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スノーボーダー 〜雪まみれ物語〜

作者: 葉月ちゃん

「……え〜、と言うわけでこれからこの北方スキー場に冬の間勤務する事になりました、大木紫苑さんです」

オジさん、オバさんだらけのレセプションホールにおずおずと入ってきた女性は、まだ高校を出たばかりの様な童顔だった。

「えっと…大木 紫苑シオンです。スキー・スノーボード共に初心者ですがこれから頑張って習得しようと思います。あっ、よろしくお願いします」

パチパチパチ…………

ヤル気の無い拍手の後、館内を案内してもらった。

「こちら食堂です、50人座れます」

「へぇ〜〜」

「んでこっちが源泉かけ流しの温泉です、露天風呂もあります。ここの掃除もお願いしますね」

「はぁ……女風呂ですよね?」

「当たり前です」

ピシャリと言い返されてしまった。

はは…

そしてゲレンデに出てきて、

「そして、捻挫してしまったり骨折してしまったお客様を運んだりする仕事もあります」

「それって……スノーモービルですよね?」

「が、あなたはお客様の様子を監視する役です」

「はい??」

「つまり、スキーかスノーボード出来なければいけません」

「………えぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

雪山に虚しく響き渡る諦め声…………



「ちぇっ、なんであたしがこんな予想外の出費なんか……」

ぶつぶつ言いながらスノボの靴紐を結んだ。

「よーし」

緩やかな坂の上でなんとか立ったが、両足が固定されている為うまくバランスが取れなくて、

ズザァー

と、数メートル滑って転んでしまった。

「いってぇ……んしょっともっかいやろ」

まだまだ、と立ち上がってまた滑ろうとした時、

「何やってんねん!!」

なんて言葉と雪球が飛んできた。

「痛っ、誰よもう!」

「オレや。お前ー、スノボ分かってるんか?」

紺色のジャケットと黒のズボンと言うスタイルの男性がゴーグルを外しながら言った。

うわぁ意外とイケメン………

顔のパーツが全て整っていて、切れ長の目が怒ったように睨み付けている。

「あ〜〜、昨日スノボ買ったばっかりで分かってるわけ無いじゃない、じゃぁ、あなた私にスノボ教えてよ」

「あぁ?何ゆーとんねん、そんな事言われんでもきっちり教えるわぃ」

……何かこいつムカつくけど、ま、いいや無料タダで教えてくれるなら。

「って言うかあんた誰?」

「気付くの遅っ、まぁええわ、オレは佐藤翔太。こう見えてもいっぱしのスノーボーダーやで」

「へえぇ〜、知らないけど。私は大木紫苑、よろしくね」

「あぁ、よろしゅうな。じゃ、早速始めるとするか」

「何から?」

翔太はずっこけた。

「何からってオメー、スノボの滑り方やろが!他に何教えるゆーねん!!」

雪まみれで立ち上がった翔太の鋭いツッコミ!を何とかかわして謝る。

「すいません……」

「よっしゃまずは真っ直ぐに滑る事から、ほいやってみい」

「え〜〜〜〜」

「えー、やない。ほれほれ」

「よ、よーし」

唇をなめてまた滑ってみた。けど、

ズザーー

5メートルほど滑って周囲に雪を撒き散らしただけだった。

「だめだそれじゃ、もっと力を抜いて滑ってみぃ。全然違うで」

「んなコト言われたって……じゃあお手本見せてよ、お・手・本!」

「ちぇっ、しゃあないな……こっち来い!お手本ってのを見せてやるよ」

そして付いて行くとハーフパイプがあった。

「えっここって上級者用のハーフパイプじゃない、こんなのできるわけ…」

「あるわい。言ったやろ、『いっぱしのスノーボーダーやで』って」

そう言うと翔太は滑り出していた。

まず右側の坂に向かうと、その坂を一気に駆け上がり空中に飛び出すとボードの端を持ってなるべく空中に留まる。

次の坂も、次の坂もすごい大技を披露して下で止まると、

「すっっっご〜い!!えー何でそんなのが出来るの〜?」

と、上で紫苑が大騒ぎしていた。

しかし、そんな事は気にせず翔太はガリガリと頭を掻いた。

「ちとやり過ぎやな……調子乗ってしもた。おい、ゲレンデに戻るで!はよう来い」

「え〜、怖い!無理!」

「無理ゆーな、大丈夫や!」渋々と言った様子でボードを足に固定し、翔太に言われたとおりに力を抜いて急な斜面にゆっくりと滑り出した。

「ひゃ〜〜、意外とスピード出てるぅぅ〜〜。うへぇーー」

「わーー!!こっち来んなアホ!わっ、コントロールしろ!曲がれよ!曲がれってボゲェ!」

すんでの所で猛スピードの暴走スノボを何とかかわした翔太は遠ざかって行く小さな背中に叫んだ。

「アホ!何しとんねん、早う止まらんかい!!取り合えず曲がれ!体重を背中かお腹側に傾けろ!!」

紫苑は濛々と巻き上がる雪がゴーグルを打ち付けるビシビシという音に混じって聞こえる翔太の声を聞きながら、必死で曲がろうとしていた。

(た、体重を背中側に傾ける……)

