シャロン(猫)!
ロナルドにも見つからないように、ホールの横にあるドアを開いてでる。
其処は、広い廊下で、真っ直ぐに延びている。廊下の両側には、ドアがあり、多分部屋に繋がっているのだろう?
私は、この機会にシャロンを探そうと奥へ進んだ。
ここへくる途中には誰にも会うこともなく、十字路に来た。
私は、どちらに行けばいいか迷った。
その時微かだが、猫の鳴き声が聞こえた。
(もしかして?シャロン?)私は、鳴き声を頼りに右に折れて進んだ。
どのくらい来てしまったのだろう?私は、宮殿で迷子になってしまった。
奥のドアが急に開いて、私は、その部屋に連れ込まれた。
突然の事にビックリして、大声で叫びそうになった私の口を、塞ぐ様に、唇が押し当てられた。
私は身動きできず、目を開けて相手の顔を見た。
相手も唇を離すと、今度は私を抱きしめて、耳もとで話し出す。
「結奈、逢いたかった!」
「シャロン!ちょっと離しなさい!突然何するの!」
「結奈?もしかして怒っているの?」
「当たり前よ!私のファーストキッスを奪うなんて!それもムードもない、これは強姦よ!返してよね!」
「結奈、もしかしてキッスは、初めてなの?俺が初めて!」
「シャロン!さっきから初めて!初めて!煩いわよ!どうせ私は売れ残りのお局様ですよ!」
「結奈、何で怒るの?俺は喜んでいるのに、君の唇を、俺が初めて口づけ出来たことが、どれだけ、俺が幸せに思っているのか解らないの?」
「解らないわよ!キッスは、お互いの同意の上でするものでしょ?今は一方的に貴男が奪ったのでしょう!」
「解った!結奈!君が欲しい!愛している・・・・・」
静かな部屋に、<ビシッ!>と平手打ちの音が響く。
「シャロン!呑気に戯れている場合ではないのよ!面倒な事になってきたわ。暫くは、私ここにいられそうだから、私の、部屋にきて作戦を練りましょう。」
俺は、この部屋に飾ってある大きな額縁の前に、結奈を連れてきた。
「シャロン!もしかして?この絵の人、貴男なの?」
銀色の髪を後ろで軽く結び、青と緑色した眼。
「年齢は?何時、書いた絵なの?本当に素敵な王子様なのね」。
「この時は18位かな?隣がヘンリーだよ。当時は15歳だ。」
「ねえ~?シャロン。貴男この絵と変わっていないと思うよ?弟のヘンリーは、十分に叔父さんでしょう?貴男は歳をとらないの?」
「氷の魔女の呪いの所為だよ。
俺が侍従の話を聞いたのが22の頃だったそのころ、俺の縁談の話があり、俺は辟易していた。
いくら国の為とはいえ好きでもない女性と結婚出来ないだろ!俺は、この城を飛び出して、氷の魔女の話に乗ったのだ。
まあ興味もあったし、何しろ絶世の美女と噂の、美女を見てみたいと思った。
男なら当然の感情なのだよな。
魔女は俺の魂を抜き猫として、俺を側においた訳だ。
それからは俺の歳は取らず、見かけもそのころと同じなのだ。俺の事怖いか結奈?」
「私には、今側にいるのがシャロンよ!初めて逢った時のシャロンも、何も変わりはないわよ。全然気にしないわ!だって、私は、ここにいるシャロンしか知らないから!」
俺は、こんな姿になった自分を嫌になり、なんども死を選んだが、死ぬ事が出来なかった。今、自分は生きていて本当に良かったと思う。
こうして時を経て、結奈と出会う事が出来たのだから、俺は、もう自分自身を恨む事はしないだろう。
神は、俺に結奈を授けてくれたのだと思った。結奈が愛しい。
薄暗い部屋に月明かりがさす、僅かな灯りに、結奈のドレス姿が浮かび上がる。
華奢な身体に、ドレスが流れるように身体の線を追う。
シンプルだからこそ、結奈の美しさを引き立てている。
初めてみる髪をあげた姿。結奈のうなじが情欲をそそる。結奈のうなじに唇を落とす。
結奈は身を竦めたが、平手はこなかった。
