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お風呂 のちに この国の現状

感想、お気に入り登録ありがとうございます。


 やり過ぎたお母さんに説教した後、僕はお母さんに言われてひなたとユエを連れて風呂場にやって来た。既に男湯は沢山の人で賑わっていた。女湯は元々女性が少ないのか、ゆったりと入れるみたいだ。


「それじゃあ、ユエをお願いね」

「何を言っているの? リンも来るのよ」

「いや、僕は男湯だし……」

「あんなむさ苦しい男の中に可愛いリンを入れたらどうなるか、想像もしたくないわ」

「何を言っているの!?」


 一体何があるっていうの!?


「ひな、お兄ちゃんと入る」

「ねー。それにユエちゃんの世話はリンがしないとね。身体を綺麗に洗ってあげるのよ」

「あうっ」

「いや、流石にそれは……」

「下の世話もしてるんだから気にしない気にしない」

「問題が有るって!」

「ユエちゃん、いいわよね?」

「わ、私はリン君に身も心も捧げていますので、その、大丈夫です」

「ね? ほら、行くわよ」


 無理矢理腕を掴まれて家族風呂と書かれた所に引きずり込まれた。


「待って、待っててば!?」

「却下よ。それにリンが入れないとユエちゃんはお風呂にずっと入れないわよ」

「それは困ります……リン君に臭いでご迷惑に……」

「女の子からお風呂を取り上げるなんて最低よ?」

「それは……確かに……」


 あれ、なんだか内容がおかしいような?


「ほら、行くわよ。別に家族なんだから問題ないしね」

「うぅ~わかったよ……」

「それに可愛い美少女とお風呂なんて望んでも入れないわよ」

「お母さん!?」


 服を脱いでさっさと脱衣所からひなたと共に出て行った。残された僕とユエはお互いに見詰め合って真っ赤になる。


「お、お願いしますリン君」

「うん。そうだね」


 自分の服を脱いでからユエの服を脱がせる。なんだかこれだけでいけない事をしている感覚に襲われる。ユエも真っ赤になって俯いているし。

 なんとか服を脱がしてから抱き上げる。柔らかくすべすべでもちもちしている肌が僕の肌に触れて気持ちがいい。って、駄目だ駄目だ!

 邪念を払って風呂場に移動する。洗い場ではお母さんがひなたを洗っていた。ボディソープやシャンプーも設置された花から出ている辺り、お母さんが作ったんだろう。

 っと、忘れないうちにユエの傷口にお湯などがいかないように精霊魔法を施しておく。


「リンもこっちに来なさい。女の子の洗い方を教えてあげるから」

「うん」

「じゃあ、ユエちゃんを椅子に座らせてね」

「あ、あの……よろしく、お願いします……」

「こ、こちらこそ」


 それからしっかりと洗い方を教えて貰った。それが肌を傷つけない為に手に泡を付けてマッサージしながら洗う方法だったので凄く色んな意味で危なかった。ユエも声を必死に我慢していた。次に僕も同じ方法で洗うように厳命されてしまった。