すぅ

っとあっけなく曲がれた紫苑は驚きのあまり、前を見るのを忘れていた。

結果、

ドッシーン

と木の幹にぶち当たった。

目を回している紫苑の所にすぅっと横付けした翔太はそんな紫苑を見て呆れ果てた。

「やっぱアホや。運良く曲がれたからって前見とらん馬鹿がどこに居る?」



「う………」

気が付いた紫苑は救護室にいた。

「あの……誰が運んで来てくれたんですか?」

「え?佐藤さんよ、お姫様抱っこで。いいわねー若いって。私なんかもーメタボで困ってるのよ〜」

おばさんの他愛ない悪戯(?)で顔が真っ赤になった紫苑だった。



ゴシ……ジャージャー…ゴシゴシ………

「手が冷てーよー(泣)、今度掃除と偽って絶対お風呂入ってやる」

「大変なこって」

くぐもった声が壁の向こうから聞こえた。

「さ〜と〜う〜、私がこんなに手ぇ冷たくして頑張ってるのにおぇは〜〜」

「はいはい、1人ゆったりと露天風呂満喫してます〜、へっ、どうだ!羨ましいやろ」

「……んもー、ずる過ぎ」

佐藤翔太が居なければ人見知りの私は馴染めなかっただろう。

そこんとこだけ感謝してるけど。

「お前も早く滑れるようになれよー、あっ、その前に冬終わるわな」

この意地悪い性格を何とかすればな〜〜。

頭痛が……。



次の日、翔太が来るまでの間にさっさと仕事を片付けて(雪かきだったりスキー&スノボの貸し出しだったり、果ては迷子の子供の捜索まで……)、

練習したかったのだがやっぱり着けた所で翔太が来てしまった。

「何や、まーだ練習もしとらんかったん?ま、それはさて置き、今日は初級者コース行ったらええで」

「えっ、止まれたらじゃなかったっけ?」

「んー、こういうのは体で覚えた方が良いんや」

「その前にリフトの乗り方教えてよ」

「あそっか、まず片方の靴を外してみ」

自分も外しながら言った。

紫苑が外したのを確認すると片足で地面を蹴ってリフトに向かった。

振り返ると紫苑がとんでもない方向に行っているのが見えた。

「何しとんねん、早う来んか」

そのとんでもない方向とは、今朝紫苑が寒い寒いと言いながら必死で雪を除けた所だった。

「何でこーなるの〜〜」

ベッシャーン

「あちゃ、やりおった」

雪まみれの紫苑は、溶けかけてきた雪で冷たいやら濡れるやらで最悪だった。

「もうヤダー、ぐっしょりだし〜」

「何言うとんねん、お前は左に行く癖があるから右に右にって意識すればいいんやで。はい、分かったならさっさと立つ!」

「…せめて手とか貸して欲しいなー」

「立つ訓練にもなるから貸さない」

「ちぇっ」

立とうとしても左足が固定されているので上手く立てないどころか、逆に坂の下の方に滑ってしまう。

「コツとか無いの〜?」

「んなこと言われても……もう一方の足で踏ん張ってみたらええんとちゃう?」

