわ!マイク!」
温泉が見つかれば、このお湯を引いて、パイプラインで建物の中に流せば、建物が保温される。温室になるのだ。ガラスで温室を作るのは、コストが掛かりすぎる。
私は、これでひと息出来ると思った。
循環したお湯は、小屋を作り、天然温泉風呂になる。
私は、嬉しくなった。
人の為に知恵を出し合い作る上げる事が、こんなにも楽しい事だとは、今迄、考えられなかった事だった。
短い秋も終りの頃。ヘブライ国での、収穫量は過去最高の収穫になっていた。
皆の表情も生き生きとしている。近辺の村や町では、私の評判が話題になっている。
私にとっては、大したことはしていないのだ。
この場所で暮らす人の熱意と努力が実を結んだだけなのだから。
私は、少しの知識とアドバイスをしただけだ。
今日は、朝から雪が降りだしていた。
トンネル工事も佳境に入っている。
「師匠!早く、来て。最後の火薬に火を付けるのだよ。」
最近のマイクは、私の事を師匠と呼んでいる。
恥ずかしいから、呼んでは駄目だと、話してみてもマイクには、馬耳東風だ。
マイクと共に、トンネルの入口付近で待つ、しばらくすると、大きな爆発音と、煙が出てきた。中から人が走って来た。
「やったぞ!開通した!」
その声を聞いた人たちは、思い思いに歓声を上げて喜んでいる。
マイクも私に抱き付いて、お互いに労をねぎらっている。
満面の笑顔で、心の底から嬉しそうだ。
マイクは、父を迎えにトンネルの中に入って行った。私の側に、近づく人には気がつかなかった。