「リンもソレは別にして美少女の身体なんだから当然でしょ?」

「お母さん!?」

「あうっ、リン君の……」

「おっきい」

「見るなーっ!!」

「ふふふ。息子の成長はいいものね。おっきくしておいた甲斐が……」

「何してんの!?」

「アバター制作って色々とできたから、将来息子が悩まず、誇れるようにしてあげただけよ。母さんって優しいわね」

「ぐっ……行くよユエ!」

「は、はい」


 僕はユエを抱え上げて広い浴槽へと入っていく。果物の匂いがしていい感じだ。それに身体の中から温まる。


「いい湯だね」

「そう、ですね」


 膝の上に女の子を乗せての入浴。ひなたとはほぼ毎日だったけど、同い年の女の子となんて初めてで凄く緊張する。


「む、そこ、ひなの……」


 こちらに寄ってきたひなた。ユエを無理矢理どかせようとしている。


「あっ、ごめんなさい」

「ひなた」

「嫌」

「何も言ってないけど」

「嫌」

「リン君、私なら大丈夫ですから」

「ん~。なら、こうするか」


 両膝を開いてユエを左側の太ももに乗せてあげる。


「おいで、ひなた」

「ん」


 ひなたを右側の太ももに乗せてしばし椅子になってあげる。2人の対応は冬の気候である今、とても暖かい。


「あら、両手に花ね」

「まあ、間違ってはないよね」

「ん」

「ユエちゃんはどう?」

「は、はい。私なんかがリン君の花になっても大丈夫なのか……」

「あら、自身を持ちなさい。その姿は美少女よ。自分で作ったんでしょう?」

「そう、です。自分を元にして違和感がないように変更しています」

「ほら、大丈夫よ。そうね、リンはどう思っているの?」

「そ、その……可愛いと思ってるよ」


 恥ずかしくてついそっぽを向いて頬っぺたを掻いてしまう。


「あうっ!? あ、ありがとうございます……」

「お、お礼を言われても……」

「わ、私はリン君のものですからお礼を言うのは当然です……」

「ものって……」

「り、リン君さえよければこの身体を好きにつ、使ってくださ……あうぅぅぅぅっ」


 恥ずかしさがオーバーヒートしたようで、湯気まで出ているような気がする。実際に出ているし、それはお湯のなんだけど。


「お熱いわね」

「むー」

「お、お母さん。これからどうするの?」


 困った時は話題変換が大切だよね。


「そうね。とりあえずお家を作るべきね。ダンジョンの近くの土地を貰えるから、そこを好き勝手に改造するわ。リンは何か希望があるかしら?」

「動物をいっぱい育ててみたいかな」

「ん。牧場? 魔物園?」

「いいね、それ! そうしようか。僕って戦闘はあんまり得意じゃないし」

「モンスターブリーダーね。確かにリンのスキルからしていいわね」

「ダンジョン攻略もリン君が育てたモンスターさん達に頑張って貰えば楽かも知れません」

「そうよね。何も私達が頑張る必要はないわ。モンスターを放って攻略しても貰えばいいのよ」


 お母さん達も乗り気だ。でも、これって難点があるよね。


「問題。モンスターだけ、敵、誤認」

「それは問題かしらね」


 人の居ないダンジョンなら問題無いけど、間違われたら確実に狩られるよね。後はドロップとか回収できない事か。


「あの、それなんですけど……人を雇って一人に複数のモンスターさん達をつければ問題解決ではないですか? 回収できないドロップも拾えますし」

「それだ!」

「それね。確かにその方法ならパワーレベリングも出来て便利ね。そうなると信頼できる人が……奴隷か」

「奴隷はあんまり……」


 奴隷は使いたくない。ひなたの教育に悪いし、僕は使いたくない。いや、見方によってはユエも奴隷になるのだけど、彼女やテイムした子達は僕の友達だ。


「まあ、其の辺は考えていきましょう。人の姿さえしていれば――居るじゃない。いいのが」

「「え?」」

「あ、精霊」

「そう。人型の精霊に頼めばいいのよ。精霊も育ててね」


 人型の精霊ならダンジョンで会っても人間と変わらない。つまり連れているモンスター達も他の人達と出会っても大丈夫。


「それじゃあ、それで……あ、雪が降ってきたわね」

「そうですね」

「雪が降る中で露天風呂に浸かる。いいね」

「ん」


 カコーンというししおどしの音も響いて風情が出る。


「お酒が飲みたいわね」

「お父さんとどうぞ」

「そうね。後で一緒に入りましょうか。っと、私は洗濯をしているからゆっくりと浸かっていなさい」

「じゃあ、お母さん達は置いておいて100まで数えようか」

「ん」

「はい」


 100まで数えてしっかりと温まった後、脱衣所に戻って精霊魔法で高速乾燥させる。服もお母さんが洗ってくれて高速乾燥をしていてくれたのでちゃんと着れる。着替えた後は改めて外に出る。