「雪だから滑っちゃうの」

「そうなったらもう自分で見つけてって言うしかないやんか」

右足で踏ん張って立ってみようとするが、どうも滑って上手く立てない。

そこで、足元の雪を踵で崩して踏ん張れるようにして立った。

「やった!ほら自力で立ったよ!!」

「ほーようやったやないか。次はリフトやで」

やっと褒めて貰えたと思ったら、もう次の課題。

リフト乗り場に行くとモーター音が否でも聞こえた。

「何か…モーター音が怖いね」

「そうか?慣れたらこんなもんやで。さっ、行こか」

リフトはゆっくりと回りながら、乗る人々を待ち構える。

線まで進むと自動的に(つーか至極当たり前に)椅子が近付いてきて、膝裏に当たる。

「そこで座る!」

急いで座ると下からすくい上げるように椅子に座れた。

「ほっ、座れたー。あ〜すごい高い!!」

ゆっくりと動くリフトは次第に高くなり、さらに吹雪で周りも見えなくなった。

「いつもこうなの?」

「え、吹雪のことか?あぁ、いつもこうや。たまには晴れたらええのにっておもてんねん」

「晴れたときってどんな景色?」

「も〜最高や!!いつでもWelcomeっちゅー感じや!」

翔太がそんなに言うんならきっと綺麗な景色なんだろーな、と思いながら真っ白の世界を見ていた。

「もうすぐ終着やから、スノボ真っ直ぐしとき」

「何で?」

「何でって、すぐに次のリフトが来るから前のオレらは邪魔やから退かんと、なっ」

「あそっか…」

その会話から間もなく終着に到着したが、真っ直ぐに滑っていたため、前の吹きだめに突っ込んだ。

「馬〜鹿、へへ、二度も同じコケ方しとるわい、はははっ」

「……………む〜」

雪まみれで文句を言い返す余裕も無いほど自分に呆れていた。

やっと笑ってくれたと思ったら、笑われていて。

不貞腐れて頬を膨らせた。

「そんな顔しても可愛くないで、ほらスマイルや、スマイル!」

にっと笑いかけて頬をつつかれたら、そりゃもう笑顔になるしか無いでしょ。

「分かった、笑顔でしょ、笑顔」

にこっと笑って立ち上がった。

「ほい、まずはもう片方の靴を嵌めてみ」

パチン

「はいOK」

「んじゃ次はこっちの斜面で左肩を下にして滑ったら、背中側に体重をかけて曲がる。ええな、その後止まれないだろうからこけろ」

「えー、コケるの〜。ヤダ、雪まみれになるもん」

「もともと雪まみれやんか」

「それはそうだけど…」

言い返されて何も言えなくなってしまった。

「つべこべ言わずにとっとと滑る!はい、行けぇ〜」

ドシーン

後ろから背中を押されて、勢いで右肩から滑り出してしまった。

「ちょっとジャンプして向きを変えろ!!右肩からになってるで!!」

バフッ、バフッ

大分慣れてきたみたいでちょっとのジャンプですぐに左肩を下に出来た。

(で、次に背中側に体重をかける……っと)

