アムシャヌス王国との戦争⓵
アムシャヌス王国スオォード砦
バスムル平原に存在するミリニア王国のレスティア城砦。そこから675キロメートル先にあるアムシャヌス王国側のスオォード砦。現在、そこには普段では考えられない数の兵士が集まっている。
その数、およそ四万八千人。内訳は重騎兵二千、騎兵四千人、弓兵一万、歩兵二万、補給部隊及び衛生兵一万二千といった感じだ。これはアムシャヌス王国軍の常備部隊で形成されている。
アムシャヌス王国にも貴族は存在するが、基本的に各領主が雇った領地の騎士団が治安維持を行っている。つまり国内の部隊と国外の部隊は別けられているが故に国王の権力が非常に高い。
逆にクロード・ウルカレル達が所属するミリニア王国は貴族の力が強く、王の権力は低い。王都を守る近衛騎士団を除けば他に王の直轄する戦力はない。国防に関しても貴族が所有する騎士団がメインとなる。
「アランピエフ将軍、準備が整いました」
「うむ。諜報部の作戦はうまくいっているな?」
国軍の指揮官として派遣されたワレリー・アランピエフは齢五十二にもなる歴戦の将兵であり、軍団を統率する系統のスキルを複数所持している。傷だらけのいかつい顔に鍛え抜かれた筋肉の鎧を持つ初老とは思えない人だ。
彼がロミルダの上司であり、この砦の指揮官であるゲオルギー・ベレジン大佐に質問する。
「もちろんでございます。我が配下の者が調べた限り、反乱の準備は整っております。我等が襲撃すると同時にレスティア砦に義勇兵として中に入り、我が方と呼応します。また、それが失敗したとしても、モンスター共が順調に数が増えており、ヘルミナもそちらに対する対象としてレスティア砦には兵を送ることはできないでしょう。反乱の情報も流しておりますので、尚更動かせないかと……」
「了解した。相手の補給路は寸断しておるな?」
「はっ。数度の偵察を繰り返す限り、食糧が不足しているようで砦の前に餓死した死体が放置してある始末です」
「了解した。今回の作戦目標はレスティア砦を奪取し、ミリニア王国に進軍する拠点とすることだ。だが、距離の関係から補給を最優先とする。護衛には重騎兵全てと弓兵、歩兵を五千ずつつけて護衛させる」
「心得ております」
「では、全軍出撃といこう」
「御意」
彼等は砦の上から全軍に号令をかける。内容は人族こそが大陸の支配者であり、亜人は全て人族の奴隷であるということ。そして、亜人を受け入れるように洗脳されたミリニア王国を解放し、あるべき人が支配する世界に戻すということだ。
エリゼ
ロミルダの体内に入れておいた精霊達が見聞きした情報が、風の精霊を通してこちらに伝わってきた。すぐに夫であるアースやレスティア砦の指揮官であるクロード達に伝えて、砦の主だった者達を集める。
集まったのは家族からは私とアースで、あちら側はクロード、執事であるギュンター、騎士隊長アベルだ。その全員で一室に集まり、ギュンターを除いて円卓に座っている。
「春になって速攻で攻めてきたな」
「相手も冬の間に準備していたからでしょう」
「ええ、そうでしょうね。ですが、こちらもそれは変わりません。ギュンター、ヴェロニカやリン君達が行なった裏切り者の処理は終わっているか?」
「もちろん完了しております。また、エリゼ様方から言われた通り、処断したことを気づかれないように代わりの者を用意しております」
こちらの作戦はあくまでも、攻め込んできてもらうことにある。だからこそ、敵には勝てると信じてもらって大軍でこちらに来てもらうことが重要なのよね。今回の作戦目標はあくまでも敵に損害を与え、内乱が起こっている間にあちらが攻めてこないようにするためだ。
「アースさん、砦の改修はどうなっておりますか?」
「すでに終わっている。離れた場所に偽装用として前の防壁と同じ物を作成し、わざとボロボロにしてある。そっちに関しては……」
「私が説明いたします。こちらの内情を知らせないため、犯罪者に我が騎士団の古い鎧を着せて砦の外で地面を掘らせ、処断した死体も放置しておきました。これで向こう側もこちらの防備が万全ではないと誤認してくれるでしょう」
「まあ、どうなるかはわからないけれど、出撃する判断材料にはしてくれたから期待してもいいんじゃないかしら? 詳しいことはわからないけれど……」
「どちらにせよ、やってきた連中を嵌め殺すことにはかわりはねえ」
「ありがとうございます。あなた方のお蔭で我々は戦えます。もしも、あのままだと我々は飢えて反乱を起こされ、とてもではないですが戦える状況ではありませんでした」
クロードが頭をさげお礼をいってくる。確かにあの状況だと戦う前に敗北が決まっていた。私達が現れなければ大量の餓死者をだし、領地もボロボロで大人しく食い尽くされるしかなかったでしょうね。
「こっちも自分達の住む場所を守るためだ。気にしないでいい」
「そうよ。こちらとしても、住む場所を提供してくれた恩があるし、アムシャヌス王国の連中は私達の可愛い息子のお嫁さんを傷つけたのだから、手伝う理由は十分よ」
「俺達の娘にもなるしな。それに連中は俺達の生活を脅かす奴等だ。相手にするには十分な理由だ」
「そうですね。アムシャヌス王国は人族以外は奴隷として扱うでしょう。それはエルフやドワーフ、そのハーフであっても代わりないです」
「つまり、私達が滅ぼすべき敵ね」