「服を買いに行きましょう」

「そうだね。ユエに服を買ってあげたいし。でも、売ってるの?」

「……売ってる訳ないわね」

「売ってますよ?」


 声に振り返ると、そこにはヴェロニカさんが居た。髪の毛はしっとりと濡れていてお風呂上がりだという事が伺える。厚手のローブを着ていて寒くはなさそうだ。ユエに渡したのとは別だけど、ローブを何着か持ってるんだね。


「といっても、品揃えはよく有りませんけど」

「布と裁縫道具はあるのかしら?」

「ありますよ。修理用のですけど」

「わかったわ。何着か買いましょう」

「では御案内致します」


 それからヴェロニカさんについて皆で買い物だ。服を買うなんて久しぶりだ。お母さんが服飾関係の仕事をしているので、自分で作っちゃうしね。




 ヴェロニカさんに案内されたのは小さな二階建ての商店だ。売っているの物は雑貨くらいしかない。


「ここが商店です。必要な物は基本的に注文になりますが、服なども多少は置いています」


 ヴェロニカさんが説明しながら入っていく。僕達が中に入ると直ぐに店員のお姉さんが近寄ってきた。


「ヴェロニカちゃん、いらっしゃい。注文かしら?」

「この人達の服を買いに来たんです」

「あら、エルフじゃない。初めて見たわ」

「初めまして。私はエリゼよ。よろしくお願いするわ。こちらが息子のリンと娘のユエとひなたです」

「「よろしくお願いします」」

「ん」


 ひなたは僕の後ろに隠れてしまう。それを見て30前半くらいのお姉さんはきにした様子もなくベッテと名乗ってくれた。


「クロード様のお客様ですので、その扱いでお願いしますね」

「そうだったのね。服だったら上にあるから好きなのを選んじゃって。代金はクロード様から頂くから」

「あら、いいの?」

「ええ、構いませんよ。友好には友好をです。アレには釣り合いませんが、どうか受け取ってください。そうですね、一人三着くらいまでどうぞ」

「そういう事ならありがたく貰うわね」


 お母さんもこう言われたら貰うしかないよね。この時代の服だと安くないと思うし、特に物資不足のここじゃね。


「行くわよ」


 お母さんに従って僕達は二階に上がって服を見ていく。まずはユエのからで、オフショルダーのニット(黒)が選ばれた。ひなたは黒のワンピース。お母さんはお父さんのを選びに行ったのでわからない。僕は適当にズボンとシャツ、上着を貰った。お母さんやひなたに任せたら確実に女物を選んできそうなので自分で選んだ。


「ちっ」

「残念」

「あはは……」


 なんとか助かったようだ。その後、最初に貰ったお金で雑貨などを買っていく。明日か明後日にはここを出て村に向かうだろうしね。










 クロード







 執務室で大量の書類を処理している。先の戦いでは砦の内部に侵入され、もう少しの所で陥落させられる所だった。それもこれも人族至上主義の連中のせいだ。我が国の中にも存在し、亜人許容派と至上主義派の対立がある。亜人許容派には私達のような国境を警備している者や国の現状を理解している者達が多い。逆に至上主義派は国の現状など理解せずに亜人を排除しようとしている。亜人……獣人が我が国の国境を脅かす侵略者達と戦う優秀な兵士だというのにだ。彼らにとって亜人は奴隷にして働かせればいいと思っているのだろうが、それは間違いだ。彼ら自身の意思で戦って貰った方が効率がいい。


「クロード様、アレはよろしいのですかな?」

「ギリアムか。構わない。エルフ殿からの友好の証だそうだ」


 部屋に入ってきた老執事がガラスの嵌った窓をコンコンと叩いて示したのは、ここからでも見える巨大な湯気を出す光る木だ。


「これを見てみなさい」

「……これは誠ですか?」

「そうだ。全く、いい拾い物をした。常識外れの事をしてくれるのだけどね……」


 胃薬の瓶を開けて粉を口に含んで水で飲み込む。これで痛みは多少、ましになるだろう。


「光るリンゴにお風呂ですか」

「石鹸みたいなものを出す花まであるそうだ」

「売れば金策に出来ますな」

「売れないさ。友好の証なのだからね」

「残念です」

「その様子だと駄目だったか」

「ええ。増援や物資の提供はできない。現状で死守せよとの事です」

「ふざけているな」

「ええ、ふざけています」


 増援の要請と物資提供の依頼を現状を事細かに記した書状を何度も本国に送ったが、全て拒否された。他の領主もだ。理由はわかるのだが、国が無くなっても意味がないというのにな。


