表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/49

光源氏的なリン君

 


 僕達は現在、ユエが襲われた砦から675Km先にある彼らと敵対しているであろう砦を目指している。サイの時速は約80Kmなので8.43時間となる。つまり、走り続ければ一日以内で到着する予定だけどゆっくりと向かう。それでも起こる風圧などはお母さんの精霊魔法で防いでいるので振動さえなければ快適だ。

 さて、そんな状態で僕はお母さんから女の子について色々と教えられていた。ユエの世話は全部僕がする事になったからだ。


「ユエちゃんはリンのペットなんだからしっかりと世話をするのよ」

「ペットって……」

「働けないその子は愛玩動物よ。それにテイムした時点で主人がリンには変わりないわ」

「あうっ……その通りです……」

「なら解除すれば……」

「やめなさい。それをすればまた彼女が襲われるでしょうね。ヴァンパイアのハーフ、つまりダンピールは迫害の対象よ。飼われていないヴァンパイアとダンピールは見つけ次第即排除ってのがこちらの世界では多いらしいわ」

「っ!? そ、そうなんですか!?」


 一緒に聞いていてユエが驚きの表情を浮かべる。


「考えてもみなさいよ。普通に考えて噛まれたらゾンビやレッサーヴァンパイアを量産し、血を吸えば強くなる上に魅了系統の力もあるのよ? 危険以外の何者でもないでしょう。バイオテロよ、バイオテロ。弱点て太陽の光と心臓を串刺しにするか焼くくらいでしょう。だからあいつらも確実に心臓を貫く為に服を破いたんでしょうし。だいたいダンピールって太陽の光も克服してるから危険度は跳ね上がってるでしょうね」

「た、確かにそうですよね……強そうだからって選んじゃ駄目ですよね」

「きっ、危険過ぎるね」

「幸い、ここに来る前に聞いた話じゃ支配下に置かれていれば主人がコントロールできるって事で問題ないみたいだけどね」

「ほっ。それじゃあ私はリン君が居れば大丈夫なんですね」

「そうそう。そういう訳で続きに入るわね。トイレとかも身体を拭くとかも全部やってもらうからね」

「え!?」


 トイレとか身体を拭くってそれはつまり裸を見る触るって事だよね!? 


「あっ、あのっ、それは凄く恥ずかしくて――」

「却下よ。私は料理や洗濯、食料調達で忙しいし、アースとひなたはユエちゃんの腕とかを作るのに手を取られているわ。空いているのはリンだけなの。大人しく世話になりなさい」

「――は、はい……」

「えっと、えっと、僕はどうしたら……」

「生かした責任を取ってあげなさい。それじゃあ、私は狩りに行くから2人で話し合いなさい」


 そう言ってお母さんは弓と矢筒を持ってサイから飛び降りた。飛び降りた先には狼が居て、それに乗って行っちゃった。


「ど、どうする?」

「わ、私はリン君なら……そ、そのいいです。リン君には小さい頃から助けて貰いましたし、今回は命まで救って貰いましたから」

「いいの? 僕も男だし、そういう事しちゃうかもしれないよ?」

「はうっ!? りっ、りりり、リン君が望むなら、ど、どうぞ!!」


 真っ赤にしながら宣言したユエに僕も真っ赤になってしまう。


「じょ、冗談だよ……?」

「じょ、冗談だったんですか……してくれていいのに」

「ん?」


 最後の方は聞き取れなかったけど、どうしたんだろ?


「なんでもないです。それよりも男だったんですね」

「え!? 僕は男だよ! 女だと思ってたの!?」

「は、はい。性別を選択する時に選べたじゃないですか」

「いやいや、男しか選んでもないよ!」

「で、でも、その容姿はどう見ても女の子ですよ」

「嘘っ!?」


 顔をペタペタと触ってみる。小顔で童顔なのはいいとして……ステータスの装備画面で見られるか。えっと……うわぁっ、これは酷い。綺麗な長いサラサラの青みのかかった銀髪に大きな金色の瞳。整った綺麗な顔はまさに誰がどう見ても美少女。


