結奈。動き出す!
お昼になり、殿下の侍従の人が、迎えにきた。私は、シャロンと共に、殿下の館に出かけた。部屋には、先客が居た。サウス国のエレイン王女と、オース国のマリー王女様達の、視線が痛い!私は居心地が悪く、招待を断る理由を頭の中で思案していた。
「貴女が結奈さんですね!珍しい髪の色と瞳をお持ちなのね。」
「この大陸の東の方では、大抵の人がそのような黒い色をしているとか?そうではないのですか?」
「はい、それぞれですね。金髪、茶色、水色にピンク、赤い髪をした人もいます。まあ、大体は私のような髪をしていますが。」
(日本では、コスプレでならなんでもありなのよ。)
二人の王女は、眼をこれでもかと思うほど大きくして、呆気に取られている。
私は元にいた学校で、散々言われて虐められていたので、上品な王女様の虐めなど、何とも思わない。
「本当に、珍しいお国で育ちましたのね。」
「それでは、仕方がありませんわよね。宮殿の、しきたりも礼儀も知らないでは、話には成りませんもの。」
「流石!王女様はお分かりになりますね。殿下にお伝え下さい!側に、あの様な野蛮な娘を置いては、品位を疑われると。私は、ここで失礼いたします。一刻でも早く消えますので、どうぞ王女様方は、殿下と楽しい一時をお楽しみ下さい。」
私は、一時でもこんな場所には居たくなかった。ドアに戻ろうとしたら、オース国の王女が、シャロンを捕まえている。
「この猫。私が貰うわ!貴女には依存はないわよね?お金が必要なら、貴女の好きなだけあげるわよ!」
「私のシャロンは、猫ではないのよ!売り物でもありません!私の大切な宝物です。貴女の国がどれだけ裕福なのかは、知らないけど国を売ったお金を積まれても、私が売ると思いですか?庶民には庶民のプライドがあるのです。失礼!」
私は王女の手から、シャロンを抱くと殿下の部屋を後にした。
私は、自分が落しめられるより、シャロンを取られるのが、悲しかった。
ここに来て初めて、涙が溢れてきた。今まで、どんな事でも耐えてきた自分が泣いている。この意味も分かっている。私は、シャロンと離れたくないのだと。
胸にシャロンを抱きしめながら、窓の外の景色を眺めていた。
冬の景色は好きではない。花も木々も春の来るのを冷たい雪の中で、じっと待ち望んでいるから。私と同じなのだ、幸せをじっと待っている。
ダンガリー伯爵の陰謀の証拠を見つけて、シャロンに、氷の魔女の呪いを解いてあげる方法を見つけなければ、春は来ない!ここで泣いている暇など私には無いのだ。
シャロンの眼を視ると、彼も泣いている。
「シャロン!私、大丈夫よ!心配かけてごめんね。貴男を取られてしまうと思ったら、無性に腹が立って、これは悔し涙だから。心配しないで!」
「私、何が在っても、もう貴男の前では笑顔でいるからね。頑張るわ!」
俺は、今の猫の姿は今までで一番悔しい!なぜなら結奈を抱きしめて、慰める事も出来ない自分が情けない。だが、俺は何より結奈の言った言葉が嬉しかった。
心が震えるほどの歓喜に酔いしれた。俺は、もう一度氷の魔女に会い決着を付けなければ、結奈を、本当に幸せには出来ない。
私とシャロンは、お互いに本心は隠したままだ。
部屋に戻ると、ダンガリー伯爵の侍従が、私を呼んで居るとのこと、私は部屋にシャロンを残して、伯爵の執務室に出向く。
「結奈さん!お呼びして申し訳ありません。殿下とのお食事は如何でしたか?」
「いえ、先客がお見えでしたので、戻ってまいりました。」
「結奈さんも王女様達には、太刀打ち出来ませんか?」
「私は、最初から同じ土俵の上には立っておりませんので、伯爵様が、お考えの様な事にはなりません。危惧されませんように。」
「成る程、結奈さんは堅実ですね。私は賢い人が好きです。それと話は変わりますが、結奈さんに、是非会わせて欲しいと頼まれまして、如何でしょう。会って戴けますか?」
「そのお方は、私にとって有意義なお方なのですね?」
「まあ~そうともいえますが。」
「判りました。私、そのお方にお会いします。」
「他の方に、相談しなくても良いのですか?」
「どうしてですか?大勢の人の前で、誰とも判らないような者を好きだと言った人に?それとも、ロナルドに?確かに、此方に来てから、多少のお世話に成りましたが、私はロナルドの所から逃げて、森の魔女に助けを求めて住み着いたものです。伯爵もう私の事はお調べなったのでしょう。でなくては、伯爵様は、私をここにはお呼びに成らないはずです。そうではないのですか?」
「ははは・・・結奈、君の事を気にいったよ。これから私の屋敷に招待しようと思うが、宜しいでしょうか?」
「失礼ですが、伯爵様と私では年齢も離れていますし、妾にはなれませんが!」
「結奈!悪いが、私もそちらの方は興味がなくってね。私の、興味は君の知識なのだよ。実に興味深くてね、ここでは、ゆっくり話すことも出来ないし、会わせたい人物もここには来られなくってね。」
「判りました。何時お伺いすれば宜しいですか?」
「今、直ぐに来て欲しいのだよ。君の身の回り物は我が家で支度させている。君の趣味に合うことを期待しているよ。」
「では、伯爵様宜しくお願いします。」
私は、侍従の人に連れられて、城の前に止まっている馬車に乗った。
ふっと、シャロンの姿が過ぎる。(シャロン、また心配かけるけど、私は大丈夫だから・・・・)私を乗せた馬車が宮殿より遠ざかる。
ロナルドは殿下の部屋の前で、女達の会話を聞いていた。
王女達が、結奈に嫉妬しているのは解っていたが、なんという嫌がらせなのだ。
腹が立ってきた。しかし、結奈も負けてはいなかった。
自分の嫌がらせは我慢できていたのに、シャロンの事になると、我慢も限界に越えたようだ。シャロンを胸に抱いて、窓の外を見つめて泣いているのだ。
俺は、結奈に声を掛けられなかった。結奈が、辛そうに泣いているのを視るのは初めだ。
猫に向かって話している。あの顔は、自分の中で決断した時の表情だと俺は思った。
結奈は一体これから何をするつもりなのだ。
結奈が話していた事だろうか?結奈は、何か行動するつもりなのかも知れない。結奈から目を離しては駄目だと、俺の心が警鐘を鳴らしている。
結奈は、ダンガリー伯爵の侍従と馬車に乗り込んだ。どうしてか、何時の一緒に居る猫の姿が無い。一人で行く気か?俺は、馬車の行き先を知るために、顔を知られていない部下に尾行を依頼する。