「ああ、そうだ。それとリン達のことだが……自分達も参加すると言ってきている。それについてだが、保護者として却下させてもらう。構わないよな?」
アースが言う通り、リンは参加したがっていたのだけれど、私達が拒否した。盗賊の相手をするのとは訳が違う。戦争というのは国と国との戦いであり、どちらにも正義などはなく主義と主義のぶつかり合いでしかない。命が軽い世界だから、殺し殺されることに関しては仕方がないけれど、やはり戦争は大人の仕事よ。すくなくともこちらの世界で成人するまでは私達が守らないといけない。
「ええ、もちろんです。今回、我々は子供達を兵としないでも十分に戦える余裕があります。むしろ、リン君達の方に送って鍛えてもらう予定です」
「そういえば学校を作ってたな。確か、鉄道を運用するためだったか……」
「はい。鉄道騎士団か鉄道憲兵隊かはわからないですが、そのための人材も育成するとのことです」
鉄道を動かすのなら、どちらも必要でしょうね。といっても、ほとんどオートになりそうだけれど。精霊達を雇入れたりするのもいいだろうし。
「しかし、いいのか?」
「なにがですか?」
「鉄道を運用するということは、物流を支配することとかわらないぞ。それはこの領の生命線を握ることでもある」
「構いませんよ。我々はあなた方がいなければ死んでいましたし、あなた方なら運用を間違わないでしょう。それに正直言って、あなた方の後ろ盾になると同時に私はあなた方の、エルフの王族であるハイエルフとドワーフの後ろ盾を得ることになります。それこそ頼りない王や貴族の寄り親よりもそちらの方が強いでしょう」
「しかし、それでは納得しない者もおります。そこで提案があるのですが、そちらのお嬢様をクロード様の妻となさるか、ヴェロニカ様をご子息の妻となされてはどうでしょうか? ヴェロニカ様は腹違いとはいえ、ウルカレル男爵家の血を引いておりますので、問題はないかと愚考いたします」
ギュンターの言うことも一利あるのよね。鉄道を全て運用するということは、でてくる利益も相当なものになる。領主と関わらない者に預けることはまずありえないわね。どうにかして利益を得ようとしてくるでしょうし、反乱を起こされたらそれだけで詰みに近いわ。
「ひなをやるのは却下だ」
「ヴェロニカさんなら、私達も知ってるから別に構わないけれど……問題は彼女の意志でしょう。彼女は……」
「わかっていますが……それは……」
「どちらにせよ、今はこの難局を乗り越えなくてはいけませんよ。相手の数はどれぐらいになりますか?」
「だいたい四万五千から五万といったところね」
「全てを相手にするのは少し厳しいですから、数を減らさないといけません」
こちらの兵力は確か、千九百人ぐらいだったわね。これでも国などの援助金で雇い入れているので、男爵領の大きさからしたら過剰な戦力とのことだ。だけど、国境を守るには数が足りなさすぎる。本来はこの砦で相手の動きを確かめてからヘルミナ公爵家に援軍を要請し、相手が砦にくるまでの間にやってきた大部隊が砦に入るというのが、いままでの戦い方だったようね。それが、ヘルミナ公爵家との関係がこじれてしまったみたいね。それで兵力を出さないし、支援もしないらしい。一応、この砦が抜かれた時のための砦も建設されているらしいわね。
「あまり数を減らしすぎても困るのだが……」
「それなら、半分をすぎた辺りから地面を泥濘に変えて体力を奪いましょう」
「ついでに雨で体温も奪ってしまえ」
「半分以上進めば奴等もこっちに来るしかなくなるか」
「輜重部隊を襲えば完璧でしょうな」
「襲うのなら、リン達の用意したモンスターで襲撃すればいいでしょうね」
「確かにな。参加するなといっても、リンのことだから勝手にきそうだし部隊を借りるだけで納得してもらう……いや、無理だな」
千里眼と転移が使えるから、リンを止めることは難しそうね。なら、ある程度参加させて直接戦わないようにすればいいわね。
「クロードさん、リンは遠くを見渡す能力があるの。だから、こちらの司令部で敵の動きを監視してもらおうと思うのだけれど、どうかしら? もちろん、他の子達はここでリンの護衛として置いておけばいいから……」
「それなら確かに安全でしょうね。わかりました。そのように手配しておきます」
リンを戦場に出しても問題ないのなら、後方を襲撃してもらうのだけれど……いえ、ここは私がでましょう。
「代わりといってはなんですが、相手の糧食や補給部隊の襲撃は私と精霊達で行いましょう。どちらにせよ、あちらの国にも用がありますし」
「こちらはアースさんさえ残っていただければ問題ありません」
「そうだな。エリゼなら大丈夫だとは思うが……護衛をつけたいな」
「護衛なら、あなたとひなの玩具を沢山連れていくから大丈夫よ」
「白騎士と黒騎士か。それなら大丈夫か」
「本当ならいくら砦があるとはいえ、少数で四万を超える敵をどうこうすることはできないんですが……なんとかできそうですね」
「むしろ、虐殺になりそうだ」
戦う前から被害が少ないように勝利する準備を整えてきたのだから、当然ね。そもそも、相手の情報は筒抜けで陣容すらリンの力でわかるのだから、どうとでもなるわ。後は油断せずに滅ぼすだけ。そうね、ロミルダの家族を助けるついでにあちらの砦も破壊してしまいましょう。それで直るまではこちらにちょっかいをかけられないでしょう。それだけの時間があれば内乱を利用してクロードを男爵から上にしてしまいましょう。




