ハコニワ
家族関係最悪
妹と喧嘩した
神様に能力をもらった
「ん・・・」
チュンチュンという小鳥の声で目を覚ました
起きてみると花瓶が割れていた
「あ・・・」
そうだ
怒鳴ってドアに・・・・・・
「・・・あれ?」
片付けなきゃ、と体を起こして瞬きすると花瓶が消えていた
否、戻ったと言ったほうが正しいだろう
「・・・花が飾られて・・・え?・・・どうして・・・」
わけがわからなかった
さっきまで割れて放置されていた花瓶
それが今では割れる前の姿を取り戻し、とても綺麗な花が飾られていた
「・・・わけわかんない・・・・・・あ」
思い出した
私は能力をもらったということ
神様に会ったこと
変なバトルに参加したこと
「・・・箱庭の能力・・・」
自分の手のひらを見る
何の変哲もない自分の姿
何かの力を得たとは思えない
「・・・えいっ」
軽く手を振ってみる
・・・何も起こらない
「やっぱ、夢は夢かぁー・・・」
そう言ってゴロンとベッドに寝転がる
すると・・・
「・・・お姉ちゃん?」
「!!」
妹の声
ずっと聞いていなかったような気がしてくる
とても懐かしく思えた
昨日聞いたばかりだというのに
「お姉ちゃん、朝ご飯だよ?ここに置いておくね。いってきます・・・」
そう言ってパタパタと音を立てて遠ざかる妹の気配
いつもと変わらない日常
いつもと変わらない妹
・・・何も変わってなんかいない
「・・・神様なんか・・・いないんだ」
そう呟いた時、きらりと視界の端で何かが光った
「何・・・?」
光った場所を見るとそこにあったのはドールハウスだった
「・・・かわいくない・・・」
中にあるのは自分とよく似た人形
妹と似た人形
やっぱり妹のほうが可愛らしかった
少しだけ羨ましかった
「でも、どうしてこんなものが・・・」
もう一度見てみると知らない人形が増えていた
黒いスーツを着ていて、玄関でウロウロしている
というか・・・
「人形が・・・動いてる!?」
思わずドールハウスの玄関を見ていると、妹の人形も動き始めた
妹の人形は玄関に向かってしまった
そっちには変なのがいる・・・
「あっ・・・」
思わず声が出た
理由は簡単
黒いのが何かを取り出したから
それは銃だった
スーツを着ているから?
違う
小さくてもわかる
黒い凶器
その時、下から妹の声がした
「きゃああああああああああああああああああ!!!!」
それは間違いなく悲鳴だった
思わずドールハウスに触れてしまう
ドールハウスががたりと揺れると同時に・・・
「なに・・・?地震・・・!?」
グラグラと揺れ始めた
家が
「・・・もしかして・・・これ・・・」
これはドールハウス・・・でも、現実の私の家・・・!?
それを察したとき、気づいた
この人形は私達の姿をしている
つまり、私達自身・・・このまま撃たれたら妹は・・・
「・・・!!」
黒いスーツの人形を掴み、部屋を出る
走っていくと、そこにはドールハウス内で見た光景があった
立ちすくむ妹
銃を突きつける黒スーツの男
私の手には黒スーツの男の人形が握られている
「あんたなんかに・・・!!私の妹は!殺させない!!!」
そういって人形を振り上げると男の顔が焦りに変わる
「ちっ!使い手はお前か!!死ね!」
そう言って引き金を引く直前、人形が叩きつけられる
人形は叩きつけられた衝撃で腕や足がへし折れ、あらぬ方向へ曲がる
「ぎぃっ・・・!!」
悲鳴を噛み殺したような声が聞こえて黒スーツの男を見ると・・・
人形と同じように腕が曲がり、立っているのすら辛そうに見えた
「・・・夢じゃなかったんだね。神様」
思わず呟く
そして、トドメを刺す
ぐしゃりと
何度も踏む
「ひぎっ・・・あぐぁ・・・」
何度も・・・何度も・・・
耳障りな声が聞こえなくなるまで
「お、お姉ちゃん・・・?」
声が聞こえた瞬間、ぴたりと足が止まる
妹の怯えた声
そりゃ怯えるよね、と心で苦笑する
一心不乱に人形を踏み続ける姉とそれに合わせて悶え苦しむ黒スーツの人
「・・・ごめん」
怯える妹から目を背ける
怖いよね
何も分からずに銃を突きつけられて、その後は急に引きこもりの姉が出てきて・・・わけがわからないうちに黒スーツが死んで・・・
「ありがとう・・・お姉ちゃん」
・・・え?
今、妹はなんて言った?
確かにお礼の言葉が聞こえた
ありがとう・・・と
「助けてくれたんだよね。私のこと」
「・・・・・・」
「お姉ちゃん、やっと出てきてくれた。久しぶりだね」
「あ・・・ひ、久しぶり・・・」
「ふふっ。お姉ちゃん、ひょっとして緊張してる?」
そう言って顔を覗き込んでくる妹
「・・・あれ?お姉ちゃん・・・どうして泣いてるの?」
「え?」
・・・頬を伝う温かい涙
あぁ、私まだ・・・生きてる
怖かった
銃を持った男を前にしたときいっぱいいっぱいだったから
ただ、人形を壊すことしか頭になくて・・・
恐怖が今になって押し寄せてくる
怖い
怖い
「大丈夫、お姉ちゃん」
その声が聞こえた瞬間、温かいものに包まれる
ああ、妹が抱きしめてくれたんだ、と気づく
・・・あったかい
それに、安心する・・・
「お姉ちゃんがやっつけちゃったじゃない。もう怖くないよ、ほら、怖くない怖くない」
そう言いながら頭を撫でてくれる
本当に心が落ち着いてくる
なのに、涙が止まらない
「・・・ひくっ・・・うう・・・うぁぁぁ・・・」
「泣いてもいいよ、怖かったよね・・・」
そう言いながら妹も涙を流す
二人でいっぱい泣いた
後に聞いたところ、妹はもらい泣きしやすいらしい