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アムシャヌス王国との戦争4




 ワレリー・アランピエフ




 火の柱が現れてから二日。アムシャヌス王国軍は苦境に立たされている。空には分厚い暗雲が立ち込め、降りやまない土砂降りの雨が降っている。地面に吸収されるはずの水が限界を超えたのか、太股の辺りまで水が張っている。土も泥へと代わり、進むにしろ、後退するにしろ、どちらも体力を取られていく。

 更に数日前まではただの草原だったはずが、背後には鬱蒼と生い茂った森が出現している。そちらも水浸しになっており、まともに進むには木々の根を歩いていくしかない。


「先遣部隊と補給部隊はどうなった?」

「先遣部隊はわかりませんが、砦に近付いたところ……我が国の旗が翻り、火は鎮火されておりました」

「ふむ。補給部隊は?」

「出来た森に入って探索したところ、複数の死体が確認できました。死体は綺麗な感じでしたが、焼けたような跡がありました。それと森の中には不思議な植物が確認されました」

「不思議な植物とはなんだ?」

「襲ってきます。基本的には動きませんが、獣のような口で鉄を噛み砕いたり、鉄が溶ける胃液をはいてきます」


 なんだそれは……まるでダンジョンではないか。いや、そもそもこのような天変地異を引き起こせるのは唯一神様の所業だ。しかし、唯一神様以外にこのようなことができるのは、邪神やその使徒達だろう。

 そういえば、国境付近に吸血鬼やエルフ、ドワーフが現れたと報告があったな。まさかとは思うが、これは奴等の仕業か?

 それにしては規模が大きすぎる。いくらエルフ共といえど、このような大規模なことをするのにはそれ相応の準備と時間が必要なはずだ。ましてや魔力のために生贄を使わねばならぬはず……そのような報告は聞いていない。


「物資は、食料は回収できたか?」

「いえ、ありませんでした。正確には一つみつけましたが、森の奥へと浮いて運ばれていきました」

「後を追っただろうな?」

「もちろんです。ただ、途中で木々が動いて道を塞いできました。その後、すぐに襲撃を受けて散り散りに逃げました」

「ふむ。その運ばれている時は見えない存在がいるようだったか?」

「はい。小さな人が運んでいる感じがしました」


 となると、やはり相手はエルフの精霊召喚士か。我々を下等種族と侮るエルフ共がミリニア王国と手を組むなどありえない。ましてや、これだけの規模となると、やはりエルフ共でもありえないだろう。


「森は突破できると思えるか?」

「厳しいでしょうね。相手は擬態して森の配置も変えてきます。燃やすにしても、この雨ですから……」

「なら、取れる選択肢は一つだけだな。全軍に通達。これより、我々は砦に向かう」

「はっ」


 罠の可能性があるが、向かうしかない。背後の森を軍で超えるのは難しいだろう。砦に籠りながらゆっくりと森を探索すればいい。それに食料も奪わないといけないからな。



 しばらくして、水と泥に足を取られながら砦に到着した。一つ目の防壁だろうそれはすでに崩壊し、奥に見えるのは鉄製の巨大な防壁だ。その上には我が国の国旗と我が国の鎧を着た兵士達の姿がみえる。

 雨の中、視界が悪いがそれだけは魔法を使ってしかっりとみる。これが罠だった場合、近付いて中に入ったりすればアウトだ。武器による攻撃はもちろんだが、毒物が入っている食事の可能性もある。


「死体はどうなっている?」

「鎧も焼け焦げていて、判別は難しいです……」

「そうか。砦に首は飾られているか?」

「いません」

「わかった。全軍、戦闘準備! 全力で戦闘する! 相手は擬態しているだけだ! 悪魔の魔術師であるヴェロニカやクロード・ウルカレルの首がないのがその証拠である!」


 我々なら相手の抵抗心を押さえ、異教徒を討った証として首を唯一神様に知らしめる。それがされていないということは偽りの証だ。


「まずは全力の魔法攻撃だ。防壁を破壊しろ!」

「はっ!」


 すぐに大量の魔法が放たれ、鉄で覆った防壁は破壊される。その奥には五〇〇メートルほど離れた位置に次の防壁があった。進むしかない。


「進軍せよ!」

「おぉぉぉぉぉっ!」


 前衛の防御部隊がしばらく進んでいくと、落ちた。まるで丁度いいかのタイミングで、計ったかのように地面に巨大な崩落がおきた。どうやら、落とし穴が掘られていたようだ。


「すぐに確認しろっ!」


 下にはご丁寧に大量の水が溜まっているようで、重装備の防御部隊はそのまま沈んでいく。防御部隊が落ちたことが確認されたせいか、同時に巨大な矢が大量に飛んでくる。

 おそらく、アーバレストやカタパルトであろう。防御部隊のほとんどを失った我等では魔法で防ぐしかない。しかし、それではこちらの攻撃力不足となる。何時もよりも体力が取られる厳しい行軍で、残りの食料も残り僅かなうえに雨音と浸水でまともに寝られてすらいない。