俺の胸には結奈の背中の温もりが伝わってくる。
結奈の、身体の向きをかえ俺の、前に立つ結奈の顎を指であげて、視線を向ける、彼女は瞼を閉じている。
俺は、唇を彼女の唇に合わせた。最初は優しく啄む様に、そっと彼女の唇を吸う。
彼女は一瞬唇を開けた、俺は、舌を彼女の中に進入差せて、逃げる彼女の舌を追いつめ、彼女の身体は崩れそうになる。
そのまま彼女を抱き上げてソファに座らせる。彼女の唇から甘い吐息が漏れる。
俺の理性の枷が外れる。ソファに彼女を押し倒した。
結奈は手で、俺の胸を突き放そうともがいている。
その時声が聞こえた。ロナルドだ!ドアが開いた。俺は猫になる。乱れたままの結奈を残して。
私は、変だ。シャロンの胸の鼓動を背で感じて、そのままお互いに向き合い唇を重ねていた。自分は初めての体験なのに、こんなに大胆にキッスしている。
これは?大人の口づけ?シャロンの舌が執拗に追いつめてくる。
私の頭に靄が架かり意識が朦朧とし、身体奥が痺れてくる。
私の甘い吐息が無意識に漏れる、自分自身の制御が出来ない。
シャロンに許してしまう自分の事が今は解らない?
ロナルドの声で、私は優美な夢から目覚めた。
「結奈!大丈夫か?何が遭った?」
「ロナルド?ごめんなさい!探してくれたの?シャロンを探していてね。迷ってしまって、気がついたらこの部屋。色々な事が有りすぎて、ここで眠ってしまったようね。
シャロンを見かけなかった。
猫の鳴き声を聞いたのよね?声のする方へ来てみたら、この部屋に入っていたの?可笑しいでしょ!」
「にゃお~!」
「やっぱり!ここにいたの!さあ!いらっしゃい!ロナルドが、迎えに来てくれたから戻りましょう。」
「結奈!髪が崩れているよ。それに顔が赤いよ?熱があるのか?医者に診て貰おう!」
ロナルドは、私を横抱きにすると、部屋を後にする。
「ロナルド!下ろして!このお姫様抱っこはないでしょう?恥ずかしいから、お願い下ろして下さい。それに熱もないわ!」
「結奈!もう俺の側から離れないと誓うなら、下ろしてあげてもいいよ」
「貴男まで、何を言い出すの?」
「結奈!今の言葉聞き捨てにならないよ!貴男までとは?他の誰なんだい?俺はそれが知りたいよ!」
「ロナルド!変よ。先ずはこの体制を解除して下さい。ロナルドの疑問にお答えしますから。」
「結奈、君が正直に応えてくれるのなら、下ろしてあげるよ。」
「解りました。なんでも話すから、下ろして!」
「それで?誰のこと?」
「つまり、殿下の事に決まっているでしょう!大勢の前で、告白するなんて非常識よ。私、今度こそは、胴体から首がなくなってしまうかと思ったわ。私、どきどきして胸が痛くなるようだった。だから殿下の事です。」
「ああ~・・・エンドリアか?まあ~殿下は自分の結婚を、白紙に戻すために君を利用したのかも知れないな?まさか!結奈を、本気で好きになったとしたら、我々は三角関係なのか!」
「もう!変な妄想は止めてよね。私本当に頭が痛くなってきたわ。」
「結奈!部屋で休もう!陛下に逗留する許可も戴いたから、結奈の部屋も用意されている。俺が、部屋まで連れて行ってあげるね。」
ロナルドは私の手を取り、長い廊下を先に歩いて行く。私は、シャロンと一緒に付いて行き、一つの部屋に案内された。そこは、二階の奥にある部屋だった。
ドアを開けた部屋は、応接間になっている。
重厚なカーテンが、窓に引いてあり家具はどれを視ても一流品ばかり、流石、この国の国王陛下のおわす宮殿だ。
何気なく置いてある調度品も、一流の職人達が、腕を競ったものばかりである。
その部屋付きのメイドさんが、お茶の支度をして私達の前に置いてくれた。
「お嬢様、お風呂の御用意もして有りますので、必要な時は、此方をお使いになってお呼びください。私は此で失礼いたします。」