「ひなたーーーー!!」

「やっと気づいた。ぶい」

「妹さんが作ったんですか……」

「ん。お母さんとやった。反省は――していない。後悔もしていない」

「おいこら」


 どうせ言ったのは母さんだろうけど。せめて反省はして欲しい。


「えっへん。後、お姉ちゃん。ひなたでいい」

「わかりました。ひなたちゃん」

「ん」

「容姿は変えられないのかな?」

「さあ?」

「無理かと思います」

「まあいいや。ユエの武器はなんなの?」

「あの、その……サイズです」

「え?」

「だからデスサイズです!」

「おお、カッコイイ!」

「うぅ……引っ込み思案の私がゲームデビューしようとして選択したんですが……重くて使えないし、使いづらいし……」

「がんば」

「あははは。そういえば僕の武器ってなんだろ」


 ステータスから初期装備を探してみる。


「装備確認画面を見れば貰えますよ」

「ありがとう」

「いえ」


 ユエに教えて貰った通りにすると初期装備配布とシステムメッセージが流れて来た。すると僕の手の中に鞭が現れた。


「ぶ、き……? 鞭で何をしろと……」

「叩く。テイミングしたのを。つまり、お姉ちゃんを」

「り、リン君がし、したいなら……ど、どうぞ……」

「しないから! そんな趣味ないよ!」

「よ、良かったです……」


 鞭を放り投げて少し震えていたユエを抱きしめて撫でて安心させてあげる。しかし、なんで鞭なんだろ。


「魔物使い、定番」

「そ、そうですね。確かにビーストテイマーとかの定番ですね」

「そりゃそうだけど……でも、武器なら練習しないといけないか」

「わ、私がリン君の練習台に……」

「いいからね」

「で、でも、それぐらいしか役に立たないですし……」

「ユエは僕が守るから大丈夫だよ。どうしても気になるなら手足が出来てからでいいよ」

「わかりました」


 しかし、本当にちゃんとお世話できるかな。お母さんは楽しそうに見てるだけだろうし。小さなひなたに手伝わせる訳にはいかないしね。


「ん。デスサイズ、どうした?」

「あっ……全部置いてきちゃいましたね」


 しゅんとするユエ。


「まあ初期装備なんて大した事はないから……」

「ああ、それなら俺が回収しておいた。破かれた服は無理だったが」

「あ、ありがとうございます」


 お父さんが端っこの方から刃が両方の先端にある両刃の大鎌を取り出した。間の長さは1.6mくらいだろう。真ん中で取り外せるようになってるみたいだけど……扱いづらいよね!


「えっと……」

「……刃が多いから便利かなと思って……」

「ほう、ダブルハーケンとは渋い趣味だな。初心者には非常にオススメできない武器だが」

「だよね」


 大鎌を二つ合わせて反対の位置で合わせた感じの武器だし、筋力がないと扱えないよね。ユエは重くて使えないと言ったのも頷ける。


「まあ、ダンピールなら使えそうではあるが……」

「吸血魔法で血を吸った時はステータスが3倍になりますし、夜だと更にボーナスが……」

「とりあえず昼間も使えるように訓練をする必要があるな。まあ、その状態じゃ何も出来ないだろうから、暫くは魔法を鍛えて貰えばいいだろう。スキルを教えてくれるか?」

「は、はい。私のスキルは……」


 ユエが持っているレアスキルは時間魔法らしい。それ以外はダンピールを選択した時に貰えるスキルだけらしい。まあ、13歳の僕達は課金なんて普通はしない。しかし、精神障壁をどうにかしないとスキル強奪で奪われちゃう可能性がある。


「しかし、時間魔法か」

「はい。今使えるのはタイムストップ、時間停止で効果時間は10秒です」

「ゲームでの10秒は効果は大きいが、現実では使い勝手が悪いな。しかし、全体的に前衛向きの能力か。とりあえず時間魔法を鍛える事を優先してくれ。吸血魔法はどんなのだ?」

「吸血魔法はステータスの3倍強化と飲んだ対象者の魔力をもらって回復する事ができます。どの程度かはまだ血を飲んだ事がないのでわかりませんけど」


 あの怪我が素早く治ったのも僕が魔力をあげたからかな。でも、血は吸われてないし。


「あ、血の従者って何かな?」

「わかりません。前にはありませんでしたけど……見てみます」


 ユエが自分のステータスを操作してスキルの説明を見ていく。


「私がリン君に服従したから出たようですね。効果は主人と共に居る時に能力が強化されます。難点は主人以外の血液が飲めなくなる事ですね」

「じゃあ、ユエは僕の血以外は受付ないんだ」

「はい。後、主人は吸血鬼化とかゾンビ化はしないようです」

「レベルがあるなら血を飲ませて貰いながら時間魔法の強化だな」

「ん。時間魔法、便利。強化すべき」

「そうだね」


 10万倍の効果を得られるようにパーティー申請をユエに送ろうとしたらなかった。なんでだろ?

 でも、ユエのヒットポイントとかは見えているんだよね。


「どうしました?」

「いや、ユエにパーティーを送れないの」

「ん。テイム、使い魔扱い?」

「そうじゃないか? 試して見ればいい。ユエちゃん、一回時間魔法を使ってくれた」

「はい。あ、押せません……」


 手が無ければ押せないよね。変わりに僕が押してみよう。


「あ、発動しました」


 僕のステータスからユエのステータスに入ってスキルを選択すれば使えるみたいだ。それにシステムメッセージが流れて時間魔法のレベルアップを知らせてくれた。


「上がりました」

「空間魔法と同じなら数回すれば……」

「ごめんなさい。魔力がそこまでありません。まだ一部が痛むので臓器再生を維持しているので」

「じゃあ、先に僕の血を吸ってみようか」

「いいんですか?」

「どうぞどうぞ。それに僕以外の血を受け付けないなら食事が大変って事だしね」

「わ、わかりました」


 ユエの口に僕の首筋を押し付けてあげると、はむっと噛み付いてきた。少し鈍い痛みがして牙が僕の首に刺さった。それからちゅうちゅうと血を吸われていく。


「どう、美味しい?」

「は、はい……凄く美味しいです……」

「魔力量で変わるなら極大魔力を入れてみようか」


 空間設定で魔力遮断結界を使う。熟練度が上がったのか、設定できる数が増えていた。なのでサイを中心にして発動するように設定する。これで動いていても大丈夫。改めて極大魔力のスイッチを入れる。