ズサー

「わっ、曲がれた曲がれた。やった!」

「やったな!ほな次止まれ!コケろ!」

ベシャ

「言う前にコケてた…か」

半ば諦めたように言った翔太の言葉も、白い息になってフワフワと漂っていく。

「さーやったよ!!次は何やんの〜?」

下の方で転んでいる体勢のまま、首だけこちらに向けて叫ぶ紫苑。

ザザッ

滑って、丁度紫苑の上にピタリと止まった翔太のスノボは、更に紫苑に雪をかける事になった。

「ぷはぁっ、ヒドーイ!何もそんなにやる事無いでしょ〜」

「ぁ……あかん、ごめん」

謝ってふと周りを見ると、滑っている人全てがこちらを見ているのが分かった。

「ちっ、人がようけ来とる。おい、ちょっくら休憩して様子見るで」

「えー、もうちょっと滑ってからにしようよ」

「こんな人がいとるんじゃ、滑りにくいんや、オレは!」

「悪かったですねー、ずぼらで。でもまだ下まで教えてよ」

「そりゃ教えますとも、お嬢様」

「皮肉はいいから」

「へいへい、んじゃ次はさっきと同じように左肩から滑って、今度は腹側に体重を傾けて右側に曲がるんや」

「OK」

また立って、反対側に滑り始めた。

ザザッ、ズサー

さっきより上手く滑れてるなぁ、と思ったら勢いが弱くなったらしく途中で止まってしまった。

「?」

ザザザー

翔太が滑ってきて、後ろからどつかれた。

「やったなぁ、やっと止まれたな〜。オレの教え方が上手かったからやろな」

うんうんと頷きながら翔太は、己の教育の上手さに感心していた。

「違う!私の運動神経の良さだよ〜」

「まーだアマの奴が何言うてんねや、も・ち・ろ・ん!オレの指導のお陰や」

「それはそうだけど……」

どや!と、勝ち誇った顔をしている翔太に敗北感を感じている紫苑だった。

(ま、負けた〜〜)



辺りはすっかり暗くなり、ライトだけが点々と山に灯っていた。

流石にこんな遅くまで滑っているのは私と翔太だけだった。

「うっ、寒っ」

「当たり前でしょ、冬なんだし」

口々にそう言いながら、人の居なくなった操縦室を尻目に、リフトに乗り込んだ。

「お前、一回目よりかなり上手くなったんとちゃう?」

「そ、そうでしょー。私ってば運動神経イイからね〜」

「そのセリフ、どっかで聞いたよーな気がするなぁ〜。誰の言葉だったけなぁ〜」

チラッとこちらを見ながら、嫌味たっぷり配合で翔太は言った。

「っるっさーい!もー馬鹿、佐藤翔太のバーカ!アホ!」

言い返すと、ゴンドラが揺れた。

「きゃっ」

丁度高いところだったので、思わず翔太にしがみ付いた。

「ゆっ、揺らさないでよ〜。怖いっっ」

「あはははっ、おもしれー。大木って高所恐怖症だったんだ〜」

面白がって更に揺らす翔太。

怖がってキャーキャー叫ぶ紫苑。

気が付けば、随分と強く翔太にしがみ付いていた。

「あっ、ご、ごごごごめん!邪魔だったよね!」

真っ赤になっ飛び退こうとすると、腕をがっちり掴まれていて抜けなかった。

「ななななな何っっ!?」

めちゃめちゃ動揺して翔太を見ると、腕を掴んだままこちらを向いていた。

「え………、何?」

翔太、めちゃ笑顔で(真顔で)。

「こうしてた方が暖かいやんけ」

…………そんだけかい!!