「一時後退する」

「はっ! 後退だっ、後退っ!」


 今のまま攻めても無理だ。夜襲ならいけるかもしれない。夜襲ならアーバレストやカタパルトは無理なはずだ。今も雨が降り続いて視界は悪いが、それでも可能かもしれない。

 そう思ったのだが、雨が止んで急激に気温が上昇し、濃い霧が発生する。何か嫌な予感がした瞬間、広がる炎。それによって水分が一瞬でなくなり、衝撃が来た。







「あの、言われた通りにしましたけれど~、さっきよりも威力が高いんですが……」

「ああ、密閉させて水蒸気爆発を起こさせたからな。後はできたクレーターに水でも入れて魚でも放っておけばいい。どうせあそこはもうすぐ森の飲まれる」

「森を作るとかエルフの人、やばすぎですよ~」

「よかったな。これでしばらく砦は気にしなくてよくなるぞ」

「そうですね。国内に手を向けられます」

「クロードお兄様、やっぱりおきますか?」

「起きるでしょうね。私達のところ以外は食糧難が続いていますし、暴動が起きて、反乱になるでしょう。それを鎮圧したとしても、他の領主が黙っていません。そうなると、次は国外に敵をもとめますが、この惨状です。例え出兵するように言われても拒否します。それと私はウルカレルを継いで派閥からも抜けますし、そうるなるとヘルミナ公爵も黙っていないでしょう。下手をしたら軍を差し向けてくる可能性があります」

「そっちは排除したらいい。まあ、支援を打ち切るだけだろうが、こちらは何の問題もないしな」

「はい。領地に籠って徹底的に内政を行わせていただきます。アースさん達のお蔭でそれが可能ですから」

「それに戦争は最後の手段だ。まずは経済からだな。リンの鉄道を利用して領内の経済を活性化させる」

「幸い、開墾すべき土地は沢山ありますからね」






 ロミルダ




 精霊達の協力を得て、可愛い妹達を連れて逃げるために施設へと侵入する。この施設は諜報部隊を育成するための施設でもある。私と同じように適正がある者は人質を取られて、ここで強制的に訓練させられる。不合格者は様々なことに利用される。

 両親は殺されていたと精霊が教えてくれたので、嬲り者にされたのだろう。妹達はなんとか生きているということで、内なる精霊の声に従って地下の牢獄までやってきた。

 牢獄にある一番下の部屋。嫌な予感しかしなかった。実際、その部屋でみた子達のほとんど人は死んでいた。子供から大人まで、そこは廃棄場だった。


「おい、本当に生きているのか?」

『生きている。それがお前達のいうものかは違うが……』

「ふざけるなよ」

『ふざけてなどいない。我等は助ける方法をもっている。まだ、この地に留まっている魂ならば』

「本当か?」

『ただし、代償が必要だ。まずは貴様の片目を貰い受ける』

「かまわない。それで妹が助かるのなら」

『了解した。ただ、蘇る存在は人ではない。肉体の欠損部分を我等精霊と残っている魂なき躯を利用して作り変える。故に人であり、精霊でもある存在となる。それには貴様の同意ではなく、本人達の同意が必要である。輪廻転生の環より離れ、やがては世界のシステムである精霊となるのだからな』

「つまり、説得しろということかい」

『うむ』

「わかった。それで何をすればいい?」

『こちらで全てやる。話すだけでいい』

了解(ヤー)。とっととやっておくれ」


 次の瞬間。目に激痛が走って視界が塗りつぶされた。すぐに光が戻ると、世界は変わっていた。目の前に大量の小さい人みたいな可愛らしいものがいっぱいいたのだ。


『汝を我が契約者として認めた。これより、我等が女王陛下の御為に尽くすがいい。汝に与えたのは精霊眼。精霊をみることができ、意思疎通が可能な力である。魂もまたしかり』

「これが魂か。すでに近くにいたのか」


 妹達の魂は私のすぐ横にきていた。彼女達に意思を確認する。ついでに他の者達も助けて欲しいそうなので、精霊に聞いたら許可がでた。どうやら、精霊達ははなっから、私達と融合して実体を得ることが目的だったみたいだ。かわりに人としての生をもう一度与えてもらえる。それも魔法の力をほぼ自由に使えるようになってだ。精霊にお願いしたりして魔法を発動できるのだから、話したり見たりするよりも、同化しているのだからその力は使いたい放題にちかい。

 地縛霊となった奴等は処理して、戻ってこれる子達と話して彼等を助ける。妹達も含めてほとんど子供だが、彼等も受け入れてくれた。精霊の子となった妹達を連れて脱出するが、精霊達が身体を操作して魔法などで兵士を瞬殺していくので無事に脱出できた。

 急いで砦にもどると、そこはすでに一変していた。草原が樹海へとかわり、あちら側から沢山の精霊が黒と白の騎士鎧と融合して攻めてきていた。連中は容赦なく殺していくが、精霊の仲間であるこちらには手を出さなかったので、エリゼ様と合流するのは容易かった。



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