「ロナルド、もう帰ってもいいわ。私一人でも大丈夫だから、メイドさんもいてくれるから安心して、今夜はありがとう!」
「結奈!もう少し、話さないか?俺は君に俺の気持ちを聞いて欲しい!最初に丘の上で君に遭った時は、男が着る様な服装で、この国では珍しい黒髪と、大きな黒い瞳を持った君に興味半分で屋敷に泊めた。
君には本当に驚かされたよ。自分の事を不審者だとか?窓からツタを伝って外へ出たりして、確かに、最初は君の事を利用しようと思った。
君がしていた腕時計。この大陸中探してもあの時計を作れる技術は、存在しない。
君の居た処では技術が進歩しているのだね。俺は、君から探りだそうとしていたのだ。
でも、君は、森の魔女の処へ逃げてしまった。
マジョリッタに言われた。結奈には、時計の技術以上のものがあると言われてね。
半年待つように言われた。半年後の君は想像以上に、村に貢献していた。
そして村の人に慕われていた。そんな君を眼にして俺は結奈の虜になり、結奈を好きになった。俺の眼にはもう、結奈しか見えない。愛している!」
そこへ、シャロンが、ロナルドに向かって飛びついた。
「おい!シャロン!痛いじゃないか!猫のくせに嫉妬しているのか?お前にとっても、結奈は大事な人だからな。痛い!引っかくなよ!解ったからもう帰るよ。結奈、俺の気持ちは伝えたよ。ゆっくりでいいから答えを聞かせて。良い返事を待っている。お休み!」
私は、ロナルドの告白に驚いていた。面倒な事が続いて頭が痛くなる。恋愛経験ゼロな私には、良い解決策は思い浮かばない。
「結奈?何を悩んでいるの?君はロナルドの事が好きなのかい?」
「シャロン!突然何を言い出すのよ!貴男は肝心な時には、直ぐ猫に戻ってしまって、一人残されて焦ったわよ。」
「彼奴、折角結奈とのいいムードを台無しにしておいて、今度は結奈を好きだ!愛しているだと!先に結奈を好きになったのも俺だから。結奈をロナルドには渡さない、無視すればいいよ。」
「大体可笑しいわよ、私は物じゃないわよ。渡す、渡さない?勝手に決めないで!この国はどうなっているの?私、自慢じゃないけどこの歳になるまで、男の人に誘われた事もなければ、まして好きなんて告白された覚えもない。それに、一度に三人に言われるなんて、タイプは違うけど、三人共イケメンばかりだし。こんな事絶対にあり得ないでしょう!自分自身、こんなにも持てるわけがないと思う。」
「結奈!自分の事を一番理解してないのは、君自身だね。君は誰よりも美しい、身も心も。だから、誰もが君に魅入られるのだよ。鏡の自分を視てごらん。素敵な女性が映っているだろ。自分自身で過小評価しては、君の事を、好きになった人への冒涜になるのだからね。」
「シャロン!貴男達の事を冒涜しているつもりもないの。私凄く混乱している。異界に来てから、私なりに頑張ってきたつもりよ。今まで、人との関係を拒否して生きてきた自分には、どうすればいいのか解らなくなるの。でも、シャロン!貴男は他の人と違うの。側にいるとホットするというか・・とても居心地がいいの。空気みたいに、有っても解らないけれど無くてはならない?生きてはいけないような気持ち?シャロンごめんね、私今疲れていて支離滅裂なこと話しているわ・・・・・」
結奈はそれだけ話すと、ソファにもたれて寝てしまった。俺は、結奈を抱き隣のベッドに運んだ。髪のピンを一つずつ外してやる。首飾りを取りドレスのボタンを外して、ドレスを脱がせた。キャミソールのまま、上掛けを肩まで掛けてやると、安心したように華奢な身体を、少し曲げて寝ている。君は、本当に俺の前では無防備なのだから。俺はそんな彼女の身体を、自分の腕に抱き、結奈の寝息を聞きながら、俺は優美な眠りに就く。