嗚呼、翔太と出会ってからツッコミが上手くなったなぁ……。

げんなりして、動揺した自分が恥ずかしくなった。

あぁバカなのはあたしです。


私と翔太は、また一回滑ってからリフトに乗った。

流石に夜は冷えるし、おまけに吹雪いてきた。

「さ〜ぶ〜い゛ー、死ぬー!凍え死ぬ〜」

「この位いつもやんか」

「知るか、そんなん!顔が凍る〜」

ヒュ〜、ビュー

風の音だけが木霊する。

木の梢がビシビシいう音が聞こえる。

雪と寒さだけがゲレンデを支配していた。

「う゛〜、コレ滑ったら今日のレッスンは終わりにするではよ滑ろ、凍るわ」

「やたっ、んじゃー早く滑っちゃおっと」

ザサー

ザッ

2つの影だけがゲレンデを滑ってゆく。

先に下におりていた翔太は、あと5分は来なそうな紫苑を待つ気はあまり無かったようだ。

先に建物の方へ行ってしまった。

「ひっど〜、あーいう薄情な人間にはなりたくな〜い」

ひゅ〜、びゅぉおぉ〜

1人きりになったゲレンデでは風が大きく聞こえる。

1人ではこの広いスぺースは寂しいだけ、虚しいだけ。

ズザッ…ベシャ

「やっぱ、あんなんでもいた方がマシか……」

半分雪に埋まりながら呟いた。

心も周りも、薄ら寒い冬の夜更けだった。



それから1週間、昼間はスキー場のアルバイトをし、夜は終わりまでスノボの練習に明け暮れていた。

そのせいか持ち前の運動神経の良さかは知らないが、メキメキ上達した紫苑は中級者コースを(なんとか)転ばないで滑れるようにまでなった。

「へへっ、楽勝楽勝」

初級者コースで腕ならしをして、ちょっと中級者コースを滑り降りた紫苑は、リフトの所でゴーグルを外しながら言った。

ザッ

「ほ〜、大分上手くなってきたやないか」

「もっちろん!最近なんだか楽しいし、面白いよね」

「おもろなかったらスノボやってへん、どや!上級者コース、行かへん?」

このスキー場の上級者コースは、かなり難易度が高いと聞いていたので、

「え〜、怖いからヤダ!」

と、にべも無く断ったが、

「えぇやん、行くで!」

と、上級者コース専用のリフトの方に引っ張って連れて行かれた。

「ひゃ〜〜、おーたーすーけーを〜〜〜〜」

夜の雪山に虚しく響き渡る許しを請う叫び……。

寒っ


「…だからイヤだって言ったのに」

上級者コース(山のてっぺん)は、とてつもない吹雪で周りなんか見えやしなかった。

「こりゃ…ブリザード並だな」

「ブリザードなんて…体験したことあんの?」

「あぁ、まぁ…南極で」

「南極!?あんたホント何者?」

「佐藤翔太ですが何か?」

「もういい……。早く滑っちゃお」

ザッ

先に滑り出したトコまでは良かったのだが、10m進んだとこで地面ががくっと下がった。

「あっそこは…やめ!転べって!!その先はキッツーィ山の斜面やで!!」

「さ…先に言え〜〜〜!!」

ザッガガッ…ボスッ

やっと転んだ所は、柵の目の前。

崖の5mほど手前だった。

「ふー、危なかった…」

ザッ

「ほんまオレのゆう事聞ーとらへんかったからやで。手間かけさすな」

ゴーグルをしているせいか、全く表情が読めない翔太に少しふくれっ面して見せながら言った。

「あんたが先に言ってなかったのが悪いんでしょー、も〜」

すると珍しく、

「まーそれもあるな…ごめん」

と、謝ってきた。

「……めっずらしー、明日雪崩起きるんじゃない?今たくさん雪降ってるし」

「なっ、なんやて!オレ普段そんなに謝ってないかな……」

「ジョーダン冗談!そんな事より、早く下降りようよ」

笑って誤魔化し、立ち上がって下の方へ滑り降りていった。



それから夜中よるじゅう、雪は降り続けた。



次の日、紫苑はオーナーに呼び出されて、今日からスノボでの見回りをお願いされた。

「まぁ、夜よりは寒くなくていいんだけど…やっぱ、中の掃除の方が暖かくてよかったな」

独り言を呟いたとき、いきなり横から声が聞こえた。

「そやね」

「ぅわぁっ、なななな……何よ!イキナリぃぃっっ!!(絶句)」

「あハハハハハっ、ビックリしすぎや〜、あーウケるっっ」

「ひっど〜、ってゆーか昼間に来るなんて珍しいね、雪崩になっちゃうよ。どうしたの?」