「権力争いというのなら、国王の一声で終わるのですが……」

「その国王様が跡継ぎを作らず、指定すらせずに崩御なされましたからな」

「絶対と言っていいほどに四大公爵家が絡んでいるでしょうね」

「立て続けに候補者が亡くなりましたから、可能性は高いです」


 北のルクセンダール、西のヘルミナ、南のエレンピオス、東のクライシス。これが四大公爵家だ。彼らが王都と王族の直轄地を中心に広大な領地を持っている。我々は西のヘルミナより更に西に位置している。元々、我が男爵家はヘルミナ公爵家の騎士だった家計であり寄り親だ。


「しかし、ヘルミナからも増援はなしですか……」

「結婚すれば考えるとの事です」

「結婚は嫌ですね。あんな馬鹿姫が来ると……男爵領が、国境が一瞬で崩壊します」

「ですな。我儘放題で軍略のぐの字も知らない小娘が軍を玩具にするなど迷惑極まりない。ましてやヘルミナの現当主は人族至上主義派ですからな」


 彼らが防波堤になってくれるなまだマシだったのだが、ろくに訓練すらせずに平和を貪っていた公爵軍など数が多いだけの烏合の衆と変わらない。相手が少数ならまだしも、一国家を相手にするなど、蹂躙されるのが目に見えています。さて、問題はこんな馬鹿な公爵家だけではありません。


「どこの貴族も戦力を蓄えておりますな」

「国王の権威は失墜しましたからね。公爵家は気づいていないかも知れませんが、国王が臣下によって殺されたのです。次は私が国王に! と夢見る方は多いでしょうね」

「全くです。戦国時代の幕開けですな」

「内乱など迷惑でしかないのですが……」

「ウルカレル男爵領も無事では済みますまい」

「やれやれ、本当に難儀な事ですね」

「全くです。膿を取り除きたいものです」

「そうですね。その手段が手に入ったかもしれません」

「彼らですか」

「ええ。我々は国外と国内から攻められてはどうしようもありません。ですが、国外をドリルホーン・ライノクスやドラゴンベアなどが見張ってくれていればその分、戦力を回せます」


 降伏しても処刑されるだけでしたから、彼らという希望は本当にありがたいですね。少なくとも防衛に関しては充分に可能でしょう。


「戦力としてはご協力いただけないでしょうか?」

「防衛戦に限り協力してくれます。内乱などはわからないですね」

「我が国内の至上主義派の事を話せばどうですかな? あの力を見るに戦場で振るっていただければ……」

「それは最終手段にしましょう。出来る限り我々で解決すべきです。後方支援をしてくださるだけでも感謝しましょう」

「了解しました。旦那様にもお伝えしておきます」

「ええ、よろしくお願いします。彼らが向かうダンジョンの情報ですが、異常無しという事で問題はありませんか?」

「そう報告が届いています。念の為、ヴェロニカ様をお付けしますか?」

「念の為って、ブラッドタイガーにガルムまで居るんですよ。いるんですか?」

「いりませんな。ですが、あの方にも休息が必要でしょう。それに――」


 監視は必要ですか。ヴェロニカは監視には向きませんが、実力は我が領内でも一位、二位を争う実力者ですから、何かあっても報告くらいはできるでしょう。何も無い方がいいのですが。


「わかりました。ヴェロニカに指令を出しておきます。父上にもくれぐれも気を付けるようにと」

「はい。我々の予想では時間はあまり残されていませんからね」


 ギリアムが退室し、私一人になった。水差しから水を入れてもう一度胃薬を飲む。本当になんでこんな大変な事になっているのか……希望がないとやってられませんね。ああ、遠乗りとか草原で日向ぼっこや夜空を見上げたりしたいですね。当分できそうにありませんが。







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