「あっ、凄く濃厚で美味しくなりました。これ、病み付きになっちゃいます……」


 傷口をペロペロと舌が舐めているのをわかる。ちゃんと魔力も回復しているみたいだからタイムストップのスイッチを連続してどんどん押していく。

 しばらくすると時魔法と吸血魔法のレベルが上がってどちらもレベル3まで上昇した。


「駄目」

「あっ」


 ひなたがユエの頭を掴んで引き離した。


「あんまり飲むと、お兄ちゃんが大変」

「そ、そうですよね……ごめんなさい」

「いや、いいよ。それに喜んでくれたみたいだし」

「とっても美味しかったです」

「それは良かった」

「ただいま。直ぐにご飯を作るわね」

「「「お帰りなさい」」」

「頼む」


 お母さんが獲物を取って戻って来たのでそのまま料理のお手伝いを行う事になった。鳥の毛を取って、調理するのは命を奪うって事が実感できた。日本でも僕達が直接しないだけで彼らを殺して食べている。生きていく為には仕方のない事だけど、せめて皆で感謝しながら美味しく頂こう。





 ユエ





「はい、あ~ん」

「あっ、あ~ん」


 私は手足がないのでリン君に食べさせて貰う。凄く嬉しいけれど、申し訳なく思う。リン君には昔からお世話になりっぱなしだから。

 リン君とは小学校低学年の頃に出会った。私は引っ込み思案で人見知りな事もあって、クラスの皆に苛められていた。そんな私をリン君は虐めから救ってくれて友達になってくれた。それからも困った時、リン君は何度も私の事を助けてくれました。

 高学年になると男女の差から恥ずかしくなって一緒にはいられませんでした。

 中学生になってまたクラスが一緒になった柊さんに虐められ、柊さんが連れてきた男の子に囲まれて無理矢理人気のない体育倉庫に連れ込まれて駄目だと思った時もリン君が先生を呼んできてきてくれたお陰で助すかりました。その後、お礼を言う間も無くリン君が事故にあってリン君のお母さんに聴きに行ったら、泣きながら教えてくれました。リン君がもう助からないという事を。リン君が友達に伝えるようにお願いしていたそうです。

 私は自分の部屋に篭って泣いたら自分の気持ちに気付きました。私はリン君が好きだという事に。

 それからしばらくしてリン君がこのゲームをやる事をリン君のお友達さん達が話している事を聞いて、お母さんやお父さんに無理言ってゲームを用意して貰いました。

 これから向かう世界で私は変われると思いました。引っ込み思案な私を一新する為に可愛くて綺麗な強い人になるようにしたいと思いました。でも、自分では思いつかないので兄さんのアニメとか漫画とかを参考にして作ったのです。

 弱点がほぼ無くて強いダンピール。そして、人を簡単に倒せる大きな武器。武器は使えませんでしたが、出てきた角のある兎さんは簡単に倒せたのでどうにかなると思い、街を探しました。そうして見つけた街、砦に近付くと兵士の人達が出てきて一斉に私に襲いかかって、私は死ぬ所でした。

 そう、私は漫画やアニメに出てくる彼らと同じ特別な力があると思ったのです。でも、それが間違いで殺されそうになりました。

 本当に危なかったのですが、リン君がどこからか私を助けてくれたのです。

 私にとってはリン君は私の王子様です。

 それでも王子様が助けに来てくれのですが、大怪我を負った私はそのまま死にそうでした。ですがリン君のお母さんが私が助かる方法を教えてくれました。


(リンの事が好きなんでしょう? だったら受け入れなさい。リンのお嫁さんになれるように手伝ってあげるから。それともここで諦める?)


 そう言われた瞬間、私は決意しました。私は残った人生を全部リン君の為に使おうって。例えリン君が私を好きじゃなくても、私はリン君を愛して尽くす。決意して受け入れた後でも手足の無い私はあしでまといにしかならないのにリン君は優しくしてくれました。お母さん達にもうあえないと理解して泣いてしまった私を優しく抱きしめてくれて家族になってくれると言ってくれました。リン君のお母さんはこんな私を本当にリン君のお嫁さんにしようとしてくれているようです。だから、私も出来る限りを尽くしていきたいと思います。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