「雪崩はやめんかい!昨日から雪崩雪崩って。雪崩は恐ろしいで〜、どうなっても知らへんど〜って、語らせる気か!アホ!」

「あはは〜、さすが大阪人!ノリ突っ込みも上手いね」

「そっちかい!まあええわ、スノボ仲間とすべりに来たんや、文句あっか?」

「ないです…仲間ってあの人たち?」

紫苑の指差す先には、ド派手なウエアの一団が居た。

「まぁそうや、見た目とちごーて意外とええ奴ばっかやで」

「ふ〜ん、じゃあ、あたし仕事で見回り行ってくるでまた後でね!」

「後でな!」



この日は(前日に比べて《前日の気温−5度》)気温が高く、日光が照ってぽかぽかと暖かかった(それでも−1度だけど)。

そして、紫苑たちが丁度滑っている時に雪崩警報が発令された。

スキー場としても無視するわけにはいかず、場内アナウンスで雪崩警報の発令を知らせた。

しかし、紫苑は森の中に迷い込んでしまった子供の捜索をしていた。

そして翔太達は馬鹿騒ぎしながら集団でゲレンデをを滑っていた。

2人はそれぞれ違う場所で、それぞれアナウンスを聞いていなかった。

それより遥か山頂で、昨日積もった雪が解け始めてヒビが入ってきていた。

そんな時、上級者コースで滑っていたスキーヤーが急な斜面で転んだ。

「ぅわ〜!!」

ガッ、ズザー

その音でヒビが入っていた雪が一気に斜面を駆け下り始めた。


ドドドド…

不気味な地響きが聞こえてきた。

「…何の音ですかね?」

救護室に子供を運んで、廊下に出てきたところだった。

「さぁ?ちょっと見てきてくれない?」

職員のオバサンに言われた。

立てかけてあるスノボの所まで出てきた所で丁度翔太が来た。

ザッ

「上の方で雪崩があったんやて!早う放送で知らせなアカン!!」

「……え?」

「え?なんて間抜けな声だしとる前にはよ!!」

「う、うん!」

ダダッと放送室に駆け込んで緊急放送を始めた。

『緊急放送、北方山で雪崩が発生した模様。至急その付近のお客様は速やかに移動してください、繰り返します…』

放送を終えて出て来た紫苑は自分も埋もれちゃかなわないと、急いで表へ飛び出した。

先に駐車場の方まで来ていた翔太は駆けてくる紫苑を見つけてホッと一息ついた。

「おい!こっちやし…」

ゴアァァッっっ

目の前の紫苑や車が見る見るうちに追いついてきた白い塊に飲み込まれていった。




『雪崩に埋もれた場合、約15分以内に救助されなければ死ぬ』




レスキュー隊に連絡して、雪掻きを持って来て掘り始めた。

「く……。しょ……う…た、…。」

微かな声は雪に埋もれ、今にも途切れそうなほど弱々しかった。

その声はかつて南極で活動していた時の事を思い出させた。

「待ってろ!今助けるで!どこや、紫苑!!」

ガッがッ

意外と硬い雪は掻き分けるのがやっとで、あまりはかどらなかった。

「くそっ、声出せ!どこや紫苑」

「こ……コ…」

それは右の方から聞こえてきた。

ガッ…キィッ

甲高い金属の音がした。

そこを掘ると見覚えのあるシューズが見えてきた。



時間タイムリミットまで、あと約11分。



そのシューズは右足だったが、彼女の身長(164cm)を考えると顔まではまだまだだった。

「くそっ、レスキュー隊は何やっとんねん!おせーっつーの!!」

膝までは何とか見えてきたが、残り時間もあと9分になった。

「ペースアップしてかなあかんかな…」

ガッカッ。ガッがッ、ガッ。

何とかかんとか胸の下まで来たが、恥ずかしくてよく見れない。

「……なんだかんだいってこいつも女なんやな」

ガッ

「…そーゆー意味じゃあオレも男やな…」



時間タイムリミットまで、あと約3分。



「何でここまでお約束……?」

翔太が途方に暮れたのも無理は無かった。

顔の部分だけ雪が厚く、ものすごく硬かった。

「しゃあない、オレがやんなきゃ他に誰がやる?」

自分を励まして再び掘り始めた。

今までのと強度が全く違う。

今までのは何とかでも掘れていたのに、今度のはまるで鉄板を掘っているかのようだった。

少しもはかどっている気がしない。

ガッガッ

「くそっ、はよせんと時間がのうなる」

ガッガッ

やっとトレードマークのオレンジの帽子が見えてきた。

「よっしゃっ」

けれど、ここからは素手でやらないとその人の顔にスコップがグサッ…なんてことになりかねないからだ。

ザッザッ

思うようにはかどらない自分にイライラして思わず、雪に八つ当たりしてしまう。

「くそっ、何でや!」

拳で紫苑の顔の上の雪を素手で殴ったら思いがけなく割れた(自分の手も血がでたけどね)。

「紫苑!!」

抱き上げると少し身動きしたが冷たかった。このままではマズイ……と思った翔太は心臓マッサージをし始めた。

その内、紫苑の体がぴくぴく動いて息をし始めた。

このままではマズイ……と思った翔太は心臓マッサージをし始めた。

その内、紫苑の体がぴくぴく動いて息をし始めた。

「ぅ……ん、あれ翔太どうしたの?」

やっと到着したレスキュー隊の騒音に負けない大きな声で紫苑が言った。

「紫苑……」

安心した翔太は紫苑の華奢な体を痛いほど(紫苑は痛かった)抱きしめた。

「なッ、どうしたの翔太!らしくないよ」

ちょっと驚いて翔太を見ると、肩が震えていた。

「翔太……?」

「アハハハハハ……あ〜〜〜よかった!!ほんまどうなるか思たでー!」

…ちょっとでも泣いているかと思った自分がバカだと思った(作者も…)。

「やっぱオレが居んと紫苑死んどったで〜!オレってばすごい!うん!!」

「……なんかズレてる気はするけど、助けてくれてありがと♪翔太」

「朝飯前や!どーだ、感謝せい!」

キュッと目を細めて笑う翔太が少しずつ近付いてってる事に、紫苑は笑顔に気をとられて気付かなかった。

「翔太……近い」

こちらも笑顔のままで言った。

「はは…気のせいや……」

そこまで言うと更に近い気がしてくる。

「ホントに……翔太近い」

「気のせい気のせい…」

また更に近い気が…もう気じゃなくて本当です。

「わっわっ、ちちちちち近〜い!!何……ん…」

焦って離れようとする紫苑を強引に押さえてキスした翔太の勝ち!

じゃなくて、いやホントに翔太が紫苑にキスをした。

「…んっ…なっ何やってんの!??」

「何って…キスしただけやん、何か問題でも」

「何でそんなさらっと『キスしただけ』なんて言えるの?フツーキスって好きな人とだけするんでしょ!!?」

「あー、紫苑の中じゃそー思てるわけか〜、多分ご想像通りやと思うけど」

周りの雑踏が嘘のように消え、吹雪の音だけが2人を包む。


「好きやで」


あまりにもサラッと言って、まるで今日の天気を聞かれて答えただけのように周りには見えるだろう(なと思った)。

思考回路が混乱して固まっている紫苑をよそに、翔太は何度も何度も口付けた。

「ヒューヒュ〜、熱いね〜お二人さん」

その言葉で翔太のスノボ仲間が歩いてきた。

「なっ、お前らどっから……?」

「俺たちゃさっき助けられたんだ、レスキュー隊にな。で、横になってろと言われて大人しく横になったらどっかの誰かさんが熱〜いチューをしているのが見えたわけで。へへへっ」

「くそっ」

とか言いつつも真っ赤で照れている翔太は満更でもなさそうだった。

「ホントにコイツが惚れるのは珍しいぜ、大切にしな」

「は、はぁ……?」

「さ〜て、元気になったことだし、そろそろTV局のカメラマンとかリポーターがわんさか来てるだろうよ。ちょっくら、取材にでも答えてやっか」

と、翔太の友達は向こうの方に行ってしまった。

「……つくづく変な人だと思うなぁ」

「あれはあれで人生楽しんどるからええんとちゃう?」

「まっ、そーだね。それより放して!1人でも起きれるよ〜」

ジタバタして翔太の手から逃れようとするが、まったく動かせない。

「しゃーない!負傷者はレスキュー隊に引き渡すとするか!」

お姫様抱っこで紫苑を持って立ち上がった。

「やめ!自分で歩けるってば〜!」

笑いながら歩く翔太に、泣き笑いしながら暴れる紫苑。

2人とも来年の冬に向かって(季節も)歩き始めた。




                   ♪THE・END♪




なんだかんだでやっぱシリアスには出来ないなと思いました。

もしかして、もしかしたらこの続きを書けたらいいかな〜とか思っちゃったりしちゃったりするかもしれません。

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